骨粗鬆症のおばあちゃん
ベッドの横には、"コール"と呼ばれる、ヘルパーの持つPHSと直接繋がる、緊急呼び出しボタンと言うか、ナースコールが存在する。
骨粗鬆症であるが故、体を動かす事が十全に行かず人付き合いを少々面倒がるおばあちゃんの話だ。
おばあちゃん、人付き合いが苦手なのだが、1人は寂しいらしく、よくナースコールがかかって来る。
「どうしましたか?」
曲がりなりにも緊急呼び出しコールなので出ないわけにはいかない。
「ちょっと来て貰える?」
何かあるのかと部屋に行けば、特に問題もない。
寂しいだけで押さないで欲しいと思う反面、本当に寂しいのだと同情もしてしまう。
「良いですか?これは緊急用ですから、そういう時に押してくださいね」
「はーい」
子供と同じで、良い返事こそ話半分なのだ。
そう何度もなんどもやられるとこちらも精神的に嫌になってくる。
出ないわけにはいかないのだけど。
「どうしましたか?」
何度目か。
ああ、この声ならなんでもないんだと安心して部屋に確認しに行かなくなった頃。
「なんでもありません」
と。
言うようになった。
ここで通話が終わる事が何回か続いたのだがさらに先に進む事になる。
「どうしましたか?」
「なんでもありません」
ここは当然。
「なんでもないのでしたら、コールを押さなくても良いんですよ」
と答える……のだが。
「は?」
「なんでもないのでしたら、コールは押す必要ないですよ」
「なんて?」
聞こえない振りをしているのか、本当に聞こえないのかイマイチ区別がつきにくいので、一応話を切ろうと「なんでもないです」なんて言えば、「なんで?」と疑問が返ってくる。
今度はコールを押さないで欲しいと伝えるが、持っていないと言う。
一応確認に行くかと扉をノックして中に入る。
「失礼します。入りますねー」
事実、おばあちゃんはコールを手には持っていなかった。
手の側に置いてある。
手の届く、とりやすい場所に置くのは当たり前なのだ。
「なにかありましたか?」
「なんでもないです」
なんでもないとの事で部屋を出ればピッチが鳴る。
「なんであなたは話に来たの?」
寂しさは分かる、分かるのだが。
また私の手は扉をノックする。