6.北泉高校生’
巻木加世子と巻木信行は姉弟だ。2年と1年でたまたま同じ3組にいた為、姉弟で異世界に来る事になってしまった。
彼女たちは2人姉弟だった為、両親にとっては一度に全ての子供を失うと言う事に成った。当然、その事はニュースになり伸樹も把握していた。
両親にとっては不幸ではあったが、彼女たちにとっては幸運だっただろう。究極の状況で、一番信頼出来るのは血の繋がった身内なのだから。
無論、逆に血の繋がった身内程信用出来ない、と言う状況や関係性の者達もいるが、彼女たちは前者で有る。
元々仲も良く、同じ陸上部に所属しており、天然気質のある信行を加世子がフォローする形だったのだが、この世界に来てからは互いに守り合う形になっている。
件の強姦騒ぎの際も、美人とまでは言わないが、有る程度整った顔立ちで、何より陸上部に似合わない巨乳で有名だった加世子は、幾度となく襲われそうになった。
それを守ったのが弟の信行で、それ以来、保護者と被保護者の関係から、互いに守り合う関係になった。
ただ、根本的な性格は変わる訳も無く、信行のポヤポヤした発言や行動を加世子がフォローするのは以前どおりだ。
彼女たちは、男女半々の8人のグループに所属しており、信行は荷物運び役として、女子に付けられるのが一般的になっている。
女子としても、女だけでは不便だし、今だ不安も有る。その点、信行は姉もいる事で安全パイとして重宝される形になっている。
実際、彼は同グループの女子達からは人気があった。ただ、その人気は『男』としてのモノでは無く、『ペット』的な意味でのモノだったが・・・
ちなみに、彼女たちの名字である『巻木』をマキギと対外的には呼称しているが、彼女たちの一族に関しては本来はマッキと読むのが正しい。説明するのが面倒なのでマキギのままにしているだけだ。
その日は、加世子と後2人の女子に信行が同行する形で、磯場で貝と岩海苔を採っていた。ほぼ何時ものルーチンワークである。
彼女たちのグループは、まだ鉄器を持っていないので、石で作った器具で岩海苔をこそぎ採り、マツバガイを引きはがす。
鉄器は、拡声器の永久磁石を所有しているグループが独占しており、砂鉄と別の品との物々交換を行っている。
元々、拡声器は学校の備品で有り、その中に入っていた磁石も当然備品なのだから全員の共有品だ、と言って独占に文句を言う者も多かったが、レベル6を2人有するそのグループに面と向かって敵対は出来ず、なあなあなままになっている。
『宝珠』を同時に使用出来る数による差別化で有るレベルは、一度に出せる力の強さ、エネルギー効率の良さだけで無く、射程の広さにも影響している。
つまり、レベルが高いほど射程距離も長い事になる。当然、合い対せば、間合い・射程が長い方が圧倒的に有利だという事だ。
『宝珠』による抑止力で関係を維持している現状では、この射程距離は『力』となっている。故に、彼ら面と向かって文句を言う者がいない訳だ。
実際、その製鉄方法を見つけ出し、完成させたのもそのグループであると言うのも事実で、彼らが・・・と言うよりそれを実行した花咲悟が居なければ、まだ製鉄は出来ていなかったはずだ。
故に、彼の居る佐々木・是枝を中心とするグループが、現在一番の影響力を有している事になる。
そして、その中心人物たる佐々木・是枝両名が、加世子達の側を移動していく。
「あれっ、珍しいね、あの二人が海の方にいるなんて」
一年の中島美鈴が彼らに気付き、疑問を口にする。他の生徒も同様に思った様で、口々に「珍しいね」「何か有ったのかな」などと言っている。
岩海苔をこそぎ採りながら、目の端に彼ら2人を追っていると、彼らは海側では無く崖の方へと移動していった。
その先に有ったのは、伸樹の作った住処だ。それからの出来事を、加世子達は唖然としながら見送った。
ものの5分ほどの事ではあったが、彼らが立ち去った後にはボロボロに壊されたトイレ、火を付けられ燃やされた敷き草、崩された石垣、壊されたカマドが残っていた。
そして彼女たちの耳には、是枝の高笑いだけが残った。
仮の宿で目を覚ました伸樹は、諸々の準備を終えた後、栗の残りと大多数の『宝珠』をその場に残し、昨日の川へと向かった。
それから午前中一杯、彼は川に浮いて過ごす。川面から川底を『視』続けて、ある程度以上纏まっている『宝珠』を転移で採っていく。
深さが2メートルを越え、『認識範囲』外の場合は潜って確認をしていく。さすがに背泳ぎ状態ではキツい為、木を加工してシュノーケルを作製して使用する。
その場で直ぐに作れるのは『切断の宝珠』と『テレポート』のおかげだ。外形だけで無く、中をくり抜くのもあっという間に終わった。
更に言うと、前記の2つの能力を使う上での位置決めに『範囲認識能力』が大きく関わっているのは言うまでもない。この力が有った上での結果だ。
夏場とは言え、長時間水に浸かったままであれば、当然体温と体力を奪われるのだが、伸樹にその様子は無く水中と水面を往復し続けている。
それは、チャクラより溢れ出るエネルギーの効果なのだが、彼自身は全く気付いていない。特に、ムーラーダーラ・チャクラより溢れ出るエネルギーは、元々のオーラのエネルギーに近く、体力の維持に効果を発揮している。
逆に、体力を消費していない状態では、チャクラを解放しすぎると、そのエネルギーの過負荷に身体がダメージを負う事になる。今の状態は比較的バランスが取れた状態だと言える。
伸樹的には、『彼女』のことが心配ではあったが、その思いをねじ伏せて今は『宝珠』探しを実行する事にしている。最低でも『重力の宝珠』、出来れば新たな次元に関わる『宝珠』を手に入れたいと願っている。
北泉高校生達の予想どおり、川の淀みには流れ着いたであろう『宝珠』が溜まっており、場所によっては100個以上有ったりする。おそらく、上流から雨などで流出したモノが溜まったモノなのだろう。
彼はそれを出来る範囲で纏めて転移させて行く。昨日の反省から、カゴの底には石が固定してあり、底が下になってギリギリ浮く様に調整されている。
そのカゴを引きながら、川をジグザクに満遍なく確認しつつ移動する。水温も低い午前8時前から始め、正午まで実行して『重力の宝珠』を3個、『液化の宝珠を4個』手に入れたが、新たな宝珠は見つからなかった。
ちなみに、『若返りの宝珠』は10個、『治癒の宝珠』に至っては15個が手に入っている。彼にとっては、既にレアでは無くなっていた。
北泉高校の生徒達が聞けば唖然とするだろう。彼らが持っている『治癒の宝珠』は現時点で2つで、別々のグループが所持しており、1つは既に1/2を消費しており、もう一つは所持している事を他のグループには明かしていない。
それを来てわずか数日の者が20個以上だ・・・ 更に『若返りの宝珠』も15個近くと成れば、「有り得ない」「嘘!」と言われるのがオチだろう。
彼は、正午に成ったのを期に川の探索を止め、仮の宿へと戻る。一般宝珠(赤・青・緑・白・透明)に関しては放置するか一瞬悩むが、全てカゴに入れて背負う。
残りの栗も全て持った彼は、『重力の宝珠』を1つずつ両手に握り、右の『宝珠』へと意識を向ける。
彼の意を受けた宝珠は、彼の意思通り彼の身体に掛かる重力を変化させ、ゼロGの状態を作り出す。軽くジャンプした彼の身体は10メートル以上上がり、空気抵抗のみで減速して行く。
ただ、バランスはコントロールできなかったようで、前転状態に成り、最終的には頭が下に成り背負ったカゴから全ての荷物が地面へと零れてしまった。
その後5分ほどで制御を理解し、上手く動ける様に成った。無論、これは宝珠の制御が上手い彼だからこそ出来た事で、他の生徒なら1時間以上の時間を必要としただろう。
結局『重力の宝珠』をコントロールできるように成るのに掛かった時間より、零れた『宝珠』や栗を拾うのに掛かった時間の方が長かった。
『重力の宝珠』1つで制御出来る重力は、ほぼ1Gだ。(正確な事を言えば重力加速度だなんだととなるので、地表重力=1Gとして一般論的に表す)
1つの『宝珠』では上方向の力を発生させてゼロGにするのが限界だ。だから、伸樹はもう一つも使用して、更に別の方向への重力も作り出す。
それによって彼は、斜め上に向かって落ちていった。さすがに早すぎるので、斜め上に向かう力は途中で半分以下に落とす。
そして、耳抜きを必要とするまで上に落ちた所で、重力の方向を変え、水平方向に向かって落ちていく。彼は残りの分の力を随時使用しながらバランスも取って、西に向かって落ちていく。
普通の青年や学生達ならば、「ヒャッホー!」と叫びながらハシャギまくるのだろうが、彼は何故か淡々としている。
(飛べるのは便利だな、これで移動も早くなる。遠出をしても彼女の元に直ぐに返れる)
彼にとってはこの程度の感想しか無い。あくまでも実用としてしか考えていない。8年以上前の彼からすれば考えられない姿だ。
小学生時代の彼は、普通にヒーローごっこをし、○空術に憧れ、かめ○め波の真似事もした少年だった。『彼女』に対する思いと現状が全ても変えたのだ。
その為、有る意味『透視能力』とも言える『範囲認識能力』を手に入れても、一度として男としての欲望の為には使用していない。
この辺りは、ストーカー的行動以上に一般の男子からは共感を得られない所だろう。
別段彼に性欲が無い訳でも、精神に異常を来している訳でも無い。単に、今の彼には『彼女』の事しか頭に無いと言うだけの事だ。
『彼女』が幸せである事、それが彼の望みだ。そして、間違いなく今の彼女は幸せでは無い。故にその原因たるこの世界から元の世界に戻してやらなければ成らない。それが、それだけが現在の彼の行動原理だ。
だから、彼は空を飛んだくらいではしゃがない。女性の裸を覗かない。全ては『彼女』の為に、だ。狂ってはいないが、普通で無いのは確かではある・・・
伸樹は『重力の宝珠』の消費量を確認しながら、西方にある山を越えるべく飛んでいく。山じたいは5キロ程の大きさしか無く、高さも大したことが無かった為直ぐに越えられた。
山の頂を越えた先に現れたのは、先ほどまでいた所の5倍程有る平原だった。海岸線沿で10キロ以上それは続き、内陸側にも深い所で5キロ以上広がっている。
川も少なくとも3本の大きな川が有り、一部は川で囲まれた三角州に成った土地も見えた。こちらの海岸は半分以上は砂浜で、西方が岩場に成っており、南の彼らが住む場所の丁度反対の作りに成っている。
平野部は大半が林と草原地帯に成っており、一部は湿地帯に成っている様で、広い範囲で水面による反射が見られる。
山の頂から見える範囲に、家や遺跡の様な人工物は見えず、彼を落胆させた。落胆しつつも彼は更に西へと向かって落ちていった。
山岳地帯を越え、平原地帯に入ってからは高度を落とし、20メートル程の高さを維持してゆっくり移動していく。その間、木々の間から下を覗き、何か人工物が無いかを探していく。
しかし、何も発見出来ないまま湿地帯を越え、西側の山まで到達してしまった。そこは、内陸側に3キロほど入った場所だったので、今度は海岸に向かって北上して行く。
そして、砂浜まで後1キロと言う地点で、北西に延びる海岸線に複数の人影を見つける。
(人だ! 50人近く居るぞ!)
空を飛んでも全くはしゃがなかった男が、一気に興奮しだした。その為、空を飛んだまま近づくなど絶対にしないだけの分別の有る彼が、何も考えずそのまま近づいてしまった。
途中で、その愚かさに気付いた時には既に遅く、複数の者に気付かれたようで、彼を指さす姿が遠目にも見えていた。
全く未知の集団に接触する際は、不用意な接触は絶対にしては成らない。ましてやここは異世界だ。相手が人間ですら無い可能性が有る。
例え人間で有っても、思考、嗜好、信仰、習慣によってトラブルに成る確率の方が遙かに高いのだ。
本来で有れば、隠れた位置からある程度確認して、食性や習慣などを最低限確認した上で接触するべきを、彼はダイレクトに、しかも空からと言う特異な形で接触する事にしてしまった。大きなミスだ。
(まずった、引き返すか・・・ いや、ここまで来たんだ、せめてアレが人間か、どの程度の文明レベルかは見たいな。原住民なら当然『宝珠』は持ってるはずだろうし、何時かは接触する事に成るはずだし)
彼は覚悟を決めて、多少速度を緩めて近づいていく。海岸に広がったモノ達は、次第に集まってこちらを指さし右往左往し出す。
その様子は間違いなく慌てている。空を飛ぶ者に慣れていないのか、警戒しているのか、その両方なのかはまだ彼の位置からは分からない。
そんな様子を見ながらウエストポーチ内の『切断の宝珠』などを確認しながらゆっくり近づく。
そして、5分後、困惑の表情を浮かべる伸樹が居た。そんな彼の30メートル程下には、薄汚れたジャージやTシャツを着た高校生ぐらいの男女が居る。
しかも、彼の見覚えの有る色のジャージで、数名は見た事の有る顔立ちの者も居る。
伸樹はこの場に来て3回目と成る周囲の地形の確認を行った。しかし、前々回と同様、間違いなく初めて見る地形だ。太陽の位置から見ても、北に海が有り、南に陸が有る。アソコで有るはずが無い。
下で騒ぐ学生達を見て、大きなため息をついた彼は、ゆっくり下に降りていく。
「おい! お前か! お前が俺達をこんな世界に落としたのか!」
降りてきた伸樹を見て、大半の生徒が距離を取った中、一人だけ残った男が居た。神楽坂元昭、生徒会長で有る。
ここに居るのは大半が貝掘りに来ていた女子で、男子は5名ほどしか居ない。そのうちの一人が神楽坂だった。伸樹は神楽坂には会っており、当然彼を知っている。
そして、目前で怒鳴っている男が神楽坂で有る事は分かっているのだが、違和感もある。その違和感の正体の考察は別の疑問の為一旦棚上げにする。何故彼らがここに居る?と言う疑問だ。
「おい、黙ってないで何とか言えよ! お前、まさか魔王とかってんじゃ無いよな! とにかく俺達を元の世界に返せよ!」
(・・・・・・・・・)
伸樹の思考はグルグルと回る。答えは出ずに疑問符のみが溢れるだけだ。
「えっと、君らは北泉高校の生徒で良いよな」
「当たり前だろう! どーでも良いから帰せよ!」
伸樹の質問に被せる様に神楽坂は怒鳴ってくる。周囲の者も怖々とでは有るが彼ら2人を注目している。
「悪いが、俺が君らをここに送り込んだんじゃ無いよ。俺も落ちてきた者の一人だよ」
「嘘付くな! お前なんか居なかったぞ! 俺はここに来た全校生徒と教師の顔は覚えてるんだ! そんな嘘が通じるもんか! 大体空を飛ぶやつが何言ってやがる!」
どうやら、一部話が通じていない様だ。神楽坂は顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら怒鳴っている。
「あー、違う違う、君たちと一緒に来たって訳じゃ無く、4日前に別の所に落ちてきたって事だよ。・・・あと、飛んでたのは『宝珠』の力だ」
伸樹の説明で、周囲から「えっ4日前?」「宝珠って?」などの声が聞こえてくる。激高していた神楽坂も表情はともかく、一旦口は閉じた。
(『宝珠』を知らない? ・・・どー成ってる?)
「4日前だってぇ? それは取りあえずおいておくとして、ホウジュって何だよ! 魔法の道具か何かかよ! やっぱり嘘でお前が犯人なんじゃ無いのかよ!」
一瞬冷静になった様な感じがあったが、直ぐに激高して、元の状態に戻ってしまった。伸樹は再度ため息をついてから、背負っていたカゴを下ろし、中からひとつかみの『宝珠』を取り出す。
「これが『宝珠』だ、まあ、勝手に名前を付けたモノだから正式名称じゃ無いけど。で、見ての通り色々な色があるだろ、それぞれの色事に魔法の様な力が使える。俺が飛んだのはその力を使ってだ」
その話を聞いた途端、後方に居た女子生徒達の中から数名が走り寄って、伸樹の手の中を覗く。
「魔法の玉? 飛べるの? どうやったら手に入るの? やっぱりモンスターを倒すの?」
「あれ? あの玉って、時々見つかるあの宝石?」
「似てるね、あの宝石に」
「帰れる力の玉も有る?」
「あなた、一人で落ちてきたの? 助けは来ないの? 家族の事とか知らない? 知ってる事有ったら教えて!」
一番最後に言ってきたのは森田洋子だ。集落を案内してくれた一人で、伸樹も顔と名前を覚えていた。だが、髪型が違った。口元にある黒子と顔立ちから、間違いなく森田だと分かるのだが、髪が大分短く、顔立ちも少し幼い気がする。
そこまで考えた伸樹は、神楽坂に感じた違和感を理解した。わずかに幼く見えるのだ。高校生という、一番の成長期故に、1学年の成長は著しい。だからこそ気づけた差だった。
「チョット待ってくれ、先に聞きたいんだが、あんた、森田洋子だよな、歳って言うか学年は何年だ?」
彼女たちの質問を無視して、さえぎる様に発せられた伸樹の言葉に、そこに集まった者達は一瞬首をかしげる。
そんな中、森田は、自分の名前を呼ばれて驚いたのか、口を開けたまま数秒固まった。
「も、森田だけど、知ってるの? ・・・学年は1年だけど、それが何?」
「続けてすまないが、あんた達がこの世界に落ちた日付を教えてくれ、年号も頼む」
「・・・何なの? 平成△△年5月9日よ、三ヶ月ちょっと前ね」
(・・・・・・やっぱり)
伸樹の予想は当たっていた。彼らは、伸樹達の知る北泉高校生達より1年前に転移している事になる。当然、3年生は伸樹の知らない者達で有り、伸樹の知る1年生は居ない事に成る。当然教師も一部違うだろう。
(パラレルワールドって事か? アレが起こったのが1年早かった世界から来たって言う・・・ でも、ここに来た時期は同じ3ヶ月前か・・・)
「おい! 黙ってないで何か言えよ!」
しばらく静かだった神楽坂がまた吠える。伸樹は、神楽坂を無視して、自分の頭の中を整理する。そして、ある程度纏まってから話し出した。
「色々疑問だとは思うけど、先ず一通り聞いてくれ。何より、帰る方法は知らない。それ以前にここに君らを落とした原因に俺は関わってないし、原因も知らない。
『宝珠』は気付いた人も居る様だけど、そこらに落ちてる。貝を掘ってる時に見つけた人も居るんじゃ無いかな? 砂浜と、川の淵に多いけど、そこらの森の中にも少ないけど有る。
使い方は、『宝珠』を持って頭を空っぽにする感じでそれに意識を向けると、イメージが返って来るから、それに従えば良い。口では説明出来ないから、試して貰うしか無い。
直ぐには出来ない人も居ると思うけど、1日2日で出来ると思うよ。あと、人によって同時に使える数が違うみたいで、たくさん使った方が強い力が出て、エネルギー効率も良い。
で、各色の種類と能力は・・・・・・・・・・・・」
『宝珠』の説明を聞くにつれて、彼女たちの瞳に輝きが生まれた。『切断の宝珠』で木を切り家を作れると聞いた時には歓声が上がった位だ。
そして、『治癒の宝珠』で再度歓声が上がる。話を聞くと、1人糖尿病を持った生徒が早い段階で亡くなったらしい。それ以外にも、けが人が何人も出た事で、医療関係の事は全員が心配して居た様だ。
特に彼らは、家の無いまで3ヶ月以上を過ごしている為、その疲労度は向こうの生徒達以上に高いはずだから、病気には掛かりやすいだろう。
『宝珠』関係に付いての説明と、質問を終えた伸樹は、次の問題について説明を開始する。
「あー、ここからは俺も確証は無いし、混乱しているから、間違いがあるかも知れない、そのつもりで聞いて欲しい。良いね。
ここから南東に山を越えた海岸に、別の北泉高校の生徒と教師が居る。あー、チョット待ってくれ、そこら辺話すから、取りあえず最後まで話させてくれ。
同じ北泉高校の生徒と言っても、多分別の世界の北泉高校生だよ。いわゆるパラレルワールドってヤツだ。ま、異世界転移が有るくらいだから、パラレルワールドが有ってもおかしくないだろう?
で、俺は、君らとは違う世界の者だと思う。理由は、俺達の世界の北泉高校は△○年に転移している。君らの1年後だ。森田さんと生徒会長・・・神楽坂君か、君も居るよ。
つまり、ここの1年3組は2年3組として、2年3組は3年3組として向こうに居る。そして、ここに居ない君らにとっては入学していない中学3年生が1年3組として居る事に成る。そして、ここに居る3年3組は向こうには居ない訳だ。
向こうの生徒達が来たのも3ヶ月ちょい前、君たちと同じだ。で、俺は、彼女たちに遅れる事3年3ヶ月後に、同じ公園からここに落ちてきた。そしたらこの世界では3ヶ月しか時間が経っていなかった。時間のズレが起こった訳だ。
で、パラレルワールドだから、君らの世界も同じか分からないけど、一応、消えた後にどう成ったかを話そう、先ず・・・・・・・・・・・・・・・
という感じだね。さっきも言ったけど、これはあくまでも俺達の世界での、その後だから、念のために」
それから10分間は彼女たちの質問攻めにあった。答えられる事は全て答えていく。向こうのでやったのと同じだ。今回は『彼女』の件が無いので冷静で居られる。
「生徒会長・・・俺は生徒会長になれていたのか?」
神楽坂はの口から出たのは、質問では無く独り言だったが、伸樹は答えてやる。
「ああ、ニュースで聞いただけで細かい事は知らないけどな、間違いなく、生徒会長って事で行方不明者リストに載ってたよ」
神楽坂は、「そうか・・・」とだけ呟いて、最前までの激高具合が嘘の様に静かに成っている。
「あーーっと、取りあえず、君らが寝泊まりしている場所まで連れて行ってくれないか? 手持ちの『宝珠』で余ってる分は配りたいし」
伸樹は、さすがにいまだ家の無い状況は哀れだと思い、ある程度協力する気になっていた。一応、ここにも、彼の『彼女』では無いが、『彼女』は存在するはずだから、同じ『彼女』で有ればやはりできる限りの事はしてやりたいと考えた。
伸樹の言葉に喜んだ、生徒達は我先に『宝珠』を欲しがったが、伸樹は「向こうに着いてから」と言ってその場では渡さない。
そして、10分以上移動した山際に、微妙にオーバーハングした岩場が50メートル程の幅で有り、そこを彼らは寝床にしていた様だ。風が無い状態ならギリギリ雨は入らないが、風が少しでも吹けばまともに濡れる程度の凹みしか無い。
範囲も狭く、全員が横向きには入れそうも無く、足を出して縦に寝るしかなさそうだ。雨が降れば、体育座りの体勢で居るのが限界だろう。
そんな場所に、30人近い人数がいて、再度同じ説明をする事に成る。ただ、今度はその中に『彼女』が居たので気持ちは少し違う。彼の『彼女』では無いが、やはり意識しないでは居られない様だ。
そして、ある程度グループが出来ているのを確認し、代表者を集めて『宝珠』を配布していく。
「取りあえず、『流体の宝珠』緑のヤツね、これで練習してくれ。これが一番使い道がまだ見つかってないヤツだから」
全ての『宝珠』を実演し、最後にそれだけ言って終わりとした。カゴに入っていた一般宝珠の半分は彼らに渡した。1種類100個以上有る。
『治癒の宝珠』も5個を渡してある。『若返りの宝珠』は渡していない。無論、『重力の宝珠』と『液化の宝珠』もだ。
そして、山に入っている男達が帰ってくると、また面倒になると考え、とっとと逃げ出す事にする。
「もし、帰る手段とか分かった知らせに来るよ。君らも分かったら、知らせて・・・いや、黒が無いと難しいから、岩壁か石版みたいなモノに彫り込んで残してくれよ。頼む」
それだけ言うと、『重力の宝珠』を使い、飛び上がり、更に西へ向かって移動していく。
手を力一杯振りながら、「ありがとう」などと叫んでいる者達に手を振りながら山を越えていった。
20分ほどで山の頂上付近の尾根を越えると、その先には遠方に海が見えた。
南、東、北、そして北西にも海だ。まだ確認していない南西側に細く陸地が繋がっている可能性は残るモノの、島である確率が高くなった様だ。
(島?)