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11.第3のチャクラ

 森田洋子(もりた・ようこ)は普通の女子だ。顔もスタイルも学力も普通だ。ただ学力に関しては、レベルの高い北泉高の中で、と言う但し書き付きだ。

 彼女の居るグループには彼女以外に3人の女子が居る。そして、その中で彼女だけが恋人が居ない。

 他の3人は全員同じグループの男子と付き合っている。彼女達のグループの男子は5人なので、後2人がフリーで残っており、秋波を送られてはいるがそれに応える気は無い。

 なぜなら、彼女は別の学校に付き合っている恋人が居るからだ。だが、最近その気持ちに揺らぎが出ている。

 それは、何日か前に来たシンと名乗る男によってもたらされた情報のためだ。

(向こうでは3年が経ってる・・・)

 3ヶ月やそこらならば、彼は待っていてくれる自信はある。だが、3年以上となれば無理だろう、と想像が付く。故に揺らいでいる。

 自分自身に置き換えても、状況が分からないまま3年も待ち続けるなど無理だと理解している。絶対に有り得ないと。

 SFに強い者が言っているのを彼女も聞いた。シンが3年後から来た事によって、自分たちがそれ以前の時代に戻ることは出来なくなってしまったと言う理論だ。

 シンの行動が彼らの3年を奪った形になると言うことだ。仮に今すぐ帰れたとしても、あの日から3年4ヶ月近く先の未来に帰ることになる。

 森田は理性的な人間なので、シンが悪くないことは理解している。だが感情的には恨んでしまうのだ。他の大多数の生徒も同じ様な気持ちだった。

 そんな状況だったからだろう、自分たちのグループのリーダーである佐々木(ささき)是枝(これえだ)がシンの家を破壊した時、それを責めなかった。

 それどころか、やってくれた、と言う気持ちすら有った。同じグループの中尾(なかお)長永(おさなが)も同じだった。

 恋人の是枝に追従する中尾はともかく、比較的暴力的なことを嫌う長永すら彼らの行為を喜んでいた。

 その日から数日経つと、森田の心は冷静さを完全に取り戻し、自己嫌悪に陥った。自分の身勝手な気持ちに嫌気がさしたのだ。

 だが、そんな気持ちになったのは森田のみで、グループの者は全員当初のままの感情だった。

 そして、3日近く姿を見せていなかったシンが突然現れた。全員が、死んだと思っていただけにその驚きはひとしおだった。

 その後、集落を訪れたシンは、生徒達に話しかけようとして避けられていく。それを見て森田はどうしようも無い気持ちで一杯になる。

 原因は自分たちのグループだ。それなりに力のあるグループなので、周囲の者達がそれを汲んで彼を避けている。それが彼女には分かった。

 一部の者は、彼が来て3年が固定されたことに恨みを持つ者もいて、積極的に無視していたが、大半は彼女達のグループにおもねる為に彼を無視している。

 元々暴力気質が有った佐々木・是枝の影響力と、それ以上に今は鉄の供給源としての力がある。その力故の影響力だ。

 4名の教師達ですら、彼を避けて行った。集落内で途方に暮れるシンの姿を見て、森田は隠れたままで立ち尽くしていた。

「見た?、アイツ、みんなに無視されちゃってさ、面白かった(笑)」

「30分近くウロウロしてたよね。誰にも相手して貰えなくって(笑)」

「しょうが無いよね。益になるもの何にも持ってこないで、3年の時を奪ったんだもん」

 そんな会話をしている自分たちのグループの女子を横目に見ながら、彼女は更なる自己嫌悪に陥っている。

(何で、あの時出て行ってあげなかったんだろう・・・ 私もみんなと同じだ・・・ 明日は必ず話をしよう。絶対・・・)

 シンを無視せず会話をする事を誓う森田だったが、翌日、翌々日もシンは現れなかった。海岸2カ所の洞窟にも居る様子は全く無い。

 彼女の誓いは予定外の形で果たされないことになった。


 伸樹(しんき)は朝から肉を食べている。猪肉だ。味は海水による塩味のみだが、久々の肉なので美味いらしく、ガツガツと食っていく。

 一人焼き肉パーティーを満喫した寝不足の男は、その日は徒歩で湖畔周囲を回ることにしている。

 カゴなどの装備を全て持ち、地下の肉に『冷凍の宝珠』を使用してから出かける。昨日と同じ時計回りで移動だ。

 しばらくは急な斜面の岩場が続く為、一旦その上まで上がってから西へと向かうことになる。

 その急斜面の上には、チョットした山が有り、周囲から30メートル程高くなっている。そり周囲を回りながら探索していく。

 近くに、アノ洞窟があるので、地質的に別の洞窟が有る可能性が高いと考えた彼は、飛ばずにじっくりと足で探すことを選択した。

 その日一日掛けて、彼は湖の南側を全て歩き回った。それだけで無く、『範囲認識能力』を使用して、埋まっている洞窟が無いかも探した。

 彼の『範囲認識能力』のエリアは現在半径2メートルなので、地面に額を付けることで最大限の深さを確認する様にしていた。

 だから、20メートル程移動しては地面に額を付けるを繰り返している。どこのチベット僧だ、と言われそうな様子だ。

 だが、彼の努力は実らず、何ら新しいモノは発見出来ずに終わった。


 その翌日は、反対の北側を探索する。一カ所以外は緩やかな斜面なので南より楽に探索できたが、やはりこちらも何ら新たな発見は無かった。

 ただ、湖に流れ込む小川で、黒と焦げ茶を1つずつ、紫とピンクを2個ずつ発見はしている。全く無駄という訳では無い。

 そして、その晩は、一通りのことを終えた後、かけ始めた月明かりの中、空を飛び南の集落を訪れる。

 そして、『彼女』の家に近づき、『彼女』の無事を確認する。まだ、みんな寝ていない時間の様で、ワイワイと話す声が聞こえる。

 その会話の内容的に、『彼女』が孤立している様な様子が無いことに安心した彼は、空を飛ぶと海水を孟宗竹製の水筒に汲んでから、湖近くの仮の宿へと帰った。

 その日は『彼女』の声が聞けたので気分良く寝ることが出来た。壁越しの声であろうが、その会話の中身が何であろうが彼には関係ない。彼女が幸せで、その声が聞ければそれが嬉しいのだ。

 

 翌日は、昨晩の天気からは考えられない事に、朝から雨が降っていた。当初は雨の中出歩く予定だったのだが、雷が鳴り始めた為さすがの伸樹も断念した。

 そして、その日一日は密教修行で終わることになった。幸い、山菜類は昨日までに十分な量が取ってあり、数日程度は保つ量が確保されている。

 肉もまだ十分な量が有るし、魚も冷凍して保存してある。食糧に関しては当座全く問題ない。

 雷が時折鳴り、至近に落ちる中、彼は結跏趺坐でマントラを唱え、手印を切る。半分以上トランス状態に入っている為、雷鳴にすら反応しない。

 第3のチャクラであるマニプーラ・チャクラを開眼するというプロセスをただひたすら繰り返す。トランス状態で。

 伸樹の身体には、元々の紫色のオーラに、ムーラーダーラ・チャクラからの黄色いオーラと、スワーディシュターナ・チャクラからの水色のオーラが混ざり合っている。

 そして時が来た、彼のヘソの辺りに一瞬赤いオーラが現れ、そして消える、それが幾度となく繰り返され、そして、決壊するダムの様に一気に赤いオーラがほとばしる。

 それは、瞬間的とは言え、チャクラを全開に回した時以上の量だった。その赤いオーラは彼の全身を赤く包み、そして次の瞬間には消えていた。

 ただし、ヘソの部分にはアイドリング状態で回転するマニプーラ・チャクラがしっかり存在していた。彼はついに第3のチャクラまでの開眼に成功した。

 第7のチャクラ、サハスラーラ・チャクラまでは後4つだ。先はまだまた長い。

 伸樹は、放出した莫大なエネルギーによって、トランス状態からそのまま気を失っていた。彼が意識を取り戻したのは、意識を失ってから4時間が経過した後だった。

 そして、彼の能力は増えなかったが、性能は変化した。『範囲認識能力』の認識範囲が半径4メートルに成り、『念動力』は約1キログラムを持ち上げられる様になり、『テレポート』はバレーボールほどの体積を転移可能になった。

 ムーラーダーラからスワーディシュターナの際の拡大値より大きい。『範囲認識』は同様に倍だが、『念動力』と『テレポート』は4倍では無い。

 伸樹に取っては『範囲認識』のエリアが大きくなったのが一番有りがたかったが、生活面では『テレポート』の体積が増えたのはかなり大きい。

 なぜなら、バレーボールほどの体積が転移出来るなら、かなりのサイズの魚を転移出来ることになる。魚の捕獲が非常に簡単になる。

 更に、土中の穴に潜むウサギも、穴を掘ること無く手に入れることが出来る。今までは殺した後、穴を掘って取り出す必要があった。その為時間が掛かると考え実行していなかったのだが、今日からは気にせず出来る事に成る。

 『念動力』に関しては、現状使えないことは無いが微妙・・・と言う状態だ。せめて4~5キロを浮かせる力が有れば色々やりようも有ったのだが。

 自分の能力の分析と、その活用法を考える伸樹は、もう一つの件を思い出し、慌てて試す。

 それは『ゲートの宝珠』の実験だ。この実験の為、この場所に長居をしている。本日でこの場所に確実に40時間以上居ることに成る。既にその時間は十分に経過していた。

 ただ、問題は、寝ている時及び気を失っている時がどのように影響するか、と言う事だ。記憶が条件であればその間はカウントされない可能性が高い。

 伸樹は、まだ雨が降る外へと出る。そのまま泥濘(ぬかる)む地面に気を付けながら、仮の宿から離れていく。最終的に500メートル程離れた崖下に到着した。

 そして、握りしめた『ゲートの宝珠』に意識を巡らせる。そして、イメージに添う様に仮のお宿を頭に描き『入力』する。

 その瞬間、かつて無い手応えが返ってきて、目の前に思い描いていた通りの、ここ数日見慣れた岩のお宿が見えた。

 その穴は、直径1.5メートル程だったので、広げたり縮めたりして、その際の消費エネルギーを確認していく。

 更に矢石少年にして貰った様に、ゲートの先を動かして見る。やはり、位置じたいは動かせない様で、その場で様々な方向に向けることだけが出来た。

 その後3分程、色々試し、消費エネルギーの確認も行った。最後はそのゲートをくぐり仮のお宿側へ抜け、薪用の木を取って、ゲート面に差し込んだ状態でゲートを閉じた。

 すると、予想通り薪はゲート面が有った位置でバッサリと切断されていた。切断面は『切断の宝珠』で切ったものと同じだった。

 チャクラと、『ゲートの宝珠』の検証が終わってからは食事の準備や、身の回りのモノを作製して過ごす。木製の水筒や桶、タルなどだ。

 出来れば塩を作りたいのだが、海の側で無い為作れない。以前途中まで作ったのだが、放置したままになっている。無論、佐々木・是枝によってひっくり返されて、石鍋も割れていた。

 塩のことを考えたことで、翌日の予定を決めた。夕方辺りから、降ったりやんだりになっていた雨は、深夜には完全に上がっていた。


 翌朝、食事などを済ませた伸樹は、北へと向かって飛び立つ。湖の北にそびえる山を越え、下った所に有る山間の川に降り立った。

 その後、2時間程その川を下りながら『宝珠』の採取を行っていく。昨日来、『範囲認識』の範囲が倍になり、『テレポート』の体積も一気に増えたことも有り、採取はサクサクと進んでいく。

 移動も、効率を考え『重力の宝珠』を随時使用する。基本山間の川は高低差が激しく、岩などが左右に張り出したり、木々や葛が覆い被さっており、通行には適さない。

 そんな中を『重力の宝珠』で飛び越え、『切断の宝珠』で切り裂きながら移動していく。そのおかげで、2時間後には100を越える『一般宝珠』が手に入っている。

 『レア宝珠』も、紫3、ピンク2、黒1が手に入っており、収支としては完全な黒字だ。

 『レア宝珠』だけを抜き取ると、飛行して西へと向かう。最初に接触したパラレルワールドの『北泉高校』と接触する為だ。

 広大な平原を飛び続け、以前彼らが住んでいた岩壁が見える辺りまで近づくと、その岩壁周辺には家が作られ始めていた。

 更に近づくと、まだ建設したてで、一部の骨組みしか無い状態のモノばかりで有る事が分かる。周辺には50名近い生徒か集まり、それぞれの家に集まり作業を行っている。

 そして、バーニアノズルから吹き出すエアー音に気付いたのも達が、上空の伸樹を指さし始める。

 そんな騒ぎ始める生徒達の側に伸樹は降り立つ。最初の接触時と違い、周囲の者達は彼の元に集まって来た。

 簡単な挨拶を交わした後、本題を切り出す。

「塩を分けて欲しいんだけど、余裕無いかな? 有るなら『宝珠』と交換して欲しいんだけど。もし今余裕が無いようなら、作ってくれれば『宝珠』と交換するけど」

 伸樹の話を聞いた周囲の生徒は、近くの者と顔を見合わせ、会話を交わした。そして、答えたのは3年と思われるガタイの良い男子生徒だった。

「塩は有るけど、どの位要るんだ? 大量には無いぞ」

「あー、そんなに沢山は要らないよ。自分用だから、余裕をみても・・・おにぎりぐらいの量が有れば十分だ」

「その位なら有るよね。で、どれ位の『宝珠』と変えてくれる? さすがにこの前みたいな量は期待してないけど、家を作り始めて『透明の宝珠』がいくら有っても足らないから・・・」

「川を漁って探してるけど、そんなに見つかってないからな・・・」

「何度もは無理だけど、前回と同じぐらいは持って来たよ。ほらこれ」

 遠慮がちにも、それなりに『宝珠を』求めるのは、それだけ『宝珠』が不足しているからなのだろう。特に『切断の宝珠』が。

 それを理解した伸樹は、カゴを下ろしてその中を見せた。そして、その中をのぞき込んだ生徒達から歓声が上がる。

「すっげー、大量に有る」

「透明も一杯有るね」

 興奮した生徒達が落ち着くのを待ち、交渉を求めると、当然のごとく成立する。彼らはそれぞれのグループから一定量の塩を持ち寄り、伸樹に渡した。

 その量はソフトボールほどの量になった。

「良いのか?」

「良い良い、こっちが貰いすぎ位だよ(笑)」

 予定より多い量に、少し心配になった伸樹に、彼らのまとめ役らしい3年のガタイの良い男子が笑いながら答えた。周囲の生徒や集まってきた中にいた教師もうなずいている。

 ただ、その中には『彼女』は見当たらなかった。その為、心配になった彼はそれとなく、その後の死者や病気の有無を聞いたが、ソレは居ないと聞きホッと胸をなで下ろす。

 その会話の流れで、『治癒の宝珠』も3個彼らに渡した。更に、『流体の宝珠』の使用例と、『ゲートの宝珠』の存在も話した。

 『ゲートの宝珠』の事を聞いた者達は、一斉に騒ぎ出した。

「どこでもド○みたいに使える『宝珠』って事?」

「あの穴とは違うけど、それが有るのなら、あの穴を開ける『宝珠』が有ってもおかしく無いよな」

「チクショー、それで元の世界に帰れれば良かったのに」

「映画版で、間違って別の世界に繋がるヤツ無かったっけ?」

「あー、有った有った。エネルギー消費が多すぎるからおかしいなって思ったらってヤツ」

 色々な事を言い合っているが、基本的には全員希望を持てた様で、表情は明るい。こんな環境では、希望の有無は大きい。それによって人の行動は180度変わってくる。

 有る意味、ここの生徒達が一番絶望感を味わっていたのだが、同じ場所で集団で寝泊まりしていた関係か、伸樹達の集団の様な問題は発生していない。

 わずかな環境の違いが発生させた変化だ。IFの世界は、僅かな事で発生し、分岐していく。

 伸樹は、用事は終えたが、移動する前に現在の彼らの生活状況を見ていく事にする。

 家を建てている所へと移動すると、殆どの家が小規模なもので、周囲の骨組みがやっと完成したと言う状態だった。

 その代わり、以前はただの凹みでしか無かった崖は、人が横になっても足が外に出ない位削られて、崩落防止の為の柱が一定間隔で立てられている。

 更に、以前は自然の平らな石を使っていたカマド周りも、石を削って作った鍋、フライパンが置かれ、カマドじたいも綺麗なブロック状の石で組まれていた。

 その近くには、木を削った皿が重ねられており、箸もそれらしい形で作られている。最低限の生活環境は作れている様だ。

 そこまでを確認して安心した伸樹は、海へと向かい、数匹のアジやメバルとブダイを『テレポート』で獲り、サザエとアワビも3つずつ回収した。

 『範囲認識』のエリアが拡大した事で、今まで獲れなかったものも獲れる様になっている。

 そして、一旦生徒達が集まる所まで移動し、そこで『ゲートの宝珠』の実演の意味も込めて、湖近くの仮の宿へとゲートを開き、くぐった。

 ゲートが見える位置に鈴なりになって騒いでいる彼らに手を振ると、ゲートを閉じる。それまでの喧噪が嘘の様に消え、川の流れる水音と鳥の鳴き声だけとなった。

 持って来た荷物をそれぞれ処理して片づけていく。塩は、水気のない所に置き、魚などは、はらわただけ取って地下の冷凍庫に放り込む。

 それだけを終えると、東部の山の探索に移る。今居る所の東側の山だ。この山の東側は以前通っている。だから、その山じたいと以前通った所の更に東から海までを探索する事になる。

 その山は、さして大きくは無いが、この島では一番高い山だ。ただ、一部を除き、さして険しい部分は無く登りづらさは無い。

 何時もの様に、つづら折り状に移動しながら調べていく。所々、岩の中に『宝珠』が深く埋まっているのを見つけ『テレポート』させると、それは全て『液化の宝珠』だった。

 岩の構造的に、そこに埋まった様子は無い。可能性としては、岩が形作られる前からそこに有り、その宝珠と共に岩になった、と言う事だろうか。

 もしくは、『テレポート』の様な能力で岩の中に転移した可能、岩の中で発生した可能性も考えられなくは無い。

 そんな事を考察しながら移動していると、南側の中腹に洞窟を見つける。ただ、この洞窟は入り口から2メートル程の間が崩落しており、外見からでは存在が分からない洞窟だった。

 かなり古い崩落後の様で、木の根が絡み合い、既に壁面と完全に同化している。彼は、その崩落場所を『切断の宝珠』で切りながら近くの木から切り出したスコップで掘っていく。

 木製スコップなので、強度の関係からあまり力は加えられない。更に再崩落の可能性も有って、慎重に作業を進めた為1時間以上が掛かってしまった。

 念のため、崩落を防ぐ為に、コの字に組んだ柱を3つほど元崩落場所にははめ込んで有る。北に住む『北泉高校』の横穴式住居の崩れ止めを見てそれを参考にしたものだ。

 そして、例のごとく危機感も無く彼は洞窟へと入っていく。長年閉ざされた洞窟など、最も危険な場所なのだが、無知故に彼は躊躇無く進んでいく。

 幸い、その洞窟は、他の場所にも小さいながら複数の外に繋がる場所が合った為、空気が淀んでいる事も無く、彼は死なずにすんだ。

 その洞窟は、以前の洞窟より規模が小さく狭い場所が多かったが、分岐が多くて全てで5カ所の枝道が存在していた。

 匍匐前進を必要とする場所、『切断の宝珠』で広げなければ成らない場所がかなり有り、思った以上の時間を取られた。

 そして、5カ所の分岐点の内3カ所に『水晶モドキ』が存在する場所があり、『ゲートの宝珠』を34個で入れる事が出来た。だが、新たな宝珠は発見出来なかった。

 洞窟探索の為、その日の探索はそれで終了となり、帰りは『ゲートの宝珠』を使用して一瞬で仮のお宿へと帰った。便利に成ったものだ。

 その晩の夕食はアワビとサザエの壺焼きだ。醤油が無いのが残念だが、味は満足いくものだった様で一気に食べきっていた。

 そして、その晩も南の『彼女』の様子を伺いに行く。完全にストーカーと化している。本人は『彼女』の安否確認のつもりだが、端から見れば異常者(ストーカー)で間違いない。

 その晩の異常者(伸樹)は満足げな顔で眠りについた。

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