9.洞窟
中尾美保子と長永裕子は早朝から磯へと来ている。日が昇って間もない時間だ。目的は海藻を採る為である。
昨日、別のグループが波打ち際にワカメらしきモノが流れ着いているのを発見し持ち帰った。そして茹でてみた所間違いなくワカメだという事が分かったのだ。
ならば私たちも、と言う事だ。彼女達はワカメをターゲットに、もし無ければ貝類を取って帰る事にしている。
本当はもう少し早い時間から来る予定だったのだが、朝の起き抜けに床に『治癒の宝珠』が転がっているのが見つかり大騒動に成った。
結局その『治癒の宝珠』の出所は分からなかったが、彼らのグループで隠匿する事に決まった。その為、ここへ来るのが遅れたのだった。
そして、1時間以上海岸を東へ移動したが、ワカメを発見する事はかなわず、結果、西に向かって帰りながら貝類を捕りながら歩く事に成っている。
背負ったカゴに重さを感じる程度溜まった頃、彼女達の前には伸樹の住処の残骸があった。
彼女達のグループリーダーで有り、恋人でも有る、佐々木、是枝が破壊した跡だ。
「帰って来てないね、死んだのかな?」
「じゃない? 3日も帰ってこなきゃ生きてないでしょ。優じゃ無いけど、何しに来たんだろ、あの人」
「一応、その後の情報は持って来てくれたけど・・・混乱しただけで役に立つ物は全然無かったよね」
「そ、な~んも成らなかった。技術的な情報でも持ってればまだしも・・・な~んも知らなかった」
「だったよね。糸とかの知識位持って来てくれれば良かったのに。後、調味料とか。魚醤・・・」
「優と佐々木君が切れたのもチョット分かるよ」
「真一も地味に怒ってた(笑)」
彼女達にとっては、恋人達の取った行動は正しい事だと思っている様だ。こう言う場合は、自分たちの事は完全に棚に上げるのが人間の思考だ。
何ら役に立つ知識など一片も持ち合わせていない2人は、役立つ知識を持っていないと伸樹の文句を言いながら、彼が眠る仮のお宿の前を移動していく。
伸樹が帰って来ている事にはまだ誰も気付いていない。
彼女達の暦で、8月も後一週間程度で終わる。
朝目を覚ました伸樹は、先ず『宝珠』の確認から始めた。昨日取った物をまだカゴに入れたままにして有ったからだ。
仮の宿作成の手間が無ければ、昨日の内にやっていたのだが、無駄な時間を取られた為出来なかった。
もう、日が大分高くなっており、気温も上がり始めていた。だが、彼が住んでいる場所は丘の崖によって日がさえぎられる為、かなり高く上がらないと日は差し込まない。
そんな影の中で、カゴから全てを出して確認していく。とは言え、『一般宝珠』以外を抜き取るだけなのでさして手間は掛からない。
結果、『治癒の宝珠』が7個、『若返りの宝珠』が5個、『重力の宝珠』が1個で、『液化の宝珠』は無かった。ただ、もう一つ初めて見る『宝珠』が有った。
白銀色の『宝珠』だ。例のごとく、パチンコ玉の様なメタルな感じなのに透明なのだ。プラチナの様に輝くのだが、あくまで透明と言う物理法則に反した代物だ。
その一つだけ紛れ込んでいた未知の『宝珠』を万感の思いを込めて確認する。それは有る意味望んだ物にかなり近いモノだった。
名を付けるとしたら『ゲートの宝珠』と成るだろう。つまり、任意の点への空間を繋ぐゲートを作れると言うモノだった。
当然、真っ先に、時空間を越えたゲートも試すが、全く手応えが無かった。それどころか、同一世界内へのゲートすら開けない。
しばらく試行錯誤していると、元の世界へと繋ごうとすると全く反応しないが、この世界の別の場所へ繋ごうとするとわずかに反応があるのに気付く。
その上で、イメージを精査すると、『ハッキリ記憶している場所に』と言う条件がある事に気付く。つまり、彼が繋ごうとした場所全てが、しっかり覚えている場所では無かったと言う事だった訳だ。
それ以前に、彼はこの地に来てわずか数日で有り、更にその内丸々2日以上は別の所に居たのだから、この周辺ですら『ハッキリ覚えている』に値しないだろう。
ましてや、昨日や一昨日に訪れた土地など、とどまった時間は1時間と無いのに『ハッキリ覚えている』訳がない。そう言うことだ。
次元間に関しては、実家の自分の部屋を設定しても全く反応すら無かったので、この『宝珠』では無理なのだろうと認識した。
だが、彼は一旦は落胆するが、直ぐに立ち直る。彼は『ゲートの宝珠』のおかげで希望を持てたのだ。空間を繋ぐ『宝珠』が有るのなら、次元を繋ぐ『宝珠』が有る確率は一気に高くなるだろう、と。
そして、遅い朝食を魚のみで済ませ、集落へと向かう。『宝珠』の件はともかく、他の世界の『北泉高校生徒』の件は報告すべきだろう、と考えての事だ。
もう既に午前9時を回っており、多くの者が食糧採取などに出かけていて、彼ともすれ違うのだが、全員が顔を見て驚き、即座に背を向けて離れていく。
そんな事を繰り返して集落へとたどり着くのだが、やはりここでも同じだ。彼が声を掛けると回れ右して逃げていく。
(何だ? どう成ってる? 嫌われるようなことをした覚えは無いが・・・)
伸樹は何も嫌われるようなことはしていない。それは間違いない。ただ、彼が、彼らの求めるモノを持っていなかった事に腹を立てた者が居ただけの事だ。
そして、この集団の中でそれなりに影響力を持つ者がソレで有った為、他の者が関わらない様に逃げたに過ぎない。
全員が、彼の住処を壊した者が誰で有るか知っていた。そして、ソレを尋ねられると思って彼を避けたのだった。
その後、20分ほど掛けて話しかける者全てが彼を避けた。教師達もだ。愛想だけは良かった太鼓女史も彼の顔を見ると、そそくさと逃げていった。
彼は、状況は分からないが、避けられている事だけは理解した。だか、避けていく『彼女』を確認して健康状態に問題が無いこことが分かっただけで満足し、住処へと引き返す。
本日の最大の目的はソレだったのだ。別の世界の『北泉高校生徒』の事は別段絶対に伝えねばならない事では無い。だから彼は気にならなかった。
クラスメイトや周囲から無視されるのは、ここ数年で慣れていた。漠然とした中での無視やイジメの様な行為なら彼もダメージを受けただろうが、彼の場合は確固たる信念の元、自ら実行し招いた事なので全く気にする事は無い。
現在も、多少状況は違うとは言え、彼はその時以上の確固たる信念の元行動している。故に気にならないのだ。気にしない、では無い、気にならないのだ。
何はともあれ、ここ数日の懸案事項だった『彼女』の無事が確認出来た伸樹は、今後の方針をしばらく考え、3つの選択肢から1つを選んだ。
一旦仮の宿へ戻った彼は、栗と一部の松茸以外の全ての荷物を地面の穴に隠して、カゴと水筒とウエストポーチだけを持ち山へと向かった。
昼間で人の目も多い為、飛ぶ訳には行かない。テクテクと歩いて『裏山』を登る。集落内を通った際は、やはり皆が彼を避けて行った。無論彼は一切気にしていなかった。
伸樹の本日の目的地は、中央部にある湖周辺の探索だ。そこを終えたら、外周の山周りの探索も残っている。外観は海岸沿いから見ていたが、近くにはまだ行っていないので確認の必要がある。
小さな島とは言え、まだまだ調べる所は残っている。完全に調べると成れば3ヶ月以上は掛かるだろう。例え飛べたにせよだ。
彼的には、『ゲートの宝珠』がどれ位『覚えれば』開ける様に成るのかの実験もしたかったが、その『宝珠』じたいを探す意味も有って、この中央部探索に決めたのだった。
山を歩く間、地面の宝珠は無視して、山菜を探しながら移動していく。昨日アノ『彼女』から食生活について、かなり強く小言を言われたのでそれを守るつもりでいる。
彼が、彼の為を思って言った『彼女』の言葉を守らない訳が無いのだ。だから彼は心持ち嬉しそうに山菜を採っていく。まだ大きくなりきらない山芋、その実であるムカゴ、ニラ、育ちすぎの感のある行者ニンニク。
更には、あく抜きが必要なツワブキも抜いていく。しばらくすると鬼ぐるみを発見して、殻のままカゴに放り込んでいった。気がつけば頂上に着く頃にはカゴは満タンに近くなっている。
そこは山の頂上と言うより、湖を囲む外輪山の尾根と言う方が近い場所だった。彼は、その場から湖に向かって降りていく。
途中で右手に小川を見つけると、そちらに移動して、その小川沿いに下って行く。湖に到達する200メートル程手前に大きな岩が重なる場所を見つけると、その場に仮の宿を作る。何時もの岩のお宿だ。
30分ほど掛けて、一通りの作業を終える。日に日に手際が良くなり、時間が短縮されていく。
彼は、海水を入れた孟宗竹製の水筒と、カゴの中の山菜を全てその場に置いて、カゴだけを背負うと『重力の宝珠』と『流体の宝珠』を使用して飛行を開始する。
昨日までは、鉄を入手して、バーニアノズルを鉄で作製してから、と思っていたのだが、鉄を手に入れられる雰囲気では無い為、諦めて石製を使っている。
一応、わずかながら金属は持っては居るが、独鈷杵なので、鋳つぶす訳にはいかない。材質も黄銅なので強度的にも弱い事もある。
湖の東の端から飛び立った彼は、その外周を木すれすれに飛びつつ足下や周囲を確認していく。湖を右手に見ながら時計回りに移動だ。
当初は緩やかだった左の斜面も、急に切り立った状態に変わり、それが続く。その崖は大半岩場なのだが、黒いキクラゲの様なキノコが生えている。実はこれは岩茸で、高級素材として知られるモノなのだが、彼にその知識は無い為スルーされていく。
横長の湖の真ん中辺りに来た所で、左手の崖が山側に100メートル以上切り込んだ場所が有った。その谷間の様な場所の突き当たりに、高さ2メートルを楽に越える洞窟らしきモノが見える。
彼は迷わずそちらへと移動していく。その洞窟は、水面から5メートル程の位置に有り、周囲にはコケと小さな松がへばり付いているだけで、何も無い岩場にぽっかりと楕円形の穴を空けていた。
洞窟の入り口に降り立った伸樹は、地面を確認する。それは、生き物の出入りが無いかを確認したもので、コウモリなどの出入りが有れば糞が落ちているので直ぐに分かるのだ。
その洞窟の入り口周辺には、それらしき糞も見当たらず、虫以外の痕跡も見当たらなかった。腕時計を確認した彼は、バーニアノズルの先に『光の宝珠』で発光点を作ると、奥を照らしながら進み始めた。
今の時間は午後4時だ、彼は1時間は探索出来ると判断した。正直、洞窟をなめすぎで有る。落盤・滑落・一酸化炭素中毒・有毒ガス・迷路等々、洞窟はおいそれとは入って良い場所では無いのだ。しかも1人では絶対に入っては成らない。
だが、彼にはそこまでの危機感、危機知識は無かった。テレビ番組のお笑いタレントを使った洞窟探検モノが与えた悪い影響だろう。
カナリヤもガス検知器も無いまま、彼は初見の洞窟へと入っていく。その洞窟はほぼ同じ高さで30メートル程真っ直ぐ続き、そこから幅が少し狭く成り、横長の楕円だった穴が、縦長の楕円に変わる。
その洞窟は1本道だった。多少の上下や蛇行は有るが枝道は無く、道に迷う条件は無かった。そして、入り口から500メートル程の地点で岩だけの洞窟が、一気に鍾乳洞へと変わり眼下に20メートル程垂直に落ちていた。
その地点はかなり広くなっており、鍾乳石の表面を伝う水に光が反射して周囲が照らされる。いわゆるホールと呼ばれる場所だ。
通常は、ロープを使って降りるのだが、彼は『重力の宝珠』を使って飛び降りる。20メートル程の高さを降りると、下は水が流れている。その水は崖の途中と、崖下の隙間から湧き出しており、それが集まって洞窟の先へと流れていた。
洞窟の先は微妙な勾配で下っている。幅は広く5メートル程有るが、平坦では無く鍾乳石の石畳が凸凹に有る為、実質歩けるのは水が流れる直ぐ横だけとなる。
10メートル程進んだ所で、思いっきり忘れていた『範囲認識』を使い始める。その途端足下の水中に『宝珠』の反応が現れる。転移させるとそれは『液化の宝珠』焦げ茶の玉だった。
その後、ホールが終了して、高さ1メートル程の狭い空間がしばらく続いたが、その間に同じ『液化の宝珠』が3つ手に入っている。
その狭い通路の途中、眼前に岩が飛び出し、潜れるスペースがない所に突き当たった。隙間から見ると、その先にはしばらく行った先に広い空間が見える。
彼は、少し後ずさると、その岩を『切断の宝珠』で切断する。周囲が崩れないのを確認しつつ切断を繰り返し、通れる幅を確保した。
ずぶ濡れに成りながら匍匐前進して通り抜けた先には、ホールが有った。そのホールはドーム型のホールで、中央を水が流れ、そのサイドに段々畑の様な水のプールが出来ている。
ザ・鍾乳洞と言う風景だ。天上や壁付近にはつらら石や石柱、石筍も有る。彼はしばしその風景を眺めた。
彼は、そのホール内にも数カ所『光の宝珠』を使って発光点せ設置していく。ここまでも、一定間隔毎に約2時間は発光する発光点を設置してきている。
数に余裕の有る『光の宝珠』だからこそ出来る贅沢だ。だが、ただの贅沢では無く、細部まで確認する為と、帰りの行程を容易にする意味も有る。
闇に閉ざされた空間では、一筋の光では明暗によって影が生まれ、横穴などが見えない事が多い。だから複数の光源を使う事でそれを補っている。
洞窟の危険度を認識していない伸樹だが、その事は理解している様で、次々と発光点を設置しながら移動していく。
彼が歩いた後は、煌々とした明かりが灯り、鍾乳石表面の水に反射して幻想的な空間を作り出していた。
実際の所、彼が光を設置し始めたのは、小学時代の修学旅行で行った秋芳洞のイメージが強かった事も大きい。鍾乳洞と光のコンセプトはセットなのだ。
ホール内で、初めて『一般宝珠』2個を発見する。赤と緑だ。焦げ茶も3つ見つけている。明らかに焦げ茶『液化の宝珠』の数が多い。
(場所によって『宝珠』の種類に違いが出てる? 『宝珠』の成り立ちが関係しているとか・・・ ゲーム的に焦げ茶だから土属性・・・ってそんな単純な訳無いか)
彼なりに色々考えるが、これと言った答えにはたどり着かない。ここしばらくゲームなどしていない彼だが、無意識にゲーム的に考えてしまい、そんな自分を笑ってしまう。
暗闇に閉ざされた洞窟内で、一人皮肉げな笑いを浮かべる気持ち悪い男は、そのまま洞窟を進んでいく。
先ほどのホールから進む事10分で、その洞窟は初めて分岐する事に成る。水は右手に流れ、左手は心持ち上へと向かっている。どちらの洞窟も広さは変わりなく、1メートルから2メートルの高さを繰り返している。
彼は、あまり深く考えず水の流れる右手の洞窟へと進んだ。その洞窟は途中何カ所か匍匐で進む場所が合ったかが、15分ほどで終点へとたどり着く。
そり終点は、しばらく前のホールより2割方小さいホールなのだが、その一面に水晶の様な結晶が生えている。フラットでは無く岩がそれなりに凸凹存在しているその表面から水晶が生えている感じだ。
某元祖アメコミヒーローの極点基地の水晶ほど大きなモノでは無いが、水が流れる小川の部分を除く全ての面に生える水晶は、バーニアノズルから放たれる光を乱反射させて幻想的を越えて異様な雰囲気を醸し出している。
壁、天上からも最大50センチ程の水晶柱が伸びでおり、ある種地獄の針の山を想像してしまう。
しばし唖然としてその光景を見入っていた伸樹は、『範囲認識能力』を使ってその水晶に似た物質を確認する。
それは、有る意味彼が想像したとおり、外形は認識出来るが内部は認識出来ない『謎物質』だった。『宝珠』と同じである。
試しに、手近な『水晶モドキ』に『切断の宝珠』を使用して切断を試みるが、切断出来ない。これも『宝珠』と同じである。
彼は手近な長さ30センチ程の『水晶モドキ』に手を伸ばすと、引き倒す様に力を込めた。すると呆気ないぐらい簡単に岩の表面から取れる。
取れた断面は真っ平らで、岩側にも同様の平らな『水晶モドキ』の断面が残っている。重さは同体積のガラスより軽く、アクリルなどに近い重さの様だ。
その折れた『水晶モドキ』を近くの岩に叩き付けると、全く折れる気配が無い。数度試すが、持っている手が痛くなるだけだった。
取り急ぎ、周囲に発光点を何カ所か作った彼は、深呼吸の後その手に握りしめた『水晶モドキ』に意識を向ける。
その『水晶モドキ』からは確かに反応は返ってくる。しかし、他の『宝珠』のようなイメージは一切帰ってこない。ただ、エネルギー残量は満タンであるのは分かる。
(何だ、これは? 宝珠じゃ無いけど同質モノもだよな・・・ 色は透明で、削ればそのまま『切断の宝珠』に成りそうだけど。・・・他も確認してみるか)
彼は、周囲の『水晶モドキ』を無差別に3本ほど引き抜き、それにも意識を向けてみるが結果は同じだった。しばらく考え込んだ末、5本の『水晶モドキ』をカゴに入れ、小川に沿って奥へと行く。
彼がたどっていた小川は、壁にある亀裂へと吸い込まれており、光で照らすがその先に人が通れる様な空間は無さそうだった。
諦めて、先ほどの分岐点へと向かおうとする伸樹だが、このホール内の『宝珠』を確認していない事に気づき、『範囲認識』を実行した。
すると、小川内だけで無く、『水晶モドキ』の間からも反応があり、それらを転移させるとそれは彼を驚愕させた。そのほとんどが『ゲートの宝珠』だったからだ。
まさか、昨日の今日で発見出来るとは思っておらず、思わず「おおっ!」と彼らしくなく独り言を口にした位だ。
結局そのホール内から、『ゲートの宝珠』が12個、『液化の宝珠』が4個発見された。『液化の宝珠』は全て小川内から発見されており、他の所から流されてきたのもだと思われる。
しかし、『ゲートの宝珠』は『水晶モドキ』の間から大半が見つかっており、その中で形成された可能性を示唆している。
(この水晶から『ゲートの宝珠』が生まれてる? いや、水晶が影響して別の次元からここに現れているという可能性も有る。どちらにしろ、この水晶が関わっている確率は高いよな)
単純に現状だけで決めつけるのは無理があるが、仮にこの『水晶モドキ』から『ゲートの宝珠』が生まれてくるとしたら、別の『宝珠』も何かしらから生まれる事になる。
単純に水晶から連想すれば、アメジストやルビー、ブラックオニキスと言ったモノが想像出来る。無論そのものでは無く、それらの『モドキ』だが。まさに、先ほど伸樹が自身をにが笑ったゲーム思考だ・・・
ホールで入手した『宝珠』は全てウエストポーチへ入れ、分岐点まで戻る。明かりが灯った状態なので、匍匐時バーニアノズルを手に持たずにすむ為楽で良い。ただでさえカゴを引きずらなくては成らないので片手が空くのは大きいのだ。
分岐点からもう一つの洞窟を進むと、そちらは幾度か『重力の宝珠』を必要とする程の段差が有り、次第に上へと昇っていく。
そして、15分程でたどり着いたのは先ほどと同じ、『水晶モドキ』が生えたホールだった。広さは心持ちこちらの方が広い。ただ、小川が無い為か、全面に『水晶モドキ』が生えていて通路が無い。
仕方なく、足の踏み場を見つけながら、抜き足差し足状態で進みつつ『宝珠』を回収していく。足の踏み場もない所は『重力の宝珠』で空中に浮きながら作業した。ここでは『ゲートの宝珠』15個だけが回収だ来た。
かなり長時間掛けて、調べたのだが、生まれ掛けの様な、『水晶モドキ』から『宝珠』が生まれてきているのを証明する様なモノは見つからなかった。
『水晶モドキ』の中に、卵やサヤエンドウの種の様に『宝珠』が入っている事も無い。彼の想像は想像のままで置かれる事に成った。
新たな謎は増えたが、待望の『ゲートの宝珠』を計27個入手出来た伸樹は、満足顔で出口までたどり着く。
当初、往復1時間を想定していたが、結果は倍の2時間を浪してしまっていた。だか彼は後悔していない。大満足だ。
実際問題、生きて洞窟から出られた事を喜ぶべきなのだが、根本的な事を理解していない彼には無駄な事だ。同じ調子で他の洞窟に入れば、何時かその事を知る事になるだろう。自らの死をもって。
時間を考え、彼は仮の宿へと一気に飛んで帰った。そして、先ず、服を全て脱ぎ、小川でしっかり洗濯だ。ついでに身体も洗う。所々泥もあった洞窟内を匍匐前進したため、服もズボンも泥汚れで茶色に染まっている。
10分以上掛けて、ごしごし洗った服は絞って何時もの様に着て乾かす。その間、山を登っている間に取ってきた山菜を調理する。
本日の主菜は『鬼ぐるみの蒸し焼き』だ。堅い殻の中の実を『テレポート』で転移する事で取り出し、それを石で作った鍋で蒸しただけのモノだ。
そして、副菜は『各種山菜の炒め物、海水仕立て』で有る。栗は使っていないが、昨日貰った松茸は入れてある。味は正直微妙ではあるが、栄養は問題ない。
ヨモギの煙が立ちこめる岩穴で、彼は食事を済ませた。そして、日課の密教修行を先にして、後の時間は、今後の予定を考えて過ごす。
明日やる事、それ以降優先すべき事、『彼女』の事、別の『北泉高校生』の事、などだ。
そんな事を考えている最中に、『ゲートの宝珠』の複数使用の事を考えついた。ひょっとしてと思い、2つの『ゲートの宝珠』を手に、実家の自分の部屋をイメージするが、やはり全く反応しなかった。
南の住処跡をイメージすると、1つの時と同様に反応はあるがゲートが開くまでには全く至らなかった。
(数は関係ないか? いや、5や6だったら・・・可能性は無いとはいえないな。試してみる価値はある。 でも、今日の様子じゃ協力は頼めそうに無いな・・・ 向こうに行くか)
同一次元間を繋ぐ穴を作る『ゲートの宝珠』を直列励起させて、他次元間に穴を空けられないか? と言う事を考えた様だ。
可能・不可能はともかく、試さないで諦めるのは確かに愚かだろう。だだ、ここで伸樹は大きな勘違いをしているのだが、それが分かるのはまだしばらく後に成る。
結局、彼は明日の予定を変更して、湖の西端まで調べながら移動し、その後、そのまま西の山を調べながら西の『北泉高校生』達の元へと行くことにした。
『ゲートの宝珠』を試して貰う為である。決してアノ『彼女』に会いたいからでは無い。例え、それを決めて以降彼の顔に笑みが浮かんでいても、だ。
その晩は、猪が現れてカマドの上の石鍋をひっくり返して音で目を覚ますと言うハプニングはあったが、それ以外の問題は無く、大分満月に近づいた2つの月に照らされて彼は眠った。
深夜は大分気温が落ちる様になったが、チャクラからの生体エネルギーを過剰に得ている彼には問題は無く、スヤスヤと眠っている。




