五日目の蜥蜴
王都マグニスへ向けて港町アプシルを旅立ったカナタ達とギルド『青い鳥』の面々、約一か月の予定で始まった長旅は本日で五日目の朝を迎えた。
空が黒から白へ徐々に変わっていき小さな池の周りのテントからは冒険者達が次々と現れ始めた。
そのテントの数は二十近くもありちょっとした集落とも言える。一つ一つが色、形、大きさに差がありそれはこの緑に覆われた大地の中では一際目立っていた。
「おはようございます」
メイはテントから出てすぐ傍のテントを片付け始めていたカナタとドレッドに挨拶をした。それを聞いたカナタ達も「おはよう」と挨拶を返しまだ姿の見えない二人のことについてメイに尋ねた。
「今、色々と頑張っているみたいでした」
メイはちょっと苦笑気味に二人について話した、男性に比べ女性は身だしなみに気を遣う、その二人も例外ではなく今せっせと頑張っているのだ。
「本当女ってのは面倒くさい生き物だな」
ドレッドは仏頂面で本音を語る。五人でPTを組むようになってから毎朝三人で挨拶を交わした後、彼の愚痴がでるまでが日課のようになっている。
「しょうがないわよ、女ってそんな生き物なんだから」
彼らの会話に入ってきたのはシータだった、すでに身だしなみも出来ており旅の準備に抜かりはない。
そんな彼女に三人は驚く訳でもなく揃って挨拶をする、彼女も同じように挨拶をするとメイの傍に歩き寄った。
「メイ先生、今日の朝御飯は何ですか?」
シータの問いにメイはBPから野菜やパン、干し肉を取り出しながらこれらを使った料理を説明し始める。この旅が始まってすぐメイの料理が美味しいと青い鳥の面々に伝わってしまい日に日に自称味見をする者が後を絶たなくなった、青い鳥の中にも料理をする者はいるだろうがなんだかんだで五人分以上の料理をメイが作ることになりそんな彼女に教えを乞う為シータが調理を手伝うようになった。
「カナちゃんが羨ましいよ、僕は」
テントの片付けも終わり料理の配膳をしていたカナタにミチタカは語りかけた、彼もまたメイの料理に魅了された人物の一人でカナタ達にお願いし今は食事をとる際同席させせもらっている。
「そう言われると『うん』としか言えない」
カナタとしてもメイの存在は大きい、怒られるかもしれないがよく出来た妹と言えばいいか。
戦闘時はPTの回復役として、普段は調理を担当してくれているだけではなく宿を長期借りていた時は掃除や時折洗濯までしてくれていたこと、話し合いの時は素直な意見を出してくれるだけでなく提案の量も多い。
(…このPTで一番重要じゃないのかな)
カナタはシータと一緒に調理をするメイを見てそう思った。
彼はメイ達から視線をアリサとイースのいるであろうテントに向けた。
(…)
まだ二人が出てくる様子もなくいつも通りだと納得した。だいたいメイの調理が終わるくらいに這い出てくるのだ、今日もきっとそうに違いない、彼はそう思っていたが事態は一気に急変する。
地面が僅かに揺れたと同時にカナタ達の目の前に広がる池にいつもの水柱が立った。
しかしその水柱の正体は大きな『蜥蜴』、人間の大人と同じくらいの体長で前脚、後ろ脚、尾の先端にヒレを持つ。体色は水に同化する為か青く黒のラインが走る。
それらはその飛び上がった勢いのままにカナタ等の方に降りかかる、次から次へと水柱が立ち水飛沫と共に蜥蜴の群れは『餌』に向かって攻撃を開始した。
この世界では”死”への恐怖が薄まるらしい、それは”死”を恐れない訳ではないが結果的に”死”へ繋がる行動でも躊躇する感覚は鈍るとは考えられないだろうか。そしてその躊躇がほぼ、もしくはまったくない場合それができる人間の行動力は現実の世界では考えられないほど機敏で活発になる可能性がある。
この世界では戦闘に対する認識は一般生活に近いのだ。
「ドレッドさんとシータさんは前方でヘイトを稼いで!メイさんは二人の回復を!ミッチーは僕の援護を!」
カナタはBPからロングソードを引き抜くと彼らに指示を出した後一気に飛来する蜥蜴の群れに駆けて行った。
戦闘シーンって一番楽しい