カナタの目的
今、この部屋にいる四人は客人のミチタカのギルドの話に花を咲かせていた。
彼が所属しているギルド『青い鳥』は総数三十名ほどの小規模ギルドだ、この世界に来た時たまたま同じ村にいた冒険者が集まってできたらしく、それ以降メンバーの勧誘等はせず細々とやっているらしい。
ギルマスの一声というより多数決で行先を決める方法でこの二年間、特に喧嘩等もなくこの大陸を冒険していると彼は話した。
「仲がいいとうか同じ感性の人が集まった感じかな」
ミチタカは少し笑ってからメイの淹れたお茶を啜った。
「でも二年間特に問題がないなら良いギルドだと思うけどなぁ」
カナタは素直答える、自分達のパーティは五人なのに先ほどのようなゴタゴタは頻繁にあるのに。
「大規模ギルドだとイベントの時に真価を発揮するからね、僕達のギルドはそういう時職種で色々制限があるから大規模戦闘には向いてないから」
ギルドの大小はそれぞれメリット、デメリットが存在する。タツヤの所属する『sts』は人間関係が表面化して分裂の危機にすらあることを考えれば大規模ギルドの方が脆い気がしないでもない、ただし小規模ギルドではイベント時に相当な部隊の錬度がなければ大規模ギルドに張り合うこともできずレアアイテムを手に入れることはかなり難しい。
そう考えるとこれから自分達はどうするべきなのだろうか。
再度メイがお茶を注いで回ってからミチタカはカナタに今後のことについて話した。
「本当はあのオークのイベントが終わった後たっちゃんと僕とサプライズでカナちゃん呼んでで久々に会う約束をしてたんだけどさ、たっちゃんの所の会議があまりにも時間がかかりすぎてるから僕のギルドの予定に間に合わなくなったんだよ」
「予定?」
「イベントが終わったから元々向かう予定だった西のはずれにある大きな洞窟に行くんだよ、ギルドの皆に待っててもらってたんだけどさすがに一週間もかかっちゃうとね」
ミチタカは苦笑する。
「そっか、でもミッチーは何も悪くないよ」
「でも次いつ会えるかわからないしさ、それに西のはずれともなるとギルドで動くと3ケ月はかかるし連絡も取りにくくなるから」
この世界はゲームであるもののTELL機能はない、当然チャットなどもなく遠くにいる人物と連絡をとるには伝書鳩や空を飛ぶ召喚獣を用いる。ただし伝書鳩の範囲は狭く召喚獣も召喚主が操縦しなければならない為かなり限られるのだ。
「ごめんねカナちゃん」
申し訳なさそうにミチタカは謝罪する、それを見ていたアリサとメイは切ない気持ちで一杯だったがカナタは視線をあちこちに向け何かを考えているように見える。
「カナタさん?」
アリサはミチタカの謝罪に何も反応しないカナタを疑問に思い声を掛ける。
「ミッチー」
「ん?」
急に自分の名前を呼ぶ友人に返事を返す、その目は何かを決めたようで優しい彼の雰囲気は今そこにない。
「その旅に僕達も同行させてもらえないかな?」
カナタ以外の三人はカナタの顔を見た、急に何を言い出すのかと三人の顔には書いてある。
「んー、ギルマスに聞かないといけないけれどたぶん大丈夫じゃないかな」
「本当?」
「別にギルドに入りたいってことじゃないでしょ?」
「うん、旅に同行させてほしい」
「なら大丈夫だと思う、でも西のはずれの洞窟まではかなり遠いよ」
「僕達の目的は西の洞窟じゃなくて王都に行くことだから」
「なるほどね」
ふふ、と二人は笑ったがアリサとメイは話に置いて行かれた感が否めない。
「あ、あのカナタさん?」
「勝手に決めてごめんね、でも王都まで五人で行くと不安だけど途中まででも人数が沢山の方がいいと思って」
「確かにそうですけど…」
アリサとしては勝手に決められたことにちょっと憤りがありせめて事前に目的地くらい考えていることを知らせて欲しかった。
不満顔のアリサであったが傍にいるメイはメモ帳を取り出しミチタカに話しかけた。
「あの、ミチタカさん?」
「何でしょうか?」
「王都は通られるのですか?」
「はい、たぶんというか必ず。アイテムや食材の補充がありますし数日間は王都に留まると思います」
「なるほど、わかりました!」
そう言ってメイはメモ帳に何か書き始め時折ブラックポケット(以後BP)を覗きこんでメモ帳に筆を走らせる。
「何してるのメイちゃん?」
「食材の準備です!確か一か月近くは王都までかかると聞いたので」
アリサの不満は更に募る、まるで自分が適応するのが遅いかのように思ってしまう。
別に王都行きやミチタカのギルドと一緒に行動することが嫌とかそうわけでもないのだが、この場で自分だけが何も決定することも考えることもできない『使えない人間』だと思ってしまう。
三人が今後の予定を話している中、ただ自分だけが取り残されているとしか考えられなかった。
「それじゃあ明日の昼にはギルマスやメンバーと話をしてまた報告にくるよ、旅の予定をね」
ミチタカはカナタからの要望をギルマスに説明する旨を伝えた。
「待ってミッチー、明日はこちらから行くよ」
「え?いいの?」
「こっちからお願いしたことだからね、ギルマスやメンバーの方に明日伺うとだけ伝えて貰えるかな?」
「オッケー、それじゃあ昼頃に来てくれる?」
「うん、二人で行くと伝えて」
二人?カナタの答えに彼以外の三人は疑問を浮かべる。
「五人で来るわけじゃないの?」
「明日は僕とアリサさんでお邪魔するよ、メイさんとあの二人には旅の準備をして貰おうと思うから」
「私です?」
「うん、そうだけど何か予定あったかな?副リーダーだし来て欲しかったんだけど」
「いえ、そういうわけでは…」
先ほどまで沈んでいたアリサの心は普段通りというかそれ以上に浮き上がっているような、途端に顔がにやけている感覚にすぐ様自分の顔両手で触った。大丈夫、にやけていない。
私は何を考えていたのか、まったく。
自分の世界に入ってしまったアリサを不思議に思いながら見ているカナタにメイは話しかけた。
「旅の準備とはどういったものでしょうか?」
「ごめんね、急に。でも準備は早めにしおきたいから。一応食材とアイテムの補充をお願いできるかな。オリウスからこの町までのことを考えると前回の倍は用意してほしいんだけど」
「倍です!?」
「うん、それとこれ」
そう言ってカナタはBPから大きな麻袋を取り出しメイに渡した。
「それだけあれば足りると思うから、もし他にも必要なものがあれば”それ”で買ってきてくるかな?」
中身はこの世界で流通している貨幣、元々パーティリーダーには戦闘での獲得資金は少し多めに配分される。その為買い物を行う際はカナタが率先して支払うことになっている、実際は他のメンバーから一人で支払うことに対してその必要せいがないと言われたことが何度もあるのだがカナタが一貫して否定した為常習化している。イースはそんな頑固なカナタに『ガナタ』というあだ名をつけそれはパーティメンバーでも時折使われるようになっている。
「わかりました!それじゃ明日買い物にいってきます!」
メイは麻袋を受け取り元気に答えた。
「カナちゃんのパーティっておもしろいね」
「僕もそう思う、おもしろいし皆いい人だよ。まぁちょっと変わってる人もいるけどね」
ミチタカを見送りにでたカナタは近くの大通りまで一緒に歩く。
「元の世界だと夜によく四人でコンビニ行ったよね」
「徹夜でゲームする時はお菓子やらジュースやらかなり買い込んだね」
「たっちゃんは毎回栄養ドリンク買ってた」
「そうそう!『これで徹夜できる!』って言いながら真っ先に寝るし」
二人して笑う、大通りは夜も更けて人通りは少なく彼らの笑い声は立ち並ぶ建物に反響する。
「ねぇミッチー」
「ん?」
急に声のトーンを落としたカナタがミチタカに話しかける。
「”マモル”元気かな」
「…たぶん元気だよ、きっと」
それはまだ会うことができていない最後の友人。約束通りなら現実世界の十時からログインしている為この世界では二年間過ごしていることになる。
「だよね、マモルは酒強いし」
「それは関係ないんじゃない?」
カナタはふふ、と笑いそれにつられてミチタカも笑う。
どこかで元気でいるとカナタは思うようにした。そしていつしかお互い無事に出会えるようにと。
大通りでミチタカと別れたカナタは一人ゆっくりと仮住まいの部屋に向けて足を進める。彼の中では大きな希望と少しの後悔が渦巻いていた。
もしかすれば王都までいけばマモルに出会えるかもしれない、ミチタカと再会し話を進めていく中でカナタはマモルのことが気がかりでしょうがなかった。そんな希望はカナタを進ませるのに十分な原動力になり強引であったが王都へ向かうことができるようになった。
(勝手に王都に行くと決めたこと、皆怒ってるかな)
普通に考えれば怒っているのは当たり前だと思う、自分だって他の人間に勝手に行先や予定を決められてしまうと相談の一つくらいと思ってしまう。
それでもあの時、自分のエゴを止めることができなかった。
だからイースとドレッドが帰ってきたら皆の前でちゃんと説明しなければならないのだ。今の自分の気持ちと王都へ向かいたい本当の理由を。
カナタは一度その場に止まった後、深呼吸をしてから帰路へついた。
遂に週一更新になってしまった。
したいことがある時に限ってやらなきゃいけないことが増えるんだよね。