自由行動の結果
夕食を取り終えたカナタ達、食後のお茶を飲んでいる時カナタは今日ギルド『sts』のアレックスから教えて貰った情報を皆に伝えた。
ただしタツヤのことには触れず『sts』が出来たきっかけや他ギルドとの状況、その他カナタが気になっていたことを夕方までアレックスに尋ねていたことを細かく説明した。
その中でもメンバーが驚いたのがこの世界での『”死”への恐怖が鈍くなる』ということだ。
「この世界でモンスターと対峙した時恐怖”だけ”を感じますか?」
アレックスの問いにカナタは詰まった、そう言えば恐怖というより”どうすれば倒せるか”という点を一番に考える。考えてみれば元の世界でこんなモンスターに遭遇すればまず逃げようと思うはずだ。しかしこの世界では”逃げる”ということはほぼ考えない。
「この世界では”恐怖”というもの自体を受けにくくなっているのだという考え方がぴったり当てはまると思いませんか?」
だから僕は武器を手に取り突っ込むのかもしれない、そう思うと納得してしまう。
「私は”恐怖”を忘れてはいけないと思います、ただし感じなくてもいいのであれば考える必要はないですよね。だから私は”死”という終わりのことはなるべく考えず戦っているのです」
アレックスがにこりと笑ったことがカナタの印象として大きく残った。
「確かにそう言われたら”死ぬ”ってことあまり考えないわね」
「最初はすごく考えましたけどね」
うんうんと頷くイースとアリサにドレッドが続く。
「俺なんてこの盾が突破されたらすぐ死んじまうんだよな、そんなこと当たり前だけど考えてなかった」
なんてジョブ選んだんだ俺は、と嘆くドレッドに「回復は私に任せてください!」とヒーラー役のメイがエールを送る。ドレッドは「心強い限りです」と頭を下げた。
カナタの話が終わった後ドレッドが地図を取り出し机の上に広げる。その地図にはこの大陸と思われる図と幾つかの町、大きな山、川、湖が書き込まれている。その大陸の形は、
「ハート型ですかね?ちょっとかわいいです」
アリサは素直に感じたことを喋った。
「俺達がいる港町アプシルはここで、ナフトとオリウスがここ」
ドレッドの指さしたところはハート型大陸の東側で丁度中心部分、そこから少し上に指を動かし後者の二つの町の場所を示した。
「この大きい山がフレイヤ山?」
「そうそう、それでその下の町が王都マグニスだ」
イースの問いにドレッドは答え話を続ける。
「俺達がいるアプシルから王都マグニスまでのルートはこの山を迂回して三つの町を経由することになる、日数はだいたい三週間ほどらしい」
「「三週間!?」」
「だってオリウスからこの町まで十日だぜ?その倍あるんだからしょうがないだろ」
ドレッドのいうことは当然なのだが先のことを考えると声も大きくなるものだ。
「道中のこのトーゼッド山がなきゃもっと早いのだろうがな」
彼の指さすところに一つの大きな山が描かれている、その周りには小さな町が三つ書かれておりここが途中立ち寄ることになる町だと思われる。
「フレイヤ山までかなりかかりそうだね…」
カナタの一言に皆は無言で頷いた。
これで以上だ、と地図を仕舞ったドレッドの後メイが勢いよく立ち上がった。他のメンバーはその行動に驚き皆がメイを見つめた。
「ごめんなさい!」
彼女は勢いよく頭を下げた、他のメンバーは意味がわからず頭の上に?マークが乱れ飛ぶ。
「わ、私は自由行動だと聞いていたので珍しい食材を買っていただけでした、カナタさんやドレッドさんのような情報は何も、ないんです…」
彼女はそう言うと再度頭を下げた、どうやら自由行動の意味も時間も自分のエゴの為だけに使ったと思っているようだ。
「メイさんはそれだけで十分だよ?」
「何で謝ってんだ?十分だろ?」
へ?とメイは声を漏らし頭を上げた。
「普段からご飯作ってくれているだけでも十分なのにわざわざ珍しいものまで探してくれたんでしょ?
十分だよ、本当に」
そうそう、とカナタの言葉にドレッドは頷いた。
「ほ、本当にそれだけでいいのですか?」
「いいよ、本当に」
カナタが笑顔で答えてくれたことにメイは心底嬉しそうに一言返事して座り直した、ドレッドが明日の朝食について聞くと彼女は「内緒です」と小さく笑った。
それから少し経ってから今度はアリサとイースが立ち上がった。顔は俯いたままでさきほどからどこかおかしい。
「二人ともどうしたの?」
カナタが尋ねると二人は顔を見合わせてから思い切り頭を下げた。
「ごめんなさい!自由行動の時化粧品買ってました!」
「その後『sts』の女性メンバーと一緒に女子会してました!」
二人の告白の後長い沈黙がこの部屋に続いた。
頭の中だとスラスラ書けるのに。