彼女らの予定
アプシル中心部の商店街、様々な物が軒先にまで並べられ沢山の人々の往来で賑わっていた。
その中でも大通りに面した一際華やかな店があった。店内には瓶に詰められた沢山の化粧品が所狭しと置かれその一つ一つが個性的で香り豊かな空間を作り上げていた。
店内は女性客でにぎわい特に女性冒険者は試供品を手で触ったり匂いを嗅いだり思い思いの方法で目当ての物を探している、その中にアリサとイースの姿もあった。
「これって化粧水、かな?」
「よりによって試供品がないのね」
瓶に詰められたその透明の液体を二人で覗く、よりによってこういう日用品は元の世界の文字が利用されておらず雰囲気や形で判断しなければならないことが多い。こちらの文字など覚える気もないというのがある意味問題でもあるのだが。
「店員に聞くしかないか」
イースは顔を上げ店員を探す、店内は他の女性冒険者で賑わっており中々店員を見つけることができない。少し見渡していても店員は見つからず近くの冒険者に聞こうとした時聞いたことのある声が後ろから彼女らを驚かせた。
「お目当てのものは見つかったのかしら?お二人さん」
アリサとイースが振り向いた先にいたのはタツヤの護衛をしていた三人の女性達だった。
メイはただ恩返しがしたいだけだった。
元の世界では三人家族、両親は共働きでずっと一人、絵に描いたような鍵っ子だ。
別に友達がいないわけでもなく貧乏な訳でもない、どちらかというと友達は沢山いたし両親も働くことが生きがいのような人たちだった。だから学校はとても楽しいが家に帰っても一人で夕食を作り一人で食べ一人で朝を迎えることが普通の生活になっていた。
このゲームを始めたきっかけは偶然このゲームの広告を見つけたから、わざわざ買いに行かなくてもお金さえ払えばダウンロードができるということもあってネットショッピングをする感覚と暇つぶしで始めた、結果この仮想の世界に迷い込んでしまうことになる。
最初の町で何をすればいいのかわからないまま近く居た人たちと一緒に行動しオリウスまで歩いた、そのオリウスでは何をすればいいのか迷っている人たちとは別にこの世界に適応しようとする人たちが居た。
(私も頑張らないと)
彼女は自分にできることを考えた結果もっとも生存率が高く人に必要とされる聖職者【ヒーラー】を選んだ。そもそも最前線でモンスターと戦うということにすごく抵抗があったのも事実だが。
全体的に戦士系を選ぶ冒険者が多かったこともありどこのパーティーでも引く手数多で様々なパーティーで回復役として働き結果レベルは人並み以上にまで上がった。
ただしどのパーティーでも楽な戦闘はなく毎回のようにモンスターと一進一退の攻防が続き回復魔法を使いすぎてMPが枯渇する戦闘が多かった、戦闘後はヒーラーに対して御礼どころか回復のタイミングにケチをつけられることまであり少しづつ苛立ちが募る。(私は私なりに頑張っているのに)そう思えば思うほどこの世界でも孤独を感じ自分の居場所というものに自信も期待も消えていく。
そんな中朗報が耳に入った、港町アプシルへの大移動である。
大神官という人物が元の世界に戻る方法を知っているという噂が流れ当然その大移動に加わることにしたのだが全体的にレベルが低くまさかの出発初日に引き返すというなんとも愕然とする結果になった。
それでも彼女の希望が消えることがなかったのは今の四人と出会えたからだ。ゴブリンを手玉にとるように倒していく魔法剣士、少し口喧嘩が多いながらも役割分担がしっかりできている騎士と魔術師、他の冒険者が怖気づいてしまうほどの大きなゴブリンにたった一人で立ち向かっていく戦士、これほどの人たちがあの町にいたのかと思うだけで彼女は自分も頑張ろうという気持ちになった。
町に引き返した翌日、昨日の人たちを探す為に朝から町を歩いた。お願いしてパーティに入れて貰おう、今の自分のレベルが低いことはわかっているができることはなんでもする、その気持ちで彼らを探し回った。
結果『回復+補助魔法担当+調理』として彼らのパーティに入ることができた。実際には一番最後の一つは自分から言い出したことなのだが向こうから自分をパーティに勧誘してくれたことにただただ感謝した。
メイはこのパーティに入って以来毎日がとても楽しく過ごしている、兄と姉が二人づつできたようなそんな感じ。そう思っていいのかわからないがずっと頼り続けていることがそう思えてならなかった。
おいしい料理を作りたいと思った、それが自分のできる恩返しだから。
自由行動になった時メイは足早に商店街に向かった、これだけ大きい町ならきっとおいしい食材が手に入ると信じて。
この町二日目