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大きな醜い鳥Ⅵ

※普段の5倍くらいになってしまいました('A';)

 シンシの一撃によって体力を限りなくゼロに近い状態にされたコウヘイは横たわったままだ。

 冒険者は体力が少なくなるほど意識が遠のき体に力が入らない状態になる、ただし冒険者の攻撃によってゼロになることはない。装備等の破壊はあるが冒険者同士での殺し合いはこの世界ではありえない、そう思われていた。

 カナタの周りにパーティメンバーは集まっていた、コウヘイによって与えられた傷はメイの回復魔法によって綺麗に治っているもののカナタは目を覚まさない。

 そんな中一つの疑問をシータは口にした。

「こんな時に言うのもなんだけどさ、プレイヤー同士の攻撃で出血するなんて初めて見たよ」

 彼女の一言に頷いたのはミチタカとシンシ、その二人を見て他のパーティメンバーはその疑問に対し疑問を感じる。

「カナタさんが出血というかこんな状態になったのは初めてじゃありませんよ」

 そう言ったのはアリサ、カナタはゴブリン討伐戦の時”龍の腕”によって吐血した、と思われている。それが何故なのかは誰もわからないがその現場を目撃したのはここにいるパーティメンバーだ。

 ミチタカはカナタに目をやりながら改めて思う、彼の周りに血の池ができるほどカナタは出血している。装備破壊はよくあることだがコウヘイに襲われた時カナタの腹部は剣によって貫かれた、この二年間で冒険者の小競り合いは何度も見てきたが体に傷が入るのは自傷以外方法はない、そう思っていた。本来なら剣によって与えられた傷は一定時間エフェクトが発生するくらいでミチタカによる弓の攻撃は矢自体がエフェクトとなる為実際に刺さる訳ではない。

 考え直してもやはり”ありえない”としか言いようがないのだがカナタとこの世界では自分より付き合いのあるメンバーの話ではカナタのこういった状態が初めてではない以上カナタ自身が何か特殊な存在と考えた方が納得できるのである。

「カナタサンハマダメヲサマシマセンカ?」

「ゴブリン戦の時も一晩は目を覚まさなかったわ、傷は治っても不思議なものよね」

 シンシの問いにイースは答える、ゴブリン戦の時と違って龍の腕を使用していないのでその反動で目を覚まさないという訳ではない。今の状況は傷自体は癒えているので出血多量が原因だと彼女は一人で納得していた。

「それでアイツはどうするんだ」

 ドレッドはコウヘイを指さしながら尋ねる、自分達にとっては危険人物以外の何者ではない。

「僕が彼のパーティに話をしてきます、お互い近寄らないようにするしかないと思いますが」

 ミチタカはもっとも付き合いの長い自分がしなくてはいけないことだと考えた、しかし納得できない人物がそれを否定する。

「私が行ってやるわよ、ふざけたマネさせるんじゃないって」

「私もいきます!」

 怒り心頭のイースにメイが同調する、この二人はコウヘイによる脅迫事件以来彼に大きな嫌悪感を抱き続けている。

「いえ、ここは僕に…」

「ダメよ、私達が行くから」

 その後の押し問答でミチタカなりの覚悟は彼女により完全に粉砕され結果イースとメイがコウヘイのパーティに話をしに行くことになった。


「ここも冷えてきましたしどこか宿に行きませんか?」

「そうね、リーダー用にベッドも用意しないと」

 夜も深くなってきたことやカナタが目を覚まさないこともありこの場を離れることにした。

「それじゃドレッドさんとミチタカさんはあの人を運んで下さい、イースさんとメイは付いて行って今後のことについて話し合いをお願いします。私とシータさんとシンシさんはカナタさんを宿まで連れて行きましょう」

 カナタ不在の場合は副リーダーのアリサが仕切る、これは皆が納得していることでありこのパーティのルールである。

 目的が決まったところで全員が動き出そうとした瞬間轟音と震動がその場を支配した。

 全員が体を一瞬震わせ驚きその原因となった方を向く、その方向はコウヘイが倒れていた方向で距離は店一軒分ほどある。

 彼らの視線の先の石畳の道には大小様々な石が散らばっていてそれらの中心に一際目を引く”それ”が立っていた。

 それは恐らく”斧”だと思われる、大人一人分の身長ほどある斧が石畳の道に突き刺さっていた。形はほぼ三日月型で斧とも鎌とも言える、夜なのに月灯りに照らされたその斧は不気味に輝いていた。

「何だよあれは…」

「本当に何よあれ…」

 唖然としている彼らだったが更に驚かすようにその斧は輝きだす、その光は町の外からでも十分確認できるほど強烈な光だった。

 光り輝くその斧は地面から抜け少しづつ宙に浮く、それと同時にその近くのコウヘイの体も同じように地面を離れ浮き始めた。

「あいつどうなんてんだ!?」

「わからない!でも何かおかしい!」

 コウヘイは横たわっていた状態から起立した状態になる、両手を水平に伸ばし足を少し開きコウヘイの動きが終わったと同時に周囲が再度大きな揺れに襲われた。

 その揺れは不思議なことに限定的に起きた、斧とコウヘイを中心に五メートル位の範囲の石畳が音を立て揺れる。そして石畳の石が一つ二つと抜けてそれらはコウヘイの周りをまわり始めた。

 どんどん石畳から石は抜けそれらは宙を舞いまるで竜巻のようになる、コウヘイの姿が見えないくらいまで浮いた石で壁ができそれらは次第に周回する幅を狭めていく。斧が一際輝いてその光が消えた後そこには大きな大きな石の巨人【ゴーレム】が立っていた。

 その巨体は全身が白く形はほぼ人型だ、ただし頭はない。高さはすぐ傍にある店と同じほどで二階建ての建物ほどもある。ゴーレムの近くの石畳はカナタ達のいるところよりも大きく抉れていた。

 輝きを失いながらも浮いている斧をゴーレムは掴んだ、それと同時に真っ白だった全身は紫に染め上げられる、その紫の体に稲妻のような柄で銀色の線が走った。

「…一体、どうなってんだ」

 ドレッドは驚きの中言葉を発した、その場にいる誰もが感じたこと。目の前で何が起こったのか、そしてこの巨人は何なのか、彼らが理解する前にその巨人は彼らに向かって走り出した。


 鉄と鉄がぶつかり合う音が響く、それはドレッドの盾とゴーレムの持つ斧が激突した音だった。再度ゴーレムが斧を振り上げた時にドレッドとシータが入れ替わる。

「攻撃されるたびにデバフが付くなんて、厄介よね!」

 振り下ろされる斧をシータは盾で受け止める、体に響くが問題なのは追加ダメージを与えられるデバフが付くことだ。攻撃されるたびにデバフが増える為ヒーラー(回復役)の負担が増えるのである程度デバフが溜まるとタンク(盾役)が交代する、このデバフは強化効果【バフ】の逆でデメリット効果が付与される、短時間で消えるものの連続で攻撃を受けると本来のダメージに上乗せされることで体力の減少が著しくなる。

「それよりどうするんだ、あのデカイの」

「あの男の人さえ中にいなければ攻撃できるのに…」

「中にコウヘイが居る以上攻撃できません」 

 先ほどの現象からしてあのゴーレムの中にコウヘイがいるのは間違いない。攻撃してもしもの場合どうするのか、彼らは攻めあぐねていた。

「人のとこのリーダーを殺しかけた男だけど、厄介としかいいようがないわね」

 ゴーレムの攻撃をドレッドとシータが受け続ける中メイの回復魔法も無限ではない、タイムリミットは迫っている。

 イースがそう言った途端ゴーレムが空に突き刺すように斧を掲げると切っ先が輝く、そして掲げた斧を地面に叩き付けた。

 地面に斧がぶつかった瞬間その場所の石畳は抉られる、凄まじい衝撃波と音が発生しアリサ達に襲い掛かり全員の体力を半分近く削る。

「クソ…何だよこれ!?」

「はぁ…はぁ…?」

「グ、【グリームヒール】!」

 咄嗟の大ダメージに驚くメンバーを横目にメイはすぐ様全体回復魔法を詠唱した。全員の体力は九割近くまで回復する。

「あ、ありがとう、メイちゃん」

「いえ、それよりどなたか魔力回復薬頂けませんか?」

「俺のを使ってくれ」

「タンクにはいらないから」

 メイにドレッドとシータが手お持ちの分の魔力回復薬をすべて手渡した。

「あの全体攻撃を連続で使われるとマズいわね」

「短期決戦でいくしかないってことですか…」

「冒険者の攻撃で冒険者は死なない、それに賭けるしかないですね」

「「ん?」」

 その場に居た全員がその声の方を向いた、その声の人物は先ほどシンシに担がれてこの場を離れた筈。

「遅くなりました」

 そこに立っていたのはカナタとシンシだった、カナタの後ろにいるシンシは手の平を合わせて謝っているようだ。

「も、もう大丈夫なんですか!?」

「えぇ、大丈夫です」

「そんな体で本当に?」

「鎧はボロボロですがなんとか戦えますよ」

 途端にゴーレムがカナタに向かって突っ込んでくるがドレッドとシータがそれを遮る。

「やっぱり僕が一番憎いのですね、コウヘイさん」

 カナタの声にゴーレムは斧を振り上げて威嚇する。

「…コウヘイはやっぱりカナちゃんのことを憎んでるんだね、ごめんねカナちゃん俺のせいで」

「ミッチーは悪くない、気にしないで」

 カナタはそう言い笑顔をして見せた。

「でも僕はここで死ぬつもりはない、だからあの”ゴーレム”を倒すよ」

 カナタの言葉に誰も反対はしなかった、カナタはBPからロングソードを引き抜き構える。

 メイは防御力アップバフを、イースは攻撃力アップバフを詠唱する。他のメンバーも今使える強化スキルを使用し戦いに備える。

「アタッカーは全力で攻撃を、メイさんはタンクの回復とデバフ解除を、タンクはヘイトを取られないように」

「誰に言ってるのリーダー?私以上にヘイト上げれるつもり?」

「私が本気になったら一瞬でヘイトとるからそのつもりで」

「上等だよ、俺が一番だってとこ見せてやるからな」

 カナタの言葉にシータ、イース、ドレッドが続く、彼らの言葉に残りのメンバーは笑った。

「コウヘイさんとはもう一度話さないとね。それじゃ行こうか」




「ペネトレーションスクリュー!」

「ヒュージライトニング!」

 ミチタカの弓より放たれた矢は凄まじい回転をしながらゴーレムの胴の部分に突き刺さる、それと同時にイースが詠唱した雷の魔法がゴーレムの真上からその身を焦がした。その二人の間をアリサが駆ける。

「フレアブースト!」

 アリサの手に握られたダガーが赤く輝く、魔法剣士は自分の武器に属性付与させることができその威力を高めることができる。アリサはそのままゴーレムまで走り強化魔法【クイック】【インクリース】を詠唱した。【クイック】一時的に瞬発力をあげるナイフ系の専用スキル、【インクリース】は強化魔法の効果を更に高める魔法剣士の専用スキルである。

 彼女の瞬発力は一気に高まり赤く輝くダガーの軌跡がゴーレムの体を下から上へとその体に螺旋を描くように駆け巡り登り切ったところで大きくジャンプしてタンクの後ろに着地した。

「ハイイントラスト!」

 すぐ様シータがヘイト上昇スキルを詠唱しそれに反応するかのようにゴーレムの一撃は彼女にを襲った。そのシータの両脇をカナタとシンシが駆ける。

 ゴーレムの左足を低い姿勢からカナタは切り上げると続いて横一文字に切り裂く。右足に張り付くシンシは打撃を連続して行う【オーバーブロー】を唱える、バフの効果により普段より早く強く一撃が撃ち込まれた。

 ゴーレムが斧を大きく振りかぶる、すると先ほどと同じように切っ先が光った。振り下ろされた斧は誰もいないはずの地面を叩くはずがそこにドレッドが踏み込み盾を掲げた。

 衝撃波は、発生しなかった。ドレッドはにやりと笑う、あの時のダメージは”下”からきたのだ。もしかすれば地面に叩き付けなければあの全体攻撃が発動しない、彼の賭けは成功した。

 それでもダメージはけっして軽いものではなく七割近く削られさすがにキツイと感じていたがすぐに体力が回復される、もしやと思い見たドレッドの視線の先にいたメイはにこっと笑った。

 アタッカーの波状攻撃でゴーレムの体力は削られその減少分に乗じ体を構成している石が取れ始めた。あれほど屈強な体もいつの間にかやせ細り斧を持っていない左腕は崩れ落ちた。

「体力は残り三割!いけますね!」

 アリサの声に皆頷く、あと少しでこの悪夢は終わる。あの事件からそんなに時間は経っていないはずなのにもう夜が明けるようなそんな感じを共感していた。

 二割の体力を切った頃途端ゴーレムの体が一気に崩れ落ちた、そしてその中から現れたのはコウヘイ。その目は赤く輝き表情は怒っている。手に持つ斧は先ほどより小さくなりコウヘイに馴染む大きさになっていた。

「ここからが本番みたいだなリーダー」

「でも八対一です、負けません」

 コウヘイが斧を両手で構え腰を下げる、ドレッドとシータがそれに合わすかのように盾を前に構えコウヘイを睨む。途端カナタ達の足元に大きな魔法陣が展開された。

「なんだこれ…」

「きゃっ!」

 カナタ達の体は一気に地面へと引っ張られる、息が苦しくなりほとんどの者が四つん這いや片膝をつく格好になりメイとイースは倒れ込んだ。

「体が…重い…」

「アイツ重力を…!」

 なんとか踏みとどまっているものの体勢を立て直すことはかなり厳しい状態である、そんな彼らにコウヘイ構えを解きは歩み寄って行った。

 コウヘイが魔法陣に入っても彼の歩くペースや姿勢に何の変化もない、一歩一歩彼はカナタに近づいていく。

「逃げろカナタ!」

「カナちゃん!」

 しかしカナタも皆と同じ重力抗っている状態、立ち上がることもましてや歩くことなどできない。

 目の前に迫る恐怖、三日月の斧は月灯りに輝きコウヘイは怒っている表情から嬉しそうに笑っている。

 二人のタンクの傍を通りすぎたコウヘイはカナタの前で立ち止まった。カナタは力を振り絞りコウヘイを見上げた。コウヘイは手に持つ斧の切っ先をカナタの太腿に押し当てる。コウヘイの口角が上がった瞬間に切っ先は深々と突き刺さった。

 体を震わせてカナタは叫ぶ、切っ先は楔帷子を突き破り太腿の奥深くまで達した。

 ニヤニヤと笑いながらコウヘイは斧の柄を捻じる、その都度カナタは叫ぶ。涙を流し口から涎が垂れていく、その表情をコウヘイは嬉しそうに見ていた。

「痛いだろ?僕の心と同じだ。お前のせいだ、お前さえいなければ失わずに済んだ。あの時旅の同行を許さなかったら、そうすれば…いや違うな、お前とミチタカが仲良くなければそれでよかった。だけどミチタカは僕に弓を引いた。お前のせいだよ、全部お前のせいだ」

 笑顔から再び怒った顔に戻ったコウヘイは斧を手放しカナタの顔を思いきり殴った、一度目は右、二度目は左、交互にカナタの顔を思い切り殴る。お前のせいだと何度も叫びながら彼は殴り続けた。

「や、めて…やめ、て…」

 その声を聞いたコウヘイは殴るのをやめ声の主の方を見た、その視線の先にいたのはアリサ。カナタはコウヘイの暴力から解放されそのまま倒れ込んだ。

「お前に何がわかる」

 そう言うとコウヘイはアリサに近づく、重力にまけ倒れ込んでいるアリサの前まで来るとアリサの顔を覗き込んだ。

「俺が二年間で築き上げたものがたった一日で潰されたんだよ。俺がしていることは悪いことか?悪いのはお前達だ。よくも仲間に嘘を吹き込んだな!」

「そんな、ことはしてない…悪いのはあなた…」

「あの男が素直に話を聞いていればこんなことにはならなかった!俺は悪くない!悪くない!これまでずっとうまくやってきたんだ!俺は悪くない!」

「そんなコウヘイ、だから、みんな、愛想をつか、したんだよ」

「ミチタカァ!」

 コウヘイはミチタカに殴りかかった、先ほどのカナタとは違い左手でミチタカの襟元を掴み右の拳で力一杯殴った。何度も殴るがミチタカは笑っている。

「お前が悪いんだ!お前がアイツを連れてこなかったら!そうすればこんなことにはならなかった!」

 怒るコウヘイの話を聞きながらミチタカは笑った、ただただ笑って、そして泣いた。

「初めて、会った時の、お前、はこんなんじゃ、なかったよ。もっと楽しそうで皆、の先頭に立って。いい奴だった」

「俺は間違っていない。今でも皆のことずっと考えてるんだ!俺は!俺は!」


「もういいよ」


 この声、コウヘイは驚き振り向くとそこにはカナタが立っていた。顔はあれだけ殴られていたもののほぼ綺麗になっていて左脚の太腿は衣服が赤く染まっているが出血は止まっていた、しかしそこに刺さっていたはずの斧は引き抜かれカナタが手に握っていた。

「何故お前は死なないんだよ、あれだけやったのになんで生き返るんだよ!」

「ウチには優秀な聖職者がいるんだ」

 コウヘイはメイの方を見る、顔はこちらを見ていないが手に杖が握られていた。

「しかしなんで立ち上がれる!この魔法陣の中は俺しか満足に動けないはずだ!」

「僕にはある方法があるのさ、他のプレイヤーと違って隠されたスキルが」

 そう言ったカナタはその斧を目の前で構えて見せた、するとその斧は蛇のようにうねりだす。

 するとその斧の柄の一部が矧がれた、そこから入ったヒビがどんどん他の部分を剥がしていく。まるで何かが中から膨張しているような感覚で動き最後の刃の部分が極端に大きくなると弾けた。

「嘘、でしょ」

「お前捨てたはず、じゃないか」

 イースとドレッドは驚き声を出す。無理もなかった、カナタが手に握っていたの中から現れたのは”龍の腕”だったからだ。

 全体は鈍い藍色でありながらその隙間を赤い血流のようなものが流れる。先端の部分はすでに”開いて”おり爪が剥き出しであった。

「なんだ、それ!?なんでお前は、何したんだよ!俺の、斧に!」

「喰ったよ、僕の龍が。それより終わりにしよう。もう話すこともないだろ」

 カナタは面倒くさそうに答えた、そしてこの戦いを終わらせるつもりでコウヘイに促す。

「…そうだな、終わりにしよう…俺の勝ちで!」

 一瞬にして間を詰めるコウヘイ、明らかに冒険者”以外”の力でカナタに迫る。

「【グリントブレード】!」

 コウヘイの手の平が光ったと同時に光の剣が姿を現す、そしてそのままカナタの胸元に突っ込む。それを見たカナタもすでに迎撃態勢、鎚の頭部付近を片手で握りもう片方の手は柄の先端を握る。柄の先端を少し前に出す形で構え突っ込んでくるコウヘイ目がけて思い切り引く。

 

 コウヘイの剣はカナタに届かない、届く前にその体は地面にめり込んでいた。途端に地面にヒビが円状に走る。龍の腕の一撃はコウヘイの体を地面に叩き付けそのありあまる力が四方八方へ走る。

「…殺せないな、やっぱり」

 カナタの前で倒れているコウヘイの体力はゼロにはなっていなかった。

 カナタは独り言のように喋る、自分は本気で殺すつもりだったのか。自問自答をするが答えは出なかった。

 魔法陣は解け周りのパーティメンバーが立ち上がり始める、相当な重力の中にいた為すぐ立ち上がることはできないものの次第に一人二人と立ち上がった。

「大丈夫か、カナタ?」

「えぇ、大丈夫ですよ」

 ドレッドはカナタを心配するが当の本人はいつも変わらない調子で答える。その顔に少し不安を持ちながらも長い戦いの終わりに安堵した。

「その武器、なんで持ってるんですか!?あの森に置いてきたはずなのに…」

「引き寄せたんだよ、”媒介”が丁度あったからね」

「媒介・・?」

「うん、コウヘイが持ってた斧だよ」

「どういうことよ、ちゃんと説明してほしいんだけど」

「ちゃんと説明しますけど、先にコウヘイを連れて行きましょう」


 


 町の外にあるテントの集合住宅地にカナタ達は来ていた。コウヘイとPTを組む五人組に事情を話しコウヘイから目を離さないようにお願いした。実際はイースとメイにより徹底的に説教されることになっていたが夜遅くなっていたことやコウヘイ本人に言い聞かせようにも今晩は起きない可能性もあり翌日にすることになった。ただしもしもの場合を考えカナタ達のいる場所は告げずその場を後にした。

 宿屋にカナタ達はいた、そこにはりんごが新しく率いる元青い鳥の冒険者達もおりカナタ達を匿ってくれると申し出てくれた。その変わり今晩あったことは包み欠かさず全て教えるという交換条件付きだが。

 一番大きな部屋にカナタ達とりんご、そして青い鳥の元幹部が集まった。広いとは言え人数的にきつ

いがその状況を楽しんでいる人物も少なくはなかった。

「それでは…」

 そう言って今晩あったことがりんご達に話された、コウヘイが襲ってきたこと、それい対抗したら変な斧が降ってきたこと、ゴーレムが現れたこと、カナタがいわくつきの武器を召喚したこと、その場にいた八人がりんご達に説明した。

 一通りの説明が終わったあとイースがカナタに龍の腕について聞いた、ずっと気なっていたらしく他のメンバーもカナタを急かす。

「どこから話したほうがいいのかなぁ…」

「もったいぶってんじゃないわよ、早く喋りなさい」

「え、えとですね、実は龍の腕の気配は前からあったんですよ」

「へ…?」

「そんなこと聞いてねーぞ」

「あ、はい。心配させたくなかったので話してませんでしたから」

「酷いですよ!そういうことは言ってくれないと!」

「すいません、本当にごめん!」

 カナタの一言めからメンバーからの不満が噴き出す、カナタは話題を逸らすために次の話に進んだ。

「そ、それですね最初にコウヘイから刺された時に夢の中に龍の腕が現れたんですよ?」

「なんで疑問形なのよ」

「いえ、僕も実感がなくて」

「それで何を話したんですか?」

「離した訳じゃなくまた出会う気がしてたんです」

「それがアイツの持ってた斧ってこと?」

「そういうことになりますね、あの斧を持った瞬間、じゃなくてあの斧が刺さった瞬間に龍の腕と触れ合った気がしました」

「それであの斧から召喚?したの?」

「召喚というか乗っ取りですね、あの斧は龍の腕と同じようなものでそれを持つ人間によって形を変えたりするようです」

「というかあの斧は何なのよ、急に降ってきたでしょ?」

「確信はないのですがあれはコウヘイの願いが具現化したものだと考えられます」

「それはカナタさんを、憎むって気持ちですか?」

「多分、それが恐ろしく凝縮された結果あの斧がコウヘイの元に落ちてきたんだと思います」

「じゃあなんでゴーレムなんかになったんだ?別にあんな化け物になる理由はなかっただろ」

「冒険者同士では殺せないから、だと思います。一時でもモンスターになればプレイヤーを”殺せます”から」

「…あんたちゃんと理解してるじゃん」

「憶測です!ただ龍の腕から少なからず情報を得ている感じがしますが」

 皆の質問に答えるカナタにアリサは一番聞きたかった質問をした。

「カナタさんはもう、あの時みたいに怖くというかおかしくはなりませんか?」

「あの時?」

「以前あの武器を持ったカナタさんは私達がわからなくなってしまったんです、それで私達を襲った訳ではないのですが話が全然通じなくなって…」

「へー、ってかそれかなりやばいんじゃないの?」

 その質問にカナタは多分と付け足しながら答えた。

「今回は大丈夫です、あの時は”絶対勝つ力”がほしいと願ったのですが今回は”少しだけ”って願いましたから」

「力の制御ができるってこと?」

「今のとこはそうですね、たぶん自分で制御できない位まで望むとおかしくなるんじゃないでしょうか」

「そんなもんなのか?」

「た、たぶん…」

「自信持ってカナちゃん」

 ははは、とカナタは苦笑いをした。

「はぁー、まぁ今日はこの位にしときましょ。もう眠いし」

「そうだな、今日は本当に疲れた」

「明日はどうするんです?」

「コウヘイを懲らしめに行くに決まってるじゃない」

「そうですよ!むしろ本当に許していいんですかカナタさん!?」

 メイの睨みにカナタは怖気づきながらも思っていることを伝える。

「今はお互い戦ってる場合じゃないからね、それにもうこちらに迷惑をかけないって言ってくれたらそれでいいよ」

「でも二回も刺されて燃やされて何度も殴られたんですよ!?」

「ま、まぁそうだけど」

「私に任せておきなさい!」

 そう意気込んだのはりんごだった、何故か立ち上がり腕組みをしている。

「アイツのことくらいなんとかしてやるわよ。まぁもう別のパーティだから強制はできないかもしれないけれどなんだかんだで付き合いは長いからね!」

「本当に大丈夫?」

「えぇ、任せて頂戴」

 ふふん、と自慢げにりんごは笑った。

「それじゃあ今日は解散しましょう、さすがにもう眠たいです」

「本当にお疲れ様、ゆっくり寝てください」

「えぇ、シータさんも」

「ソレデハカナタサン」

「シンシさんも担いで逃げてくれてありがとうございました」

 カナタは一人一人にお礼を言いこの部屋に残る、本来男子禁制になっていたはずがカナタのみ宿泊の了承が得られた。皆が去った後カナタは着替えベッドに入りすぐ深い眠りについた。その眠りの深さは誰かがこの部屋に入っても気付かないほど深く深く眠った。




 深夜、カナタの部屋の扉が開く。音もなく開いた扉は音もなく絞められた。

 その人物は音がならないよう細心の注意を払いカナタの眠っているベッドの傍まで歩く、そして彼がよく眠っていることを確認すると自分の手を彼の顔に向け動かした。ゆっくりゆっくりと手をカナタの髪まで伸ばすとそっと撫でた。二度、三度撫でそれから時間が立つのを忘れ彼の顔をずっと見ていた。




 王都マグニス、この世界で一番大きな街。唯一城もあるが歴史上すでにその役目を終えている。

 そのマグニスの門の前に三十名近い冒険者が立っていた。皆疲れ切った顔をしているが無事到着した喜びを噛み締めている。

 そんな彼らの元に一人の兵士が走り寄ってきた、彼の手元には幾つかの書類が持たれている。

「”元”青い鳥の方々に新しくこの都に入られる五人の冒険者の方々ようこそおいで下さいました、王都マグニスへ!」

 そう彼が言い門番が門を開けた、その隙間から見えた都はどんどん広がり冒険者の顔は喜びに満ちる。

「”マモル”さんに出会えますかね?」

「多分、いや絶対。この街にいる」

「もしいなかったらどうすんのよ」

「いなかったとしても王都にこれたんだから十分だろ」

「あんたは本当に楽観的ね」

「喧嘩はだめですよ!」

「フウフゲンカハイヌモクワナイ」

「何か言った?」

「イエナンデモアリマセン」

「まぁまぁ、それじゃあ行きましょう」

「最初は買い物だからね!」


 彼らがこの街に到着したことで大きく世界は変わる、彼らの目的とは裏腹に。


 


 

 

これで二章お仕舞です。

お話はまだ終わりませんが一度区切ります、ちょっと話が前後に大きくブレてしまいました。

三章は近いうちに…

次回も勢いだけで頑張る

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