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大きな醜い鳥Ⅴ

 石が敷き詰められた道は冷たかった。カナタはうまく回らない頭で考える、その冷たい道に横たわる今の自分の状態を。

 うまく頭が回らないのは酒を沢山飲んだからだろうか、それとも先ほどの”衝撃”か。途端に背中から腹部にかけで激痛が走る、痛みは鋭くそして焼いた鉄を突きつけられるような。それを知っている訳ではないが例えるならそのような痛み。

 耐え難い痛みに声を出そうするがそれと同時に急に咳き込んだ。

 何度か大きく咳き込むと口から沢山の血と唾液の合わさったものが道を汚した。血が器官の中で絡み息がし辛く無理やり息をしようとするとそれが再度咳を誘発する。

 なんとか息をしようともがく中誰かの声が聞こえた。何人もの人間が叫んでいる、怒っている男性や女性の声が。ただ何を喋っているかまではわからない、わからないというより今は激痛と呼吸困難の状態と今自分の立場がどうなっているのか。

(一体、何が…)

 苦しみの中カナタの目には涙が浮かびそれが頬を伝って流れ落ちた、その目は次第に虚ろになり意識も同じように鮮明さを欠けていく中で最後に見たのは驚きの表情で駆け寄ったアリサの姿だった。




 カナタ達が夕食を終え店を出てすぐのこと___

 

 メイを除く七人は酔っていた、それはただの飲み会というか新たな仲間が加入したことを祝う祝杯でもあったが青い鳥が分裂したことを考えるとただ楽しいだけの酒ではなかった。

 ミチタカやシータ、シンシの三人は複雑な気持ちでありながら自分達を迎えてくれたカナタ達に安心したところもあり青い鳥の昔話や愚痴等酒のアテになるものは沢山あった。

 誰かが言い出した訳でもないが長い夕食も終わり店を出ることになり先頭を歩いたのがカナタ、店員に料金を支払いドアのところまで少しフラつきながら歩き外に出る。

 彼を出迎えたのは冷たい風、熱くなった顔にそれは心地よく二歩、三歩と歩く。冷たい夜風は火照ったカナタの体から熱を奪い去り少しだけ頭が冴えるきっかけを作る。

 丁度道の中心くらいまで歩いた彼は視界の端で、音で何かが近寄ってくるのを感じたカナタはゆっくり顔をその方に向けた。

 暗闇の中何かがこちらへ来る。

(何、かな…?)

 その正体は剣を両手で持ちカナタに切っ先を向け全力で駆けてくるコウヘイだった。


 彼の真剣な顔を見たカナタは咄嗟にBPからロングソードを取り出そうとするが酔った勢いで反応は鈍くそれはコウヘイにとって好機であった。

 コウヘイは思い切り体ごとカナタにぶつかり鎧同士がその衝撃で大きな音を立てる、同時にコウヘイの手に握られていた剣はカナタの背中から腹にかけ一気に貫く。

「ぐっ…!」

 痛みがカナタの体を駆け抜け声にならない声が漏れた。

 なんとか踏ん張ったカナタであったが腹部を貫いた剣が引き抜かれると体を支えていた芯がなくなったようにふらつき足が崩れそうになった。

「死ねよお前は!【フレアバースト】!」

 右手で剣を引き抜いたコウヘイは率直な気持ちと同時にカナタに向け赤い魔力を帯びた左手を押し付け叫んだ。その左手がカナタの背中に触れると同時に爆発が起きその反動でカナタは吹き飛ばされる。

 その爆発によって起きた炎はカナタのカラダをほぼ全て巻き込む形で彼の体に纏わり吹き飛ばされた体が何度か道の上を跳ねて転がり止まるまで消えなかった。

 カナタが吹き飛ばされた勢いを失い止まったと同時にコウヘイは再度カナタに向け駆ける。カナタのステータス画面上ではまだ体力は半分ほどあり”息の根”を止めるには至っていない。

 これほど早く恨みを晴らせるとは、コウヘイは自分の運の良さを嬉しく思った。しかしその運は長くは続かない。彼の左肩に一本の光る矢が突き刺さった。


「!?」

 コウヘイは驚き足を止める、それと同時に脇腹にも光る矢が刺さった。ビクッと体が一瞬震えその矢が飛んできた方を見るとまっさきに目に入ったのは自分に向け駆けてくるシンシだった。

 コウヘイは驚きながらも左手に魔力を集中させ小さな魔法陣を作り出す、それは手の甲を中心に直径三十センチほどの丸い形で魔法剣士のみが扱えるスキル【マジックシールド】。シンシが接近戦のモンクである以上その拳は脅威であり共に過ごしたコウヘイは咄嗟の判断で迎撃の構えを見せる。

 シンシが敵対することなどわかっていた、自分ではなくカナタ達を選んだ元仲間。戦いたくはなかったが想定の範囲内である。

 しかし自分に向け駆けてくるシンシに幾つものバフ(強化スキル、魔法)が付く。素早さ、攻撃力、魔法防御………一つ二つではなくそれらはシンシの力を増大させた。

 コウヘイはシンシ越しに彼の後ろを見ると三人の女性がシンシへバフを唱えていることが分かる、その傍らに弓を持った友人だった人物も見えた。

 モンクに防御方法はない。しかしあれだけのバフが付いている以上勝つとすれば一気に体力を削りきるしか方法がない。コウヘイは剣にマジックブーストを自身にもバフを唱え接触の瞬間に備える。

 三、二、一、………シンシが間合いに入ったと同時にコウヘイの足元に魔法陣が展開される。それは魔法陣の中に入った敵に対して移動速度低下を付与するものだがシンシの動きに変化は見られない。

(バフの量では勝てないか!)

「シャドウステップ!」 

 コウヘイは右手に持つ剣をシンシに向け突き出すが彼はすぐさま俊敏性を高めるスキルを使いその剣の軌道から左に大きく逸れる、交差する二人だがシンシの動きはコウヘイを凌駕していた。

 コウヘイのすぐ真横に付けたシンシの体にバフが更に追加される。

「【虎血】【デモンズファング】」

 左足を軸に体を捩じりコウヘイの脇腹に拳を叩き付ける、その一撃は発せられた衝撃波と粉々に砕けた鎧、宙に浮き先ほどのカナタよりも大きく高く吹き飛ばされたコウヘイの体から考えるに十分すぎる威力を見て取れた。

 一度大きく地面に叩き付けられたコウヘイから鎧だったものが弾け飛びその後も体は勢いがなくなるまで何度も地面の上を跳ねながら三軒隣の店の前でやっと止まった。

 大きく息を吐いたシンシは体勢を戻しカナタの元へ駆ける仲間の後を追った。

ぐっ…!

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