大きな醜い鳥
カナタ達(実際にはほとんどがギルド青い鳥のメンバーだが)が港町アプシルを発って一週間、やと一つ目の町に到着した。
町というより村に近いものの冒険者が立ち寄り羽を休めるには十分なほど施設は充実している。
(こういうところはゲームだよね)
カナタはそう思いながらパーティの最後尾を歩きながら小さな門を潜り抜け町へと入った。
青い鳥ギルマスのコウヘイが宿屋から戻ってきて町の広場で休憩していたメンバーに話があると伝えた、その顔は少し困惑している。
「先ほど宿屋で人数分の空き部屋を確認したのだが、なんとか泊まれても20名までらしい…」
その言葉を聞いたギルドメンバー達は思い思いの言葉を口にし始める。
「やっぱり女性優先よね!」
誰だろうか、その(そんな)言葉を発したのは。ギルメン達の視線の先にいたのは青い鳥副ギルマス『りんご』だった。
「何言ってんのりんごちゃん?」
「この世界に男女平等はないよ?」
「そもそもりんごちゃんは女性なの?」
最後の質問をした男性には彼女の持つ大きな鎌【骸喰鎌スカルラブ】が襲い掛かかったが数名の有志、と言うより仲間思いの男性タンクが彼を救った。それでも彼女から発せれられる殺気は彼女の装備自体が死神にそっくりであることも含め男性陣の反論を止めることに十分であった。
それからの話し合いで女性陣が全員宿屋に泊り男性陣は町外でテントを利用することになった。空き部屋はまだあったものの『男性陣の中で不平等はやめよう』という暗黙のルール的なものが彼らの気持ちを纏めた。
「それじゃあ皆さん、また明日」
そう言いながらアリサは申し訳なさそうに宿屋へ歩いて行く、傍を歩くメイも同じ表情でカナタ達から離れていく。
「あの二人に関しては宿屋を是非使ってくれと言いたいが」
「それ以上言うと感づかれますよ」
ドレッドの言葉を防いだのはミチタカで彼が心配する人物はいち早く宿屋に入っていた。何故かその人物には言葉にしなくてもこちらの意図していることが読まれてしまう。そう、心の中を見透かされているいるように。
「とりあえず今日の晩御飯を買ってから町の外に出ますか」
「はぁ、しょうがねぇなぁ」
「メイサンノゴハン…」
「僕だって食べたいですよ」
カナタの言葉にドレッドは賛成の意を表したがシンシとミチタカは随分とメイの手料理が気に入っていたらしくかなり落ち込んだ。彼ら四人は揃って傾く夕日に照らされながら町の中を歩く、しかしある人物に見られている事など知る由もなかった。
久しぶりの風呂に満足したイースはベッドに寝転んでいた。夕食も終え後は眠るだけな上今晩はふかふかのベッドで眠ることができる、そんなこともあって今の彼女は幸せを堪能している。
「イースさん、見えてますよ」
「別にいいじゃない、ここには男連中なんていないんだし」
「そうですけど…」
「それに今の内にこの幸せを味わっておかないとまだまだ先は長い。だってまだ三分の一くらいでしょ?はぁ、長いわねー」
「でもカナタさん達ちょっと可哀想ですよね、皆頑張ってここまで来たのに私たちだけ泊まらせて貰えたなんて」
「いいのいいの。どうせ男共には地面だってベッドだって変わらないわよ」
アリサとイースの会話が続いている中勢いよくドアが開き驚きを隠せない二人の部屋に青い鳥の女性メンバー達が入ってきた。
「お邪魔するわね!」
その筆頭にいたのは副ギルマスのりんご、その後から四名のメンバーが部屋に入ってくる。その中には最近めっきり仲良くなったシータの顔もあった。
「え、えと何か御用でしょうか?」
アリサの当然の問いにりんごはにやりと笑みを浮かべた。
「私たちはお互いのことをあまり知らないでしょ?だから今晩は女子会を開きたいと思ってお邪魔させてもらったって訳。本当はメイさんも誘ったけれどもう寝ちゃってたから彼女はまた明日話すとして…」
彼女は一呼吸置いてから”本題”を話した。
「あなととカナタ君ってどんな関係なの?」
アリサはぽかんと口を開けた、そしてこの後のことを予想して部屋から逃げようとしたがよく知る様青い鳥のメンバーに捕まった。
「シータさんあなたまで!?」
「ごめんねアリサさん、でも私も気になってて」
「減るもんじゃないしいいじゃない、なんなら私が喋ってあげようか?」
「駄目!絶対駄目ですよ!」
「まぁまぁ、夜は長いしお酒もあるし」
笑顔のシータに拘束されたアリサは酒の入ったグラスで乾杯するイースとりんごに恐怖した、味方のいない彼女の夜はまだまだ終わりそうにない。
日も暮れた町の外にある男性メンバー達のテント群、女性がいない為料理自体を適当に買ってきた物で済ます者が大半だった。そのテント群の中心には大きなキャンプファイヤーが燃え上がりその周りを囲むようにテントが張られ男達は食事と酒とこの場にいない女性陣のことで盛り上がる。
そんな彼らから少し離れた所にカナタとコウヘイの姿があった、いくつかの大きな石の上にコウヘイとカナタ各々は腰を下ろし店先で購入した食事を食べている。
「それでどのような話でしょうか?」
カナタはコウヘイの顔が真剣だったこともあり食事より先に話を聞きたがった、しかしコウヘイからは食事を先に済ませたいと言われ結局味を楽しむことをほどほどにさっさと食事を平らげ質問した。
「…俺のギルメンについてなんだけどさ」
彼はまだ食事の途中だったがカナタの質問に一応の答えを返した。
「悪いけどあまり仲良くしてほしくない」
カナタは突然彼から言われたの言葉の意味がよくわからなかった。何故そのようなことを言うのか、彼は困惑した。
そんなカナタにコウヘイは話を続けた。
「俺達は最初の町からほとんどのメンバーは一緒なんだ、途中で入った奴は五人だけ。俺はさ今のメンバーとだけでいいんだよ、もっと加入してほしい訳じゃないし誰かに抜けてもらってもすごく困る。だからさ君のとこのメンバーと一緒に旅をすることは構わないけれどあまり親しくしないでもらえるかな?」
そう言ってカナタの方を見る、その目は真剣でけっして冗談ではないらしい。
「別に仲よくしたからといって青い鳥のメンバーを引き抜こうとかしている訳じゃないですよ?」
「君はそう思っていても他のメンバーはどうかな?もし気の合うウチのメンバーがいたら誘うかもしれないしね」
「だからと言って青い鳥のギルメンと喋るなとでも言えと言うのですか?」
「そこを考えてほしい、君だってもし仲間が急に抜けたら困るでしょ?俺だってミチタカやシータ、シンシに君達と仲良くしているメンバーには絶対何が何でも抜けてほしくないんだよ」
「それはそうですけど」
「これはお互いの為なんだよ、だからお願い、この通り」
コウヘイはカナタに大きく頭を下げた。
「…それにまだ王都まで長いよ?俺達がいないとたぶん君たちだけじゃ辿り着けないとおもうけど」
頭を上げた彼は笑顔だった、けっして反論できない力の壁。
彼の言いたいことはわかる、しかしあまりにも卑怯だ。カナタは彼を仲間としては見れない。むしろ仲間として見て欲しくないコウヘイにとってはその感情すら味方になっている。
「明日からは頼むね」
そう言い残しコウヘイは歩き去っていく、一人残されたカナタ突然突きつけられた問題に夜遅くまで皆のいるテントに戻れなかった。
ンンフウウって表情で書いてます




