海と山に囲まれた町で
とあるオンラインゲームのサービス開始と共にゲーム世界に巻き込まれたプレイヤー、冒険者達。
現実世界に戻るため沢山の冒険者達がその仮想の世界で戦い続ける。
その中に友人達との再会と現実世界への回帰を求めて旅を続けるカナタ達一行の姿があった。
彼らがこの世界に巻き込まれて約二か月後。
港町アプシルはオリウスの四倍の面積がある巨大都市である。
南側は海に面し北側は草原と森に挟まれており全体的に段々畑のように北から南へと低くなっている。
大きな埠頭が三か所等間隔に海にせり出し各埠頭にはマストの着いた大小の船が沢山停泊していた。
都市中心部にはアプシル自治の為の役所が、その周りを囲むように冒険者達のギルド会館と商店、宿泊施設が点在する。そこから都市を覆うように建てられた城壁までを一般市民の家屋が所狭しと埋めていた。
このアプシルに昨日到着したカナタ達は中心部にほど近いとあるギルド会館の一室を借りていた。
ただしカナタ達はギルドに入った訳でもなくギルドを創設した訳でもない、タツヤが気を利かせて自分のギルドマスターに話を通して空き部屋を借りてくれたのだ。
その部屋は大きくカナタを含むメンバー五人でも十分な広さがあり部屋は四つに区切られている、それぞれを男性メンバー、女性メンバー、食事兼打ち合わせ用、荷物置き用の部屋として利用している。
内装はナフトにある冒険者の館とほぼ同じで懐かしさを感じくつろぐことができる為メンバーは気に入っているようだ。
日も落ち辺りが暗くなってくる中この部屋の食事兼打ち合わせ用の部屋で五人は夕食を取り始めていた。
「兎って初めて食べたけど案外おいしいものね」
「(モグモグ)」
「いや、正確には『うさぎみたいな生き物』です。脚は六本でしたから」
「…それをメイちゃんは捌いたの?」
「はい!我ながら結構うまくできた気がします!」
イースは率直な感情をこめておいしいと言ったのだがメイの話を聞くと少し複雑な気分になる、脚が六本の兎をこの天使のような笑顔のメイが捌いたのかと思うと反応しづらくなった。彼女の傍で『おいしい』に同意して頷いていたドレッドも目の前にあるうさぎっぽい生き物の香草焼きを作ってくれた彼女の意外な裏面に天使じゃない何かの存在を感じた。アリサはメイに調理したことを聞いたこと自体を後悔していた。
「カナタさん、そのスープは海で取れたモグラみたいな生き物で作ったんです。漁師さんがこの国の名物だと作り方を教えてくれました。」
「コンソメスープみたいな味ですごくおいしいよ、このヒレみたいなところもモグラなの?」
「そこはたぶん腕の部分ですね、硬くてなかなか切れませんでしたがダシが一番とれるそうなので」
カナタは各料理についてメイに質問しその解答にすごく関心しながら夕食を進めた、メイはこの町で手に入る様々な食材と町の人から教えて貰ったメニューの多さに興奮しているようで食事そっちのけで喋っている、イースとドレッドとアリサは料理の味には文句がないもののその素材と調理したメイの普段とのギャップに今一つ箸が進まない。
「それにしてもいつの間にこんなに沢山の食材を購入したの?」
「今日自由行動の時に買ったのです!」
メイはふふんと得意げに答えた。
今日。
この町に到着した翌日カナタ達は日常品の補給や装備の新調、そしてこの世界の情報を求めて歩き回っていた。
資金面に関してはこの町に来れなかった時期に貯めていた為必要なものはほぼ躊躇なく買った。装備はレベルアップに伴い武器、防具ともワンランクもツーランクも上のものに買い替え装備が今までの物より頑丈で華やかなものに変わった。
カナタはヒナギクから貰った片手斧からロングソードに買い替えた、防具は深い青を基調にした鎧で各所は楔で繋がれ面積の多いところを『スリード鋼』と呼ばれる独特な鉱石から作られた鉄板のようなものが覆っており以前の鎧よりも軽くて頑丈だった。盾も同じスリード鋼から作られたもので揃えた。
アリサはジョブ【魔法剣士】の為それ用の装備に買い替えた、色は以前の赤を基調としたものとほぼ変わらず。鎧というよりは全体ではなく胴は胴、腕は腕と個々の防御力を上げる作りになっており楔による防具間の繋はない。マントは付属しておりカナタは再度羨ましがった。武器に関してはナイフ系統から同じスキルが使用でき攻撃力の高いダガー系統に買い替え、刃が黒い鉱石で作られたもので攻撃対象の魔法防御力が低下する追加効果を持つ。
カナタ、アリサの防具に比べドレッドの装備は甲冑になりパーティの盾役として十分な防御力を発揮できるような形になった。盾は大盾で装備することでスキル【リバイブレント】(HPが徐々に自動回復
する)が発動する、武器はミドルソード自体を強化し攻撃力を上げた。
イースとメイは魔術系ジョブな為鎧などは装備することができずローブが基本となる。それでも以前のような一色で華やかさもないものとは違い上下に別れているものや色とデザイン性を重視したもの、少し露出が多いもの、逆に中の人物が誰かわからないほど密閉されたものなどがオリウスではあり得ないほど豊富な種類が売られている。
「私はこれにします!」と嬉しそうに白を基調としたかわいらしいローブを手に取ったメイを横目にイースはカナタの友人でタツヤと同じパーティに居たティアのことを思いだしていた。
(あんなに露出していてもちゃんと機能しているのかしら?)
少し考えたがティアがレベル60だったこともあり「そういうレア防具もきっとあるのね」と一人納得した。別にあのような露出のある装備がしたい訳ではないし機能よりデザインを求めては意味がない、ただちょっとくらい大人な女性の一面を求めたっていいのではないかと考えてしまう。メイが店員と話をしている間に『それなり』に気に入ったローブを見つけ自分なりにコーディネートした。後でパーティーメンバーに何か言われても買ってしまえばどうしようもないし、別にそこまで露出がある訳じゃないし、そもそも今のローブよりステータス上昇補正は高いし…ぶつぶつと独り言を喋るイースを探しに来たメイは困惑した。
装備が整った後この町の探索を行いながら日用品の買い物、この町と近隣の情報等を得る為にカナタ達は商店とギルド会館が立ち並ぶ地域を歩く、先ほど購入した防具のこと(特にイースの)で話は盛り上がっている。ただし個人で行きたいところが別々の為装備を購入した店以来どこにも立ち寄らずふらふらと俳諧しているだけの状態だった。
「提案なのですがこれからは自由行動にしませんか?」
「そのほうがいいかもね」
「ですね」
アリサの提案に女性二人が同意した以上男性メンバーに拒否権は存在しない、カナタも別に反対する理由もなくどちらかというとこの町にいるタツヤに詳しく聞きたいことがあるのだ。
「それじゃあ今から自由行動で、ただし日が暮れるまでにはあの部屋に戻ってくるように」
全員が賛成しそれぞれ興味のあるほうへ散って行った。
第二章はじまりです。
第一章↓
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