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勅使河原さんとの出会い(1)

春。

高校生になった私、

宮守まよ

が一番したかったこと。


それはアルバイト。


ずっと思っていた。

「してもいいよ」

と、

親が許してくれる

高校生になったら

もうお小遣いはもらわずに、


自分で働いたお金で、

好きなものを買いたいって。


だって。

おじいちゃんのお店を

手伝ったことがあったから。


おじいちゃんは

おばあちゃんと2人で

小さな洋食屋さんをしていて、


おばあちゃんが

亡くなってからは、

1人でキッチンも接客も

全部していた。


その前もその後も、

時々私が遊びに行って、

お客様にお水を運んだり

するのを

手伝うとおじいちゃんは、


「バイト料だよ。」

ちゃんとお金をくれた。


「自分の頑張りが

ご飯や服を買うお金になる。

それはとても尊くて

大事で良いことなんだよ。」

と。

だから。


今年4月。

高校生になった私は、

バイトを始めた。


選んだのは

ファミレスのホールスタッフ。


おじいちゃんや

おばあちゃんがしていたように、

お客様の注文を聞いたり、

料理を運んだり、

食事の後片付けをしたりする。


本当はおじいちゃんの

お店で働きたかった。

でも。


おじいちゃんは昨年の冬。

私が高校生になるのを見ないで

亡くなって、

お店は閉じてしまっていた。

……

家から高校まで私は電車通学。


途中に乗り継ぎ駅が1つ。

バイト先はその駅前にあった。


ファミレスといっても

チェーン展開は

関東地方の一部限定で、

地元でしか

知られていないお店だ。

でも。


北欧をイメージした

インテリアの店内や、


ウェイトレスの、

モノトーンを基調とした

ワンピースタイプの制服と、


ギンガムチェックの

エプロンは可愛いと思う。

……

バイトするのは学校帰りの

週3回。

時間は夕方5時から8時まで。

そして。


「いらっしゃいませ。」

「ありがとうございます。」

「ご注文はお決まりですか。」


接客の仕方は

お店でのおじいちゃんを

見ていたから、

結構最初から自然に出来ていた

と思う。


「向いているね。」

優しくて良いお父さんタイプ

といった感じの店長や、


同じホールスタッフの

高橋(たかはし)さんにも

言ってもらえた。


高橋さんは20才の大学生。

男性だけど、

少し小柄で華奢な感じで、

はっきり言うと可愛い。


一見高校生と

間違えそうなほど、

年齢より若く見える。


明るい親切な人で、

私の指導係。


ここでのバイトについて、

色々教えてくれている。


将来自分のお店が持ちたいから、

勉強してると言っていた。


そんなふうに私のバイトの時、

ホールはいつも

店長と高橋さんと私ともう1人、

4人のスタッフで回していた。


そう。

勅使河原(てしがわら)さんも

同じ

ホールスタッフの先輩だった。

……

バイト初日。


勅使河原さんと初めて会って

あいさつをした時、


(名前の漢字が難しい人。

背が高い、推定身長185cm強。

年齢は高橋さんより上っぽい。

クールな感じ。

結構かっこいい男の人。)


と思った。

でも。

お客様以外とは

ほとんど話さないし、

すごい無表情。


私より

シフト(勤務)時間が長くて

休憩時間があり、


その時にお店の裏で1人で

タバコを吸ってたりするので、

少し恐く見えた。


「あんまり無愛想だと、

イケメンが

もったいないんだよね。」

と、

高橋さんも

ため息をついていた。


だから。

1ヶ月過ぎた今でも、

仕事で最低限必要な事以外、

勅使河原さんと

全然話すことがなかった。

……

そんなある日のバイト中。


私はグループのお客様が帰った

後の片付けをしていた。


テーブルの上には

4人分のグラスやジョッキ、

お皿がたくさんあったけれど、

私はそれらを

トレーに目一杯重ねてのせた。


その時。

席が空くのを待っている

お客様がいたので、

早く片付けたかったから。

……

トレーを持ち上げた。


「う。」


すごく重い。

でも。

なんとかバランスを取って、

そろそろと歩き出す。


「大丈夫?」


高橋さんが

心配そうに声をかけてくれるのに

うなずいて応える。


と。


「おもちゃ見ようぜ。」


と、

2人の小学生くらいの男の子が

すごい勢いで

目の前を横切った。


そのうちの1人の腕が

私のウエストにぶつかった。


「あ。」


バランスが崩れた。

ぐらっとした。

落とす。


と。

急にトレーが軽くなった。


見ると目の前に勅使河原さんが、

いた。

私のトレーを支えている。


「あ、あの。すみま」


「…少しずつでいいから。」


そう言って勅使河原さんは、

そのままあせる私のトレーを

取り上げると、

キッチンまで運んでくれた。


その顔は、

やっぱり無表情だったけれど。

……

その後。


仕事が一段落した時、

私は裏口の扉を開けてみた。


やっぱり休憩中の勅使河原さんが

そこにいた。

片手に缶コーヒーを持ちながら

タバコを吸ってる。


「あ。あの。勅使河原さん。」


声をかけると勅使河原さんは

ちらっとこっちを見た。


緊張する。でも。

あの後。

すごく忙しくなって、

全然話せなかった。

だから。


「さっきはすみません。

ありがとうございました。

気を付けます。」


私はそう言って頭を下げた。


その時。

勅使河原さんはやっぱり

無表情だった。


でも。少しうなずいた。

……

「もうなんかその時、

やっぱりすごい

かっこ良いと思ったの。」


高校のお昼の時間。


学食で私が

その時のことを思い出して

興奮すると理佐(りさ)は、


「そのひと何才くらいなの?」


と聞いてきた。


理佐は同じ中学からの友達。

クラスは違うけれど、

色々相談にのってくれている。

黒髪ロングの、

大人っぽい美人だ。


私は首を横に振った。


「わからない。

まだ全然話せてないし。

でもたぶん大学生より上。


落ち着いてるし大人っぽいし、

休憩時間にお店の裏で、

タバコ吸ってるの見たし。」


理佐はサンドイッチを

つまみながらうなずいた。


「やっぱり

もっと話せればいいよね。

バイトの回数増やしたりとか、

帰りの時間を

合わせたりしてとか。」


「だね。」


私もうなずいた。

……

その後。


理佐と別れた私は

次が体育だったから、

急いで3階にある更衣室目指して

階段を昇っていた。


でも。

足取りは軽かった。


そう。

私はもっと勅使河原さんと

話してみたいと思っていた。

だから。


理佐の言う通り

シフトを増やして

なるべく同じ時間に

バイトが出来るようにしよう。


そう決めたらわくわくして。

と。

その時。


「あ。」


階段を、

急いで降りてきた男子生徒に

ぶつかりそうになった。


すみません。

脇によける。

よける時にその人を見上げた。


「あ。」


思わず声が出た。

だって。


そこに勅使河原さんが、

いたから。

……

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