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白い世界と黒い歪

《また――すの?》



一つ。


一つ、瞼を閉じたその間に、石火の如く景色は様変わりした。

そこは白い。ただひたすらに白い空間。認識できる先の先まで、すべて純白。


近頃は見なくなったが、この光景を目にするのは初めてではない。そして、ここが俺の知っている場所ならば……。


やはり、いた。


純白の世界の中心。相対的なコントラストを醸し出す、


クレヨンで塗りつぶしたような漆黒のひずみに、“彼女”はいた。



意識はあるものの、何かに動かされるかの如く、俺は受動的に“彼女”の元へと向かう。



“彼女”は、この白い空間と同調されそうなほどの真白なワンピースを纏い、身の丈までに伸びた白い髪をなびかせ、ただ微笑みを浮かべていた。


その姿は俺の前からいなくなったその日から、寸毫の違いもなく、背丈も、髪も、服も、笑顔でさえも、あの日からなにも変わっていない。


「……なんで、いまさら……」


自嘲的に呟くと、“彼女”は語らず、黙して指をさす。


その先には、勿論何も無い。空白の世界が広がるだけだ。しかし、俺はその意図を瞬時に理解した。


「俺には、何にもないって言いたいんだろ?」


苦笑いを交えながら、尋ねるが答えは返ってこない。

それも予想済みであり、了知したうえで言葉を連ねる。


「俺みたいに、何もないやつに、誰も救えないし、救われることもない……

。それをあんたは許さない。


俺が死なない理由も、あんたのしわざだよな。



メアを助けたのも、狛彦に助けられたのも、そしてハミルとシグを助けようとしているのも……全部、俺のエゴだ。わかってるよ、理解している。


誰かを救い、救われ、正義の味方ごっこにうぬぼれ、自分だけ幸せになる。そんなこと、あんたが許す筈ないもんな。なぁ、じゃあ……」



「なんで俺は生きているんだ?」



微笑みを絶やさない、“彼女”の膝元に崩れ落ちる。


「…………愚問だったな。


それが俺の罪だ。罰だ。あんたへの、終わりのない謝罪だ」


乾いた笑いを喉から捻り出しつつ、俺は“彼女”を優しく抱きしめる。



「異世界に来たのも、あんたが関係あるのか? まあいいや……。


いくらでも罪なら背負う、だからもう少し、力を貸してくれ。せめて、目の前の命を救えるだけでいい……なぁ、頼むよ」





【姉さん】



その呟きを最後に、純白の世界は崩壊し、意識も途絶える。




――――――



「!」

「ぐ…………ぁは」


一つのまばたき。その刹那から俺を呼び覚ましたのは、激烈な銃声音。


鋭いその音が鳴りやんだかと思えば、ハミルたちに襲いかかろうとしていたエルフもまた、動きを停止させ、ゆっくりと地に伏した。


視界に移るのは、目を見開き驚くハミルと、特別な装飾の施された拳銃を構え、

様子の一変したシグの姿であった。


無論、エルフを打倒したのはシグの拳銃である。



眼光は鋭く、おどおどとした雰囲気も消失しており、風格は一端の戦士を思わせる程だ。

あまりにも様変わりしたシグに、俺は言葉を失う。


「……急所は外しています」

「シグ……」

「出来れば、仲間を撃ちたくなかったですが、ハミル様に仇なすなら容赦はしません」


その声には強い意志を感じさせ、シグははっきりと言い切った。


俺はすぐさま二人に走り寄り、状況を確認した。


「シグ……お前、銃なんか持ってたのか」

「魔法適性の無いシグには、これくらいしかないので。それよりも、殿しんがりはシグに任せて、ハミル様を!」

「! でも、お前だけじゃ!」

「心配ないのです、船坂」


いくら銃を使えるからといって、この敵の人数、多勢に無勢だ。そんな俺の心配を遮るのはハミルの声。


「シグは魔装銃の達人なのです、それにエルフの中で銃を使えるのはシグだけなのです……負けたりしないのです」


ハミルの言葉にはシグへの揺るぎない信頼が感じられる。どうやら言うとおりにするのが賢明なようだ。


「わかった……すぐに戻ってくるから、待ってろよ!」


「! はい……待ってます」


一粒の不安も感じさせない笑顔を見届け、俺はハミルの手を握り、走りだす!



「に、逃がすな!」

「はい! っな!?」


「行かせません!」


ゾドムの号令に行き急ぐ追っ手達に対して、シグの魔装銃が唸る。


その銃弾は、エルフたちの脚、肩、腕と致命傷には成り得ないものの、動きを停止させる箇所を確実に、正確に撃ちぬく。次々と倒れるエルフたちから痛みによる苦悶が漏れる。


シグは華奢な脚に装着したホルダーから、もう一丁の魔装銃を引き抜くと、冷静に警告する。


「皆、早く手当しないと手遅れになりますよ」


普段の臆病なシグとは違い、怜悧な言葉を浴びせる姿に、徐々に恐怖を覚えるエルフたちは、足がすくんで動くことが出来ない。


その間にも、俺たちは距離を離していく。ゾドムは痺れをきらしたように声を荒げた。


「もうよい! こうなれば……霊森楼の結界を解く!」

「なっ、長老それは!」




「黙れ! 解ッッ!!」


「! そんな!」


ゾドムは怒声を張り上げると、詠唱を始める。シグが銃撃で妨害を試みるが、頻差で詠唱が完了してしまい、銃弾はむなしく地に空ぶった。


「ゾドム……なんてことを」

「? どうした? !?」


ハミルの嘆く声に、周囲を見渡すと、不可視の結界が音を立てて消え去る。それはガラスのようにひしゃげるとバラバラに崩れ、空気と同化する。

こうしてエルフの境界線は唐突に失われた。


だが、これは願ったり叶ったりだ。こうして結界が消えた今、メアたちが救援に来てくれるのは時間の問題だろう。



「でも、なんであの爺は結界を……」

「船坂! 僕を置いて早く逃げるのです!」


変わらず走る俺に、ハミルが焦燥した様子で手を振り払う。


「! 何言ってんだよ!」

「僕は婚姻のためにここまで連れてこられたのです! 恐らく近くには!!」


「なぁあぁんだあはははは……こんな所だったんですねぇ、エルフの境界線って」


突如聞こえる男の声、咄嗟に俺は横へ振り向く。


そこには、豪著な黒色調の装束に身を纏う、長身の男を先頭に、



目視できるだけでも数十の【熊の着ぐるみが】整列して闊歩してきていた。



いや、別に俺の目が狂ったわけではない。あのフォルムは見覚えがある、種類は違うが、俺は一度あの怪物と一戦交えている。


「……アノン」


接近してくる負の象徴に、ハミルがそう呟く。

俺は、現時点で最も出会いたくない相手と、華麗に出くわしたのであった。



魔装銃:魔装銃とは本物の拳銃のような銃弾を込めるのではなく、魔力を一定量注ぎ込まれた薬莢を込め、それを特別な仕組みで火力へと換算し、魔力弾を銃身にて生成し弾として撃ちだす、アルストレアでも稀有な武器である。


その製法から量産が難しく、出回っているのは希少なもので価格も超高級。主に生産しているのは魔法が使え、魔具にも精通しているエルフである。しかし当のエルフは強力な魔法、伝統的に覚える弓術と技術は揃っており、わざわざ魔装銃を使用するメリットも理由もないため、これを使うのは基本的に他種族である。


もっとも、魔装銃を使いこなすにはいくつもの試練があり、取り扱いも難しい為、大抵の使用者はすぐに投げ出してしまう。その分、熟練すれば後衛、中衛、前衛、けん制、補助、遊撃と戦闘スタイルは幅広く、パーティーの要となる存在である。


なお、シグが使用している魔装銃は、エルフでありながら魔法が使えず、力が弱く弓術も苦手なシグを慮り、ハミルが自らの手で作り上げた特別性で、重量も装填数もシグ仕様となっている。

これはシグが幼少の頃に与えており、現在まで相当な修練を積んだことで、今のシグの実力があると言える。


ちなみに、魔装銃そのものの性能については別記する。

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