第四章 【089】
【089】
「な、何で、俺が、二人いるん……だ?」
隼人は、その少女が『自分の妹であること』や『その妹がシーナに似ていること』以上に、もう一人の自分がベットで寝ているという現実に何よりも驚いていた。
しかも、その『シーナに似た妹』は、俺の身体を『すり抜け』た。
隼人は、急いで自分の両手を確認する。
「!?……す、透けてる。さっきまではそんなんじゃなかったのに……」
確認した両手は、ぼんやりとした輪郭で頼りなく、後ろの本棚が透けて見えた。
「い、一体、何が、どうなって………………!?」
隼人が、自分のその透き通った身体を認識した瞬間、光景が一変した。
「!? えっ……?!」
隼人はさっきまでいた部屋から、突然、外で『傷だらけ』で立っていた……。いや、正確には、
『もう一人の二ノ宮隼人』が傷だらけで立っているのを、空の上から眺めていた。
あたりを見ると、さっきまであった『いつもの日常』が消え、炎を上げ崩れたビルが立ち並び、ボロボロになってあちこちに散乱している車など、瓦礫の山と化した荒廃した景色が目の前に広がっていた。
「な、なんだよ、これ……い、一体、何があったんだよ」
空から見ている隼人は、あたりの荒んだ光景に呆然としていた。
「……ボソボソ」
「!?」
すると、下で『ボロボロに傷ついている隼人』が呟いていた。
「と、止められなかった……どうして……? 俺は……間違っていたのか……?」
『ボロボロに傷ついている隼人』は、そう一人、誰に言うでもなく呟いていた。
すると、『二人の隼人』の目の先の上空で、何かキラッと光るものが見えた。
「ち、ちくしょう~~~~!!!!!!」
『ボロボロに傷ついている隼人』が大声で悲痛を叫んだ。
「……えっ?」
一瞬、キラッと光ったのを確認した…………次の瞬間。
カッ!!
…………。
…………。
何もかもが『闇』になった。
※
「……あ。や……あ……」
「ん……んん?」
「おーい……お……い……」
「ん~、な、なに~?」
隼人は、何かに呼ばれているのに気づく。
「おーい、ニノミヤハヤト。そんなとこで寝てると風邪引くを通り越して……また、死ぬぞ?」
「……!?」
隼人は、その声を聞いてハッと飛び起きた。
「う、うさぎ人間……!」
「ショックだな~、ショックだよ? ニノミヤハヤト」
隼人は、周りを見渡した。そこは、以前にも一度行ったことのある、あの……『氷と夜の世界』だった。
そして、隼人に声を掛けたのは、もちろん、
「アリス! ボクの名前は、ア・リ・ス!」
「出たな、うさぎ人間アリス……!」
「うん、その『ショッカーの怪人』みたいな呼び方やめようか。『うさぎ人間』はやめたげて。いや、マジで……」
アリスは、俺に『うさぎ人間』と呼ぶのをやめて欲しい理由を100個ほど並べた。
……協議の結果(というより、根負けした俺は)、『うさぎ人間とはもう呼びません』という契約書を書かされた。
「うん、これでいいよ。では…………話を始めようか、ニノミヤハヤト」
「すげえ、かっこつけてしゃべっているようだけど、さっき、『うさぎ人間と呼ぶのをやめて欲しい理由』を長々としゃべっていた時点で、もう、かっこ悪いぞ」
「……さて、ニノミヤハヤト」
あ、無視した。
「冗談はこのくらいで。とりあえず、お久しぶりです。よくぞ、ここまで来ましたね」
「えっ?」
「あなたは、何とか、このタイミングで…………『エックハルト・シュナイデン』をみつけ、『記憶の一部』を取り戻すことに成功しました」
「ど、どういうことだ……?」
「……前にわたしが言ったのを覚えてますか?」
「たしか……」
そう言えば、以前、この『うさぎ人間』……あ、いや……、
「聞こえてますよ、ニノミヤハヤト」
「だ、だから言い直そうとしただろ!」
そう。こいつは、ここでは、俺の心の中が読める。
そんなアリスが、前に会ったとき、俺に言っていたことは……、
「前の神様が消滅して……別の神様に、変わっている」
「そうです」
「……あと、それを、シーナに伝えろって」
「はい」
「でも、この『氷と夜の世界』から一度目覚めると記憶から……」
「そうです。一度、消えてしまうので、なるべく、早く気づいてシーナに伝えてね、と言いました。思い出しましたか?」
「あ、ああ……」
そうだ、思い出した!
神様が消滅して変わっていることをシーナに伝えるよう、言われていた。
なのに、今の今まで忘れていたなんて……!
「ああ、大丈夫です、ニノミヤハヤト。忘れていたことに関してはそれでいいんです。大事なのは、『わたしが転生させたエックハルト・シュナイデンに出会い、記憶の一部を取り戻すこと』でしたから」
「えっ? 今なんて……?」
「つまり、ニノミヤハヤトがここでのわたしの伝言を思い出す条件は、『エックハルト・シュナイデンから記憶の一部を取り戻すこと』だったからです」
「条件? あ、いや、その前に……お前が、エックハルト・シュナイデンを転生させたってこと?」
「えっ? あ、はい」
何とも間の抜けた返事を返すアリス。
「あ、はい……じゃなくて。えっ? じゃあ、もしかして、エックハルト・シュナイデンだけじゃなく、英雄五傑を転生させたっていうのも……」
「ええ、わたしです。すごいでしょ? えっへん!」
むかつく。こういうところが非常にむかつく。
「聞こえてますよ」
「だから、言ってんだよ」
く、悔しいが、確かに、こいつすごい。
一体、何者なんだ?
「アリスです」
「うるせーよ!」
「あ、あと……エックハルト・シュナイデンから記憶の一部を取り戻した時はどうでしたか?」
「? 何が?」
「だから~……エックハルト・シュナイデンからキスしてもらったでしょ? 幼女からキスされてどうでしたか?」
「お前のしわざか~!」
俺は、右に左にいきおいよく拳を振り回した。
しかし、当然、心の中を読まれているアリスには通用せず、全弾かわされた。
「エックハルト・シュナイデンや、他の英雄五傑も全員幼女です。キスする相手が男だったら嫌でしょ? それに、ニノミヤハヤトが幼女好きだというのは、前に会った時に確認済みでしたので。あなたがキスしやすいように、最大限のサポートをさせていただきました」
「や、やめろー! そ、そんな、でたらめを言うな~!」
「でたらめ? やだな~、ここは、『氷と夜の世界』ですよ?」
「わ~わ~わ~……!?」
――閑話休題。
「さて。ニノミヤハヤト、君が、ここで記憶を一部取り戻したおかげで、ここの記憶はすべて残ることができました。なので、戻ったらシーナ君にこのことを伝えてください」
「わ、わかったよ……それにしても、やっぱり、アナザーワールドのことは夢じゃなかったのか」
「夢? ふふ、夢ね……。そうです、夢ではありません。現実です。そして、ここにいる今のあなたも、まぎれもなく現実です」
「……アリス、お前、一体、何者なんだ?」
「わたしは、以前の神です」
「……やっぱり」
「おっ? 気づいていたのですか?」
「……何となくな。でも、何で神様なら、今、変わっているあんたの偽者をやっつけないんだ? あんた、神様だろ?」
「はい、神様です。でも、今はできない『理由』があるのです」
「理由?」
「ま、それは、おいおい話します。今はまだ『その時』ではないので。まあ、楽しみにしててください」
「…………」
「とにかく、今、ニノミヤハヤトがやることはアナザーワールドに戻ることです。そして、シーナ君に、このことを伝えてください。それと……」
「それと?」
「……今、セントリア王国ではクーデターが起きています」
「クーデター!?」
「はい。仕掛けたのは……セントエレナ修道会『ガーギル・アーチボルト大司教』」
「セ、セントエレナ修道会!?」
た、たしか、前にリサが……。
「はい。この男は、セントエレナ修道会『最大派閥の大司教』で、闇属性の力を持っています。以前、リサ・クイーン・セントリア女王陛下から話は聞いていると思いますが、彼が、その闇属性の力を持つ男で、今回のクーデターの件の黒幕です」
「そ、そうなの?!」
「はい。今回、君たち学校の組合実習を利用してクーデターを仕掛けたのです。そして、その闇属性の力は、相手を意のままに操る力です。使い手の力が強ければ強いほど魔法は強力です。気をつけてください」
「わ、わかった!」
「とりあえず、伝えることは以上です。ニノミヤハヤト、頼んだよ」
「わかってるよ。それにしてもアリスって……『うさぎ人間』って神様だったんだな」
「おい。神様ってわかったんなら、少しは敬え。それと『うさぎ人間』言うな」
「冗談だよ。それじゃあ、俺はどうすればいいんだ?」
「こうします」
「えっ?」
ゴンッ!
ふいに、アリスが、隼人に右ストレートをお見舞いした。
「カハッ……?!」
「『うさぎ人間』言い過ぎです。少しは反省しなさい。また、会……いま……し……ょう」
ドサッ!
隼人は、アリスの右ストレートの衝撃で地面に倒れた。
「何すんだ、この野郎~!!!!!」
「きゃっ……!?」
「…………えっ?」
気がつくと、隼人は、アナザーワールドに戻っていた。
「ご、ごめんなさい、ハヤト。い、痛かったですの?」
「フ……フレンダ?!」
どうやら俺は、フレンダ・ミラージュの太股を枕に眠っていたようだった。
て言うか、太股!?
『ひさ枕』……だと?!
こうして俺は、無事、アナザーワールドへ『帰還?』しました。
「更新あとがき」
おはようございます。
いつもより、早めの更新、
mitsuzoです。
更新しました~。
『うさぎ人間アリス』登場。
実は、以前の神様でした~。
個人的に、この「アリス」のキャラが大好きです。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




