第四章 【085】
【085】
「ま、まさか、獣人族二万の兵を本当に……たった……一人で」
目の前の現実に、ただただ呆気に取られて、ボソッと呟く組合副隊長エドガー・バスティアーノがそこにいた。
実際、隼人の蹴散らした数は、本当は二万もいっていなかった。隼人たちのこの場所にいた獣人族の数は三分の一の七千人ほどで、残りの一万四千の大群は、もう少し北のほうにいる学校の上級生たちのグループのほうで襲撃をしていたのだ。
とは言え、七千人でも凄い数なのは言うまでもないが。
「はい……本当に……信じられません。こ、こんなことが、一人の人間に成せる所業なのか、と……」
その横で、マルコ・デルフォードが呟く。
「信じられないかもしれませんが……これが……現実です。これがお兄ちゃん……ハヤト・ニノミヤの力です」
さらに、その横でシーナが呟いた。
「…………それにしても」
と、エドガー・バスティアーノが呟くと、三人一緒に、隼人のほうに『呆れた』ような視線を向けた。
「ハヤト……お主はやっぱり凄い男じゃな……わらわは、初めからお主の強さはちゃんと見抜いておったぞ。だから、お前には組合総隊長ジュリア・フランヴィルではなく、一人の女としてのジュリア・フランヴィルとして接して欲しくて、だから、『呼び捨て』にしたんだぞ。光栄じゃろ? だったら、わらわと結婚しようぞ」
と、ジュリア・フランヴィル。
「ちょ、ちょっと、何、いきなりハヤト・ニノミヤの『右腕』をガッチリ固めて至近距離からプロポーズしてるんだ!? お前、もう少し、段階を踏んでだな、ちゃんと……」
と、サラ・スカーレット。
「い、いや、段階って、サラ先生、おかしいでしょ! そんな、ハヤトの『背中』を『自慢の胸』でホールド決めときながら……よくも、そんなセリフが言えますね」
と、ベル・コリンズ。
「いやいや、ベルちゃん、あなたのほうこそおかしいわよ? あんた、ハヤトに興味なかったんじゃないの? て言うか目の敵にしてたんじゃなかったっけ? なのに、どうして、そんなベルちゃんがハヤトの『胸のど真ん中』に顔を埋めてんのかな? わたしは、ハヤトの『左腕』、フレンダに至っては『左足』よ?」
と、アイリ・カールトン。
「アイリの言うとおりです! ベル、あなた、そのポジション変わりなさい! これは、名門貴族ミラージュ家からの命令ですよ!」
と、フレンダ・ミラージュ。
――隼人は現在、背後からサラ・スカーレットに抱かれ、右腕をジュリアにギュッと掴まれ、左腕はアイリがガッチリキープ、そして、まさかの、あの『ベル・コリンズ』までもが、隼人の胸に顔を埋めていた。そして、フレンダは左足を掴んでいた。名門貴族であるフレンダよりも、分家貴族のベル・コリンズが、隼人の『胸の中』というベストポジションをキープするという『下克上』がそこにあった…………何のこっちゃ!
そう……『誘惑誘引』が発動したのである。
「ちょ、ちょっと、皆さん……あの、動けない……です」
隼人は必至で皆から逃れようとした。しかし、
「いやいや、ハヤト、お主、けっこう疲労が溜まっているのはわらわはちゃんと理解しておるぞ。例えば……こことか」
右腕を掴んでいるジュリアは、そう言うと、隼人の上腕あたりをモミモミと『全身』を動かしながらマッサージ? を始める。
「たっ?! とっ?! ジュ、ジュリア! そ、それは、ダメ……」
「なぜじゃ? ちゃんとコリがほぐれておるじゃろ?」
「そ、それはそうですけど、でも、ちょ、ちょっと、その全身動かしながらのマッサージは『いろいろ』と当たるので……その……」
「フン! 何を申す…………当ててんのじゃ!」
「ええええ~~~!」
や、やばい! ジュリア、か、かわいい、じゃねーか。
「あ、ジュリア反則です! それなら、私だって……ぎゅうううう」
背後からサラ・スカーレット先生が、『胸圧プレス』を敢行。しかも、自分で『ぎゅうううう』なんて…………くぅ~、サラ先生も、やっぱ良いな~、普段の厳しい態度のギャップもあって、そこがさらに……ごく。
「わ、わたしだって!」
「わたくしだって!」
「わたしも!」
と、ベル、アイリ、フレンダの三人も、まるでジュリアとサラに対抗するかのように、いろいろと、身体を動かしてマッサージ? を繰り出した。
や、やばい! これは、やばい! 今回の誘惑誘引の力、やばいぞ! み、みんなが、あまりにも大胆過ぎる!!
ちなみに、隼人がこの五人の誘惑に負けると、隼人の能力、『神通具現化』は消失する。『誘惑誘引』とは、『神通具現化』の能力を消そうと作用する現象なのである。
五人が、いっせいに隼人のほぼ全身を、グリグリと自分の身体を動かしてマッサージ? をしていた。
まさに、ハーレムここにあり! といった光景が広がっている。
「……わ、わたしは、これまで何年も隊長を見てきましたが、こんな、乙女のような、かわいらしいしぐさや顔をするなんて知りませんでした。今日、一番の衝撃です」
エドガーは、隼人の『獣人族二万の兵を蹴散らした現実』よりも、『組合隊長ジュリア・フランヴィルの乙女らしさの現実』のほうに衝撃を受けたらしく、複雑な表情でその光景を見ていた。
(ほんっと、すんません!)
シーナは、いろんな意味を込めて、エドガーに対して心で謝罪をした。
「シ、シーナ様……」
「ん? 何? マルコくん?」
「ハ、ハヤト様ってすごいですね。その、力もそうなんですけど、ああいうモテモテぶりとか……」
「え? あ、ああ……あれは、その、違うのよ。別に、ハヤトが……あ、いや、お兄ちゃんがモテてるわけじゃないから……」
「えっ? お兄ちゃんがモテてるわけじゃない?」
「あっ!…………は、はは。ま、まあ、そうね、お兄ちゃん、ちょっと最近モテるようになったから調子に乗ってるんじゃないかな? ちょっと、ぶん殴ってくるね」
「あ、シーナ様……」
と、シーナはそう言うと、そそくさと、マルコから離れ、隼人のところに向かった。
(あっぶなーい。危うく、誘惑誘引の話しようとしちゃった。何だろう? マルコって、すごく良い人だってわかってるのに、でも、何と言うか……ちょっと、違和感を感じるんだよね。何なんだろ?)
シーナは、入学式以降、隼人の同じ部屋のルームメイトで、『シーナ様@ファンクラブ』の会長をやっているマルコとは何度も話しをしたりして仲良くなっていた……。だが、シーナは入学式以降、マルコに対して、『違和感』をずっと感じており、隼人と大事な話をするときは、マルコがいないことをちゃんと確認するなど、ちょっとした警戒をしていた。
「ま、そんなこと、よ・り・も!」
と、シーナは低空ジャンプをし、隼人に……具体的にはベル・コリンズ目掛けて、飛びついていった。
「「「「「きゃっ!」」」」」
五人は、そのシーナの衝撃により、隼人から離れた。
「シーナ~~……!」
隼人は、今にも泣きそうな声(ちょっと泣いてる)で、シーナに縋り寄って来る。
「ええい、うっとうしい! とりあえず、お兄ちゃん。空に上がって」
「ぐすん、わかった……」
そう言うと、まだ、『金色の戦士』のままの隼人はシーナを腕でしっかりと掴み、上空へ浮き上がった。
「ちょ、ちょっと! 変なトコ、さ、触らないでよ!」
シーナが顔を紅潮させて、隼人に文句を言う。
「しょ、しょうがないだろ! 俺だって、まだ、空に浮かぶのってまだ慣れてないんだから。しかも、今は、シーナを担いでんだ。誰よりも気を張ってしまうのは当然だろ?!」
「!? は、隼人……」
「シーナは、俺のこの世界でたった一人のパートナーなんだぞ。お前だってわかってんだろ?!」
「!?」
シーナは隼人のその言葉に、一気に顔を紅潮させた。
「? シーナ?」
「わ、わかったわよ! は、隼人がそう言うのなら、こ、このままで…………いいわよ」
「?」
シーナは少し、紅潮させた顔を、隼人に見られないようすぐに隠しながら……一人、微笑んでいた。
「シーナさん、ハヤトさん、降りてきなさい!」
「そうだ。わらわの、組合総隊長の命令だ! 早く、降りてこい」
「そうだ、そうだー!」
「シーナー、ハヤトー、あなたたちは包囲されてますよー。無駄な抵抗はせずに降りてきなさーい」
「名門貴族ミラージュ家の命令です。シーナさん、ハヤトさん、すぐに降りてくださいませ」
下で、皆が(て言うか五人が)、シーナと隼人に降りてこいのラブコールを送っていた。
すると、シーナが大声で下に向かって叫んだ。
「皆さん、落ち着いてください! 目の前の獣人族は退散しましたが、まだ、学校の上級生の方々がいらっしゃる北のほうはどうなっているかわからない状況です。なので、今は、一刻も早く上級生たちのグループのほうに向かうのが先決ではないでしょうか……ジュリア・フランヴィル様!」
「!?」
ジュリアは、名指してシーナに指名され、一瞬、驚いたが、すぐに我に返る。
「……ハヤトの妹か。そうじゃな、お主の言うとおり、今は、こんな『大事なことよりも、もっと大事なこと』があったな」
「は、はい!」
シーナは返事をしながら、『ジュリア・フランヴィル、マジだな~』と、ある意味で感心していた。
「皆の者! 今は一旦、ハヤトの『恋人相手争奪戦』は後じゃ! すぐに、急ぎ、北へ向かうぞ!」
さすが、というべきか、ジュリアはすぐに気を引き締め直すと、他の女性陣に指令を出した。
「あの、ジュリア様! わたしとお兄ちゃんは、先に、空から北へ向かいますね!」
「うむ、わかった、そうしてくれ! できるだけ、急いでくれ!」
「「はい!」」
そう言うと、俺は、北へ向けて飛び出そうとしていた…………その時。
「ん? なんだ、あれ?」
「な、何?」
隼人は、向かおうとしていた北の方角から、モノ凄いスピードで近づいてくる『何か』に気づいた。
「んーーーーーーーーーー…………あっ! あれは……!」
「え? 何々?」
シーナは隼人に抱えられていることもあって、その近づいてくる『何か』に気づかずにいた。
そして、その『何か』はあっという間に隼人たちの目の前に止まった。
「ん? なんだ、誰かと思えば…………シーナ・ニノミヤじゃないか」
「「ヴィ……ヴィクトリア・クライフィールド!!!!!!!!!」」
「更新あとがき」
おはようございます。
何とか、今日も、日曜日に更新できました、
mitsuzoです。
記事更新しました~。
「無双モード」の後は、「ハーレムモード」へとガラッと変わった今回の話でした。
記事は、一応、毎週土曜か、日曜日にアップしようと思ってますのでよろしくお願いします。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




