第四章 【077】
【077】
進むこと二時間――俺たちは今回の『組合実習』の目的地に着いた。
「ようし。では、これより各グループに分かれて行動を開始する。ここはすでに『獣人族』のテリトリーの近く、『北地区防衛ライン』になる。そして、これから各グループごとに防衛ラインを超え、獣人族のテリトリーへと侵入する。くれぐれも油断はしないように! では、移動開始!」
副隊長エドガー・バスティアーノの指示により、俺たちはいよいよ『獣人族』の住むエリアへと侵入した。
俺は、フレンダの馬に近づき尋ねた。
「な、なあ、フレンダ……」
「ん? 何だ? ハヤト」
「学校の授業の一環なのに、これって、その、めちゃくちゃ危なくないか?」
「まあ、そうですわね。たしかに、この『組合実習』……以前よりも危険度は上がっていると思いますわ」
「以前よりも……?」
すると、ここでフレンダが小声で話し始める。
「――たぶん、それだけ一人でも多くの『実戦兵を育てたい』といったところだからでしょう」
「そ、そんなに、今ってヤバイ状況なのか? 学校ではそう感じなかったけど……」
「ハヤト……あなた本当に何も知らないんですわね。あまりの無知ぶりにこっちは『とんだとばっちり』ですわ」
「なっ?! 何がだよ!」
「さっきのジュリア・フランヴィル様の件のことを言っているんですの! ハヤト、あなた、あの組合総隊長ジュリア・フランヴィル様がどれだけの『武人』か、知らないでしょう」
「ま、まあ、たしかに知らねーけど……」
「組合総隊長ジュリア・フランヴィル――かつての戦争、『第一次種族間戦争』のときに獣人族一万の兵を相手に一人でそれを押し返した『伝説の武人』の一人」
「!?……い、一万の兵を?」
「そうですわ。しかも、あの『獣人族の一万の兵』ですからね。それがどれだけのことかは、さすがのハヤトも歴史を習ったからご存知でしょう」
「じゅ、獣人族一万の兵を相手に……?!」
確か、獣人族は人間族よりも『身体能力の高い種族』。となると、そんな超人を、しかも、そんな『超人一万の兵』を相手に一人で押し返したって……そ、そんなの化物レベルの強さじゃねーか?!
あんな、パッと見、中学生か小学生にしか見えないような華奢な女の子が……信じられない。
ん? あれ? 第一次種族間戦争?
確か、あの戦争って、今から二十五年前のことだから……え? じゃ、じゃあ、総隊長って、いくつなん……。
「――ハヤト。死にたくなければ今の頭で考えている『計算』はやめることだ」
「「?!……ジュ、ジュリア(様)!」」
いつの間にか、ジュリアが俺の馬にまたがり、背後から声をかけていた。
俺は、あまりの背筋の冷たさに、これまで体験したことのないほどの恐怖を感じた。
「ハヤト。わらわの年齢は『12歳』じゃ。年を取ることの無い『永遠の12歳』じゃ。それ以上でもそれ以下でもない……はい」
と、言うと、俺に今の言葉を反芻しろ、というようなしぐさを示す。
もちろん、俺には『否定する』という選択肢は無かった。
「ジュ、ジュリアの年齢は『12歳』。『永遠の12歳』。それ以上でもそれ以下でもない」
「さすが、ハヤト。ものわかりが良いな。危うく……だったぞ」
と、満面の笑顔で後ろからギュッと抱きしめられた。
な、なんだろう、美少女から後ろから抱きつかれるという普通なら超嬉しいイベントのはずなのに……全然、嬉しくない。
しかも、な、何だよ、『危うく』って。その後に続くセリフ、想像するの怖いんですけど。
というか、さっきの背筋の冷たさがより一層強くなった感じがする……まるで、身体が『恐怖』を全力で訴えているかのように。
こ、これが、フレンダやマルコが言っていた『総隊長ジュリア・フランヴィル』……お、おそるべし。
「し、失礼しました、ジュリア様」
あわてて、フレンダがジュリアに向かって全力で謝罪する。
「良い、良い、気にするな。『配慮』さえ守ってくれれば、わらわは動かないから。ホッホッホ」
『配慮』=『年齢の話』
『配慮』って、マジ大事。
「それにしても……おい、ハヤト」
「は、はい?」
「お前、わらわのこと、全然知らないようだな。さすがに、ちょっとムッと来たぞ」
「……えっ?」
ぎゅうううう。
「ぐ、ぐえぇえぇぇ!……ジュ、ジュリア~~?!」
後ろからハヤトの下腹部あたりに手を回して抱きついていたジュリアの腕が、ハヤトの首へスリーパーホールドへと移行していた。
俺は目一杯の力でそのジュリアの腕を引き剥がそうとしたが、ピクリとも動かせなかった。
ビクともしないどころの話じゃなく、一ミリも動かせなかった。
圧倒的なパワーだった。
「ジュ、ジュリア……ギブ、ギブ」
俺はジュリアの腕にタップする(このしぐさが通じるのかは不明だが)
「ふむ。まあ、今日はこのくらいにしておいてやろう」
そう言うと、ジュリアはハヤトから腕を放し、再度、そこが『ベースポジション』とでも言うかのように、ぎゅっとハヤトの下腹部に再度、手を回し、顔をハヤトの背中にくっつける。
ハヤトは、ただ、背筋が凍ったままだった。
「ふむ。では、ミラージュ家の娘よ……」
「は、はい!」
「こやつに、わらわの偉大なる功績の話をせよ」
「え、あ、は、はい!」
「配慮を忘れるでないぞ、配慮を」
「は、はっ!」
フレンダは、ジュリアの要望に全力で返事をした。
それにしても、『学校にいる時のフレンダ・ミラージュ』は、実習ではまったく見られないな。
まあ、無理も無いか。
「コ、コホン……。組合総隊長ジュリア・フランヴィル――第一次種族間戦争にて獣人族一万の兵を相手に一人でそれを押し返した『伝説の武人』の一人。その戦力は、国王軍の『側近魔法士』と匹敵するか、それ以上と言われている」
「側近魔法士よりも強い……だって?」
「ふふん。少しはわらわの強さがわかったか、ハヤト・ニノミヤ?」
「あ、は、はい」
い、いや、別に、後ろからのそのプレッシャーだけで、充分、理解できてますから。
「いいぞ、ミラージュ家の娘。続けろ」
「はっ。総隊長ジュリア・フランヴィルの持つ『大剣オーディン』は見た目以上の重量物でその重さは……1トンを超える」
「1トン……?!」
俺は思わず、ビックリして後ろを振り返り、ジュリアが担いでいる『大剣』に目を向けた。
「で、でも、それじゃあ、おかしいじゃないか?」
「何がじゃ?」
「い、いやだって……もし、その『大剣』が1トンを超える重さなら、この馬がそんな重量物支えられないだろう?」
「なるほど、確かにそうだな。しかしな、ハヤト……これはちょっと『特殊な代物』でな、これは、わらわが身につけているとき重量は『ゼロ』と化す」
「えっ?!……ゼ、ゼロ?」
「うむ。だから、こうやって馬に乗っても馬はつぶれんし、この剣を振り回すときも、わらわは、ほとんど力を入れることなく振り回せるのじゃ。しかも、この『大剣オーディン』の本来の重さは1トンを超える。だから、当然、その威力も『1トン級』ということになる。簡単に説明するなら、この『大剣オーディン』の一振りは、通常の剣の一振りの数百倍の威力がある」
「数百倍……?!」
「うむ。だから、この大剣を受け止めようとしても無駄だということだ。受け止めようとすれば、受け止めた剣が潰れるどころか、本人も一緒に潰れるだけだからな」
「な……」
なんちゅう『デタラメ』な剣なんだ。
さらに、フレンダが説明を続ける。
「この圧倒的な威力を誇る『大剣オーディン』を武器に、多数の敵を、まるで華麗なダンスを踊るかのようになぎ倒すその『美しさと威力』から、敵味方関係なく怖れられ、その強さと畏怖により付いた『二つ名』が……『粛清の姫君』」
「パ……粛清の姫君」
おっかねーよ。
「まあ、わらわ的には納得のいかない『二つ名』だがな。かわいくないからその名は嫌いじゃ」
と、ハヤトの後ろで、その自分の『二つ名』に不満の声を漏らす『粛清の姫君』だったが、正直、ジュリアのこの『存在感』を示すのにはベストなネーミングだと思った。
「まあ、良い。とにかく、それが、わらわのこの世界での皆から認識だ。わかったか、ハヤト?」
「あ、ああ。よくわかったよ」
おっかない美少女。
『配慮』を持って接する必要のある美少女。
インプットOK。
「ふむ。では、次に、わらわからもうひとつ、この世界の常識を教えてやろう……」
この後――俺はジュリアから、今、この世界で起きている『戦い』が、想像以上に『血生臭いもの』であり、また、それが『れっきとした現実』であることを叩きつけられることとなる。
「更新あとがき」
おはようございます。
今日は、朝からいきなりの大雨、でも、直後、快晴。という目まぐるしい天気と、
mitsuzoです。
ブログ更新しました。
久しぶりに、今回はいっぱい書くことができて良かったです。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




