第四章 【072】
【072】
夏期最大のイベント――「組合実習」が始まった。
俺たちは今、学校を出て、中央区内の一角にある『組合』の本拠地……『セントラル・ベース』にいた。
実習内容は、俺たち一年生は、『三人一組』で『班』を作り、大人の『一般魔法士』二人に同行して、実戦に必要な技術や知識を学んでいく。もちろん、戦闘もあるが『一年生でも対処できる力量の相手』を『一般魔法士』が選定するので基本的には命に関わるような危険は伴わないよう配慮されている。
『戦場に出れば、年齢も学生も関係なく自分で命を守れ!』
というような感じではないので、少しホッとした。
まあ、学生の間の『組合実習』はあくまで『実戦での必要な知識・技術を習得する』ということに主眼が置かれているので、『戦闘』は必要以上なものは求められない。
よかった……常識的な国で。
そんな、『常識的な国』に深く感動していると、
「ハ、ハヤト……あ、あなた、何て格好していらっしゃるの?」
後ろからフレンダに声を掛けられた。
「あ、おはよう、フレンダ。いや、動きやすい格好がいいか……な……て……」
見るとフレンダの格好は、戦闘用? のような装備で立っていた。
右手首には軽量の鉄のような『籠手』を、左手首は『盾っぽい』ものがついた『籠手』、あと両足の膝にはパッドのようなもの、そして胸部のほうには同じ素材で作られた『鎧』のようなものを身に着けている。色はすべて水色で煌いている。
周りを見渡すと、生徒は皆、フレンダと同じような鎧を装着していた。ただ、鎧の色については、フレンダは『水色』だが、他にも『赤』や『黄色』と様々だった。
「あなたバカですの? 死にたいんですの? どうして『聖武具』を身に着けてないんですの?!」
朝からいきなりフレンダに『ですの攻撃』を受けた。
「え? あ、何か、動きにくそうだな~と……思って……」
「バカじゃないですの、あなた?! いくら実力があるからって、それはいくらなんでも『過信しすぎ』です!」
「で、でも、『組合実習』は『戦闘』ではなく、あくまで『実戦知識と技術の習得』って言ってたから大丈夫かな~……て……」
「大丈夫じゃありません! ですの!」
と、フレンダは俺の目の前に『おこ顔』で迫ってきた。
「ちょ、ちょ……フレンダ、顔、近い、近……」
「そんなことはどうでもいいですの! ハヤト!……あなた、いくらなんでも知識無さ過ぎです!」
「す……すみません」
と、フレンダに超接近で説教を受けていると、
「あ、遅れました、ハヤト様! ハヤト様の『聖武具』お持ちしましたー!」
そう言って、マルコが駆け寄ってきた。
「あ、ありがとう、マルコー!」
いろんな意味で。
「マルコ、あなた、ハヤトに甘過ぎるわよ。こんなときはガツンと言わないと……」
「ハ、ハハ……すみません、フレンダさん」
「ハヤトももう少し、この学校のことを勉強しなさい! 特別招待生なんだから生徒の模範となるようでないと……」
この後、フレンダの説教が十分ほど続いた。
「……と言うわけで、もう少しちゃんとしなさい? いいですわね、ハヤト」
「は、はい……」
実習が始まる前からもうすでに疲れた……。
「おにいちゃ~ん!」
「ハヤト~!」
「お、おおおお……シ、シーナ、アイリ」
組合の建物のほうからシーナとアイリが声をかけてきた。
「あら、ごきげんよう。シーナさん、アイリさん」
「おはよう、フレンダ。お兄ちゃんはどう?」
「最悪です。あなたと違って常識が無さ過ぎですわ」
シーナは、春期で座学でクラス内ではトップの成績を取っていた。授業中は先生に隠れて寝てばかりなのだが試験では常にクラス内でトップだった。
なーんで、授業中寝てばかりの奴がこんなに成績がいいんだよ、意味わかんねーよ。
俺はと言うと、『歴史』だけはクラスで上位だったものの、他はてんでダメだった。
授業初日に『神通具現化』を使って、しばらくはキャーキャー言われたこともあったが、その後は特に使うような機会が無かったため、一ヶ月経つ頃には女子からは何も思われなくなっていた。
シーナの話では、『神通具現化』を使うことが無くなれば一週間くらいでその効力は切れるとのこと。しかも、『神通具現化』の効果が及ぶ範囲は『自分が認識できる範囲内』ということもあるので、一週間以内に『神通具現化』を使う機会がなければ自ずと効力は消えていく……らしい。
当然、それはフレンダも例外ではなく、あの春期の最初の授業のときと今では反応が全然違っており、今では『特別招待生の男子』という程度の認識でしかないかのような反応である。
ちくしょう…………………………『神通具現化』使っちゃおうかな?
すると、
ぎゅうううううーーーー。
「いへへへへ……!」
「……お兄ちゃん、ダメだからね、そんな理由で使っちゃ」
「……ひゃ、ひゃい」
シーナの久しぶりの『頬つね&直感』を受けた。
それにしても、なんでこいつは俺の心が読めるんだよ。なんか、そういう『スキル』持ちなのか?
「ハハハ……ハヤト。朝からこってり絞られてるみたいだな」
「は、ははは……」
アイリ、このやろう。
こっちの身にもなれってんだ!
「フレンダ、お兄ちゃんのことよろしくお願いします。もう厳しくお願いします!」
「まかせなさい、シーナ。この際、わたくしがみっちりとハヤトを教育してあげますわ!『セントラルの特別招待生というのはどうあるべきか!』ということを! みっちりと!」
「まあ、頼もしいわ、フレンダ」
「シ、シーナ……ちょ、おま」
春期の初め、シーナはフレンダのことが苦手だったのだが今ではすっかり仲良くなっていた。
しかも、シーナはフレンダと親しくなってからは、俺と喧嘩したときは何かとフレンダを利用して仕返しをしていた。
おかげで、フレンダに対する俺の『株』は春期の初日以降、めきめきと下がり、何度も最安値を更新していき、現在に至っていることも付け加えておこう。
「ハッ、ハッ、ハッ……フレンダ様ー!」
「あら? ベル……」
シーナとアイリに少し遅れてベル・コリンズが走りながら声をかけてきた。
フレンダの『分家貴族』であるベル・コリンズは、『組合実習』では、アイリの半ば強引な勧誘によりシーナとアイリの班にいる。
ベル・コリンズは、フレンダとハヤトに向かって全速力で駆けてきて、そして、
「おら、近いんじゃ~! エセ特別招待生のボケ~!」
というセリフと同時に、俺はベル・コリンズの『助走付とび膝蹴り』をお見舞いされた。
「おぶっ……!?」
見事に俺は軽く三メートル吹き飛ばされた。
「「おおー! パチパチパチ」」
シーナとアイリが感嘆の声と拍手を送ってくれた。
もういや、この二人。
「こら、ベル!……」
「フ、フレンダ?!」
ああ、フレンダ、なんて優しいやつ。
フレンダだけだよ、こんなに優しくしてくれる……。
「ヒザの角度が甘いですわよっ!」
「てへ、すみません」
「…………」
そんなこんなで、夏期の俺の立ち位置はベル・コリンズ以下となりました。
「学生諸君! 集合!」
集合場所である組合の建物前の広場に大きな声が響き渡った。
声のほうに顔を向けると、その『大声の主』であろう『筋骨隆々の図体のでかい大男』と、その横にはもう一人、アイリよりも小っこそうな『紅い髪の少女』が立っていた。
「お前ら、整列! 急げ、モタモタするなー!」
すると、大男の後ろからサラ先生が登場し、再度、号令をかけた。
俺たちはあわてて、『サラ先生』『紅い髪の少女』『大男』の順で並んでいる三人の目の前で整列をした。
いよいよ『組合実習』がスタートする。
「更新あとがき」
おはようございます。
更新が捗らない、いつもの、
mitsuzoです。
これからしばらく、またもや更新頻度が遅くなります、すみません。
『一週間に一回更新』を目標にやっているのですが、中々、難しい状況です。
なので、これからも遅れることが多々あると思いますが、温かい目で見守っていただけると超ありがたいです。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)
 




