第三章 【067】
【067】
「はい……わたくしが『天啓』で頂いたメッセージは、『教会が絡んでいる』ということでした」
「教会って……あの教会?」
「はい。ここ、アナザーワールドの人間族の住む中央大陸にある町や村には必ず『教会』があります。つまり……それだけの『組織』だということです」
「……あっ!」
確かにそうだ。
「とは言え、いくら大きな組織である『教会』と言えど、そんな『国を転覆させる』ほどの力はありません……ということに表向きにはなっています」
「!? えっ……!?」
『表向き』には……?
ということは……?
「実際、内輪的には……政府内では……『王族』と二分するほどの大組織です」
「!? そ、そんなに……?!」
「はい……実際、教会の信者はこの人間族の半分近い数を占めますので、もし『教会』が謀反を起こすとなると、今のわたくしたち『現体制』はかなり危機的状況に置かれます。しかし……」
「? しかし……?」
「しかし……それを食い止めているのが『側近魔法士』の存在です。『側近魔法士』は一人だけでもかなりの戦力です。大まかではありますが、『側近魔法士』一人に対して『一般魔法士』100人は必要、となるくらいの戦力差と見れば、ある程度は理解できるでしょうか」
「い、一般魔法士……ひゃ、100人……」
とんでもないバケモノじゃないか、『側近魔法士』。
「はい。なので、いくら信者が多い『教会』と言えど、そう簡単には政府に対して謀反を起こすということはこれまでありませんでした。ですが……今回、エックハルト・シュナイデンが『教会側についている』という情報を天啓で受けて、わたくしは、そのことをずっと脅威に感じてました」
「ち、ちなみに、エックハルト・シュナイデンって……戦力的にはどんな感じなの?」
「エックハルト・シュナイデン、一人に対して、『側近魔法士』……100人くらいです」
「……」
ぽかーん。
バケモノの上のバケモノって……。
もう理解が追いつきません。
「しかし、そんな『天啓』からもう一つのメッセージもありました。それが、あなたたち……『ハヤトとシーナ』ですっ!」
「えっ!?」
「前にもお話しましたが、わたくしの『天啓』と、母上・イヴの『予言』で、あなたたちの出現は予言されていました。特に、わたくしの『天啓』のときは『エックハルト・シュナイデンの情報』の二つでしたが……。あと、母上の『予言』にはこう記されていました……」
※※※※※※※※※※※※※※※※
西方より現る二つの光あり
それは この世の理から外れた光
それは 壊れる世界を救う光
それは 壊れる世界そのもの
内に秘めたるその力は
如何なるものも凌駕する
破壊と創造
断罪と救済
導き手にそれは
委ねられている
※※※※※※※※※※※※※※※※
「『光』……とは、ここ、アナザーワールドでは『神の使い』を意味します。そして、『この世の理から外れた光』とは、おそらく『この世』から『外れた(異なる)』……『光(神の使い)』という意味……つまり、お二人のこと!」
「……」
『予言』すげーな、おい!
ドンピシャ! 合ってるじゃねーか!
しかも『神の使い』って……初めに『理事長室』でリサやロマネ、カルロスと話したときでも、そこまでは言っていなかったのに。
「お二人からは何も聞いていませんが、わたくし個人としては、お二人は『ただの異世界人』ではなく『神の使い』と信じています。だから、二人が、わたくしたち……いいえ、わたくしにとっての『希望』なのです!」
「っ……!」
そう言うと、リサ・クイーン・セントリア女王陛下は俺の手を掴み、上目づかいで訴える。
「おそらく、エックハルト・シュナイデンに対して、わたくしたちが対抗できる唯一の手段は『ハヤトとシーナの力』……」
「リ、リサ……」
「無理なお願いは承知の上です! ですが、ですが……お願いです、ハヤト、この国を……セントリア王国に力を貸してっ!」
「……リサ」
「ハヤトとシーナにもやるべきことがあるのは知っています。ですが、今、今だけでいいんです……セントリア王国に力を……」
リサは涙ながらに隼人に抱きつき訴える。
「リサ……顔を上げて……」
「……ハヤト」
隼人はリサの顔を上げさせ、そして静かに応える。
「リサ……俺やシーナはいつだって君の味方だ。だから心配しないでいい……」
「……ハヤト」
「俺たちは……セントリア王国に力を貸すんじゃない、リサに力を貸すんだ、わかるかい?」
「う、うう……ハ、ハヤト」
リサの瞳からは、さらに涙が溢れ出てくる。
「だから何も心配しなくていい、俺とシーナは君を守るよ、リサ」
「……ハヤト、ありがとうっ!」
そう言うと、リサは隼人に顔を近づけ、隼人の唇に自分の唇を重ねた。
「!?……んんんっ!?」
いきなりの出来事に混乱する隼人。
隼人の唇から離れたリサが呟く。
「ごめんなさい、ハヤト。ハヤトの言葉につい、うれしくなっちゃって…………エヘッ」
「あ、い、いや……その……は、はは……」
「頼りにしています、ハヤト……」
「は、はは……」
リサは、ハヤトに抱きついたまま、ハヤトの胸で顔を頬ずりさせていた。
女の子って、なんだか……すごい。
「ほお……人が一生懸命、『おじさん』と『おじいさん』と対策会議をしている横で、あなたは女王陛下と乳繰り合っていたと、そういうわけだね……お兄ちゃん?」
「シ、シーナ……!?」
「あら、シーナ!」
気がつくと、いつの間にか、俺の後ろにはシーナが立っていた……全く気づきませんでした。
「い、いや、これはだな、リサがつい、感情的になってだな、俺にキスをしただけで……」
「キ、キキキキキ……キスぅぅぅう!?」
「!? あっ! しまっ……!?」
「ハヤトったら、そんなキスのこと、わざわざ言わなくも……もう……エッチ」
リサがハヤトの胸で頬ずりしながら呟く。
「ど、どどど……どういうことかな……おおおお……お兄ちゃん? おい、隼人? おい、こら?……」
シーナの『妹キャラ』が崩壊しつつあった。
「あ、い、いや、これには、いろいろと深い、深ーい、深遠なる、エターナルな事情が……」
すると、シーナが笑顔で一言。
「いっぺん……死んどけ」
こうして、隼人はシーナからタコ殴りに遭いましたとさ。
そんなタコ殴りで顔が腫れ上がった隼人の横でシーナが話す。
「リサ、わたしも気づいていたわ、あなたの様子。だから一人でここに来たのよ」
「え、そうなの? カルロスとロマネは?」
「二人はエックハルト・シュナイデン対策で意見がぶつかっていたからその間に抜け出してきたの」
「ああ、なるほどね……。あの二人……普段はそんなことないけど、会議ではよく意見がぶつかるからよくわかるわ。それが始まったのなら長くなるわね、それ」
と、隼人から離れたリサがシーナに笑って答えた。
「そしたら……いつの間にいなくなったかと思ったら……お兄ちゃんと抱き合ってるし、しかも、キ、キスって……」
「ごめんね、シーナ……ハヤトの言うとおりよ。わたくしがつい感情的になっちゃってハヤトにキスしたの。だからハヤトは不可抗力よ」
リサはシーナにそう言って謝った。
「そ、そんなこと……べ、別に気にしてないし、わ、わたしとお兄ちゃんは、そ、そもそも兄妹なんだから……べ、別に気にしてないし……」
シーナは必死になってリサに訴えているが、言葉がまともに出ていなかった。
「ふふ……わかってるわよ、シーナ。ありがと」
「もう、そんなじゃないわよ! な、何か勘違いしてるわよ、リサ!」
「はいはい……わかってるわよ、シーナ」
何となくだが、シーナとリサの立場が逆転しているように感じた。
「ねえ、シーナ……」
「な、何よ……?」
すると突然、リサがシーナの耳元に顔を寄せ、隼人に聞こえない小さな声で呟く。
「あのね、この国では兄妹婚は…………アリよ」
「!?……な、ななな……?!」
顔を真っ赤にするシーナ。
それを見てイタズラな笑みを浮かべるリサ。
「わたくしは正々堂々と挑むわよ、シーナ。よろしくね?」
と言って、リサはシーナに正式に宣戦布告をした。
「リ、リサ……何を言って……」
「ふふ、いいの。これは、わたくしの勝手な宣戦布告だから気にしないで」
「リサ……ふう……」
シーナは、一旦呼吸を整えて、落ち着きを取り戻した。
「……リサ、あなたって、本当はそっちが本性なのね、知らなかったわ」
「……幻滅した?」
「ううん……わたしは、そんなリサが好きよ。だから……だから、わたしももっと本音で質問させてもらうわね、いい?」
「うん、もちろん。わたくしは、あなたとハヤトとはそういう関係になりたいんだもの」
リサは笑顔でそう応える。
「わかったわ……ありがとう、リサ」
「でもね、もしも……もしも、わたくしから話を聞いて味方になれないときはちゃんとそう言ってね。わたくしはそれでも構わないから。二人との友達の関係が終わるのはつらいけど、でも、わたくしの我がまま……この国の我がままで……あなたたちを無理やり巻き込むのは、そっちのほうがわたくしにはもっとつらいから……。さっきは、ハヤトには感情的にこの国を守るようお願いしたけど、でも、やっぱり、それは……」
『自分の本音』と、この国を守るという『女王陛下の本音』……リサはその『二つの相反する本音』で葛藤していた。
「リサ……!」
「!?……シ、シーナ!」
シーナが、そんな葛藤しているリサの手を握り、声を掛ける。
「大丈夫よ。わたしもお兄ちゃんもあなたのことは観えているから。だから……本音で話して!」
「!?……シ、シーナ」
すると、シーナの横で、少し復活した隼人もリサに声を掛ける。
「そ、そうだぞ、リサ……。ま、まあ……とは言っても、お、俺たちがどこまで役に立つかは……わ、わからないけどな……ハハ」
「ハ、ハヤト……!」
「一言多いよ、お兄ちゃんっ!」
と、隼人にゲンコツをお見舞いするシーナ。
「ま、まあ、確かに、どこまでわたしたちがリサの役に立つのかは、正直、自信ないけど……で、でも、やれるだけのことはやるから! 心配しないで! ねっ?!」
あわてて、リサを励ますシーナ。
「シーナ……そして、ハヤトも……ありがとう」
そう言うと、再びリサの瞳に涙が溢れそうになった。
「はいはい、もう、そんな話はもうおしまい! それよりもリサ……その『教会』のことなんだけど、もう少し詳しく教えて」
「……わかった」
そして、シーナも交えて、改めてリサは話しを始めた。
「更新あとがき」
おはようございます。
もう少しで第三章も終わりますが、ボクも仕事が終わります、
mitsuzoです。
いよいよ、今月末を持って仕事が終わります。
つまり……『フリーター』という名の『自宅警備員』ということです。
つまり……『プー』です。
きあああ……!
まあ、とりあえず来月からは仕事が決まるまで『時間』ができるので、もう少し更新も増えるかな? と思います。
とか言って、そんなことないかもしれないのが『mitsuzoスタイル』ですがww
ウ……ウソです……更新、頑張ります。
_| ̄|○
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




