第三章 【065】
【065】
「カルロスさん、その『人柱』なんですが、どうやってその五人は葬られたんですか?」
シーナはカルロスの一通りの説明が終わるや否や、すぐに質問を切り出した。
「エックハルト・シュナイデンを含む他の四種族の『戦闘の要となる存在』たちは、ここ中央大陸にあるアナザーワールドの中でも最も神聖とされる神殿のひとつ……『中央地下神殿』にて、その中にある『火山の噴火口』より身を投げ出しました」
「『中央地下神殿』……?」
「はい。『中央地下神殿』は、この『アナザーワールドを創ったとされる神』である『アダムとイヴ』への祈りを捧げるための神聖な場所です」
「アダムとイヴ……か」
?????
突然、シーナの様子が変わった。
「?……何か気になることでも?」
カルロスもシーナの様子に気づいて声を掛ける
「あ……いえ……すみません……な、何でもありませんのでそのまま続けてください」
「?……わ、わかりました」
シーナは浮かない表情そのままだったが、顔を二~三回はたき気持ちを切り替え、カルロスの話を促した。
「ちょ、ちょっと待って……その……『アダムとイヴ』のこと、少し教えてもらえませんか?」
一応、さっきサラ先生の授業で大まかな話は聞いていたが、俺はおさらいをするためカルロスに聞いてみた。
「『アダムとイヴ』とは、この『アナザーワールドを創った神』であります。『アダムとイヴ』がこのアナザーワールドという星を創り、そして生命を創り出しました。その生命誕生で最初に創り上げられた種族が我々『人間族』です。なので、我々、人間族は最初に神により創り上げられた生命という『責任』を果たすため、こうやって『地下神殿』を作って、創造神である『アダムとイヴ』に祈りを捧げているのです」
多少、シーナの様子に戸惑いを見せたカルロスだったが、そのまま話を続ける。
「……この『中央地下神殿』の奥は『アポロニア火山』の火口へとつながっているのですが、火口入口は通常は立入禁止となっております。理由の一つは、単純に火口に落ちる危険性があるためなのですが、もう一つは『創造神アダムとイヴに祈りを捧げる神聖な場所』であるためです。そして、『戦闘の要となる存在』の五人は、その場所から火口へと実を投げ出し『人柱』の役割を果たしました」
「その五人が火口へと身を投げる時、それは他の人たちもいたんですか?」
ここでロマネが答える。
「はい。人間族からは国王とわたし……そしてカルロスの父であるネイサン・ワイバーンがその場にいました。そして、他の種族も王と側近の者を連れてその場で彼ら五人の『人柱』としての役割を見届けました」
「でも、その『人柱』として火口へと身を投げ出し死亡したはずのエックハルト・シュナイデンが生きていた……ということは、幽霊ではない以上、そこから脱出したということになると思うのですが、その火口からみなさんの目を盗んで脱出するなんてことは可能なんですか?」
「それは無理でしょう……なんせ、その火口は断崖絶壁で周りには脱出するような逃げ場所なんて何もないですから」
「……でも、エックハルト・シュナイデンがそこから生還してきた以上、脱出は可能であるという証明にもなりますよね? であれば、エックハルト・シュナイデンから、その火口からの脱出方法とかは聞いていないんですか?」
「……面目ない。生きて戻ってきたエックハルト・シュナイデンのあの変貌ぶりを見たわたしと国王は、しばらくはそっとしておこうということで、エックハルト・シュナイデンには時間を掛けてゆっくりとこれまでの経緯を話してもらおうと思っていたのですが、しかし、その間にエックハルト・シュナイデンは何も告げず、あっさりと城を出て森へ……。それからはさらに人や町を避けるように森の中で暮らすようになりました。もちろん、何度もそこに通い、生きて還ってきた経緯を説明するよう求めたのですが、彼は一切口を割ることはありませんでした」
「……力づくで聞くことはしなかったのですか?」
「できないことはありませんが、ですが相手はわたしたち『人間族のキーマン』です。力づくで聞き出すにはそれなりの覚悟が必要ですし、それに犠牲も伴いますので、それは難しい選択でした。それに、何よりも国王がそのような『力づく』のやり方は賛成していませんでしたしね……」
「では、その火口からの脱出方法というのは……」
「はい、未だ『謎』のままです」
「……わかりました。とりあえず、その脱出方法は今は置いておきましょう。では、次に質問なんですが、なぜ、エックハルト・シュナイデンは自分で言い出した『人柱』という案なのに、それは実は政府に『騙された』ものだ、という話になっているのでしょうか?」
「そこは私たちでも全く理解できません。どうしてそんなことを言うのか……」
とロマネは戸惑いの色を見せた。
「じゃあ……サラ先生!」
ふいに自分の名前が呼ばれたサラ・スカーレットは一瞬ビクッとしたがすぐに対応する。
「む……な、なんだ? シーナ・ニノミヤ」
「サラ先生はエックハルト・シュナイデンから直接いろいろ話を聞いていると思うので教えてもらいたいのですが、サラ先生はエックハルト・シュナイデン本人からどんな話を聞かされているんですか?」
「わ、わたしが師匠から聞いている話は、この『『人柱』の件は政府が企てたことで私は操られていた』……と言っていた」
「そ、そんな! バカなっ! そんなわけあるはずがないだろ!」
カルロスが横からサラに告げる。
「しかし、その話をしている師匠の顔や話し方を見る限り、私にはウソをついているとは思えなかった。それはカルロス……お前もわかるだろ?」
「た、たしかにそうですが……でも、わたしはエックハルト・シュナイデンはウソをついているということではなく、生還した『代償』で少し、何と言うか、記憶の欠乏があったのではないかと考えています」
「カルロス! お前……それは師匠の頭がおかしくなったとでも言いたいのか?!」
「ああ、そうだ」
「……!?」
サラがまた厳しい表情に変わっていく。
「はい、そこまで! サラ先生もカルロスさんも、もうそういうのはやめてください。そんな問答は今は必要ないですし、はっきり言って……迷惑です」
と、シーナはカルロスとサラ、二人に対して『キッ!』と睨みつけて言い放った。
「「う……」」
カルロスとサラは、シーナのその迫力に思わず閉口する。
「……とりあえず、今、聞いただけでもこのエックハルト・シュナイデンの話は『謎』が多すぎます。ひとつは『生還理由が不明である』ということ、そして『『人柱』の話は自分の本意ではなかった』ということ」
「……ふむ、そうですな」
シーナのその説明に対してロマネが冷静に相槌を打つ。
「そして、もうひとつ……そこが、わたしが一番不可解……わからないところなんですが、仮に、サラ先生が本人から聞いた話……『誰かに操られて言わされていた』ということが事実だったとしたら、『そんな『人間族のキーマン』であるエックハルト・シュナイデンを操ることができるほどの存在』がいることこそが『大問題』だと思うんです」
「「「「……!!!!」」」」
皆、一斉にシーナの言葉に反応した…………リサ・クイーン・セントリア女王陛下以外は。
「?……リサ?」
隼人は反応しないリサをふと見た。すると、一人、表情が険しくなっているのに気づく。
最初、俺は、リサはロマネさんが話した『第一次種族間戦争』の話や『エックハルト・シュナイデン』の話について『知らない』『聞かされていない』とばかり思っていた。つまり、リサがまだ幼い女王陛下ということもあって、そういった重要な込み入った話は聞かされておらず、そんな『疎外感』や『一人前の女王として認められていない』という思いから、リサはそのとき『複雑な表情』を浮かべていた……と、俺は解釈していた。しかし、どうもそうではないように感じる。
今、リサがシーナの説明に一人反応しなかったことや、その後に見せた『険しい表情』を察するに、それは……、
「ロマネさんの話や、シーナの言っていることを事前に認識していた……?」
リサは、俺の視線に気づくと、ハッ! とした表情になり、すぐに顔を逸らした。
「……リサ」
この『エックハルト・シュナイデン』の件……どうやら一筋縄ではいかない、単純な話ではない、そんな様相を呈してきた。
「更新あとがき」
おはようございます。
6月に入りました……というより、6月もすでに10日過ぎてしまってるぅぅうぅうっ!
そんな6月の最初の更新となりました、
mitsuzoです。
いや、あの、その……すみません、やっぱり今月ちょっと更新頻度厳しくなると思います(冒頭いきなりストレートに謝罪)
今月は『一週間に一回更新』か『10日に一回更新』になるかも。
今月だけはどうしても時間が取りづらいので申し訳ないですがご容赦を。
物語は、もう少ししたら『第三章』が終わります。
『第三章』は、できるだけ今月中に完結できれば……と思いながら、頑張りたいと思います。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




