第三章 【059】
【059】
「サ、サラ先生、落ち着いてください、別に我々は今、あなたを尋問しようとしているわけではないんです。だから……」
「そうでしょうか? わたくしの師匠エックハルト・シュナイデンの謀反ということであれば、すぐさま私を拘束し、師匠の行方を『強引』に、『強制的』に聞き出すのが王立軍の『通常業務』なのでは?」
この『一触即発』の場をなだめようとしているカルロス・ワイバーンに対して、サラ・スカーレットは一切聞く耳を持っていないようで、むしろ王立軍の動きを熟知しているような言葉を吐きつつ、攻撃態勢を解くどころか、さらに魔法力を高め、警戒モードを上げていった。
「サ、サラ先生!?……」
俺は、この場をどうにかしようと思い、『神通具現化』を発動しようと思った…………しかし、
ガシッ!
「!?………………シ、シーナッ!」
そんな動き出そうとした俺をシーナが止める。
「ダメだよ、お兄ちゃん……今は、使っちゃダメ。それに、たぶん…………大丈夫だから」
「??…………大丈夫?」
俺の手首を捕まえ抑えていたシーナの顔を見ると、何かを確認しようとするような表情をしていた。すると……、
「……サラ先生、どうしても攻撃態勢を緩めないおつもりですか?」
カルロスが再度、問いかける。
「もちろんです……私はあなた方を全面的に信用なんてしていませんから」
「そ、そんなことを言わずに、一度、お話だけでも聞いてくれま……!?」
そうカルロスがセリフを言い終わる前に、サラは懐から『カード』を出し、カルロスに向かって突っ込んでいった。
「……まったく」
そのサラの動きに反応した少し呆れ顔のロマネ・フランジュが、すぐさま、『カード』を出し魔法を発動する。
「領域防御レベル5……ッ!」
そうロマネが魔法を発動するのとほぼ同時にサラも魔法を発動した。
「火炎レベル3……ッ!」
すると、先にロマネが出した『カード』から『虹色の光』が放たれ、その瞬間、部屋中に『虹色の膜』のようなものが広がった。それは、そこにある机や本棚といった『物』から、そこにいる『人間』も含め、すべてのものに『虹色の膜』をコーティングしていく。
「な、なんだ、これは……?!」
「…………」
そして、それとほぼ同時に、今度はカルロスの目の前まで接近したサラの手にある『カード』から『赤い光』が放たれた瞬間、大きな炎と爆発音が発生。
「うわっ!」
「きゃっ……!?」
「「…………」」
サラのカードから放たれた炎はかなりの大きさで、この部屋にいる俺たちを巻き込むほどの破壊力のように思えた、のだが……、
「?……あ、あれ?」
その衝撃は何も身体に伝わってはこなかった。それどころか、周囲の壁や、机や、本棚なども、特にその衝撃を受けている様子はない。
「ど、どういうこと……?」
俺の、ひとり言のような問いにリサが答える。
「これは、ロマネが放った『魔法符詠唱』の『領域防御』という『ある一定領域の空間防御魔法』の効果です」
「く、空間防御魔法……」
なるほど……だから、俺たちや部屋自体がサラの魔法攻撃の影響を受けていないのか。
「……ですが、あれだけの攻撃魔法を、あれだけの至近距離にいるカルロスにとっては、この『領域防御』の効果が反映されていたとしても、サラさんの攻撃魔法……『火炎』の衝撃をいくらか受けることは免れないでしょう」
「えっ……そ、それじゃあカルロスさん、大変じゃないですか?!」
「はい……まあ、それは『一般の魔法士であれば』の話ですが……」
「えっ?」
見ると、サラの魔法攻撃を『モロ』に受けていたはずのカルロスだったが、顔色ひとつ変えずにそこに立っていた。
「む……無傷?」
今のサラの放った炎の魔法は、かなりの大きさだった。それに、リサの話ではサラの攻撃をいくらか受けることになる、という話だったのに……。
すると、ここでカルロスがサラに向かってボソッと、小さな声で、小さな呟きで、なだめるように言い放つ。
「サラ先生、ご存知でしょう? わたしの持っている『魔法特性』のこと……」
「ふん、化物め」
えっ? な、なんで?
「サラ先生……お願いですから、その『ムカついたらすぐに魔法発動するクセ』、いい加減に直してもらえませんですかね~……いくら、ロマネ室長がいるからとはいえ、女王陛下もいるわけですから……」
「だからこそ、ロマネ室長なら磐石なレベルの防御魔法を展開するでしょう? そうすれば、ハヤト・ニノミヤとシーナ・ニノミヤも無傷だろうと踏んだんです」
「まったく…………こまった人です」
えっ? えっ? どういうこと?
「……つまり、サラさんは『ああいう性格の人』なので、ついカッとなって魔法発動するんですが、それを熟知している我々……特に、カルロスの場合、サラ先生とは付き合いも長いので、サラ先生の行動予測もつけられますし、その際の『腹いせの攻撃魔法』も対応できるので、だから、ああやって、たまにサラ先生は『腹いせの攻撃魔法』をカルロスに向かって発動するんです」
はっ?
「まあ、要するに……仲良しさんのお二人ってことです」
と、テヘッと舌を出す……いわゆる『テヘペロ』で、かわいく、さもたいしたことではないような雰囲気で説明していますけど……、
「いやいやいやいや、おかしい、おかしいですよ、女王陛下!『ムカついたらすぐに魔法発動するクセ』を了承してるのって、それ、おかしいから!」
俺は、百人が聞いたら百人同じところをツッコむだろう、というくらいのイキオイでリサにツッコんだ。
「まあ、まあ、落ち着いて、ハヤト…………紅茶、飲む?」
「い、いりませんっ!」
な、なんだ? この世界ではこんな理不尽なクセは許容範囲なのか?
「ハヤトくんの言うとおりです。サラ先生、いくらなんでも、そのクセは早く直してください。生徒に示しがつきません!」
だよね? 俺、マトモだよね? リサの許容範囲があまりにも広いだけだよね?
ハヤトは、カルロスの言葉に少しホッとした。
「しょうがないでしょう、クセはクセなんですから。それに、これでも努力して以前よりは大分マシになったんですから?!」
ええええええ~! うそ~ん!
「……まあ、確かに」
えっ、そうなの?! それで?!
じゃあ、その前、一体どんだけだったんだよ?! もう想像するのも怖いわ。
と、俺がカルロスとサラの二人の会話に心の中でツッコミを入れている横で、シーナは難しい顔をして何か考え事をしているようだった。
「?……シーナ?」
「ん? ああ、お兄ちゃん」
「どうしたんだ? 何か気になることでもあったのか?」
「いや、お兄ちゃんはなかったの……?!」
「えっ?」
「見てたでしょ、今……カルロスさんとロマネさんが『カード』を使って魔法を発動していたのを」
「……あっ」
俺はシーナに言われて改めて気づかされた。
「そ、そう言えば……確かに……」
「もう、お兄ちゃん、大丈夫?! あれだけ『今までとは違う魔法の発動方法』だったのに、それに気づかないなんて……信じらんないっ!」
「す、すみません……」
逆に、シーナから思いっきりツッコまれた俺でした。
「更新あとがき」
おはようございます。
一週間ぶりです、
mitsuzoです。
ここに来て、またいろいろと新しいワードが出てきましたね。
「カードを使った魔法」
この辺から、この世界……「アナザーワールド」の「魔法」についての説明が増えてくると思います。
とは言え、だいぶ書いている割には話はそんなに進んでいないのですが……その辺はご容赦くださいませ。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




