第三章 【058】
【058】
「「「内通者……?!」」」
理事長カルロス・ワイバーンから出た言葉に、俺、シーナ、メガネツン女史……サラ・スカーレットは見事にハモって反応した。
「はい。現在、この学校……王立中央魔法アカデミー(セントラル)は、外部からの内通者の脅威に晒されています……」
カルロスはいつもにも増して険しい表情で話し始める。
「事の発端は先月――それは『北地区』側の『地区境警備隊』からの『不正侵入者』の報告からでした。報告内容は……………………『不正侵入者の捕縛失敗』」
「なっ……?! ま、まさか……、北地区の地区境警備隊がっ……?!」
メガネツン女史、サラ・スカーレットがカルロスの言葉に大きく反応した。
「はい、事実です……。北地区の地区境警備隊と言えば、王立軍の中でもかなりの猛者を要した関所で有名ですが、その北地区の地区境警備隊の『捕縛』から、その『不正侵入者』は逃れた、という報告だったのです」
「し、信じられない……北地区の地区境警備隊の『捕縛』から逃れるなんて……」
いつもの凛とした力強さを醸し出しているサラ・スカーレットから、珍しく大きな動揺が露わになっているのを見て、俺とシーナは、タダ事ではないことを察知し質問をした。
「す、すみません……あの、カルロスさん、どういうことですか?」
「あ、ああ……すみません、ハヤトさん、シーナさん。えーとですね……」
カルロスさんの話だと……ここ数年、中央区と北地区は、ちょっとした小競り合いが続いていたらしく、長く『緊張状態』が続いていた。そのため、その北地区との地区境を警備する『地区境警備隊』は王立軍の中でもかなりの精鋭部隊を構成して配置していたとのことだったらしい。しかし……、
「……しかし、先月、その精鋭部隊を要した北地区との地区境で、その『不正侵入者』を捕縛することができず、中央区へと侵入を許してしまった、というわけです」
なるほど、そういうことか。でも……それにしても、そのカルロスの話を聞いても、俺にはサラ・スカーレットのあの動揺の根拠としては薄く感じた。そして、それは、シーナも同様だったらしく、シーナはさらに踏み込んで質問をした。
「……なるほど、わかりました。しかし、それにしてもサラ先生、どうして先生はそんなに動揺していらっしゃるのですか? 正直、地区境を突破されたという話だけでは、どうしても、サラ先生の動揺が説明つかない気がするのですが……」
「シ、シーナさん……」
カルロスがシーナの質問にどう答えていいかサラの顔を窺った。すると、サラのほうから直接シーナの質問を答える形となる。
「シーナ・ニノミヤ、それはわたしの口から直接説明しよう……」
サラは、動揺した姿をすぐに直し、いつもの毅然と、凛としたサラ・スカーレット先生に戻り、説明をする
「……この、今回『捕縛』を失敗した北地区の地区境警備隊には、わたしの魔法技術の師匠がいるんだ」
「「せ、先生の師匠……?!」」
「ああ。その師匠の魔法技術は、そんじょそこらの魔法士ではまったく太刀打ちできないほど凄まじく強力でな、もちろん、それだけの力を持っている魔法士であれば当然、その名は人間界では広く知れ渡っているので、皆、その師匠がどれほどの魔法士か知っている。そして、わたしは、そんな師匠の側にいて修行していた身であったので、特に、その師匠の凄さは誰よりも理解していると自負している。だからこそ、今回の理事長の話を聞いて……取り乱してしまったのだ」
「「せ……先生」」
なるほど……だから、あそこまでの動揺を露わにしていたのか。
俺とシーナはサラ・スカーレットの話を聞いて納得したその横からカルロスが入ってきた。
「……サラ先生、実は、今の話はまだこれで終わりではありません。まだ……続きがあります」
「えっ……?」
サラ・スカーレットはまたもや虚を突かれた。
「「……??」」
俺とシーナも、カルロスの話はここまでで、これから、その『捕縛失敗』をして侵入した『不正侵入者』への対処についての話に移ると、てっきり、うっかり、思い込んでいた。勝手に思い込んでいた。しかし……、
「サラ先生、落ち着いて聞いてください……どうやら今回の『捕縛失敗』、そのサラ先生のお師匠である、あの……『エックハルト・シュナイデン』氏が関わっているらしいのです」
「……えっ?」
サラ・スカーレットは、そのカルロスの言葉を聞いて、動揺ではなく、ただ、呆然として、放心状態となり、その場でただただ立ち尽くしていた。
「ど、どういうことですか……?」
俺は、放心しているサラ先生のかわりにカルロスにさらに説明をしてもらうよう促した。
「……はい。今回の『捕縛失敗』の件、現場からの詳細報告では…………『ノース・エリア地区境警備隊隊長エックハルト・シュナイデン氏の謀反により不正侵入者の中央区への侵入を許した、ということだったのです。ですので……」
「……だから、私はここに呼ばれた、ということですね? 理事長」
と、放心状態だったサラが現状を理解し、すぐにいつものサラ・スカーレットに戻る。そして戻ると同時に、サラ・スカーレット先生……サラ・スカーレットは警戒態勢を敷いた。つまり……、
「つまり理事長……わたしがここに呼ばれた理由は、『最初の本題』のほうではなく、今回の『もうひとつの本題』のほうだった……ということですね?」
サラ・スカーレットが警戒態勢から一気に臨戦態勢へと移行……一気に魔法力を高めていく。ビリビリ……とサラ・スカーレットの周囲の空気が震え、振動が増していく。
「サ、サラ先生、落ち着いてください……わたしたちはあなたを疑っているということではありません。ただ、あなたの師匠、エックハルト・シュナイデン氏から連絡が無かったかを聞きたいだけなんです」
「そうでしょうか? わたくしにはそうは思えませんが……」
サラ・スカーレットはカルロスの言葉をまったく信用していないようで、まったく聞く耳を持っていないようだった。
サラ・スカーレットの魔法力がどんどん高まっていく。
まさに『一触即発の状態』へと『場』は加速していった。
「更新あとがき」
おはようございます。
久々ですみません、
mitsuzoです。
前回の更新から気づくと『10日』が経過。
時の流れの早さを感じます……て言うか、更新遅れてただただ、ごめんなさいww
<(_ _)>
しばらくは「週一更新」となるかと思いますがどうかご勘弁を。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




