第三章 【053】
【053】
現在、ここ……王立中央魔法アカデミー(セントラル)内に二つある体育館の一つ、『第一体育館』では、隼人が発動した『神通具現化』により舞い上がった『煙』と、『炎』と『水』の『具現化効果』により、宙から降り注ぐ『温水の雨』も止み、あたりは『静寂』が流れていた。
そして、その『静寂』の中に『第一声』を入れる者…………それは、
「お兄ちゃん、やりすぎっ!」
そして、シーナのその声に、教師のサラ・スカーレットや他の生徒たちもハッと我に返り、少しずつ、目の前で起きた光景にざわつき始めた。
「な、何だ? 何だったんだ、今のは……」
「す、すげえ、凄すぎだろ…………特別招待生」
「こ、これが特別招待生の力……お、俺たちとは、まるでレベルが違い過ぎるじゃねーか」
生徒たちは皆、隼人の「神通具現化」に圧倒されていた。
それは、生徒たちだけでなく、
「ハヤト・ニノミヤ……まさか、本当に『属性を同時に発動させる』とは…………しかも、あれほどの『強大な力』…………これが『特別招待生』……」
メガネツン女史……サラ・スカーレットも例外ではなかった。
そう、
この隼人の神通具現化発動後の皆の反応…………それらは、すべて、
すべて、シーナの『妙案どおり』だった。
そして、アイリが『妙案どおり』に動き出す。
「すごいっ! 本当にあったんだ!……『魔法力測定器で測れない魔法』がっ!」
アイリは、ワザと大声で、ワザと皆に聞こえるようにそう叫んだ。
まるで、『ハヤト・ニノミヤの力はそういう特殊なものだ』と印象づけるように。
まるで、『ハヤト・ニノミヤの力をこれ以上、詮索する必要はない』と印象づけるように。
そして、そのアイリの『思惑』、シーナの『妙案』は、見事にハマッた。
「た、確かに、魔法力測定器では反応示さなかったのに、あれだけの魔法が出せるなんて……」
「本当にあったんだ……そんな魔法」
「しかも、『炎』と『水』あと『風』を同時に発動させ、しかも融合させるなんて…………ハヤトが言ってた『属性が関係ない』、『属性と言う枠がない』と言うのは本当だったんだ」
生徒らは皆、一同にシーナの『妙案』どおりの反応をしていた。
そして、この『タイミング』を、シーナは逃さなかった。
「先生、申し訳ありません! お兄ちゃんが……兄が、やり過ぎてしまったみたいで! たぶん、本人もあそこまでするつもりじゃなかったのですが、まだ、『わたしも同様、この力の制御に多少『難』があるもの』でしてっ!」
シーナは、サラ・スカーレットのところに駆けつけ、アイリと同様、皆に聞こえるような大声でそう訴えた。
「あのハヤトの魔法は…………『制御』が難しいものなのか?」
食いついた!
シーナは、ここぞとばかりに一気に自分のペースに持っていく。
「はい。見てのとおり、『大きな力』なので『発動』よりも、むしろ『制御』のほうが難しいものでして…………あ、でも、わたしのほうが兄よりも『制御』するのは得意なので大丈夫ですよ! 次は、わたしが兄よりも制御が得意なところをお見せしますから。他に『赤い壁』はありますか?」
「あ、いや……あの『赤い壁』はその北側の壁にしかなくてな…………なんせ、バカ高い代物だから。それに、お前の測定はもういい。どうせ、この学校で、あの『赤い壁』以上の……『第一級魔法緩衝材』以上の……『特級クラスの魔法緩衝材』なんて『希少価値の高い素材』、いくら『王立中央魔法アカデミー(セントラル)』でも取り寄せることは不可能だからな」
サラ・スカーレットは、あんなのハヤト・ニノミヤだけで十分だ、と言いたそうな口調で、そうシーナに告げた。
そして、シーナは最後の畳み掛けをする。
「そ、そうですか……あ、あの、本当にすみませんでした。兄が、やり過ぎてしまって。先に、わたしのほうから先生に説明すればこんなことには……」
シーナは、そうサラ・スカーレットに『あえて』告げる。
まるで、『あくまで自分が防げた事故でした』と言うように。
そんな……先生が、生徒から逆に気を遣われるようなことを言われたとき、マトモな大人、マトモな先生であれば、
「気にするな。別にやったのはお前じゃなく兄のハヤト・ニノミヤのほうだし、また、そもそもハヤト・ニノミヤを煽ったのは私だからな……問題ない」
そう答えるし、また、サラ・スカーレットは『マトモな大人で、マトモな先生』なのは、先ほどの『魔法力測定』のときに、生徒に情熱的なアドバイスをしていたのを見ればわかる……それを見たシーナはこの『妙案』がうまくいくことを確信していた。
そして、実際にそうなった。
「わ、わかりました……失礼します」
そう言って、シーナは皆のところに、アイリのところに戻っていく。
「やったね、シーナッ!」
アイリがシーナを笑顔で迎える。
「ありがとう、アイリッ! アイリのあの『一言』がすごく大事だったのっ! 本当にありがとうっ!」
シーナはアイリの手を取り、感謝の言葉を並べる。
「ううん、そんな……わたしは、ただ、シーナの『妙案』どおりのことをしただけだよ。むしろ、シーナのその『妙案』……アイデアがすごいよ!」
「ううん、それがちゃんとできるアイリのほうが、もっとすごいんだよ!」
ううん、そんな……。
ううん、そんな……。
キャッキャ、ウフフ。
キャッキャ、ウフフ。
…………シーナとアイリ、お互いの賞賛の言葉の応酬がしばらく続いた。
それだけ、シーナもこの『妙案』がうまくいったことがうれしかったのだ。
まあ、無理も無かった。
それだけ、この『魔法力測定を乗り切る』のは、隼人とシーナの中では『最大の壁』でもあったのだから。
そうして、二人のその応酬が一通り終わると、シーナが、
「あ、お兄ちゃんは?」
と、やっと……やっと……シーナの『妙案』の『きっかけ役』という『大役』を果たした、『最大の貢献人』であろう隼人のことを思い出してくれた…………今ごろ。
「シ、シーナ……あ、あれ……」
すると、アイリがシーナの肩をポンポンとたたき、隼人のいる『赤い壁』……いや『かつて赤い壁があった』方向へ指を指していた。
シーナは、そのアイリの指すほうを見る。
すると……、
「ハヤトさーん、きゃーー!」
「きゃーハヤトさん、かっこいいーー!」
「お願いします、握手だけ、握手だけでも……お願いしますぅー!」
「ちょ、ちょっと、あなた、抜けがけはよしなさいよっ!」
「そうよ、そうよ! 皆、スタートラインは一緒でしょっ?!」
「はい、これより『ハヤト様@ファンクラブ』がここに誕生しましたー、会員ご希望の方はそこに一列にお並びくださいー』
「はいっ!」
「はいっ!」
「ちょっと、運営、何やってるのっ! むしろ、遅いくらいよっ! 整理券くらい配布しなさいっ!」
シーナとアイリの視線の先に、『以前、どっかで見たような光景』があった。
そして、当の本人、隼人はと言うと、
「あ……え……な、何?……ちょ、ちょっ、ま、待っ…………」
そんな感じで、弱弱しい反応で、乙女のような反応で対応していた。
シーナはそれを見ながら、
「あっ……」
と、やっと思い出す。
いまさら気づき出す。
隼人が、『神通具現化』を使うという事は、同時に……、
『誘惑誘引』が発動されるということを。
「ま、まずいっ! お兄ちゃんがやり過ぎた分の『誘惑誘引』が発動されてる…………どうしようっ!」
隼人が発動させた『神通具現化』がシーナの予想以上だったため、その『過剰分』の『誘惑誘引』が目の前で起きていた。
つまり、簡単に、端的に、わかりやすく説明すると……、
『隼人は、今、クラスのほぼ全員の女子に囲まれハーレム状態となっていた』
「お、お兄ちゃん、あんなにデレデレ………………しやがってっ!」
シーナさん、『本性』が混じってます。
「もう、なんなの?! ねえ、アイリ……どう思う? あんなお兄ちゃん、むかつか……な……いっ?!」
そう隼人への不満を吐き出しながら、シーナがアイリのほうを向くと、
「でも、ハヤト…………かっこ良かった、よね?」
アイリの瞳はハート型となり、うっとりとハヤトを見つめてそう呟いた。
「ア、アイリまで……そんな…………」
それだけではなかった。
「皆さん! お静かに! 何をやってるの! これではハヤトが身動き取れないでしょう?!」
と、ここでフレンダ・ミラージュが左右に両手を広げ、女子生徒の前に立ち塞がった。
「フ、フレンダ……」
隼人は、フレンダが助けてくれたと思い、声を掛ける。
「ハ、『ハニー』と……お呼びください」
「あっ……(察し)」
すると、
「ちょっ、ちょっとフレンダさん! いくらあなたでも、ハヤト様に『ハニー呼ばわり』させるなんて認められませんっ!」
「そうです、フレンダさん! そんな『抜けがけ』は、いくらあなたでも、ダメですっ!」
「そうだ、そうだー!」
フレンダ以外の女子生徒が一斉にフレンダを攻める。
「な、何よ! わ、わたくしは別に、こんな…………『素敵な男性ごとき』に……」
フレンダさん、『本音』が混じってます。
それにしても、女子生徒の興奮は、シーナのときの男子のソレとは比較にならないほど激しかった。
「こ、これが……誘惑誘引の力……」
隼人は、シーナから聞かされていた『誘惑誘引』の現象を目の当たりにし、その『破壊力』に圧倒されていた。
「コラッ! お前ら、ハヤトから離れろっ! ハヤトが困っているだろうがっ!」
すると、ここで、サラ・スカーレットの声が響いた。
「先生っ……!?」
シーナは、サラ・スカーレットは影響を受けていなかったと思い、その声のする方へ、『隼人ハーレム』のほうへ、期待を持って目を向けた。
「先生ずるーいっ!」
「職権乱用っ!」
「な、何を言っている! こうでもしないと、ハヤトをだな、お、お前らから引き剥がせなかっただけで……」
見ると、サラ・スカーレットは、隼人を強引に女子生徒のハーレムから引っ張り出し、自身の豊かな胸へと引き寄せ、大切な物を扱うかのように、隼人を強く、強く、抱きしめていた…………サラ・スカーレットの『だいしゅきホールド』炸裂である。
「…………せ、先生まで」
がっくし、肩を落とすシーナ。
『誘惑誘引』……その力、ウソ、偽り、例外なし。
「更新あとがき」
こんばんわ。
『OVL大賞 一次選考』……落選の、
mitsuzoです。
昨日の夜、『OVL大賞 一次選考』の結果発表がありました。
わたくしmitsuzoは見事落選でしたが、でも、ここまでのドキドキ感は楽しかったです。
それに、『OVL大賞』に参加したおかげで、『アナザーワールドへようこそっ!』という作品を生み出すことができたし、『小説を書く楽しさ』、『小説を書き続ける楽しさ』も知りました。
これからも、こういった『小説大賞』に応募して、楽しんで書き続けていきたいと思います。
さてさて話は変わりまして…………この『アナザーワールドへようこそっ!』ですが、『第三章 第53話』に来て、やっと、やっと、
「ハーレムモード」に突入しました。
本当はもっと早めにこうなるように書きたかったのですが、あれよ、あれよ、と、ここまで経ってしまいました。
とは言え、ようやく「検索タグに偽り無し」というところまで話が進んだのでホッと一息です。
今後は、「ハーレムモード」も盛り込みつつ、話は続いていきますので、どうぞ、よろしくお願いいたします。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




