第三章 【051】
【051】
「では、これより『魔法力測定』を開始する。男子は出席簿順に並べっ!」
メガネツン女史の掛け声と共に、男子は『魔法力測定器』の前に出席簿順に並んだ。ちなみに、俺は、前から十番目という若干、早く回ってくる位置にいた。
シーナの『妙案』……本当にうまくいくのだろうか?
いや、そうじゃない……うまくいくようにしないと、だな。
頼むぜ、アイリ。
そうして、『魔法力測定』は開始された。
「……魔法力4000。まあ、Aクラスの生徒としては少し低めだが落ち込むことはない! まだ伸びしろはある、精進するようにっ! よし、次っ!」
「は、はい……!?」
メガネツン女史……サラ・スカーレットはどんどん測定しては、一人一人に熱心に具体的なアドバイスをかけていく。なんだかんだで、サラ・スカーレットはただ怖いだけじゃなく、情に熱い熱血先生という感じだった。そして、あれよ、あれよと進んでいき、開始から15分――ついに、自分の番が近づいてきた。
俺は、出番が来るのをドキドキしながら待つ……最初の一歩とは、かくも重いものか。
そして、その時は訪れる。
「よし、では次!…………おお、ハヤト・ニノミヤ、お前か」
「よ、よろしく、お願いします……」
すると、さっきまで、ペチャクチャ雑談をしていた生徒たちが、隼人の名前を聞いた途端、視線を『魔法力測定器』に立つ隼人に向け、その話題でペチャクチャし出した。
「お、おい、ついに来たぞ……あの特別招待生、ハヤト・ニノミヤの番が」
「ああ。これは、すごい数字が期待出来そうだな!」
「まあな、なんてったって、特別招待生だからな!」
……思ってた以上に、『特別招待生』のハードルが高いのを、いまさらながら気づかされました。
だが、しかし。
それは、さっきシーナとアイリ、三人で話したときにすでに想定はしていた……つまり、『想定の範囲内』だ。
なので、ここまでは、シーナの『妙案』どおりに事は運んでいるので、俺は少し落ち着いていた。
このまま、『妙案どおり』に行けば……いけるっ!
「よし、では、測定器に手を当て、魔法力を込めよ」
「は、はいっ!」
俺は、サラ・スカーレットの指示どおり、昨日、理事長室にあったものと同じ『魔法力測定器』の前に立ち、昨日と同じように手を当てる。
「……? おい、ハヤト・ニノミヤ……はやく魔法力を放出しろ」
「や、やってます!」
しかし、『魔法力測定器』は理事長室のとき同様、うんともすんとも言わない。しばらくそのままの状態だったが、魔法力の無い隼人では、当然、『魔法力測定器』が反応することはなかった。
「おい、いい加減にしろ、ハヤト・ニノミヤ! ふざけているのか?」
サラ・スカーレットの顔が、メガネ越しだが怒りで引きつっているのがわかる。
「ふ、ふざけてません! ちゃんとやってます!」
俺は必死にアピールする。
「ほう…………じゃあ何か? お前は魔法力を放出しているのに測定器が反応していないと? つまり、『測定器が故障している』『測定器のほうが悪い』とでも言うのか? その前の生徒までは正常に測定できていたというのに……」
「そ、そんなことありませんっ!」
「じゃあ、どういうことだ?」
「た、たぶん…………『魔法力測定器』では、自分の魔法力は測定できないと思います」
「なにっ……?!」
「自分の使う『魔法』は、皆とは少し異なるんです」
「何……だと?」
サラ・スカーレットは、隼人をまっすぐ睨み、しばらくそのまま動かなかった。まるで、相手の言葉の本意を探っているような……。
「ふむ、そうか、わかった。では、ハヤト・ニノミヤ……『魔法力測定器』から一旦離れろ」
「は、はい」
メガネツン女史はそう言って、俺を測定器から離す。そして、
「ハヤト・ニノミヤ……一つ、確認したいことがあるが、お前……『属性』はなんだ?」
『属性』……このアナザーワールドの人たちは皆、大なり小なり魔法を使える。そして、魔法には種類があり、その種類を『属性』というのだが、俺とシーナは、このアナザーワールドの住人ではないので、そんなものは…………ない。
なので、俺は、そのままの答えを告げる。
「『属性』は…………ありません」
「な、なにっ……?!」
ざわっ!
俺の答えにメガネツン女史だけじゃなく、他の生徒も色めき立つ。
「『属性』が無い?…………今、ハヤトは『属性が無い』って言ったのか?」
「さあ……? でも、そう聞こえた、ぞ?」
「『属性が無い』って、ちょっと意味わかんねーよ……どういうこと?」
「いや、俺だって知らねーよ!」
生徒たちが皆、一斉にざわめき出した…………が、ここでメガネツン女史が止める。
「静かにっ、静かにっ! おい、ハヤト・ニノミヤ、もう一度、聞くぞ?…………『属性』は何だ?」
「ぞ、属性は、ありません……」
俺はメガネツン女史の二回目の同じ質問にハッキリと答える。
「ほう……お前、それは、『自分は魔法が使えない』と言っているようなものだぞ?」
メガネツン女史が、眼光鋭く俺を睨みながら質問する。
こ、こえー。
「い、いえ、『魔法が使えない』というわけではなく…………『属性は関係ない』という意味でして、その…………」
「ぞ、『属性』は関係ないだと?! ま、まさか…………貴様……『全属性が使える』と言いたいのか?」
ざわざわっ!
メガネツン女史の驚きのあまりつい漏れた発言を聞いた他の生徒たちもさらにざわつく。
「あ、いえ……『全属性が使える』というわけでは無くてですね……あ、まあ、別の側面から見ればそうとも言えますが、ただ、もっと具体的に言うと…………『属性という枠がない』という意味です」
「な、な……なな……?!」
ざわざわざわざわざわっ!
これにはメガネツン女史も驚愕の色を隠せなかった……周囲の生徒たちに至っては言わずもがなである。
「ぞ、属性という枠がない……だとっ?! あいつ、何、そう言ったのか?」
「し、知らんっ! まったく意味がわからん!」
「そんな……そんなことが…………あり得るの、か?」
しかし、ここで、メガネツン女史……サラ・スカーレットは一瞬取り乱した自分をすぐに修正し、いつもの気丈な振る舞いに戻り、隼人に指示を出す。
「なるほど…………お前の言い分は、この『魔法力測定器ではお前の魔法力は測れない』と。で、あれば、ハヤト・ニノミヤ! その証拠を見せろっ! もし、『魔法力測定器で測れない魔法力』を持っているのなら、その力を見せてみろっ!」
「わ、わかりました…………では、どうすればいいでしょうか?」
「あそこの……北側の壁を見てみろ」
そう言われて隼人は言われた方向を見ると、他の壁とは違った『濃い赤色をした壁』に目が止まった。
「……あの『赤い壁』は、『第一級魔法緩衝材』という素材で作られた壁だ。かなり威力のある魔法でも吸収することができる素材なので、今回、お前の魔法を確認するのは、あの『赤い壁』を使ってもらおうというわけだ。ちなみに、普段、お前ら一年だけじゃなく、上級生らも皆、この第一体育館で魔法発動の練習をするときは、この『赤い壁』を利用している。まあ、そのくらい『魔法吸収力が高い壁』ということだ。なので、おもいっきり魔法発動して構わない!」
サラ・スカーレットのその語気は強く、むしろ、『壁を破壊できるものならやってみろ!』という気持ちが込められているのは誰の目にも明らかだった。
「ちなみに、もしも、魔法発動ができない場合、お前が言っていることは『虚言』、『嘘』ということになる。その時は、理事長を交え、後で話をさせてもらう。そして、お前にはこの話を『断る』選択肢はない。ここで『断る』ということもまた、それは『嘘』とみなされるからな…………意味がわかるな? ハヤト・ニノミヤ?」
ごくっ。
す、すげえ、威圧。
でも、
「も、もちろん!『断る』なんて選択はしません。先生の指示通り、その『赤い壁』に向かって魔法を発動します。ただ……」
「ただ……?」
「その……もし、その『赤い壁』に『穴』を開けたりしても、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「な、何だとっ……?!」
「あ、いや、だから、その……『赤い壁を魔法で破壊してしまっても大丈夫なのか』と……」
「大丈夫だ! この『第一級魔法緩衝材の赤い壁』は、そんなヤワな壁ではない。心配せずとも思いっきりやれっ! これは命令だっ!」
と、サラ・スカーレットは隼人の問いかけが少し癇に障ったようで、隼人の発言に対抗するようにさらに語気を強めて返した。
「わ、わかりました……」
そうして、隼人とサラ・スカーレット、そして他の生徒たちは皆、北側の『赤い壁』のほうへと移動する。
「よし、この辺でいいだろ。ここから魔法を発動してみろ」
「わ、わかりました……」
サラ・スカーレットは、隼人に『赤い壁』から1メートルほど離れた位置で発動するよう指示を出す。隼人は、『赤い壁』に向かい、手をかざす。サラ・スカーレットも、周りの生徒たちも、皆、隼人の一挙手一投足を、固唾を呑んで見守っている。
この後、隼人は、初めて皆の前で『神通具現化』の力を見せることになるのだが、それは、シーナの思惑とは『異なる展開』へと発展していき、シーナも隼人もいろいろと勉強させられるハメになる。
だが、しかし、そのことについて今は、誰も知る由はなかった。
「更新あとがき」
こんばんわ。
昨日は、世の中ホワイトデーという日だったらしいですが、ボクには関係なかったらしいですよ?
mitsuzoです。
_| ̄|○
ちなみに、この小説を書き始めたのは「去年のクリスマスイヴから」という、いろいろと思い出すには痛い感じです。
そんな、mitsuzoも、一生懸命生きてます。
さあ、皆さん、共に一生懸命生きましょうっ!
なんのこっちゃ?!www
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)
 




