第二章 【044】
【044】
「は、隼人……っ! ど、どうしてこんな時間に女子寮のとこにいたんだっ?!」
シーナに連れられて、俺たちは女子寮から離れ、『第二グラウンド』に近いところまで移動していた。
「あ、いや……部屋の荷物整理が早く済んだからさ、明るい内に話したほうがいいかと思って、それで早めに女子寮に来て、お前が降りてくるのをゆっくり待つつもりだったんだよ」
「まったくっ! わたしはまだ荷物の整理が途中だってのに…………」
「まだ終わっていなかったのか?」
「当たり前だろっ! ただでさえ、女性の荷物は男性のに比べて多いんだからっ!」
「そ、そうか…………だ、だったら、先にそれ済ましてでもよかったのに……」
「バカモノ! お前があんな『竜虎』の間でまさに喰われようとしているのを見て、ほっとけるわけないだろっ!」
「……えっ?」
「あっ! い、いや…………な、何でもない」
そうか……俺に気づいて、自分の用事よりも優先して気を利かしてくれてた……てことか。
「そ、それにしても、ビックリしたぞ! なんだ、あの状況はっ! 何があったんだ?」
「べ、別に、何も……。ただ、一階のソファーベッドで寛いでいたら、偶然フレンダに会って声をかけられて、その後、偶然にヴィクトリア・クライフィールドもそこに現れたってだけだよ」
「怖い偶然だな……」
それにしても、あの二人…………というよりフレンダのほうがだが、すごくヴィクトリア・クライフィールドのことを意識していたな。もしかしたら、『ミラージュ家』と『クライフィールド家』って何か因縁のようなものがあるの……かな?
「まあ、あの二人の出現で少し気をとられてしまったが、今は、それよりももっと大事なことがある……」
「そ、そうだ。何かあったのか?」
「ああ……。はっきり言おう…………今、わたしたちは、かなり『やっかいなこと』になってしまっている」
「……えっ?」
『やっかいなこと』……?
「ああ……まだ確認中ではあるので確証はないが…………どうやら、『わたしが聞いていたアナザーワールドとは少し様子が違っている』ようなんだ」
「えっ? ど、どういう……」
「さっき、カフェで話した中で『南地区』の話を覚えているか?」
「あ、ああ……俺たちは、そこ出身ってことになっているって話だろ?」
「ああ。あとは……」
「あとは…………俺たち以外に『別の媒介役がいる』って言ってたよな?」
「そう……確かにわたしはそう言った。しかし、これこそが、この世界の様子がおかしいと思う『根拠』……『理由』なんだ」
「えっ? それって、『もう一人の媒介役』がいることが…………てこと?」
「ああ、そうだ。わたしが『神様』から聞いていた『アナザーワールド』には、私たち以外の『媒介役』が存在するなんて聞いたことがない……というより、本来、あってはならないのだ」
「あってはならない…………?」
「ああ。それは、この『媒介役』とは、どの世界でも『神に一番近い存在』に他ならない。そんな『チートな存在』であるため…………」
あ、今、『チート』っつった。
『チート』って言葉は、『異世界』でも使われているほどの『超共通言語』だったんだな。
まあ、そんなことは今はどうでもいいのだが。
「そんな……『チートな存在』である『媒介役』が一人、存在するだけでも、その『世界』の『秩序』に影響を与える。まして、この『アナザーワールド』には、『わたしと隼人』と『媒介役』が二人もここに存在している。これだけでも、この『世界』では『大きな負荷』になっているはずなのだ。それなのに…………わたしたち以外にも『媒介役』がもう一人存在するだなんて……」
シーナのその話は、隼人が考えている以上に『重要な話』なのだが、今の隼人ではその『重要さ』が理解できないでいた。
シーナが懸念しているのは、この世界に『媒介役』が一人でも多く存在すると、それだけ、この世界に『大きな負荷』をかけることになる。『大きな負荷をかける』ということは…………『秩序』に影響を与える。『秩序』に影響を与えるということは…………『世界が乱れる』ということにつながる、ということなのだ。
「しかし、問題は…………これだけじゃない」
「えっ? まだ、他にもあるってのか?」
これだけでも、大分、キツそうな感じなんですが。
「ああ。はっきり言って『最悪』だ。もうこの事態になっては『秘密』にする理由もないので話すが、実は、わたしが持っている『メモ帳』なんだが…………あれは、実は、『神』との『直接交信』するための道具なんだ」
「か、神との……『直接交信』?」
「ああ。お前に最初に見せたとき、文字が書いていなかったのは、わたしがただ、単純に『表示』を消しただけだ」
「『表示を消した』? い、いや、シーナ、お前、言葉の使い方間違ってるぞ。あの『メモ帳』は、ただの『紙』じゃねーか。『表示を消した』って…………なんで、そんな『変な表現』使うんだよ?」
「『変な表現』ではない。あれは、『紙』みたいな材質だからわからない者からすれば、それがパソコンみたいな『モニター』であるとは気づかないが、あれは、れっきとした『モニター』に近いものなんだ」
「そ、そんなっ?! じゃ、じゃあ、最初に言っていた『メモ帳』の説明もウソだったってことかよ?!」
「すまん……。ただ、本来であれば、この『メモ帳』のことなんてお前には別に必要のない情報だし、お前にはそんな『こちら側の事情』なんて知る必要はないのだ。元々、この世界の本来の目的は、『お前が死んだ原因を探し出す』ということだけであり、その『記憶のカケラ』を持っている『管理者』に会って一つ目の目的を果たし、あとは、学校を卒業するまで、この世界で生活をする…………ただ、その程度の『予定調和』だったんだ」
「『予定調和』……?」
「ああ、『予定調和』だ。隼人のような『迷える魂』の場合、神が、魂に応じて『適切な予定調和』を用意する。そして、わたしの本来の役目である『指導者』は、そんな『迷える魂』がその『予定調和』を踏み外さないようサポートする。わたしと隼人は、本来、そういう関係なのだ」
「ま、『迷える魂』と『指導者』……」
「だから、お前には、いろいろと隠していることもあることはあるのだが、それは、お前の『死んだ原因を探す』という目的を果たせるようにサポートしているため……ということでもあるんだ、わかるか?」
「ま、まあ、一応……」
シーナの言っていることは確かに正しいとは思う。だが……何か……面白くない。そんな思いが頭をグルグル駆け巡っているため、シーナのウソに対してのイライラは収まっていなかった。
「なんだ? やっぱり嫌なのか?」
「まあ、嫌かどうかと聞かれたら、そりゃ、嫌だ…………でも、お前の言っていることも……理解はできる。だから……だからこそ、余計にイライラする」
「…………そうか、すまない。ただ、隼人には悪いが、今は、そんなことを言っている場合では無いんだ。現状、我々は『予定調和』から逸脱している状態と思われる。それは、つまり…………『緊急事態』を意味する」
「緊急事態……」
「ああ。さっき、寮にいたとき、何度か『メモ帳』から『神様』に連絡を取ろうとしているのだが、向こうからいっこうに返事が無い…………それも、含めて『緊急事態』ということでもある」
「そ、それじゃあ、その……『予定調和』から逸脱…………外れた俺たちは、これからどうなるんだ?」
「とりあえず『神様』と連絡を取って、それから指示を仰ぐ必要がある。ただし…………最悪の場合……つまり、『神様』と連絡が取れなかった場合は…………わからない」
「わ、わからない……って?! そんな無責任な…………」
「すまん。ただ……『神様と連絡が取れない』なんてことは、これまで一度たりともないから大丈夫だとは思う。もしかしたら、単に『神様』のほうで『何かしらの事情』があっただけ……というオチになる可能性もあるがな」
「そ、そうであることを…………願うよ」
「ふー、まったくだ。とりあえず、連絡がついたらすぐに指示を仰いで、隼人に報告する。それまでは、あまり派手な行動は控えてくれ」
「わかった……」
このときの二人には、まだ、『神様に起きている異変』に気づけるわけもなかった。
「更新あとがき」
こんばんわ。
沖縄は今日、気温は18℃……でも、日中は日差しが強く、普通に春を通り越して、夏の陽気でした……、
mitsuzoです。
二月ももう終盤、気づけば三月が迫ってますね。
『二月終盤』と『OVL文庫大賞』の『一次審査期限』です。
正直、無いだろ~とは思いつつも、一応、発表まではワクテカで審査発表を待っています。
一次審査に残っても、残らなくても、すごく良い体験ができ、すごくプラスになったので参加できてよかったです。
これからも、ネット小説は楽しく書いていきたいと思います。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




