第二章 【043】
【043】
――生徒会室を出た俺たちは、その後、別れて、寮に戻り、ランチを済ませ、部屋の荷物整理をしていた。荷物は特に何も持ってきていないので本来なら荷物なんてあるはずないのだが、リサがそこも気を遣っていたらしく、生活必需品が一通り用意された荷物が届いていた。ちなみに、制服はもちろんのこと、それ以外の私服や靴、下着、もう本当に生活に必要なものすべてを用意してくれていた…………幼女、すごすぎっ!
そうして、そのリサからの荷物を整理していたのだが、けっこう数が多く、気がつけば、外はすっかり夕暮れ色に染まっていた。
一通り、荷物整理も終わり、一段落していると、
「あ、そう言えば……シーナと夜に落ち合う約束してたんだっけ?」
と、シーナとの約束を思い出し、少し早いが、まだ外が明るい内から会ったほうが良いかと思い、女子寮へシーナを迎えにいくことにした。
――女子寮前。
シーナには事前に『夜七時頃に女子寮のエントランスで落ち合おう』という話をしていたのだが、その時間よりも一時間くらい早く着いたので、俺は、とりあえず女子寮のエントランスでシーナが降りてくるのを待つことにした。
ちなみに、『夜七時頃に女子寮のエントランスで落ち合おう』というように、この世界は、地球と同じく『自転は一日二十四時間周期』ということが、シーナがアイリにうまく聞き出してくれたことにより判明した。
俺は、女子寮のエントランスにある座り心地の良さそうなソファーベッドに腰掛け(実際、素晴らしい座り心地でしたっ!)、これまでのことを、ふと、考えていた。
『アナザーワールド』…………ここは『時間』だけじゃなく『言葉』や『季節』といったものまで、どうして『地球と同じ』なのだろう。
俺がこの世界に転生した理由である『自分が死んだ原因の記憶をみつけるため』ということと、ここの『地球と似た世界』というのは『ただの偶然』なのだろうか? だとしたら、それは、あまりにも…………『偶然過ぎる』ように思える。ただの『偶然』というよりも、むしろ、『必然』として考えたほうが、まだ、しっくり来る…………ような気がする。とは言え、すべてが『必然』として考えた場合でも、それはそれで、答えが出てくるわけではないし、むしろ、結局、悩むことになるのだけれども……。
神がこの世界に転生するように仕向けたわけだから、当然、神だけがこの『理由』を知っているのだろうし、また、その『答え』を知っているのだろう…………とすれば、シーナも『神側の存在』である『指導者』なのだから、シーナも『答え』を知っているのだろう、と最初は思っていた。だが、ここへ来て、シーナの様子を見る限り、どうも、そんなことは無いように思えてきてならない。
いや、むしろ、『予定調和が狂った』という感じだろうか。
そもそも、この『落ち合う約束』だって、シーナから言い出したものだったし…………それに、今日のHR終了後に行ったあのカフェあたりからのシーナの様子も気になる。昨日、転生した当初は余裕を持ってアナザーワールドのことを説明していたのに、カフェでのシーナは『あいまいな物言いばかり』の説明だった…………ということは、やはり、現在、シーナからすると、『予定していた状況』から『逸脱』しているのかも知れない。
いずれにしても、まずは、シーナにこの辺の事情を聞いてみないとな……。
と、女子寮のエントランスで悶々と考え事をしていると、
「あらっ? あなた…………ハヤト? どうしてここにいらっしゃるのですか?」
「あ、フレンダ…………」
声をかけてきたのは、フレンダ・ミラージュだった。
「あ、いや~、実は妹を……シーナをここで待っているんだよ」
「まあ、シーナを? 呼んできましょうか?」
「あ、いや、そんな……だ、大丈夫だから。俺が勝手に早くここに着いちゃっただけだから気にしないで…………あ、ありがとう」
「そ、そうですか? わかりましたわ……」
何と言うか……最初、入学式の第一印象は『威張った金持ち娘』という最悪なイメージだったけど、こうやって話をしてみると、すごく気遣いのできる子なんだな、と感心させられる。もちろん、『特別招待生』という『肩書き』があるから、こういった感じで接してくれているんだろうけど……ね。
「あ、ところで、ハヤト…………」
「んっ?」
「……明日の約束、絶対に忘れないでください」
「明日?…………ああ、授業終わった後、てやつね?」
「ええ、そうですのよ。ちゃんと覚えておきなさい」
「わ、わかってるよ……」
「あと、このことはシーナとアイリって子には…………」
「内緒……だろ? 大丈夫だよ」
「……よろしくお願いしますわ」
そうして、フレンダ・ミラージュとけっこうリラックスして和気藹々と話をしていると、フレンダ・ミラージュが来たところとは逆の方向から声をかけられた。
「おおっ!…………そこにいるのは『特別招待生のハヤト君』じゃないかーっ!」
少し嫌味な言い方で声をかけてきたのは…………生徒会長ヴィクトリア・クライフィールドだった。
「か、会長……っ!?」
「なんだ~? こんな女子寮で、こんな時間に何をしている? まさか…………夜這いか? なるほど、やはりそうか……では、『鉄拳反省』をお見舞いしてやろう」
ヴィクトリア・クライフィールドは、相変わらず、『自己解釈論』を展開し、腕まくりをしながら近づいてきた。
「ちょ、ちょっと会長っ!…………お、俺は何も言っていないし、そんなことをしに来たわけじゃないですからーーっ! その自己解釈のクセ、やめてくださいーーっ!」
「ハッハッハ…………冗談だ、冗談」
「…………」
あんたの場合、本気か冗談かわかりづらいんだよっ!
と、声に出さず心の中でヴィクトリア・クライフィールドに対して突っ込んでいると(声に出せない自分が悲しい)、
「ヴィ……ヴィクトリア・クライフィールド…………!?」
フレンダ・ミラージュは、さっき話していた表情とは打って変わって、厳しい表情でヴィクトリア・クライフィールドのほうに目を向けた。
「んんっ? おおっ! お前は、確か…………ミラージュ家の娘!」
「フ、フレンダッ! フレンダ・ミラージュですわっ!」
「そうか。フレンダ・ミラージュ君という名か。はじめまして……」
と、ヴィクトリア・クライフィールドがフレンダ・ミラージュに握手を求めた。しかし、
「……ふんっ!」
パシッ!
「フ、フレンダ……ッ!」
なんと、フレンダ・ミラージュは、ヴィクトリア・クライフィールドから『あいさつの握手』として求められた右手を払いのけ、
「わたくし……フレンダ・ミラージュ、『凍結天女』のことを知らないとは…………つまり、わたくしのことは眼中に無いということですね? 会長…………いやさ、『クライフィールド家の天才児』…………『ヴィクトリア・クライフィールド』っ!」
と、フレンダ・ミラージュはいつになくムキになっていた。
「すまない。わたしは確かに君の事は知らないが、『ミラージュ家』というのは………………よーく知っている」
すると、ヴィクトリア・クライフィールドも表情が少し真剣さを増し、同時にオーラを全身から発散し出した。
「くっ!…………な、なんて『威圧感』…………ですの」
フレンダ・ミラージュは、ヴィクトリア・クライフィールドの『威圧感』に、少し、顔を濁した。
顔を濁したフレンダ・ミラージュと、『威圧感』をどんどん上げていくヴィクトリア・クライフィールドが対峙してると、『一人の少女』が二人の間を割るように入ってきた。
「お兄ちゃん、お貸りしまーーすっ!」
「!?…………シ、シーナッ!」
と、シーナは俺の手を掴み、そのまま、フレンダ・ミラージュとヴィクトリア・クライフィールドに一言挨拶して、その場を走り去っていった。
「なっ…………シ、シーナッ?!」
「ふっ…………シーナ君。相変わらず、かわいいな」
フレンダ・ミラージュは、シーナの突然の出現に驚き、ヴィクトリア・クライフィールドは笑いながら一言つぶやく。そして、二人が去った後、
「おい、ミラージュ家の娘っ!」
「な、なんですの……?!」
「私に名前を覚えて欲しくば…………『全地区魔法士大会』で勝ち上がってこいっ!」
ヴィクトリア・クライフィールドは、フレンダに対し、煽るような発言をした。
「望むところよっ! むしろ、そのつもりでしたのよっ! 絶対に『本選』に勝ち上がって、あなたと勝負しますわっ! 楽しみに待っていてくださいですわっ!」
フレンダ・ミラージュも、ヴィクトリア・クライフィールドの『威圧』に負けず、その挑発に真っ向から答えた。
「ふふふ…………楽しみにしているぞ、ミラージュ家の娘」
そう言うと、ヴィクトリア・クライフィールドはその場から去っていった。
「あ、あれが…………あれが、あの有名な『クライフィールド家の天才児、ヴィクトリア・クライフィールド』。噂にたがわぬ、バケモノ…………ですわね」
そう言うと、フレンダ・ミラージュは、いつの間にか、力いっぱい握り締めていたコブシを開いてみた。すると、その手の平は汗でビッショリと濡れていた。
「更新あとがき」
こんばんわ。
今月、もう休みが無い……、
mitsuzoです。
二月いっぱいまでずっと仕事ということになり、少し、凹み気味な今日この頃。
少し更新遅れてしまい、申し訳ありません。
でも、その分、ゆっくりと記事を書けたので、すこし気を楽にして作業できました。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




