第二章 【042】
【042】
俺たち三人は、『生徒会長ヴィクトリア・クライフィールド』に促され、『生徒会室』の中に入った。
「こ、ここが……」
「せ、生徒会室……」
「す、すげーな、おい……」
この本館2Fをまるごと生徒会で使っているだけあって、『生徒会室』の中は思ってた以上に広く、たぶん、最低でも教室の二倍の広さはあるように思える。壁のほうに目を向けると、高価そうな絵画がきれいに並べて飾ってあり、それがこの部屋の豪華さを演出していた。中央には大きなテーブル……というには言葉が足りないくらいの重厚で存在感のあるテーブルが置いてあった。
「さて……早速、話なのだが、まず、アイリ君…………君はここでちょっと待っててほしい。今、お茶と菓子を用意するから…………おい、すまない、誰かお茶と菓子を。そして、シーナ君とハヤト……君たちは私の個室、『生徒会長室』に来てくれないか、そこで話をしよう」
「わ、わたしは、その話に一緒に参加するのは……ダメ、なのですか?」
「……すまない、アイリ君。この話に関しては席を外してほしい。これは、わたしと彼ら二人だけの話としたいのだ…………わかってくれ」
「そ、そうですか……」
「少しの間だけさ……少しさみしい想いをさせるが、それまではこちらで用意するお茶と菓子を楽しんでいてくれ」
「わ、わかりました……」
「すまないね…………では、二人とも行こうか」
「「わ、わかりました……」」
そうして俺とシーナは、『生徒会長室』へと足を踏み入れた。
「「こ、ここが、『生徒会長室』ーーーーっ?!?」」
俺とシーナは『生徒会長室』に入った瞬間、『どこの女の子の部屋だよっ!?』というツッコミを心の中で入れずにはいられなかった。
そこは、まるで『ファンシーグッズ専門店か?』と勘違いするくらいの空間だった。ピンクの壁紙に、ピンクの絨毯、そこかしこには『くま』や『ねこ』のぬいぐるみ、小物はハートの模様であしらったものばかり…………正直、生徒会長のイメージとはまるで『真逆』のような部屋だった。
「どうした? まあ、さすがに、ここは自分の家ではないから少し地味な装飾になっているがそこは勘弁してくれ……」
いやいやいやいや…………逆、逆っ!? インパクト強すぎだからっ!?
て言うか、生徒会長の実家の部屋はどういう状況なんだよ?!
わたし、気になりますっ!
それにしても、この生徒会長……ヴィクトリア・クライフィールドは本当に感覚が何というか、一般人とは大きく逸脱しているなと感じさせるにはわかりやすい部屋だった。
「まあ、二人ともとりあえず空いている席に腰掛けてくれ」
「「は、はい……」」
俺とシーナは近くにあったピンクのチェック柄のイスに腰掛けた。
「さて、と……それでは、早速話をさせていただくとしよう、アイリ君も待っているしな」
「「は、はい……」」
「まず……………………私はお前たちの正体を知っている」
「「えっ……?!」」
な、何だ?
今、何て言った?
『俺たちの正体を知っている』……だ……と?
「お前たち二人は…………この世界の人間ではないだろ?」
「な……っ?!」
な、何でっ!?
何で、生徒会長……ヴィクトリア・クライフィールドがそのことをっ?!
シーナのほうを見てみると、シーナも同じように驚いた顔をしていた…………ということは、シーナ的にも『予想外』の展開だってことか。
「やはりそうなのか…………話を聞いたときには半信半疑だったが、お前たち二人の反応を見て確信したよ。まさか本当……だったとはな」
質問をしたヴィクトリア・クライフィールド本人も俺たちの反応を見るまでは疑っていたということもあって、俺たちの反応を見てかなり動揺しているようだった。
「だ、だれから、そのことを…………聞いたのですか?」
すると、シーナがヴィクトリア・クライフィールドに対して厳しい顔つきで質問をした。
「それは…………リサ……リサ・クイーン・セントリア女王陛下だ」
「「えっ……リ、リサから?!」」
「リサ・クイーン・セントリア女王陛下…………いや、『リサ』とは、副会長と同様、私の小さい頃からの幼なじみでな、元々、クライフィールド家と王室は昔から関係が深くて、それで、親同士も仲が良かったこともあって、よくお互いの家を行き来してはよく遊んでいたんだ」
「お、幼なじみ……」
「そして、そんなリサからお前たちのことは『以前』から聞かされていた……」
「以前……から?」
シーナが反応する。
「ああ。お前たちもリサから聞いてないか? リサの母親、イヴ様の『予言』と、リサの『天啓』の話を……。わたしはリサからしょっちゅう、その話を聞かされていてな……目を輝かせながら何度も同じ話をするもんだから、『前にも聞いた』……なんてことは言えず、ふふ……何度も聞かされたもんだよ……」
ヴィクトリア・クライフィールドは、そう言うと、そのときのことを思い出しているのか、少し、窓の外を見ながら、うっすらと笑みを浮かべていた。
「でも、まさか…………本当に『予言』や『天啓』どおり、『異世界の人間』が現れるとは…………さすがの私も驚いたよ」
「…………」
シーナは警戒を強めている。
「そして、なぜ、私がこんな話をするのか…………おそらく、君たちはそう思っているだろ? 心配するな、私はお前たちの『味方』だ」
「み、味方……?」
俺は生徒会長の意外な言葉に反応した。
「ああ……。さきほど、お前たちがHRを受けている間、リサがここへ来て、わたしに『協力』を依頼してきたんだ」
「協力……?」
「うむ。それは…………『お前たちが『異世界人』であるということを誰にもバレないようサポートしてほしい』とな」
「サ、サポート……?!」
「お前たちがどこまで知っているかはしらないが、今、この王国内部で少しゴタゴタがあってな……」
アイリがさっき言っていた…………あの『話』か。
「そんな内政状態の中…………お前たちが『予言』『天啓』どおり、『この世界』以外の『異世界』から現れた。もちろんこのことは裏で女王陛下の現政権を貶めようと企んでいる『国防軍幹部』たちにも知られている。そうなると、シーナ君やハヤトが『国防軍幹部』から誘拐や、最悪、殺される可能性も否定できないということでリサがわたしに『学校』内での『護衛・サポート』を依頼したってわけだ」
「こ、殺されるって…………そ、そんな…………大袈裟な」
「ふっ……、ハヤト。お前たちの世界がどういう世界だったか知らないが、今のリアクションを見る限りでは、ここよりも『平和な世界』なんだなと想像できる。だが、ここは違う。この世界では、リサのような考え方が、むしろ『常識的』なんだよ?」
「そ、そんな……」
ヴィクトリア・クライフィールドは、威圧するようなオーラを出して、そうハヤトに言い返す。
すると、そのとき、ドアが開き、
「もう会長……、そんな『異世界人』を脅すようなこと言ってどうするんですか?」
と、ドアの向こうの人物が、生徒会長にツッコミを入れた。
「んっ? おお……遅かったな、副会長…………ケイティ・ブランドンッ!」
「「ふ、副会長……?」」
俺とシーナがその副会長……ケイティ・ブランドンのほうに目を向けると、彼女は二人に微笑んで会釈をした。
「はじめまして……シーナさん、ハヤトくん。わたくしは生徒会副会長のケイティ・ブランドン。今、ヴィクトリア様から話があったとおり、ヴィクトリア様とリサ様の幼なじみで、ヴィクリア様の分家貴族の者です。どうぞ、よろしく」
と、ケイティ・ブランドンは二人にていねいに挨拶をした。
見た目、『ちょっと厳しい家庭教師』というコンセプトを感じさせるような栗色のショートヘアが、会長のヴィクトリア・クライフィールドとは違う『凛々しい女性らしさ』を醸し出していた。
「ぶ、分家貴族……?」
「はい……『分家貴族』とは、『名門貴族の分家』のことで、要は、『名門貴族』の身の回りをサポートしている貴族のようなものと思っていただければ結構です。ちなみに、わたくしの場合は『風属性の名門貴族・クライフィールド家の分家』ということになります」
「まあ、『分家貴族』とは言っても、私からすればそんなの関係ない…………ケイティは、ただの『大切な幼なじみ』だ」
「ふふ……ありがとうございます、ヴィクトリア様」
「だから、私としては、そのお前の言葉遣いも直したいのだがな……リサはともかく、私には『様』をつけなくても…………」
「ダメですよ、ヴィクトリア様。そこは最低限必要な『名門貴族への礼儀』ですから……」
「わかってるよ…………まあ、それくらい私とケイティはつながっているということだ」
「「は、はあ……」」
まあ、とりあえず、二人が仲良しなのはわかりました。
「とまあ、そういうわけで、幼なじみのリサから、君たち二人の『護衛・サポート』を頼まれたってことだ。そして、私もケイティもそのリサの依頼を全面協力していくつもりだ」
「私もケイティも……?」
シーナが、ヴィクトリア・クライフィールドのその言葉に反応した。
「うむ……察しがいいな、シーナ君。実は、このリサからの依頼は、表立って協力することができなくてな…………基本、このサポートの話を知っているのは私とケイティだけだ」
「二人だけ? そ、それって……?」
「……ああ、サポートできるのは、あくまで『私とケイティふたりだけ』で、生徒会自体でサポートするということではない」
「理由は……」
と、ここで、副会長のケイティ・ブランドンが代わって説明をする。
「……理由は、この生徒会の中にも『王立軍幹部の内通者』がいる可能性があるからです……」
「ス、内通者……?」
「はい。なので、国費で賄われている生徒会を使ってそんな依頼を協力してしまうと、この『内通者』が『女王陛下が国費を使って自身の営利目的のために無駄遣いをしている』などといった内部告発をして、いろいろと後で面倒になりかねないという懸念があるので、二人のサポートはあくまで『リサ個人の依頼』として、わたくしとヴィクトリア様二人だけで受けるという形でしかできないというわけなんです」
「……な、なるほど」
「……ですが、わたくしとヴィクトリア様は『生徒会長』と『副会長』というポジションです。なので、ある程度は、生徒会は利用できますからサポートのほうは大丈夫だと思いますのでご安心ください」
「まあ、そういうことだから、お前たちはこれからの学校生活で不都合が出てきたときは、この生徒会室に来て、私か、副会長のケイティに相談してほしい。そうすれば、こっちとしても、よりサポートしやすいからな」
「「か、会長……」」
「ヴィクトリア様の言うとおりです。何か困ったことがあったら、ここに来てわたしか会長を呼んでくださいね。ちゃんとサポートしますから。だから……安心して学校生活を楽しんでください」
「「ふ、副会長……」」
な、なんとも心強い言葉だった。
この二人が、まさか、俺たちのサポート……味方になってくれるだなんて。
一時はどうなるかと思っていたが、まさか、リサが俺たちに対して、そこまで考えて、そこまで行動してくれていたとは……。
リサ……すげえよ、リサ。
「というわけで話はここまでだ。とりあえず、このことはこの四人だけの秘密だ、いいな?」
「あ、あの……」
「んっ? 何だ、シーナ君? 質問か?」
「は、はい……あの、このこと、アイリに話してもいいですか?」
「? なぜだい?」
「彼女はわたしとお兄ちゃんがこの世界に来てから、いろいろと世話してくれている子なんです。だから、アイリにも話をして一緒に協力してもらいたいんです…………ダメ……でしょうか?」
シーナは少し甘える感じで、ヴィクトリアに訴えた。
「あぁ……なんと、かわいらしいっ! そんな、かわいらしいシーナ君の頼みとあらば…………断るわけにはいかないな」
「えっ?! そ、それじゃあ……」
「……アイリ君にも協力してもらうよう頼んでください」
「あ、ありがとうございますっ?!」
「でも、このことはアイリ君にもちゃんと『秘密』だと伝えるんだよ?」
「は、はいっ! わかりましたっ!」
「ふふ………まったく、しょうのない子だ…………愛い奴め」
ヴィクトリアさん、『チョロイン』でした。
と言ったわけで、『生徒会』の『特別招待生の捜索』の目的は、『リサからの依頼』で『俺とシーナをサポートする』という話を伝えるためだった。それまでは、どうなることかとヒヤヒヤもんだったが、まあ、結果オーライということでようやく安心した。
そうして、俺たちは会長と副会長にあいさつをし、生徒会室を出て、寮へ戻っていった。
「更新あとがき」
こんばんわ。
昨日の沖縄マラソン、何とか完走できました。
mitsuzoです。
明日は仕事が始まり、朝が早いのでさっさと寝たいと思います。
もっとゆっくり記事を更新すればよかったのですが、あれよあれよと気づいたら、もう寝る時間でした。
次の更新のときは「あとがき」をゆっくり書けるように余裕を持って作業をしたいもんです。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




