第二章 【039】
【039】
――俺とアイリはシーナに無理やり引っ張られ、『中央区のオサレカフェ』から出て、学校の教育棟……通称:本館の2Fにある『生徒会ルーム』へと向かっていた…………目的地は『生徒会室』。シーナが、『どうせ無視できない相手ならこっちから乗り込んでやろうじゃないのっ!』という威勢により、急遽、『生徒会室ツアー』が追加された。
まだ入学式初日ですよ? シーナさん?
もう少し、のんびりしてもよかったのでは?
などとは、俺もアイリも、シーナの気迫に負けて言えず、結果、このようなツアーの運びとなった。
わざわざ、こっちから出向くって…………あっちが気づくまで待ってもよかったんじゃないか? とも思ったが、しかし、シーナのように逆に、こっちから出向くというのもアリか? と内心、俺的にはどっちつかずな感じなところもあった。だから、こうやってシーナの勢いを止められなかったというのも一理ある…………おそらく、アイリも同じ心境だろう。
とにかく、シーナのその判断を信じ、俺は覚悟を決めて乗り込むだけだ…………まあ、あの『生徒会長』……『ヴィクトリア・クライフィールド』の敵にならない……それだけで充分だな、うん。
――弱気な覚悟の隼人であった。
外に出ると、『太陽』……なのか? とにかく日差しが入学式のときと比べて大分、強くなり、制服が長袖ということもあって、少々汗ばんできている。そう言えば、これまでいろんな出来事があって、つい蔑ろにしていたが、そもそもこの世界の『環境』……というか、この『日差しの正体』は何なのだろう?
何となくだが、『太陽』の可能性は強いように思える。理由はさっきのHRで『メガネツン女史』……サラ・スカーレット先生が『一年間のスケジュール』という話をしたからだ。
『一年間のスケジュール』……『年次スケジュール』。
その言葉は、つまり…………『暦が存在する』ことを表している。
それに『メガネツン女史』は、この『年次スケジュール』の話で、『四月』とか『夏』といった『月』や『季節』のことも言っていた。それを聞いた限りでは、このアナザーワールドは『地球と似たような環境』だと言える。つまり、『太陽』が存在し、このアナザーワールドも、宇宙のどこかに存在する『星のひとつ』で、それが『太陽の周り』を周回していて、それが『地球と同じ一年周期』ということなのだろう。
だから、『月』や『暦』、『季節』といったのが存在する。
ということは、もしかしたら『時間』『時刻』も存在するはず…………むしろ、そうじゃないと『季節』や『暦』なんて存在できないからだ。
だから、故に、それは存在する…………はず。
今、そのことを思い出したら、悶々としてきてしまい、つい、俺はアイリにその質問をしようとして声をかけていた。
「そう言えばさ、アイリ……」
すると、前を歩いていたシーナが何かを『察知』し、俺のところに来て、いきなり『頬つね』を発動させた。
ぎゅうううううーーーー。
「い、痛ひゃい、痛ひゃい……っ!? にゃ、にゃにっ……?!」
すると、シーナが耳元に顔を寄せ、小声で、
(おいっ! 隼人っ! お前、今、もの凄く『後先考えてないような質問』をアイリにしようとしただろ?)
(へゃいっ……?)
(何となくだが、この世界についての話とか……)
(ギクッ……!)
(バカかっ、お前はっ! せっかくアイリに信用してもらったばかりだってのにっ!?)
(れ、れも……)
(わたしがそこは質問するからお前は余計なことは言うなよっ! いいなっ?)
(ひゃ……ひゃい)
「どうしたの? シーナ、ハヤト? 兄妹ゲンカ?」
アイリが様子を伺う。
「ま、まあ、そんなとこ。お兄ちゃんの足取りが重そうだったから気合を入れてたの……ねっ? お兄ちゃん?」
「は……はい、そうです。シーナの言う通りでございます」
僕はもうシーナについていきます。
「ふーん……何か面白いね。ハヤトは『彼女』じゃなく『妹』の尻に敷かれてるんだね」
「はは……は………………面目ない」
うな垂れる隼人。
「だって、しょうがないよ。こんなお兄ちゃんなんだからっ! わたしがしっかりしないとねっ!?」
腰に手を当て、自慢気に語る妹…………風情のシーナ。
「ところで……」
と、ここで、シーナがおもむろにふっと言葉を漏らす。
「ここ最近、暖かいね……」
誰にというわけでもなく、ただ、『ふと』……言葉を……漏らした。
そして……、
「そうだね~……もう『春』だからね~、先月まではけっこう寒かったけど、もう、暖かくなるのかも」
と、アイリがそのシーナの言葉に反応して応対する。
そして、その一言にはいろいろと情報が詰まっていた。
この世界……『アナザーワールド』には、やはり『季節がある』ということ。
そして、『先月』という言葉からもわかるとおり、やはり『月の単位』も存在する。
もしかしたら『日』や『曜日』とかもあるのかも……。
そう考えている内に、シーナはアイリとの会話を続ける。
「そうだね、もう『春』だもんね……」
と、シーナは『鸚鵡返し(おうむがえし)』の相槌。
「うん。入学式が今月の四月から始まって……それから夏、秋、冬。たぶん、あっという間だよ?」
「そうだね。でも、わたしとしては…………『太陽』のスピードを遅くして、一年生をゆっくり満喫したいけどな? そうしたら最下級生という『逆特権』で、先輩方にもずっと甘えられるじゃない?」
「なるほどっ! ふふふ……うん、それはそうかも。そういう考えもあるね。でも…………それを言うなら、『太陽のスピードを遅くする』じゃなくて『この星』……『アナザーワールドの公転スピードを遅くする』だねっ!」
「「!?」」
『この星』……『アナザーワールド』?
俺と……シーナも、さすがに、その『アナザーワールド』の言葉に反応した。
「えっ? ど、どういうこと?」
シーナはわざと聞こえないフリをして言葉を確認した。
「だから~……このわたしたちの住んでいる星……『惑星アナザーワールドの公転スピードを遅くする』が正しい言い方だよってことっ!」
アイリは、シーナが言った『太陽のスピードを遅くして一年生をゆっくり満喫したい』という表現は間違っていて、それを言うなら『惑星アナザーワールドの公転スピードを遅くする』という表現が正しいんだよ、ということをシーナに説明していたのだが、シーナからすれば、そこに反応したのではなく、この星の名前……『アナザーワールド』という名前に反応したのであった。もちろん、それは俺も同じだ。
この星の名前自体が…………『アナザーワールド』なのかよ。
俺は、てっきり…………『アナザー』=『もう一つの……』、『ワールド』=『世界』で、
『アナザーワールド』=『もう一つの世界』=『異世界』
という意味だけで使っていた言葉だと思っていたのに…………そうじゃなくて『この星の名前』だったとは…………これも神の仕業だとしたら、この星の名前にも意味があるってことなのか?
とにかく、シーナの表情を見る限りでは『シーナ自身』も知らなかったように見える。あの神様からもらったっていう『メモ帳』には書いていなかった……ということか。『この世界の取扱説明書』と言ってたわりには、こんな『初歩的』なことは書いていなかったようだな。
それにしても、『暦』といい、『季節』といい、『公転』といい…………まるで『地球』とほとんど一緒じゃねーか。
こんな…………俺が『前世』にいた『地球』とここの環境があまりにも似すぎているのは…………何故だ?
こんなことできるのは、おそらく『神様』だけだろう。
では、ここまで『地球』と似た『環境』、『言語』を用意した『神の仕業』の意味は?
神様は…………『俺が前世で死んだ原因を思い出すため』だけにこの世界を作ったっていうのか?
神様が、こんな『大袈裟』に『アナザーワールド』という惑星自体を作り出す必要があった俺って、
『前世で何者で、何をやったんだよ?!』
そう考えると、本来の目的である『管理者探し』を『何よりも優先しなければ』……と思ってしまう。
すると、また、
ぎゅうううううーーーー。
「い、痛ててっっ…………シ、シーナ?!」
シーナは、また耳元で小声で言う。
(お前の考えていることはだいたい察しがつくが、今はそれについて深く考えるな。今は目の前のことだけに集中してろ……いいなっ?!)
(わ……わかった)
(今夜、そのことも含めて一緒に説明してやる。それに、わたしも……少し……様子がおかしいと思っているのだ)
(……えっ? シ、シーナが? で、でも、お前は『神様側の存在』だろ? それなら、すべて把握しているものじゃないのか?)
(本来はそのはずなのだが…………少し違っている……みたいなんだ)
(そ、そんな…………それって………?)
(と、とにかく、今は気にするな……わ・か・っ・た・な・?)
さらに、追い討ちの,
ぎゅうううううーーーー。
「わ、わひゃりまひ……た……、わひゃりまひた、から…………い、痛ひゃい、痛ひゃいよ、シーナ。は、離ひて…………」
そうして、ようやくシーナの『頬つね』から開放された俺。
そして、それを見ていたアイリから、
「ハ、ハヤトお兄ちゃんは大変だね~。あと、シーナもお兄ちゃんには特別厳しいし…………シーナ、あんまり『お兄ちゃんイジメ』はやめなさいよ?」
「アイリ……違う、これはイジメじゃなくて…………『愛』よ、『愛』。だから、いいのっ!」
うわー、どこかの国の『体罰教師』が言いそうなセリフだな。
「そうだよ……ねっ? お兄ちゃん?」
と、俺のほうを見て、そう問いかける妹は『鬼のような形相』でした。その表情からは、
「話合わせろや、おおっ?!」
みたいな『広島弁』のような感じで、そう言わんとしていることがすごく伝わりました。なので、
「はは……そ、そうなのかな?」
これが精一杯でした。
「ハヤト…………なんて不憫な兄」
アイリの『残念そうな顔』が印象的でした。
「ところで、アイリ……今、何時?」
すると、また、唐突にシーナがアイリに『さりげなく』、『時間』を聞いた。
「えーっと…………『11時10分』くらいね。確か……『13時』から昼食って寮のスタッフが言ってたから、それまでには寮に戻らないと…………『昼飯抜き』になっちゃうっ!? 少し、急ご、急ごっ!」
と、アイリは左手にはめていた時計らしきものを見て、そう言うと、今度はアイリがシーナと先頭を入れ変わって歩き出した。
自然に、さりげなく、シーナが言った今のセリフ……。
そして、アイリの返答……。
やっぱり、この世界には『地球』と同じように…………『時間』が存在した。
しかも、今のアイリのセリフの『時間』を聞く限り、地球と同じ『一日24時間制』と思われる。
となると、この星……『惑星アナザーワールド』は『自転』をしていて、『一周』するのに『24時間』かかり、それが『一日』となり、また『太陽』の周りを周回している『公転』も、『メガネツン女史』が言っていた『年次スケジュール』と照らし合わせれば、『公転周期は365日』……それで『一年』ということ。
おそらく、ほぼ『地球』と同じ『環境』と言える。
まだ、憶測の部分もあるが、まず、間違いないだろう。
『自転、公転の周期』も一緒。
『自転』や『公転』……『時計』や『季節』といった、『表記・名称』も『地球』とまったく一緒。
ここまで来ると、逆にもう、開き直ってしまう。
まあ、この件は、今夜、シーナに確認するということで、今はもう考えるのは…………やめよう。
今は『喫緊の問題』……『生徒会との顔合わせ』だ。
『生徒会長』……『ヴィクトリア・クライフィールド』。
まずは、そこからだ……。
そうして俺たちは学校に戻り、本館2Fへと入っていった。
「更新あとがき」
こんばんわ。
一言、何も準備してませんでした……、
mitsuzoです。
そろそろ、話数も『39回』。次回で『40回』となります。
まあ、一話一話の文字数が『2~3000文字』が平均となっているので、つい『話数』が増えてしまうのですが、まあ、そこはしょうがないかな~と思いつつ、書いております。
そろそろ、『人物紹介』とか『あらすじ』とかをまとめたものを書こうと思っています。
と言っても、すぐにはスケジュール的に難しそうなので、どうなるかはわかりませんが……。
次回は、『生徒会』、そして『生徒会長 ヴィクトリア・クライフィールド』との『初顔合わせ回』となる予定です。
お楽しみに。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




