第二章 【037】
【037】
「わたしたちが『南地区出身とする理由』…………それは、私たち以外の『媒介役が存在するため』ということと、そこには『精霊魔法』を唯一使える『半妖精』が存在するためだ」
「ハ、半妖精?」
シーナは、アイリが戻ってくるのを警戒しつつ、説明を捲くし立てる。
「そうだ。この『半妖精』とは、『人間族』と『妖精族』の間に生まれた者たちのことを言うのだが、その『半妖精』が住んでいるのが、この南地区なんだ」
「『人間族』と『妖精族』の間に生まれた者…………『半妖精(ハーフエルフ』……」
「ああ。そして、この『半妖精』の使う『精霊魔法』というのが、『神通具現化』に近い魔法なんだ。だから、私たち『媒介役』が身を隠すには適している地区ということなんだ」
「ディ、神通具現化に近い魔法…………?」
「ああ。前にも話したが、『神通具現化』は『神の力』を我々が『媒介役』となって発動させるものだが、この『精霊魔法』の発動方法もそれに近い。『精霊魔法』の場合、『構成元素』を利用するところまでは『人間族』が使う『魔法』と一緒だが、彼ら『半妖精』たちは『召喚』を使って力を発動させる」
「召喚……?」
「ああ。『召喚』とは、『各属性の構成元素を司る神』を呼び出し、一定時間、自分へ『憑依』させ、力を発動させる。だから、その一定時間の間、そこにいるのは『属性を司る神そのもの』と言っても、まあ言い過ぎではないだろう」
「か、神そのもの……?! すごいな……『召喚』って」
「まあな。ただ、その『半妖精』が使う『精霊魔法』である『召喚』も、『人間族』と同じように『構成元素』を利用しないと使えないし、その神が『憑依』する時間もかなり短い。なので、我々『媒介役』が使う『神通具現化』のように自在に力を行使できないのが『召喚』との違い…………といったところだな」
「……なるほど」
「とは言え、人間族の中で生活する上で……しかも、『学校』での生活となれば、『神通具現化』を使う必要はこの先も増えていくだろう? でも、力を発動させたら『魔法を使う人間族の社会』ではいろいろと、目立ち過ぎる。なので、神は『南地区出身』という指示を出してきたということなんだ。そうすれば『神通具現化』を発動しても『これは、精霊魔法ですっ(キリッ)!』と、まあ…………ぶっちゃけ、しらばっくれることができるからな」
本当にぶっちゃけやがった。
まあ……『隠れ蓑』と言ったところか。
しかし……そうなると……、
「なあ、シーナ……俺たちが『南地区出身』ってことになると、それって俺たちは人間じゃなく『半妖精』ってことになるのか?」
「いやいや、そんなことはない。『南地区』には少ないながらも『一部の人間族』も住んでいるからな」
「へー、『人間』がいるんだ」
「……まあ、『南地区に住んでいる人間族』と言うと『変人扱い』されるみたいだがな…………ここでは」
「……『変人扱い』?」
「ああ。他の地区と交易をしていない分、街の発展も遅いし、『半妖精』っていう『得たいの知れない種族』と同じ地区で暮らさないといけないし…………というのが、一般の人間からしたら『変人』ということになってしまうらしいからな」
「ふーん、そうなんだ。まあ……わからんでもないけど、でも、それって……」
『差別』…………て、ことになるのかな?
まあ、『種族が違う』っていうのがどういう感覚なのか、地球の感覚では、いまいちピンとこないからな…………もしかしたら俺が理解している『差別』とはまた違うのかも、な。
「まあ、わたしたちもこの世界に来たばかりだからな、その辺の『人間族』と『半妖精』との関係性がわからないのはしょうがない。まあ、その辺はアイリとかに聞けばいろいろとわかるだろう。とりあえず、今、必要なことは……『わたしたち二人は、南地区から『自分の中にある力の正体』を調べにやってきている』ということと、あっ……あと、私たち二人は赤ん坊のときに両親が死んだということにしておくぞ」
「えっ?! そんな不幸な生い立ちっ?!」
若干、過酷な兄妹。
「しょうがないだろ。実際、南地区に知り合いなんていないんだから」
「……まあ、そうだな。あ、いや、でも……『赤ん坊のときに両親が死んだ』ってことになると、『じゃあ、誰が育てたの?』とことにならないか?」
「そこは、そうだな~……よし、『孤児院で育った』ということにしよう」
「孤児院……? そんなところがあるのか?」
「ああ。ビュッセルドルフにはあったから大丈夫だろう。ということで、わたしたちは『南地区で赤ん坊のときに両親と死に別れて、その後、『孤児院』で育てられた』で話を合わせろ? いいな?」
「……うーん、なんて『過酷な兄妹』なんだ」
それにしても、シーナのやつ、ビュッセルドルフでいつの間に『孤児院』の確認までしてたんだろう? て、言うか、『孤児院』を確認するって、そんなのビュッセルドルフにいた時点では必要ない情報なのに…………まあ、それだけ、普段から周囲をチェックしているってことなのだろうか……。
しかも、最初、転生したときは『アナザーワールド』のことはまったく知らないような感じだったのに、一日経っただけで、ここまでいろいろと知識が広がっているのは『メモ帳』で調べたってこと……なのか?
まあ、おそらくそうなのだろう。だって、あの転生したばっかのとき、シーナにこの世界について聞いたとき『何も知らない』と言っていた……その時のシーナの態度や雰囲気を見る限り、それが演技にはとても見えなかった。
俺は、そんな、若干の『違和感』を…………『たいしたことではない』と切り捨てた。
俺とシーナが、一通り話をし終えた頃、ちょうどアイリが『エチケット的なルーム』から戻ってきた。
「いや~、ごめん、ごめん。トイレ、ちょっと並んでてさ、遅くなっちゃった」
おいおい、いきなり自分から言っちゃったよ……『トイレ』って。
『乙女の恥じらい』は、どこいった?
「ちょ、ちょっと……アイリッ!?」
「ん? 何?」
「ト……トイレって、そんな……ストレートに…………」
「えっ? いいじゃん。別に隠すほどの他人でも無いんだし……」
「お、お兄ちゃん…………『男』がいるんだよっ?!」
「えっ? ああ……そっか、ハヤトッ! いや~あんまり、その、意識してなかったから、つい、ハハ……ごめん、ごめん」
「もうっ!?」
と、シーナがアイリにちょっとした説教をし、それにアイリが謝っている構図だった……が、
「ハハ……アイリは俺のこと、お……『男』としては見ていないん……だね」
「えっ? もう~……そりゃ、そうだよ~、だって、ハヤトは、あくまで『友達』だもん」
「そ、そうだよな……と、友達だもんな…………ハハ」
「そうそう、あくまで『友達』っ!……だよ~」
そ、そんなに強調しなくても良いんじゃないかな、アイリくん。
何と言うか、ちょっと寂しい気分になりましたよ…………男として。
俺って、前世でもモテなかったんだろうな~、きっと。
と、ブルーに落ち込んでいる俺に、
「お、お兄ちゃん、大丈夫?」
「シ、シーナ……」
シーナの察し能力が発動し、俺にそんな優しい言葉を妹キャラで投げかけてくれた。
「い、妹よ……お兄ちゃんは、その言葉、その気持ちだけで、すごく、うれしい…………」
「あんまり気にしちゃダメだよ! この世界にだって、お兄ちゃんを好きになる『モノ好き』で『奇特な子』は、きっと…………きっといるからっ!? たぶんっ!? だから、頑張れっ!」
「…………」
むしろ、トドメを刺されました。
「更新あとがき」
こんばんわ。
そんな、あなたのそばに、今日もいつもの……、
mitsuzoです。
今回は更新作業を少しお休みさせていただいてました。
まあ、いろいろと立て込んでいたものでして。
自分でもどんどん話の続きを書きたいのですが、何せ、時間が限られている状況なので、歯がゆさの中、更新作業をしているという感じです。
まあ、でも、モチベーションは高いので、これからもそれを維持しつつ、更新作業を進めていきたいと思っている所存です。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




