第二章 【031】
【031】
そうして、マルコに学校のことやフレンダのこと、さらに『名門貴族』や『天才児』という新しい情報までいろいろと知り、さらに、もっと他にも聞きたいことがあったのだが……、
「ハヤト様、着きましたよ。ここが…………『男子寮』です」
「!?……な、なんだこれ?」
最初、男子寮を見た時…………『どこの高級ホテルだよ』と思った。
今、目の前に見える、その男子寮は、外観が……何と言うか……とても『都会的』だった。
それは、今日初めて『中央区』に来て街並みを見た時の感覚と、ほぼ同じような感覚で、俺が持っていた『異世界のイメージ』をこれまた悉く(ことごとく)、粉砕してくれた。
建物の外観は『白』を基調としたものだが、この建物も入学式の会場だった『中央区女王陛下記念会館』と似て、ガラス張りのデザインが施されており(もしかして、セントリアで流行っている建築様式なのか?)、また一階部分のほうでは、そのデザインが少しドーム状になっていた……あれは、たぶん……『プール』だと思う。
たかが学生の男子寮にプール……?
まさか……と思いつつ、マルコに聞いてみると、
「はい、あそこはプールです。他にも一階には『フィットネスルーム』や『マッサージルーム』もありますよ。ちなみに女子寮のほうには、それ以外に『リラクゼーションルーム』や『ビューティーサロン』もありますから」
「ビュ、ビューティーサロン? 美容室ってこと?」
「はい。まあ、さすがに一流ビューティーサロンとまではいきませんが、それでも、それなりのレベルを用意してますからね」
「す、すごいな……で、でも、こんな施設あってもみんな利用してるの?」
「もちろん! だって、施設使用料は『無料』ですからね」
「無料……っ!」
『無料』という言葉に、俺は、いつぞやの『一文無しの腹ペコホームレスコンビ』を思い出した。
そう考えると、昨日までは『宿無し』『お金無し』のホームレスコンビだったのに、一夜にして、俺とシーナは、こんな『一流ホテル並みの宿とサービス』を手に入れたということになるんだな…………昨日のことなのに、何だか遠い昔のことのように思える、不思議なもんだ。
まあ、そもそも、この『王立中央魔法アカデミー(セントラル)』の入学も、そして『特別招待生』という特権も、すべて『神』が用意してくれたものだ。
マジで、神様、あざーすっ!
神様、マジ、ゴッド!
そのときの俺は、そんな今の自分の『恵まれた環境』に、ただただ喜んでいるだけだった。
しかし、よくよく考えてみれば、本当は、『これだけの恵まれた環境』に、まだこの世界の生活に慣れていない俺たちに用意されたということが……、
『いかに、追い込まれやすい状況を作り出す環境であったか』
ということを、俺もシーナも後々、知ることとなる。
「ハヤト様、とりあえず中に入って、先に、入寮手続きからしましょう」
そう言って、マルコは俺の前を行き、寮の中に入った。
自動ドアが開くと、広いエントランスが俺たちを出迎えてくれた。
入口の奥に受付のようなものがある。そして、それを正面にして右手と左手、両方にゆったりとくつろげそうな一人用のソファがいくつかあった。それは、テープルを囲んで置かれているものもあれば、窓際のほうに設置されているものもあった。おそらく学校側が、学生たちにこのエントランスホールをいっぱい利用して欲しいという思惑があるのかな? と若干、捻くれた印象を感じた。
それにしても、中も外観に負けず、立派な作りをしており、廊下や壁などはすべて『大理石』っぽかった。あと、エレベータも二つついているし、一階にはテラスもあって、そこには木で作ったイスやテーブルが置かれ、その横に、日除け&雨除け用のパラソルのようなものも立っている。
こんな、どこかのブルジョアが泊まるような建物が『学生寮』って…………地球じゃ、まず考えられんな。
やっぱり、俺は今、異世界にいるんだな……。
俺はマルコと一緒にエントランスの奥にある『受付』へ着いた。
ちなみに、『受付』には学生ではなく、大人のスタッフが常駐している。
その常駐スタッフの身なりは、ホテルの受付のような格好なので、もはや、俺の知識にある『学生寮』はそこには存在していなかった。
受付で、名前を告げ、一通りの入寮手続きが終わると、
「では、ハヤト・ニノミヤ様…………特別招待生のハヤト様とマルコ・デルフォード様のお部屋は、最上階25Fの『プレシャスルーム』となっております」
「プ、プレシャスルーム……?」
「すごいっ! やっぱり『特別招待生』は違いますね、さすがハヤト様っ!」
俺は、マルコに嫌味なくらいに褒められた。
「な、なあ、マルコ……『プレシャスルーム』って何?」
「『プレシャスルーム』……まあ、カンタンに言いますと、他の部屋に比べて豪華の部屋ということです」
ああ……スイートルームみたいなもんか。
て言うか、『学生寮』にそんな部屋が存在するんですね。
もう、いちいち反応するのも疲れました。
一体、この『王立中央魔法アカデミー(セントラル)』の生徒ってのは、どれだけ国から期待されてるんだよ…………さすがに、ちょっと引くわ。
などと、最初はそんなセリフを心で漏らしていたが……、
「す、すげーっ!『王立中央魔法アカデミー(セントラル)』最高ーっ!」
隼人は自分の部屋に入ると、その部屋の広さや、窓からの景色にすっかりご満悦の様子。
「いやー、すごいですね、さすが、プレシャスルーム。ハヤト様と同じルームメートになれてラッキーでした! ありがとうございます」
と、言ってマルコは俺に深々と頭を下げた。
「お、おい、やめろよ、マルコ。俺だってルームメートがお前でよかったよ。これからよろしくな」
「ハ、ハヤト様…………い、いえ、こちらこそ」
マルコは俺の言葉が意外だったのか、少しビックリした顔をした。
まあ、そんなこんなで、俺とマルコは、まずは『部屋を使うときのルール』を決める事にした。
「まあ、そうだな…………とりあえずマルコ、何か希望はある?」
「いえ、特には。まあ、強いて言うなら…………たまに夜が遅くなる時があるので『合鍵』は欲しいですね」
「そ、それだけ……?」
「はい」
うーん、何て質素な奴なんだ。
『まだ十代なのに、そんな大人っぽいマルコは、よっぽど親の教育がすばらしかったんだろうな~』などと、なぜか『上から目線』な俺。
とりあえず、俺のほうも特に何かルールのようなものを決めてはいなかったので、それは実際に部屋を使ってみて、必要があったら自己申告しようということで『保留』となった。
次に、俺たちは『部屋の使い方』について少し話をした。
とは言っても、『ベッドが二段ベッドで、どっちが上で寝るか? 下で寝るか?』とかそういう話ではない。そもそも、同じ部屋とはいえ、ベッドは別々にちゃんと用意されているので何も問題はなかった。
俺たちが話をした『部屋の使い方』とは…………俺がその部屋についている、いろんな『設備の使用方法』についての話という意味で、まあ、要するに、この部屋には俺が見たことのない『器具』とか『家具』とかがあったので、それについて『話をした』というよりは、『一通りレクチャーしてもらった』という感じかな。
マルコは、そんな俺の質問にもていねいに教えてくれた。
マジ、良い奴っ!
とまあ、そんな話も一段落した頃、マルコが、
「まだお昼には少し早いですが、『食堂』に行ってみますか?」
と提案。
「おおっ! いいね~。行こう、行こう」
と即答で返答し、俺とマルコは部屋から出て、食堂へと向かった。
食堂へと向かう最中、俺はマルコにこの学校にいる『上級生』のことについて質問をした。
「なあ、マルコ……この学校の『上級生』ってやっぱりすごい魔法士が多いのか?」
「はい、もちろん。だいたいこの学校の『上級生』……取り分け『Aクラス』の卒業生は、ほとんどが『王立軍』ではなく、『各種の専門機関』へと就職しますから」
「『各種の専門機関』…………そう言えばアイリも言ってたな、優秀な生徒が行くようなところだって」
「はい。まあ、『Aクラス』以下の生徒でも基本優秀ですからね……『王立中央魔法アカデミー(セントラル)』の全生徒の『専門機関』への就職率は『60%』くらいはあると思いますよ」
「そんなに……?! すごいな」
「はい。なので『王立中央魔法アカデミー(セントラル)』への入学は、多くの若者にとっては憧れの対象となっているのです」
「なるほど……」
「……まあ、その中でも、特に憧れの対象が、ハヤト様とシーナ様の『特別招待生』なんですけどね」
と、マルコは横目でニヤニヤしながら、いやらしい目つきを俺に向けた。
「……コ、コホン」
俺は、少々バツが悪くなり、咳払いをして一旦、間をおき、すぐに話題を変えることにした。
「そ、そう言えばさ、さっき、アイリから話を聞いたんだけど、本館の2階に『生徒会ルーム』てのがあるじゃない? あれって、ワンフロアまるごと『生徒会』が使っているって…………本当?」
「はい、本当です」
「や、やっぱり本当なんだ…………。それにしても、そんなに、ここの『生徒会』って力持ってるの?」
「はい、持ってます。ちなみに『生徒会』の影響力は、この学校だけに留まらず、一般社会にも、ある程度は通じるほどの力を持ってます」
「ええっ!? そうなの? すごいな、生徒会」
こりゃ、関わりあうのは絶対に避けよう。
そんな俺とマルコがおしゃべりしながら、食堂の入口のほうまで来ると、
「おいっ! お前ら一年だな? ちょっと聞きたいことがあるんだが……」
と、後ろから女の子の声に呼び止められた。
俺とマルコは立ち止まり後ろを振り返ると、そこには、三人の男子生徒と、一人の女子生徒が立っていた。
すると、その中の女子生徒が三人の男子生徒の前に出てきて、
「お前たち一年の中にいる『特別招待生』と話をしたいのだが、どこにいるか知らないか?」
と、『仁王立ち』で聞いてきた。
何だ、この人?
何で、そんなに偉そうな態度なん………………うん? なんだ? あの左腕の腕章は?
見ると、その女の子の左腕にある『赤色の腕章』には黒い文字で、
『生徒会長』
と、クッキリ、ハッキリ記されていた。
「更新あとがき」
こんばんわ、ついに「100000文字」達成しました。
mitsuzoです。
思えば、この小説「アナザーワールドへようこそっ!」は、先月の12月23日……クリスマス・イヴ前日という『自虐的な日』からスタートしました。
当初は、これまで「100000文字」も書いたことなかったので、できるかどうか不安でした。
ですが、コツコツと、あれよ、あれよと書き始めて気づけば今日、「100000文字」を越えることができました。
いやー、人間……「やる気があれば何でもできる」かどうかはわかりませんが、「ある程度はできる?!」ということがわかりました。
といったわけで、これで「OVL大賞応募資格」は達成しましたので、少しホッとしました。
……がっ! これからも毎日更新できるかはわかりませんが、遅くても『二日に一回更新』はできるよう頑張っていきたいと思います。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




