第一章 【021】
【021】
俺は、カルロスの指示通り、『魔法力測定器』に手を当て、『力』を発動させていた。
しかし、『魔法力測定器』のほうでは、何も反応が無かった。
「普通、どんな人間でも、たとえ微小でも『魔法力』は存在する。なのに、ハヤト様は…………魔法力そのものがゼロだなんて……今まで聞いたことがない」
カルロスは、最初、俺の『魔法力がゼロ』という結果に驚いていたが、すぐに気を取り直し、
「……まあ、確かに、それが珍しいことなのは認めますが、だからと言って、それで『異世界の人間』だとは認められませんよ? わたしが言ったのは『桁違いの魔法力』です。なので『魔法力がゼロ』であれば、尚更『特別招待生』の特権は剥奪。そして、ハヤト様とシーナ様、二人の身元は城のほうで、じっくりと聞かせていただきます」
と、カルロスはすでに二人のことを『異世界の人間ではない』と判断しているようで、連行しようとする意図がアリアリだった。
が、しかしっ!
カルロスはおろか、リサ・クイーン・セントリア女王陛下、ロマネ・フランジュらも、まだ…………『いま起きている異変』に気づいていなかった。
俺は、さっきからずっと『魔法力測定器』に手を当てて『魔法力らしきもの』を発動させている。
そう………………『神通具現化』を。
「ハヤト様……もういいですよ、測定器から手を放してください。これよりハヤト様とシーナ様を城へと連行させていただきます。手荒なマネはしたくありませんので、どうかご協力のほう…………お願いします」
と、カルロスが隼人とシーナを連行しようとした、その時……。
ワー、ワー……。
ワー、ワー……。
「んっ? なんだ? 外が騒がしいな?」
最初に異変に気づいたのは、ロマネ・フランジュだった。
「まったく、いくら今日が入学式で授業が無いとは言え、少々騒ぎ過ぎのよう………………!?」
騒いでいる生徒を注意しようと、ロマネ・フランジュが窓を開けようと身を乗り出したその時、彼は『いま起きている異変』に気づき、ショックのあまり身体を硬直させていた。
「んっ? どうした、ロマネ?」
窓の外を見ながら微動だにしなくなったロマネに気づき、同じように窓に近づいたリサ・クイーン・セントリア女王陛下。
「何か、外で気になることでもあったの………………きゃあっ!?」
「!?……リ、リサ様っ?!」
俺とシーナを連行しようとしたカルロスが、リサ・クイーン・セントリア女王陛下の驚嘆の声に反応し、様子を伺いに行った。
「どうしたのですか、リサ様? それに室長まで…………一体、外に何が………………なっ!?」
そして……ついに、カルロスも、『いま起きている異変』に気づくことになる。
「こ、これは…………まさか、ハヤト様の仕業……ですか?」
俺は、狼狽しているカルロスの質問に、『不敵な笑み』を持って答えた。
「そ、そんな…………魔法力は……ゼロ…………なのに……い、いや、その前に、これは魔法……なのかっ?!」
カルロスは、俺が、さっきから『魔法力測定器』に手を当てて力を発動しているのに、一向に『魔法力』が感知されないことに驚きを隠せない様子だった。
『いま起きている異変』…………それは、俺が今、『神通具現化』を発動させておこなっているものなのだが、それは先ほどシーナに言われた通りに『具現化』したものであった。
では、何を『具現化』したのか…………それは、
『この建物そのものを宙に浮かす』
というものだった。
『お、おいっ! ちょ、な、何だよ、あれっ?………………『職員棟』が宙に浮いてるぞっ!』
『おいおい、どんどん、上にいくぞ? 誰の仕業だよ? て言うか、これ、なんだよ?…………魔法?』
『魔法? そんなわけないだろっ! そもそも魔法だとしたら『属性』何だよ?』
ワイワイ、ガヤガヤ……。
外にいる生徒たちは皆、授業が無いからということで騒いでいたのではなく、『理事長室』のあるこの『職員棟』が宙に浮いていることに驚いて騒いでいた……というわけである。
この理事長室のある職員棟は、地面からゆっくりと上昇中で、現在、地表からおよそ300メートルほどの位置にいた。
「ハ、ハヤト様……っ! な、何なのですか、この力は……?」
リサは、驚きと共に好奇心を持って隼人に質問した。
すると、シーナがかわりに答える。
「女王陛下、これが隼人の力……『神通具現化』でございます」
「「「ディ……神通具現化っ!?」」」
シーナがリサに『神通具現化』のことを伝えると、他の二人もまた一緒に反応した。
「ディ……神通具現化…………聞いたことが無いぞっ?!」
と、カルロス。
「ううむ…………わたくしもハヤト様のその力……初めてでございます」
と、ロマネ。
「す、すごいっ! やはりハヤト様は本当に………………本物の『異世界の人間』だったんですねっ!」
すると、リサは、嬉しさのあまり、カルロスとロマネの間をすり抜け、隼人の前に行き、喜びを爆発させた。
「わたくし、ずっとずっと待ってました……異世界の人間である、ハヤト様が現れるのをっ! お母様が生きているとき、わたくしはずっとその話を側で聞いていました。そして、この日が来るのを、ずっと楽しみにしてたんですからっ!」
「あ、いや、その……何というか…………あ、ありがとうござ…………っ!?」
喜びを露わにしたリサ・クイーン・セントリア女王陛下は、言葉だけでは物足りなかったのだろうか、あろうことか、俺に……勢いよく抱きついてきた。
「「リ、リサ様っ……!!」」
それを見て、慌てたのは当然…………カルロスとロマネだった。
「お、お止めください、リサ様っ!」
「そうですっ! リサ様は女王陛下なのですよっ! そんな接触は、女王陛下として『あるまじき行為』っ!」
二人は必死になって、リサを俺から引き離そうとする。
「嫌ですっ! やっと、やっと会えたんですから…………このくらいいいじゃないですかっ!」
リサは隼人に抱きついたまま、離れようとしなかった。
「り、リサ様…………」
当たってますよ……、
かわいらしいお胸が。
俺は、そんな突然のリサの行動にドキドキしてしまい、つい、気が抜けてしまった。すると、発動していた『神通具現化』の力も停止してしまう。
「!?…………あ、あれ?」
すると、俺の『神通具現化』の力が停止したため、宙に浮き、上昇を続けていた職員棟の建物は、一転、一気に急降下を始めた。
「きゃああーーーーっ!」
「おわあああーーーーっ!」
「陛下ーーーっ!」
「シ、シーナーーーッ!」
俺たちは一気に急降下した建物にただ声を張り上げ、パニックになっていた………………一人を除いて。
「……神通具現化!」
シーナの掛け声が響いた。
ガクンッ!
すると、建物の落下が少しずつ減速していく。
「シ、シーナ……お前…………その力……」
使えるのか?『神通具現化』……を。
でも、シーナはこの世界では使えないと言っていた。
あれはウソだった……のか?
そして、建物はゆっくりと降下し、元あった位置に戻った。
「ふー……とりあえず、これで大丈夫でしょう」
「「「あ、ありがとう……ございます、シーナ様」」」
気がつくと、俺たち三人はシーナに向かって祈るような姿で感謝の言葉を述べていた。
「そ、そんな頭をお上げください……………………それよりも、お兄ちゃんっ!」
「!?…………は、はいっ!」
「いくらリサ様がくっついてきたからって、それで動揺して集中力を欠くなんてダメでしょ?! まったく……やっぱりわたしがいないとダメだな、お兄ちゃんはっ!」
と言って、先ほどから俺にぎゅっと抱きついていたリサを無理やり引き剥がし、自分のほうに引き寄せた。
「……むっ?!」
リサは少し怪訝な顔をし、すぐにシーナから隼人を引き離そうとした…………が、命の恩人でもあるシーナに対し、また、隼人の妹ということもあって、そこは少し冷静になり、ぐっとガマンする。
「どうですか? リサ様、ロマネ様、カルロス様…………わたくしも兄と一緒に『特別招待生』のままで問題ないですよね?」
シーナは小憎たらしく三人に尋ねた。
「お、恐れ入りました、シーナ様…………これまでのご無礼、大変申し訳ございません。もちろん、ハヤト様と同様、『特別招待生』として、このアカデミーにて歓迎いたします」
と、カルロスがさっきの『ふてぶてしさ』から一転、俺とシーナに敬意を払い、深々と頭を下げた。
同様に、ロマネも頭を下げていた。
そして、
「シーナ様、わたくしも、先ほどまでのご無礼、大変申し訳ございませんでした。改めて、わたくしからハヤト様とシーナ様を正式に『異世界の人間である』と認ます。これでお二人への疑いは晴れました…………お二人とも、セントラルへようこそっ!」
と言って、リサは、今度は俺とシーナに向かって飛びついた。
「「へ、陛下っ!」」
俺とシーナは少し照れながら陛下の抱擁を受け止めた。
すると、リサは隼人に聞かれぬよう顔をシーナの横に近づけ、耳元で囁く。
「シーナ様、お兄さんのこと、これからいっぱい教えてくださいね。わたくし、あなたのお兄さま……ハヤト様のこと、すっごく気にいっちゃった! いいですね? これは女王陛下の命令ですよっ!」
「へ、陛下!?…………いいんですか? あ、あんなお兄ちゃんなんてやめたほうがいいですよ」
「シーナ様!…………返事は『はい』でお願いしますっ!」
と、リサは、『うふふ……』とイタズラな顔をして、シーナに迫った。
「は、はい……わかりました」
「ありがとう。それとシーナ様、これからわたくしのお友達になってくださいね、これも『はい』でお願いしますっ!」
「クスッ…………はいっ!」
「やったーーっ!」
その後、リサは、一通り、シーナと隼人と歓談をしていたが、次の予定があるとのことでロマネがリサに移動する旨を伝える。
「そうか、わかった……では、参ろうか、ロマネ」
「はい」
「……それでは、シーナ様、ハヤト様、これから学校を楽しんでくださいね。わたくしも時間があるときは立ち寄りますから、その時は一緒に遊びましょう」
と、リサは名残惜しそうな声で二人に声を掛けた。
すると、ここで、シーナが、
「リサ様、今日はいろいろとありがとうございました。あと、わたしたちのことは『シーナ様』『ハヤト様』ではなく、普通に『シーナ』『ハヤト』とお呼び下さい」
「そ、そんな…………い、いいのですか?」
「もちろんっ! だって、わたしもお兄ちゃんもリサ様の…………友達じゃないですかっ! ねっ? お兄ちゃん?」
「そうですよ、リサ様。僕たちは今日から友達なんですから」
「!?…………シ、シーナ様、ハヤト様」
リサは、シーナと隼人の言葉に感動したのか少し瞳を濡らしていた。そして……、
「わ、わかりました。では…………シ、シーナッ! ハ、ハヤトッ! これでいいのですね?」
「「はいっ!」」
「そ、それでは、これから二人はわたくしとはお友達なのですから、わたくしのことは『リサ様』ではなく、『リサ』と呼ぶようにっ!」
と、今度はリサが二人に要求した。
「「ええ……っ! そ、それは……さすがに…………まずいんじゃ」」
俺とシーナはさすがにそこは遠慮したほうがいいと思った。だが……、
「何、言ってるんですか…………言い出しっぺはお二人でしょ? これは女王陛下命令です、いいですね?」
と、リサは屈託の無い笑顔で二人にかわいく言い寄った。
「「わ、わかりました、じゃ、じゃあ…………リサッ! これからよろしくねっ!」」
「よろしいっ! うふ、これから楽しみねっ! よろしく、ハヤト、シーナッ!」
そうして、いろいろあったが、俺とシーナは女王陛下や側近に『本物の異世界の人間』として、無事、認めてもらうこととなり、正式に『特別招待生』として、『王立中央魔法アカデミー(セントラル)』に招かれることとなった。
第一章 完
こ、更新しました~。
あ~、またこんな時間になってしまった~。
あ、明日……仕事が……でも、ボク、頑張る。
(*´д`*)
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




