第一章 【019】
【019】
――入学式終了後、
俺とシーナは『リサ・クイーン・セントリア女王陛下』の指示通り、すぐに『理事長室』へと向かった。
アイリも行きたがっていたが『メガネツン女史』から、
『ダメに決まってるだろ、バカ者っ! さっさとクラスを確認して教室へ行けっ!』
と、容赦ない叱責を食らっていた。
『メガネツン女史』……おそるべしっ!
俺とシーナはすぐに『理事長室』へ向かうことになったのでクラス確認をしていなかったが、まあ、でも、その辺はアイリか、誰か先生にでも聞けば教えてくれるだろう。
そんなことを考えながら、俺とシーナは『理事長室』の前へ来て、ドアをノックする。
コン、コンッ。
『入れっ!』
男性の声…………おそらく声からして『アカデミー長』のようである。
「「失礼しますっ!」」
俺とシーナは声を掛け、ゆっくりと中に入った。
そこには、『リサ・クイーン・セントリア女王陛下』と『アカデミー長』、そして、もう一人、『知らない男性』……その男性は、白髪の髭を生やした年配の男性で、いかにも『偉い人』という感じだ。
「ようこそ、セントリア王国へ。改めまして……わたくしはこの国を治めるセントリア王国女王陛下、リサ・クイーン・セントリア。お会いできて光栄です、ハヤト様、シーナ様っ!」
と、リサ・クイーン・セントリア女王陛下は改めて、さっきの入学式で俺とシーナにあいさつしたときのように、『敬意を払っている感じ』で、頭を下げ、丁寧に挨拶をしてくれた。
そして、同時に、その他の二人……つまり、『アカデミー長』と『知らない年配の男性』もまたリサ・クイーン・セントリア女王陛下と同じように頭を下げた。
「ちょ……ちょっと、やめて下さいっ! ど、どうしたんですか?!」
「そ、そうですっ! どうして、そんなことするんですか?! 頭を上げてくださいっ!」
俺とシーナは、この場で起きてる出来事(この国のお偉い人たちであろう三人の頭下げ状態)に混乱し、必死になってやめさせた。
とりあえず、三人が頭を下げるのをやめてくれたので、俺とシーナは、少し冷静になって、改めて尋ね直す。
「ど、どういうことですか? どうして、俺たち二人にそんな頭を下げるだなんて………………いくら『特別招待生』だからって、どうして?」
すると、『知らない年配の男性』が口を開いた。
「はじめまして……御初にお目にかかります。わたくしリサ・クイーン・セントリア女王陛下の『執事』で、名を『ロマネ・フランジュ』と申します。わたくしは先代国王陛下で在らせられた『バーナード・キング・セントリア国王陛下』……つまり、現在ご即位されているリサ・クイーン・セントリア女王陛下のお父上が即位されてた時代から『セントリア王家の執事』をしている者でございます」
と、ていねいな挨拶で軽く自己紹介をし、すぐさま質問に答える。
「この度、こうしてハヤト様やシーナ様に対して、我々のこのような態度の理由は、ここに……この世界に……『本当に出現したこと自体』が、わたくしたちにとっては『奇跡を目の当たりにしている状況』であるためでございます」
「えっ……?」
「き、奇跡……?」
「……はい。ハヤト様、シーナ様がどういうお立場かはわかりませんし、どういう理由でここにいるかなどはわかりません……が、しかし、一つだけわかっていることは、お二人が、この時代のこの時に『セントリア王国に現れる』ということはすでに『予言』されていたからであります」
「「よ、予言……?!」」
「はい。そしてその『予言』にはもう一つ、お二人のことが記されてありました。それは………………お二人は『この世界の人間』ではなく、『こことは違う別の異なる世界』、つまり『異世界からの人間である』ということです」
「「…………!?」」
俺とシーナは、この執事のロマネ・フランジュさんの説明に、ただただ絶句するだけだった。
ロマネ・フランジュの説明は続く。
「『絶句されている』ということは、やはり『事実』……なんですね?」
「「あ、う……」」
俺もシーナも何も言い返すことができなかった。
そして、シーナも俺と同じ態度であるということは、シーナにとってもこれは『予想外の展開』だったのだろう。
そりゃ、そうだ。
この世界に来て、『たった二日』で『異世界の人間』であることがバレちゃったんだから。
それにしても……何だ?……『予言』?
何だ、その『予言』って?
すると、まだ混乱している俺の横から、シーナが口を開いた。
「……はい、仰るとおり、わたしたちはこの世界ではない別の異なる世界……『異世界』から参りました」
「!?」
シ、シーナッ!
いいのか? そんなこと認めてしまって……っ!
シーナの話は続く。
「その……今、仰った『予言』についてはよくわかりませんが、わたしとお兄ちゃんは、この世界に『ある目的のため』に参りました。なので、その目的を成就するために、できるだけ、『異世界の人間』ということは隠すつもりでしたが、どうやらこの場で隠すことは難しいようですね」
「おおっ! やはり、本当に異世界の……?!」
リサ・クイーン・セントリア女王陛下……リサが思わず、かわいいお目々をキラキラさせて、立ち上がった。
「はい。ただ……その……わたしたちの『目的』については話せませんが、でも、この世界の方々にご協力して欲しいという願いもありまして…………なので、こうしてわたしたちの身元が知られてしまった以上、逆に、わたしたちの『目的』のためにセントリア王国の力をお借りしたい! もちろん、タダでとは言いません。わたしたち二人が協力できることがあれば何でも協力するという条件でですが、いかがでしょう?」
おおっ! なるほど!
そういうことか、シーナ。
シーナは、この局面を『逆に利用する』ことにしたようだった。
こいつ、やっぱすげえな……何々だ、この『交渉力』は?
アイリのときもそうだったが、シーナのこの『交渉力』には目を見張るものがある。
会った当初は『天然』なところとか、『テキトーな部分』ばかり目立ってたから、この『指導者見習い、使えねー』とばかり思ってたけど、こういう『交渉力』に関しては、思わず尊敬してしまうくらい…………すごい。
そして、そのシーナの申し出に、リサが身を乗り出し答える。
「もちろんっ! わたしたちセントリア王国が全面協力させてもらいますっ!」
おおっ!『幼女陛下』っ!
……あ、違った、『女王陛下』っ!
そして、
「……はい。わたくしたちセントリア王国にとっても、シーナ様のその申し出は国益にもつながる、とても魅力的な申し出であると感じました。なので、ぜひ、こちらもご協力させていただきたい」
じじいっ!
……あ、違った、『ロマネさん』っ!
シーナの提案は、トントン拍子に話が進んでいき、俺たちにとって『都合の良い展開』になっていった。
…………『なっていく』ように思いかけた、その時、
「――しかし、」
と、ここで、先ほどまで一言も発していなかった『アカデミー長』が口を開く。
「それは、あくまで、あなたたちが『本物の異世界の人間だったら』…………というお話です」
「……カ、カルロスッ!」
リサがアカデミー長へ思わず声をかける。
しかし、アカデミー長……『カルロス』という男は、構わず続ける。
「はじめまして、わたしの名前は『カルロス・ワイバーン』……この学校のアカデミー長でありますが、元々は、女王陛下の側近魔法士としてお仕えしていた者です。どうぞ、よろしく」
と、その『アカデミー長、カルロス・ワイバーン』は笑みを浮かべながら、ふてぶてしいほどの余裕を持ってゆっくりとあいさつをした。年齢は、見た感じ『二十代前半』くらいに見えるが、風格は『四十代後半以上』と感じさせるほど、見た目以上に『威圧感』を持つ男だった。
そして、その男は……『明らか』に俺たちを『挑発』していた。
「さて、失礼を承知の上であえて言わせていただきますが、あなたたちお二人が『本物の異世界の人間』であるかどうか、まず、ここがハッキリしないことには、そう簡単にご協力などできません。今回、あなた方お二人を『特別招待生』として招いたのも、リサ様が亡くなった母上の『イヴ・セントリア王妃』の『予言』を信じ、尚且つ、リサ様にも『天啓』があったからでございますが、しかし、そのような『状況証拠』だけで、あなた方に『全面協力』することはできません。これは、そこにいる『執事様』であり、かつ、我々『側近魔法士』を束ねる『室長』であるロマネ・フランジュ様にもご同意頂いていることです」
執事のロマネ・フランジュを見ると、確かにこのカルロス・ワイバーンの言う通りのようで、特に驚いている様子もなかった。
「そ、そうなのか? ロマネ?」
しかし、リサだけはそのことは知らされていなかったようで、
「すみません、リサ様。リサ様の『天啓』と、母上のイヴ様の『予言』を信じていないわけではございません。ですが、やはり、それだけではあまりに早計だと判断し、その者たちに『異世界の人間である証拠を見せてもらう』という条件をカルロスに提言するよう言っておいたのであります」
と、執事のロマネ・フランジュが弁解した。
「……わ、わかりました。ですが、そういうことは、これからは、ちゃんとわたくしにも報告してください。わたくしは……女王陛下なんですからね」
と、若干、複雑そうな表情でリサは返答する。
「申し訳ございません。次からはちゃんとご報告しますので……とりあえず、今回のこの件、お二人に『確認』をしてもよろしいですね?」
ロマネ・フランジュは改めてリサに『確認』を取った。
「わ、わかりました…………ですが、ロマネ、カルロス、お二人に粗相やケガをさせないよう、細心の注意を払って『確認』をしてください、それだけは守ってください……いいですね?」
「はっ! かしこまりました」
「ははっ! リサ様の仰せのままに」
『アカデミー長・カルロス・ワイバーン』は、女王陛下の確認を取った後、再度、俺とシーナに話を進める。
「というわけで、お二人には、これから『異世界の人間である証拠』を見せてもらいます。拒否すれば、それは『異世界の人間ではない』と判断され、『特別招待生』という『特権』は『白紙撤回』……それだけでなく、女王陛下や我々王室の人間に対して『虚言』を働いたとして『牢』に入っていただきます」
「なっ……!」
カルロスは、一方的に話を進めていく。
「ここへ来て下さい……」
俺とシーナはそのままカルロスに促された方に目をやった。すると、そこには『何かの機械らしき物』が置かれている。
「これは、『魔法力を吸収する素材』を利用して作られた『魔法力測定器』です。もしリサ様の母上・イヴ様の『予言どおりの異世界の人間』であれば『力』……『魔法力』も桁違いなものであるはずです。なので、このお二人にはこの『魔法力測定器』で測ってもらいます」
カルロスは、そう言って俺とシーナにプレッシャーを与えているようであった。
だが、ここでシーナが再び口を開く。
「ちょっと待ってください。少し確認したいのですが、そのリサ様の母上であるイヴ様の、その『予言』というのはどういう内容だったんですか?」
確かに。
カルロスは……『イヴ様の『予言どおりの異世界の人間』であれば『力』……『魔法力』も桁違いなものであるはず』と言っていた。ということは、その『予言』には、そういった『異世界人は魔法力が桁違いである』といった、それが『異世界の人間である証拠になる』的な文言が書いてあったということになる。
であればこそ、その『予言』の内容確認は必須だ。
しかし、
「――できません。この『予言』に関しては『国家機密レベル』の情報ですので開示は無理です。ですが、別にそんなこと知らなくてもいいでしょう? この『魔法力測定器』で測ればいいだけの話なんですから?」
カルロスは今のシーナの質問に対し、あからさまに『顔』を歪め、不信感を露わにした。
「……くっ!?」
シーナは苦渋の顔を浮かべる。
その理由は俺にもわかる。それは……、
『俺たちは魔法は使えない』
ということ。
俺たちが使える力は『神通具現化』であり、この世界の『魔法の発動方法』とは異なり、『魔法力は関係ない』……だから、俺もシーナも『魔法力』に関しては無いはずなのだ。それに、シーナに関しては、この世界では『神通具現化』さえも使えない…………それは、つまり、『特殊な力など持たない普通の人間』とも言える。
そんな俺たちがその『魔法力測定器』を試しても、おそらく『目の前の三人が望む結果』にはならないだろう。
どうする……?
更新しました~。
今日は休みで「書き溜め」するつもりでしたが、予定が入ってしまい、あまりストックが作れそうに無い模様。
で、でも、何とか「100000文字クリア」す、するんだからねっ!
本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




