第一章 【017】
【017】
「中央区」
他にもいろいろと見たいところはあったが、『もうすぐ、入学式が始まるよ?』というアイリの言葉に、俺とシーナは、見学はとりあえず後回しにして(当たり前)、『王立中央魔法アカデミー(セントラル)』へと急いだ。
「セ、セーフ……ッ! ふー、いやー何とか間に合ったね、シーナ、ハヤト」
「と、とりあえず……ハア、ハア……た、助かった……ハア」
「わ、わたし……は、走るの……苦手だよ~、ゼエ、ゼエ」
俺たち三人は、『入学式、開始五分前』に何とか入学式会場である『中央区女王陛下記念会館(通称:クイーンズ・ホール)』へとスベり込んだ。
そこは、現在の『女王陛下』が即位されたときに立てられた記念の建物らしく、三年前に即位されてからは、『王立中央魔法アカデミー(セントラル)』の入学式は、毎年、ここで行われているとのことだった。
ちなみに、今、俺とシーナが着ている服は、この学校の制服である。
シーナの制服はアイリのを貸してもらっていたが、俺のは会場の入口にあった『売店』で購入したものだった。本当は俺は別に『制服』じゃなくてもいいと思っていたので、昨日、ビュッセルドルフで、神父さんから『皮の服』をいただき、それを着て入学式に望む予定だった。しかし、それでは式典には参加できないと受付で言われたので、『売店』で制服を購入するハメになった。
でも、まさかこの入学式の会場の『売店』でカンタンに『制服』を購入できるとは思ってもみなかった。この『売店』は、そういった『制服忘れ』にも対応しているだけじゃなく、その他にも、学校で使う道具なども売っているとのこと。
ちなみに、この『売店』は、学校の中にある『学生生活協同組合(学生協)』という組合が運営しているらしく、『全生徒に行き届いたサービスをっ!』をモットーにしていることで有名らしく……実際、『学生協』のサービスの評価は生徒からは上々だそうだ。
この『学生協』……元々は、生徒からの要望だったらしく、それを現在即位している「女王陛下」が応えてできたものらしい。
「それにしても……入学式早々、こんな体力使うハメになったのも、全部、お兄ちゃんが売店で制服のサイズ合わせで時間食ったのが原因なんだからねっ!」
一息ついたところで、シーナが俺に突っかかってきた。
「しょ、しょうがないだろっ! だって、式典には制服はどうしても必要だって受付で言われたし、売店で購入しようとしたらサイズに合う制服がなかなかみつからなかったんだから……お、俺だけのせいじゃないだろっ?!」
そう……俺たちは入学式会場には本当は十五分前には到着していた。だが、受付の人から『式典は制服での参加しか認めません。売店でご購入ください』と言われたので、売店へと足を運び、そこでサイズ合わせをしてその場で事前に用意されていた制服の中でサイズの近いものを渡されたのだが、その『自分のサイズに近い制服』がなかなか見つからなかったため、会場入りに遅れてしまったというわけである。
まあ、制服を用意できなかった俺の『落ち度』ではあるかもしれないが、そもそもアナザーワールドに来て、まだ『二日』しか経っていないんだから、それを『落ち度』というのはどうだろう……と俺は思う。
だが、しかし……シーナは容赦ない。
「知らないわよっ! お兄ちゃんが事前に制服を用意しなかったから悪いんでしょ?! これは『貸し』だからね、お兄ちゃん! とりあえず、今度、何か『食事』をごちそうしてもらう、というくらいで手を打っといて上げるから……感謝してよね」
ぐぬぬ……シーナめ、ここぞとばかりに。
「わ、わかったよ。で、でも、今は金なんて持ってないから……『招待金』が入るまでちょっと待てよな?」
そう、俺はお金を持っていない(もちろんシーナも)。
だから、さっき売店で購入した制服の代金は、全部、アイリに『立て替え』てもらっている。
最初、アイリに、『自分はお金を持っていないから立て替えなんてされても払えない』と言って断ったのだが、アイリは、『大丈夫です。『特別招待生』の方は国から『招待金』という『アカデミー援助費用』が支給されますので、それが支給されたら、そのときに制服代をいただきます。だから、心配しないでください』と言い、売店で俺の制服代を立て替えてくれたというわけだった。
アイリの話だと、入学して三日後くらいには、この『招待金』が『特別招待生』に支給されるとのこと。
だから、さっきシーナが言っていた『貸し』の話は、そのお金をアテにしてのものだった。
「わーい、やった、やったーっ! それじゃあ、アイリも一緒に行こうねっ?!」
「ちょ……お、おい、シーナ……!」
シ、シーナの野郎、調子に乗りやがって……。
「え、いいの? ハヤト?」
ここで、『嫌だ』なんて、この流れで言える奴がいたら俺はそいつを尊敬する。
「えっ? あ、ああ……もちろんっ! もちのろん、良いに決まってるじゃないかー! そ、それに人が多いほうが楽しいしね……ハハ」
「本当? ありがとうー! わたし、この『中央区』でおいしいところいくつかピックアップしてきてるからお店選びはまかしといてっ!」
「よーし、決まりっ! お兄ちゃん、さすが太っ腹っ!」
「は、はは…………」
シーナ……めっ!
まーでも、いいかな。
どうせ、そのお金は国から支給されるお金なんだし。
しかも、俺たちは学校へは『通う』のではなく『寮』での生活となる。それは、つまり、『住む場所』もあるということを意味する。
ビュッセルドルフの町でアイリや神父さんに出会う前は、『一文無しの腹ペコホームレスコンビ』という『二つ名』を頂いてた俺たちだったが、今では『特別招待生』という、ちょっとした『VIP待遇』の二人となっている。
神様、ナイスッ!
とは言え、そんな『VIP待遇』なのに『魔法は使えない二人』というこの構図からして、アカデミー入学後はいろいろと『問題が起きそうな予感』はビンビン感じている……そのことを考えるとテンションが下がるのだが、とは言え、すでに…………『サイは振られた』のである。
であれば、今はその『特別招待生』というVIP待遇を存分に満喫してもいいんじゃないかと俺は開き直っていた。
それにしても……、
シーナとアイリの『学生服姿』なんだが……、
実に、けしからんっ!
けしからんっくらい…………かわいいジャマイカッ!
この学校の制服は男女共に『濃い目の紺』を基調としたもので、男性の襟元はネクタイ、女性はスカーフ、そして、スカートはチェック柄と、実に『けしからん』くらいオシャレでかわいい仕様となっていた。
ちなみに、地球と違って、この学校の『スカート丈』は基本、『本人の自由』となっている…………それは、つまり、スカートの丈を長くしようが、短くしようが何も問題はないということらしく、実際、周りを見渡すと、結構、短いスカートの子が大半を占めていた。
まあ、確かに『スカート丈』は『長い』より『短い』ほうが『かわいらしい』し、オシャレだと俺的には思っているから、こういったオープンな学風は良いと思う。けっして……けっして……『スカート短いほうがおパンツが見えそうで何より』だとか、そんな『下世話な効果』を期待して短いほうがいいって言っているわけじゃ、な、ないんだからねっ!
と、俺は特に誰に言うまでもなく、『一人ツンデレごっこ』を勤しんでいた。
ちなみに、この制服のデザインは「女王陛下」がお決めになったものらしい。
ぐぬぬっ……やるな、「女王陛下」、
グッジョブだっ!
会場の中に入った俺たちは、さっきと同じように、会場内を見上げたり、周りをキョロキョロしたりと、『挙動不審全開』だった。まあ、『俺たち』というのは『俺』と『シーナ』のことだが……。
「そ、それにしても、この建物もまた…………すごいな」
この入学式会場の建物……外から見るとすべて「ガラス(のようなもの)張り」であり、それが上からの光に反射して、建物全体をキラキラとつねに光らせるような設計がされているようだった。しかも、それは「眩しくてキツイ」ということもなく、ちょうどいいくらいの光沢で全体を輝かせていた。
また、柱は『鉄』とは違った『透明な金属のようなもの』を使っており、それが建物全体を『らせん状』に包んでいた。そして、この『透明な柱』のおかげで、建物の表面部分のガラス(のようなもの)に当たる光を邪魔することなく、むしろ、その柱も計算に入れて、見事に設計されていた。
『日本の職人』……顔負けである。
建物の中は、外から取り入れた光を利用しているようで、『電球』というものは無いみたいだが充分に明るかった。広さはかなりあるようで、一階部分の主会場の収容人数は一万人くらいと言っていた。普段は、国の祭典や行事といった『祭事ごと』に使われているとのことだった。
「ほら、ハヤト、行くよっ! 新入生の席は、と………………あ、あそこだっ!」
アイリは、『入学手引き』を持っていたようで、そこに書いてあった『新入生の並ぶエリア』をみつけ、俺とシーナはアイリにそのまま着いていった。
「ここでいいの……かな……?」
アイリは、さっきの「入学手引き」に示されていた場所に来て、適当に空いている席に座った。
どうやら、この『王立中央魔法アカデミー(セントラル)』の入学式は、特に席が決まっているというわけでは無い様子だったので、他の生徒も各自、空いている席をみつけて座っていた。
けっこう、風通しの良い、比較的自由な校風なのかな? と思いつつ、これから始まる『異世界の入学式』に俺は多少ワクワクしていた。
すると……、
「ちょっとあなたたちっ! そこ、退いて下さるかしら?」
振り向くと、五人くらいの『女の子集団』がいて、手前の女の子が俺たちに声をかけていた…………命令口調で。
「はっ?」
すると、真っ先に反応したのがアイリだった。
「どうして、わたしたちがこの席を退かなきゃいけないんですか? 別に席は自由でしょ? 他に空いてる席に座ったらいいじゃない?」
アイリは、席から腕組みをして立ち上がり、真正面からそう言い返した。
うーむ……相変わらず、男よりも男らしい。
でも、制服姿は『おにゃの子』らしくて、かわいらしい。
そんな『真正面からド直球』な言い返しをされた相手は、少しビビったようで、後ずさりしていた。すると、その後ろにいる、この『女の子集団』の中の『リーダ格の女の子』が出てきて、アイリの前に立った。
「そこは、わたくしが先ほどハンカチをイスに置いて席を取っていましたのよ? だから、後から来たあなたたちが退くのが『礼儀』じゃない?」
「……ハンカチ~?」
すると、シーナが、
「も、もしかして……これ……ですか?」
見ると、シーナがその女の子が言ってた『ハンカチらしきもの』をみつけたようだった………………自分たちの『一つ前の席』で。
「……あっ!?」
その『リーダ格の女の子』は、自分の席だと思っていた場所が、実は俺たちの『一つ前』だったことがわかり、顔を真っ赤にして、髪が長く、色は『金髪』で、目の色が透き通った青色できれいな瞳をしたその子が一言、
「ワタシの名前は『フレンダ・ミラージュ』、名門貴族ミラージュ家の一人娘よ。よくも……よくも、皆の前で恥じをかかせてくれたわねっ!」
と、かわいい顔でそんな『脅迫じみた言葉』を口にした。
何だか、よくあるテンプレな『わがままお嬢様』といったところか。
とは言え、すごくかわいい。
アイリも、この子も、周囲の女の子たちもそうだが、このアナザーワールドの女性は皆、きれいな人が多い気がする。
アナザーワールド万歳!
そんな『おバカな歓喜』を一人楽しんでいる横では、アイリがその『フレンダ・ミラージュ』という子と『ガン』を飛ばしあいながら、互いに譲らぬ状況が続いていた。
「ふん。学校でそんな家柄なんて関係ないでしょ?! ましてや、ここは『セントラル』よ? 大事なのは『家柄』じゃなくて『腕』……『魔法士の腕』が良いか、どうか……つまり、『強いか、どうか』……でしょ?」
と、アイリはフレンダ・ミラージュに強気に言い返した。
「ふんっ! あなた、それがわかっていて、ワタシによくもそんな口が聞けるわね? ということは、あなた……ワタシが何者か知らないのね?」
「それは、さっきあんたが自分で言ったじゃない?! 名門貴族ミラージュ家の……」
すると、さっきアイリにビビって後ずさりした女の子が再び、息を吹き返し、巻き返しをはかった。
「アッハッハ……! フレンダ様が言っているのは、『そういうことじゃない』のよ、この田舎モンっ! あなた、本当に知らないようね、このフレンダ様が『家柄』が有名なだけじゃないってことを……」
「な、何っ……?」
「フレンダ様の『二つ名』は…………『凍結天女』」
「!?…………フ、『凍結天女』」
アイリは、そのフレンダ・ミラージュの「二つ名」を聞いて、ピタッとさっきまでの勢いが……止まった。
「?……どうした、アイリ?」
俺は、アイリに説明を求めた……が、その説明はアイリではなく、フレンダの手下の女の子が続けた。
「知らないのなら教えてあげる。フレンダ様の『二つ名』は『凍結天女』…………今年の『セントラル入学試験』の『首席』であり、尚且つ、『前年度の中央区ジュニア魔法士大会』の準優勝者よ。セントラルに入学するくらいの実力者なら誰でも知っているほど有名な人なのだけれど…………たまにいるんですね、こんな人も。あなた、もしかして不正入学?」
と言うと、その手下の女の子は仲間と一緒にアイリを馬鹿にして大笑いをしていた。
すると、フレンダ・ミラージュが、
「まあまあ、皆さま、もうそのくらいにしてあげて。ワタシのことを知らない人なら仕方ないですわ。まあ、次から気をつけてくださればいいことですし……アイリさん、と言いましたっけ、お名前? とにかく、これからは相手を見てケンカを売ったほうが良くってよ? そうじゃないと痛い目を見ることになるから…………それじゃ」
と、フレンダ・ミラージュは手下を連れてその場を離れようとした。
すると……、
「そ、それがどうしたーーーっ!」
アイリが大きな声で、フレンダ・ミラージュに再度、啖呵を切った。
「……あなた、バカですの? ワタシが『凍結天女』と知った上で、そのような啖呵を切るおつもり? もう、許しませんよ?」
そう言うと、フレンダ・ミラージュは、先ほどと違ってかわいい顔から笑みが消え、怒りの表情を露にしていた。
「『凍結天女』だからどうしたっ! わたしは別に何も悪い事は言っていないし、それを馬鹿にされる筋合いも無いっ! お前が席を間違えたんだろ? だったら、ちゃんと謝れっ!」
アイリは、おそらく、そのフレンダ・ミラージュの二つ名である『凍結天女』ということを聞いて、それがどれだけ有名な魔法士なのかというのを知っていたのだろう。だが、それでも『自分のやった事は間違っていないだから謝らない』という自分の意志を貫いた。
アイリ、マジでお前すげーよ。
そんな、身体を震わせて……、
それだけの相手ってことなんだろ?
この『凍結天女』は……。
すると、ここでシーナがアイリに続いてフレンダ・ミラージュに声を掛けた。
「あの、すみません。わたし……『名門貴族ミラージュ家』とか、『凍結天女』のことも知らない田舎者ですけど、あなたはご存知ですか? 『特別招待生』のこと?」
「えっ?……特別……招待生?」
さっきの手下が『特別招待生』の言葉に反応した。
同時に他の手下の子はおろか、フレンダ・ミラージュもその言葉に反応した。
すると、その手下の子に変わって、フレンダ・ミラージュがシーナに話しかける。
「あなた……何を……言ってるの?」
シーナは満面の笑顔で、
「はじめまして、特別招待生のシーナと、同じく、兄のハヤトです。どうぞ、よろしくっ!」
と、シーナは俺の腕を絡みとって、ぐいっと引っ張った。
「あ、どうも…………同じく、特別招待生の兄のハヤトです。どうぞ、よろしく」
この『特別招待生』という言葉に、フレンダ・ミラージュはおろか、周りの生徒たちも反応し、その場は一瞬にして、好奇の目に晒される事態となった。
入学式早々……というか、まだ入学式も始まっていないというのに、早速、トラブルが起こりそうな状況に立たされた。
て言うか、シーナ、お前がトラブルを引き込んでどうするっ?!
更新しました~。
というわけで、今回は少し長い「6000文字くらい」となりました。
というのも、これでボクの弾は「全弾」です。
もう、ストックはありません。
というわけで、一応、ここまでで「50000文字」はクリアして残り半分、「折り返し地点」となりましたが、ここから今月末までに残りの「50000文字」がクリアできるか、正直、不安です。
でも、何とか踏ん張って「100000文字以上」を達成できるように気合いを入れ直して頑張りたいと思います。
というわけで、本日もお読みいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




