第一章 【016】
【016】
「次の日」
俺とシーナとアイリの三人は、『ビュッセルドルフの町』から『王立中央魔法アカデミー』……通称『セントラル』がある『中央区』へと向かった。
アイリの話だと、この『ビュッセルドルフの町』は、『中央区』の外れにある田舎町で、『北地区』との『地区境地帯』にある町ということだった。ちなみに『地区境』とは、地球で言うところの『国境』と似たようなもので、つまり『地区』と『地区』との間にある『境界線』のことを差す。
昨日、訪れた町の北側にある「アポロニアの森」は、ちょうどその『北地区』との間にある森で、出口は、『北地区』へとつながっているとのことだった。ただし、自由に行き来できるわけではなく、そこには『地区境警備隊』の詰め所があり、『地区』を越えるためには『許可証』が必要らしい。
そんな感じで、俺たちはアイリと出会ってからは、このアナザーワールドの情報をいっぱい手に入れることができた。
ここ……『ビュッセルドルフ』から『中央区』までは、だいたい馬車で二時間ほどで着くとのことだったので、俺たちは入学式の時間を考え、少し早めに町から出発した。
「アイリって、わたしより一コ下になるんだ? すごくしっかりしているから同い年か年上かと思ったよ」
「えー、そうですかー? いつも森でケモノ相手に魔法の訓練とかしてるし、お父さんからはもう少し女らしく振舞うことも覚えなさい、とか言われるから、そんなこと言われたのはじめてだよー」
シーナとアイリは、昨日、夕食時に会話が弾み意気投合……。本当は俺とシーナは同じ部屋で寝る予定だったのだけれど、アイリがシーナを自分の部屋で泊まるよう誘い、シーナも了承。昨夜は、シーナはアイリの部屋に移動し。アイリの部屋でいろいろ話をしたらしく、そのときに、この世界のことや、学校のことなど、いろいろと情報を得ることができたと、今朝、顔を洗っているときに言っていた。
「おかげで、わたしは寝不足だよ……お兄ちゃん」
などと愚痴っぽいことを言ってたが、シーナもアイリとの会話が楽しかったらしく、愚痴っぽいことを言っているにしては、昨夜のことを楽しそうに話していた。
――移動中、シーナとアイリは馬車の車中でも、二人でずっと話をしていた。
俺はその間に入るほど野暮ではないのでボーッと景色を眺めていた…………まー、そもそも入る隙もなかったのだが。
俺は、馬車に揺られながら、これまでのことを一通り、考えていた。
前世の地球で『死んだ原因』を思い出すため、俺は、この異世界……アナザーワールドへと転生した。
しかし……そもそも、俺は『なぜ死んだ原因』を思い出せないでいるのだろう?
また、どうして『神』は、こんなアナザーワールドという異世界に、俺をわざわざ転生させたのだろうか?
シーナの話では、俺がアナザーワールドに転生することは、『例外中の例外』と言っていた。
ということは、『神』は、俺に、多少強引にでも、このアナザーワールドで『死んだ原因を思い出させたい』という意図があることになる。
つまり、それは、言い方を変えれば……、
『俺には、どうしても、このアナザーワールドで死んだ原因を思い出さないといけない理由がある』
ということになる…………のか?
であれば、自分の『死んだ原因』と、この『アナザーワールド』には、何かしらの『つながり』『因果関係』があるということなのだろうか?
根拠は無いが、少なくともその考えのほうが…………『しっくり』くる。
それに、アナザーワールドに転生した昨日…………転生した場所が『草原』だったこともあり、周りに人や建物がなかったから気づかなかったが、その後、ここ(ビュッセルドルフ)に着いてからは、いろいろと疑問や謎がいっぱい湧いてきた。
そもそも……、
『どうして俺はこの世界の人と会話ができるのだろうか?』
あ、いや…………そうじゃない……そうじゃない……、
『どうしてこの国の人は日本語がしゃべれるのだろうか?』
てことだ。
ついでに、この国で使われている『文字』もすべて基本は『日本語』だ。
あと、地球にいたときに目にした『外国語(例えば、英語など)』とかも使われてたりする。
なぜだ……?
どうして地球とは違う『異世界』のはずなのに、使われている『文字』や『言語』が俺の地球にいたときの『身近なもの』ばかりなんだ?
昨夜、俺はそのことについてシーナに…………アイリが俺たちの部屋に来て、シーナを『お泊りのお誘い』に来る前に聞いてみた。すると……、
『今の隼人にはそれは教えられない…………が、今、言えることは、それにはちゃんと理由があるということだ。とりあえず今はそれについてはあまり気にするな。気にしたところで答えは出てこないからな』
と、妹キャラじゃなく、本来のシーナのキャラでそう言われた。
シーナは理由を知っているようだった…………が、どうしても教えてはくれなかった。
まあ、シーナが理由を知っているのは当然だろう、だって、あいつは『指導者』なんだから…………もとい、『指導者見習い』だからな。
いわば、『神側の存在』……『人ならぬ存在』といったところか。
他にも、まだ『謎』になっているのはたくさんある。
その一つが、シーナが『神通具現化』を使い過ぎると『ある力』が働いて『媒介役』自体を失う恐れがある……という話だ。
俺は、シーナにそのことについても昨日、聞いてみた。それについてはシーナも答えられるようだったので、いよいよ答えを聞こうとしたそのとき……またもや、そのタイミングでアイリが部屋に入ってきてしまい、答えを聞くことができなかった。
その後、シーナはアイリの部屋に泊まりにいったので、俺は一人、ベッドで、これまでの『謎』について悶々と考えていた。
そして、気がつくと、外はすっかり明るく、寝ないまま朝を迎えていた。
なので、今はすごく……眠い。
二人も昨日は夜遅くまで話をしていたらしく、眠っていないと言っていた。だが、お互い、気が合うようで、馬車の中では、寝ずにずっといろんな話で盛り上がっていた。
(いいな~、何か楽しそうで……)
そうして、シーナとアイリが楽しそうにしゃべっているのを俺はボーッと眺めていた……すると……いつの間にか…………俺は『夢の中』へと誘われていた。
「……!……!」
「……い、にい……ちゃん」
「おーい、お兄ちゃーん!……」
「ん、んん…………スゥー、スゥー」
「おーい、ハヤトー、起きろー!……」
「んん……もう少し、あと……ご……ふん…………」
スゥー……はい、深呼吸。
せーのっ!
「「おっきろーーーーーーーつ!!」」
「うわっーーー!?!!?」
俺は、二人の目覚ましボイスで叩き起こされた。
「いつまで寝てるの、お兄ちゃんっ! もう、着いたから早く目を覚ましてっ!」
と、若干「おこプンプン」、でも「笑顔」のシーナ。
「そうだよ、ハヤトッ! 早く起きてっ!……ほらっ、出てごらんよっ!」
と、馬車で寝ていた俺の手を引き、外へ強引に引っ張るアイリ。
「う、うわっ……! ちょ、ちょっと待って…………わ、わかったよ、アイリ……わかったから、そう、引っ張るな……て…………!?」
「どう? ハヤト、すごいでしょ? これが…………『中央区』だよ」
馬車から外に引っ張り出された俺は、周囲を見て…………目が釘付けになった。
そこ……『中央区』は、まるで…………、
映画で観るような『未来都市』だった。
そびえ立ついくつものビル群。
そのビルとビルの間には、透明のトンネルのような通路がつながっており、その中に、『浮かんで走っているような車』や『人』が往来していた。
――正直、俺はアナザーワールドを…………侮っていた。
だって、最初に訪れた『ビュッセルドルフの町』は、よくある田舎の町並みだったし、ここに来るまでも『馬車』を利用していたから、てっきり、このアナザーワールドは、よくあるゲームやアニメ・ラノベ・小説などで出てくる『科学があまり発達していない世界』と勝手に思いこんでいた。
だが、しかし違った。
今、目の前にある『中央区』という町は、そんな俺の『思い込み』を粉々に粉砕した。
はっきり言って、前世の記憶に多少残っている『地球の科学技術』よりも、アナザーワールドの町のほうが『遥かに高度な科学技術』を持っているように思えた。
「す、すごい……」
俺は、顔を見上げては、ビルやそこを行き交う人並み、また、『浮かぶ車』を見て、ただただ呆然とするだけだった。
先に外に出ていたシーナもまた、俺と同じように周囲の光景にただただ呆然として突っ立っていた。
「……何か、すごく高い建物とかいっぱいあるし、人も多いし、馬車とは違う乗り物がスーッって動いてるし、ここって………………天国?」
お前が言うか……『天国』という言葉を。
まあ、そんな感じで俺とシーナは、セントリア王国の中枢都市……『中央区』の町並みに圧倒されていた。
いわゆる……『田舎者まる出しの二人』という光景だ。
そんな二人を見て、アイリは得意気になり、話を始めた。
「シーナ、ハヤト……あなたたち『南地区出身』で、『中央区』が初めてなら、さぞかしビックリしたでしょ? 他の三地区出身ならまだしも、『南地区』は発展が大分、遅れている地区だからねっ」
「南地区……?」
シーナを見ると、
(あ・と・で・説・明・す・る)
と、ゼスチャーしていた。
おいおい、そんな大事な事は、事前に言えよな……まあ、慣れたけど。
どうせ、あいつの「ど忘れスキル」が発動したんだろう。
これからは、そのことも考慮に入れて、こっちからシーナにいろいろと事前に確認する必要があるかもな。
「――ちなみに、今、わたしたちがいるのは『中央区』のまだ『入口』に過ぎないから。ここから、さらに中央に進んでいくと『女王陛下』が暮らしている城、『セントラル・パレス』や、わたしたちがこれから通う『王立中央魔法アカデミー』……通称『セントラル』もあるからね。とりあえず、ここでボーッとしてないで学校へ急ご! もう、そろそろ始まるよ……入学式」
「「……えっ……えええーーーーっ!?」」
気づけば、俺たちは、『入口』でだいぶ時間を潰していたようだった。
ということで、俺たちはすぐに馬車に乗り込み、急いで学校へと馬車を走らせた。
更新しました~。
今、一話の文字数がだいたい「2000~3000文字以内」で作成しています。
理由は、ざっと流して読むにはちょうど良い長さかな~と思ったからです。
でも、もしかしたら人によっては倍の「4000~6000文字」のほうが良いという人もいるのかな~という感じはあります。
その辺は、まだ自分の中では決まっていないのですが、もしかしたら将来的には「一話」の文字数が増えるかも……です。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




