第一章 【010】
【010】
「『利己的欲求を一つ封印』……?」
俺は、シーナの『イノキの件』は早々に切り上げ、話を続けた。
「うむ。『利己的欲求』とは『人間』が持っている『五大欲(食欲・睡眠欲・色欲・物欲・名誉欲)』のことを差し、そして、お前が『媒介役』となるためには、その『五大欲』の中から『一つだけ封印する』ということなんだ」
「欲を……封印……」
「うむ。これが『神』が用意した、お前が『媒介役』となるためのプレゼントだ。『前世』が『地球の人間だった魂』で『媒介役』になれるなんてまず初めてだからな……はっきり言って、この程度の条件で『前世が地球の人間だった魂』が『媒介役』になれるなんて、ものすごいことなんだぞ?!」
シーナは、本当に感心しながら熱心に説明していた。
「そ、そんな『ものすごいこと』って言われてもな~……何だか、よくわからないし」
「まあ……それもそうだな。なんせ、隼人はまだ『力』を使う場面に遭遇したことが無いからな」
「いやいや、できればそんな場面に遭遇なんてしたくねーよ! 俺は、はっきり言って争い事なんて嫌いだからな。人を殴るのも、人に殴られるのもどっちも嫌だし……。まあ、力をちょっと『遊び程度』で楽しむくらい気楽なほうがいいんだけど……」
シーナは『呆れ顔』でこっちを見て、
「……まあ、な。そうあって欲しいものだけどな」
「?……シーナ?」
(争い事を避けるなんて…………『アナザーワールドに転生した魂』には無理だがな)
「えっ? シーナ今、何か言った?」
「……いや、何も」
「?…………あっ、シーナ、ところでさ、その『媒介役』になるために『五大欲のひとつを封印する』って言ってたけど、そんなのどうやって封印すんだよ?」
「うむ。それなんだが………………まあ、まず、これを飲め」
「? カプセル?」
「ああ。まずそれを飲むんだ。話はそれからだ」
そう言うと、シーナは俺に『ピンク色のカプセルのようなもの』を差し出した。大きさは『地球』でよく見かける市販の『かぜ薬のカプセル』程度なので、俺は特に水を必要とせず、スッと飲み込んだ。
ゴックン。
「……飲んだか?」
「あ、ああ。まあ、飲んだけど…………これ何?」
「うむ。このカプセルを飲んだことにより、今からお前は『媒介役』として『神の力』を『具現化』することができるようになりました。おめでとうございます」
「えっ……そ、そうなの? え? え? あ、ありがとう……」
なっ……や、やけにあっさりだな。
でも、何だ……? 何かひっかかるぞ…………。
……あれ?
「そ、そう言えばシーナ、お前、さっき『五大欲(食欲・睡眠欲・色欲・物欲・名誉欲)』の中から『一つだけ選んで封印する』って言ったよな?」
「……ああ、言ったな」
「じゃ、じゃあ、何でこの『カプセルを飲んだだけ』でお前は俺に『媒介役になれた』なんて言うんだ?」
「それはな、このカプセルにはな、『事前』にわたしがお前の『封印する欲求を仕込んでおいた』からだ」
「!? な、なにーーーーーっ!」
し、しまった!? うっかり流れで飲んでしまった。
どう考えても「変」だろ? あんな「カプセル」……。
バカッ! 俺のバカッ!
「大丈夫だ、少なくとも『食欲』ではないから安心しろ。おいしいものを食べる欲求はちゃんとそのままにしておいた。わたしはやさしいからな」
「ちょ、ちょちょ……ちょっと待てっ! じゃ、じゃあ、お前、俺の……俺の、どの『利己的欲求』を封印したんだ?」
「んっ? ああ……封印したのは『色欲』だ」
「!?……し、色欲?……そ、それって」
「ああ、『性欲』のことだ」
「な、なな、ななななーーーにーーーーっ!」
「大丈夫。五大欲の中で『色欲(性欲)』のほうが一番『利己的欲求を抑える』のが『ラク』だし、しかも、その割に『神の力』を『具現化』するのは『封印する五大欲』の中で『最大』だからな……つまり『一石二鳥』てやつだっ!」
と、シーナは『お前のためにやってあげたぞっ!』的な得意満面の笑顔で答えた。
俺は、しばらく、そんなシーナの『気遣い』に呆然としていた……が、すると、おそらく今の『カプセル』を飲んだからなのか……身体が熱く火照ってきた。
それは、ジワリジワリとゆっくり熱を帯び、次第にどんどん加速して身体を火照り始めてきた。
「ぐっ……あ、熱い。身体が焼けるように……熱いっ! お、おいシーナ、これは一体……?」
「うむ。大丈夫だ。これはその『カプセル』を飲んだことにより『色欲(性欲)を封印する』という『契約』を『神』と交わしたことによる現象のひとつだ。しばらくすれば元に戻るから、まあ、少しガマンしろ」
「くっ! な、なんだよ、それ…………」
それも、先に言えよっ!
俺の身体は、内側からどんどん熱くなっていった。そして、それと同時に、俺の身体の外側は光を発していた。
身体の内側では『熱』が、外では『光』が、どんどん加速度を増し急上昇していく。
そして、『熱』と『光』が最大になったとき、俺の『右手の甲』にチリチリと何かを『刻む』ような『熱と痛み』を感じた。
その後、その右手の甲の『熱と痛み』が無くなると同時に、俺の身体の『内側・外側』の『熱』も『光』も、消え去っていった。
「ふむ。これで『神との契約』は正式に完了した。これで、お前も『媒介役』として『神通具現化』が使えるようになった」
「そ、そうなのか……?」
「ああ。その証拠に、ホレ、ここ、ここ……ここを見てみろ……」
と、シーナが、俺に『右手の甲』を見るようゼスチャーした。すると……、
「……あっ!」
そこには何か『記号』のようなものが刻まれていた。
「こ、これって……まさか?」
「これは『六芒星』というやつで、この『印』が『神との契約が正式に完了した』という『印』になる」
「六芒……星……」
『六芒星』……地球にいたときにその手の小説・映画は好きだったからその言葉は聞いたことがあった。だから、何となくだが『神との契約の印』という話には、しっくり受け入れることができた。
そして、その横でシーナが『神との契約』について続きを話し始める。
「ちなみに、この『神との契約』である『色欲の封印』を破ると『媒介役』の力は無くなり、二度と使えなくなる。つまり『再契約』は無いということだ。そして、この世界で『力』を使えないということは即『死』を意味する…………この意味がわかるな?」
と、シーナが真面目な顔で俺に凄んで説明をする。
しかし、
「いやいやいやいや……おかしいだろ、お前っ! 順序、逆っ! 契約も何も、そもそも、どうしてそんな大事なことを『カプセルを飲む前』に話さなかったんだよ? そんな大事なことなら『利己的欲求』くらい自分で選ばせろよっ! そんな契約……ただの『詐欺』じゃねーか!」
「さ、詐欺だとぉー! 失敬なっ! わたしはお前に少しでも楽して『媒介役』になってもらおうとだなー……け、けっして、『『色欲の封印』のほうが面白そうだから』なんて動機でやったわけじゃ、な、ないんだからねっ!」
シ、シーナさん……本音が漏れてますし、ツンデレ風な言い方になってますし、あと、ツンデレの使い方も間違ってますよ。
「あっ! 忘れてたーっ!」
「!……な、何、何、なによっ!? もう勘弁してくれよ! まだ、何かあんの?!」
「あのな、隼人、実は……」
これ、また、すごーく「嫌な予感」がした。
そして……またもや「的中」した。
「わたしの『媒介役の力』は、ここ(アナザーワールド)では封印されてるから……」
「……えっ?」
「でも、大丈夫っ! この先、何かと戦うことになってもわたしは『アドバイス』でサポートするからっ! だから、何か、わからないことがあったらいつでも聞いてくれ、何でも答えてやるぞっ!…………わたしの知識と『メモ帳』に書かれている範囲であればなっ!」
いや、何でもじゃ、ないじゃん!
いやいやいやいや、ちょっと待て。落ち着け、俺。今、ツッコむところはそこじゃねえ。
「なので、何かに襲われたときは全力でわたしを守るように、以上……………………あとは頼んだよ、お兄ちゃん」
「お兄ちゃんじゃねえ! て言うか、お前…………本当に、力使えないのぉー?」
「うむ。ここでは使えない。『仕様』だ」
「うるせーよっ!『仕様』とか言うなっ! で、でも、さっきお前、おじさんに魔法が見られると困るって言ってたじゃん?!」
「ああ、あれか……? あれはだな、『お前の媒介役の力を見られるのは困る』という意味だ」
「は……はあぁあぁぁぁあーーー?? じゃ、じゃあ、お前、自分の力は使えないのに、神父には娘さんを助けに行きますとか、おじさんには足手まといだから、とか言って帰しちゃったわけ? 何の『アテ』もなかったわけ?」
「いやいや、だから、『アテ』は隼人……いやさ、『お兄ちゃん』だったってこと。それでー、そうなると、おじさんがいたままだと、お兄ちゃんの『媒介役』の力を見せてしまうことになるでしょ? そうなると、力を使えなくてアンリちゃんを助けることができないじゃない? だから、おじさんには帰ってもらう必要があったの? わかった?」
シーナにとって、この口調が『妹』なのかは知らんが、その『妹設定のキャラ』で説明した。
うぜー。
「あ、そっかー、わかった!………………て、なるわけねーだろ!」
ノリツッコんでみました。
「お前、話、擦り替えるなよ。お前のその言い方って……『俺が媒介役になって戦う前提』じゃねーかよ! お前、もし、俺が『媒介役なんてならない』って言ってたら、どうするつもりだったんだよ?」
「ああ、それなら大丈夫だ……どんな手を使ってでもこの『カプセル』をお前に飲ませるつもりだったから」
「……………………」
ガチョーン。
そりゃ、出ますよ…………「昭和のギャグ」も。
つまり、俺は……「どっちにしろ、この選択しかなかった」て、ことかよ。
まったく、やり方が「ブラック企業」並みだな、おい。
それにしても、こいつ、とんでもねーな。
自分で言ったことはすぐ忘れるし、おバカだし、そして……、
「自分が面白そうと思うことなら、俺よりも優先しやがるしっ!」。
――とは言え。
『色欲(性欲)の封印』…………か。まあ、確かに、こんなシーナに俺が欲情するなんてこと、今後、まず『無い』だろうし、最初は、すごく不安だったけど、よく考えてみればシーナの言う通り『あり』なのかもしれないな。なんせ、『色欲の封印』は我慢するのがラクな上、『神通具現化』を引き出す力は、封印する五大欲の中では一番高いらしいし……。そう考えると、確かに『一石二鳥』なのかも知れないな。
まあ、『シーナの言う通り』になるのが『シャク』だけど。
「はー、わかったよ、シーナ。『色欲の封印』……何とか我慢して『媒介役』として、このアナザーワールドで頑張ってみるよ」
と、俺はシーナに『納得してないけどしょうがないから』という『大人の対応』を見せ、あわよくば、今後の『貸し』にでもするつもりな態度で、そう答えた。
「そ、そうか? い、意外と物分りがいいじゃないか。やるな、隼人。少し見直したぞ」
「ふっ……まかせとけ」
――二人は、このときの『色欲の封印』の選択を、後に、深く後悔することとなる。
そして、それは、隼人やシーナ、また、この先関わってくる女の子たちすべてをも巻き込んでいく。
この先、訪れる「女難の元凶」はすべて、このときの「色欲の封印」という「神との契約」から始まった。
更新しました~。
今のところ、ほぼ順調に更新できてますが、そろそろ「書き溜め切れ」になるので、もしかしたら更新頻度が落ちるかも……。
という「言い訳」を今のうちからしておきますねww
本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




