第四章 【095】
【095】
「久しいな……ロマネ・フランジュ」
その『黒い渦』から、ガーギル・アーチボルトが出現した。
「その顔……ガーギル、お前、何があった?」
「言ったろ? 私は、『神』から力を授かり、伝説の『闇属性の魔法士』となった、と」
ガーギル・アーチボルトのその表情は、人間離れしたふてぶてさを醸し出していた。
「『闇属性の魔法士』……これまでの文献の中には、その存在の可能性を示唆する話や、物的証拠もあったが、よもや、実際の『使い手』が存在するとは、な」
「これこそが、わたしが特別な存在……世界を統べる存在として『神』から認められたという証拠だ、ロマネよ」
「ふん。お前は、相変わらずだな、ガーギル」
「何?」
「お前の、その『特別』を求める性格は、側近魔法士時代と変わらないと言っている」
「それの何が悪い?」
「その思い自体は、別に悪いとは思わん。ただ、その『求める欲』が強い余り、他人を犠牲にしたり、傷つけたりするところが相変わらずだし、残念だと言っておるのじゃ」
「ふん。えらそーに……説教か?」
「ああ、説教だ。欲に溺れて挙句、こんな『負の力』を手に入れ、己の欲のみで、多くの人間を傷つけおって……そのお前に授けた『神』とやらは『神』ではない。ただの……『邪悪な何か』だ」
ロマネが強い口調で、ガーギル・アーチボルトに言い放つ。
「ふん。『神』と思うか、『邪悪な何か』と思うかは人それぞれ……お前にとやかく言われる筋合いはない」
「なるほど、まあ、それは一理あるな。では、わたしはわたしが信じる『信念』に従って……お前を葬る!」
「やってみろ」
ロマネは、懐から『魔法符』を取り出す。
「火炎レベル7!」
ロマネの手のひらから巨大の火の塊が出現し、ガーギル・アーチボルトを襲う。
「……吸収序の段!」
ガーギル・アーチボルトがそう唱えるやいなや、ガーギルの正面に先ほどの『黒い渦』が現れ、勢いよく襲ってきた巨大の炎をスーッと音もなく、軽々と吸収した。
「な、何っ!?」
ロマネは、目の前の光景に唖然とした。
(い、今のはレベル7の火炎じゃぞ? それをいとも簡単に吸収など、以前のこいつ(ガーギル)であれば防ぐのがやっとのはず……)
「ふふ……何を驚いている? この程度の火炎なぞ、取るに足らん」
「くっ……」
「ロマネよ、お主がもし、以前のわたしをイメージして攻撃しているのであれば……死ぬぞ?」
「?!」
「黒炎乱舞序の段!」
すると、黒い渦の後ろに立つロマネの身体全身から「黒い炎」が弾け飛び、ロマネ・フランジュ向けて襲ってきた。
「くっ! 術者防御レベル7!」
「魔法符詠唱」により、再度、ロマネの目の前に虹色の膜が展開される…………が。
「ぐはぁ……!?」
ロマネを保護する虹色の膜は、「黒い炎」を完全には吸収することができず、炎に包まれることはなかったものの、大きな衝撃を身体に受けた。
そして……膝をつくロマネ。
「ロマネーーッ!?」
そんな、ダメージを受け、膝を突くロマネの肩にリサが飛びつき、叫ぶ。
「ロマネ! もう無理しないで! ここからはわたしが何とかするから!」
「リ、リサ……様?」
驚きの表情を浮かべるロマネ。
「わたしだって、少しくらい魔法は使えます! それに、何より…………わたしはこの国の王です!」
「……?!」
「国を守る……それが王のすべてです!」
そう言うと、リサは腰を上げ、ロマネの前に…………立った。
「……さあ、ガーギル・アーチボルト! 今度は、わたくし、セントリア王国、リサ・クイーン・セントリア女王陛下がお相手です!」
ロマネの前に立ち、ガーギル・アーチボルトに向けて放つその姿は、神々しさに満ち溢れていた…………が、その手、足、全身は震えていた。
「ふっふっふ……震えてなお、前に立つ。なるほど、勇ましいですな、女王陛下。しかし……」
ガーギル・アーチボルトの『禍々しい黒いオーラ』が全身から溢れ出してきた。
「わたしは……そういう『偽善』が嫌いなんですよ?」
「……くっ!?」
リサに向けて言い放つガーギル・アーチボルトのその顔は、さっきよりも一層、凶悪に……狂悪に満ちた表情をして、リサを威圧してきた。
「いいでしょう……あなたのその言葉、試させてもらいますよ?」
ガーギル・アーチボルトの『禍々しい黒いオーラ』がさらに膨れ上がる。それは、同時に、ガーギル・アーチボルトの魔法力の上昇を意味していた。
「ま、まずい!? い、今まで、とは、比べ物にもならな、いくらいの……魔法力。リ、リサ様……お逃げ、くだ、さい!」
ロマネは、必死に立ち上がろうとしたが、思ってた以上にガーギル・アーチボルトの『黒い炎』の衝撃を受けており、身体の自由を奪われていた。
「わ、わたしは……負けません! あなたのような、平気で人を踏みにじるような相手には…………絶対っ!」
「リ、リサ……様……」
「ふっふっふ……あなたのその『偽善的信念』をへし折って差し上げましょう。すぐには殺しません。ジワジワと、ゆっくりと、苦しんでいただきます。そして、あなたがわたしに許しを乞う姿を……見せていただきましょう!」
そう言うと、ガーギル・アーチボルトが右の手のひらを天にかざし、叫ぶ。
「天界千蟲序の段!」
ガーギル・アーチボルトの手のひらから天に黒い光が一閃。すると上空でパーンと破裂し、『黒い雨粒のようなもの』が降ってきた。
「な、何……?」
リサが空を見上げながら、近づいてくる『黒い雨粒のようなもの』を確認していた。
「?!……ま、まずい!!」
ロマネが、『何か』に気づき、咄嗟に懐から2枚の魔法符を取り出し、自分とリサに向けて『魔法符詠唱』を放つ。
「領域防御レ、レベル……10!」
すると、ロマネ自身とリサの全身が、虹色の膜に覆われた。
「あ、ありがとう、ロマ………………きゃあああああああああ!!!!!!」
虹色の膜が、リサの全身を覆い尽くした瞬間、上から…………『黒い蟲』が大量に降ってきた。
まるで『黒い雨粒』のように。
一瞬。ロマネが放った『領域防御』が早かった為、二人は『黒い蟲』の直撃を免れていた。しかし……、
「ふふふ……さすがだな、ロマネ。あの一瞬で、その判断ができるとは。まあ、それはそれで一向に構わんがな」
「?……なんだ、と?」
「この『黒い蟲』は天界に住む『マッドワーム』という蟲でな。こいつらは何でも食う。肉でも魚でも人でも、そして…………魔法障壁でもな」
「な……何っ?!」
「こいつらの食欲は旺盛も旺盛……咄嗟に二人分の『領域防御レベル10』を放ったのはとりあえず正解だったが、いずれにしろ、そう長くは持たんだろう……くっくっく」
『千ノ蟲』がモゾモゾと蠢き、二人を包む虹色の膜を侵食していく。
「い、嫌……」
リサは、真っ青の顔で膝を抱え座り込み、ただただ怯えていた。
「リ、リサ様……」
苦悶の表情を浮かべるロマネだったが、身体が言うことをきかない。
「さあ、見せてもらいましょうか、リサ様? あなた様の『偽善的信念』を」
リサの目の前に立ったガーギル・アーチボルトが、狂悪な表情を歪めて、笑みを作り、見下ろす。
『千ノ蟲』が、リサを守る虹色の膜を猛烈な勢いで食いつぶしていた。
「更新あとがき」
おはようございます。
気づいたら、もう年末。早~い、
mitsuzoです。
更新しました~。
更新が大分、遅れてしまいました~。
これは、正直、年内での『第一部完結』は難しいかも。
展開的にはあと少しではあるのですが……う~ん、どうしよう。
まあ、やれるだけのことをやりますので、どうぞ、よろしくお願いします。
というわけで、本日も読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)




