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蝶を飼う  作者: 鮎川 了
第一章 黒い蝶
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如才無き罠





 “餌”は夜羽から指定される。

 “餌”の顔写真や映像、名前、年齢、職業。その他、何処へ行けば会えるのかが詳細に知らされる。

 そして“餌”は

 「女ばかりよ、だって、むさ苦しい男ばかり食べさせてたら、綺麗な蝶にならないわ」

 と、夜羽は言うが、相手を指定するあたり、営利目的、もしくは怨恨による計画的な殺人と思える。

 そして、金に困った男など星の数程居るのに、何故、夜羽が俺を選んだのか最初の仕事でハッキリと解った。


 このバーに居れば、毎日のように餌……“鈴木依子”はやって来る。

 夜羽に用意された、アメリカの伊達男が着るような洒落た服を身に付けて、バーのカウンターに座ってショットグラスを傾けていると、なにやら後から話声が聞こえる

後には女の二人客のいるボックス席だ。

 二人とも“餌”の鈴木 依子ではないな。と思い、視線を外そうとしたら女達と目が合った。

 気まずいので軽く会釈をしたら、満面の笑顔で返された。

 しかも

 「きゃ〜挨拶されちゃった」

 「やっぱりあの人、タレントか俳優よ、空気が違うもの」

 などと言っている。

 着ている物で騙されるなんて、女とはなんて単純な生き物なんだろう。 と思っていると

 「すいません、隣り空いてますか?」

 鼻をつくキツイ香水の香りとともにまた一人、女の客がやって来た。

 「空いてますよ、どう……」

 言いかけて息を飲んだ。

 “餌”だ。

 “鈴木依子”だ。

 まさか向こうからやって来るとは……!


 いかにも仕事帰りと言った感じの、グレーのスーツにひっつめ髪。スカートのサイドスリットからは、控え目にだが形の良い太股がちらりと見えた。

 顔は……間違いない

 夜羽に見せられた“鈴木依子”の写真や映像とぴったり一致した。

 「えっ……?どうかしました?」

 俺があんまり驚いた顔で見ていたものだから“鈴木依子”は警戒したようだ。

 「いえ、俺のタイプの女性が来たものだから見とれてたんですよ」

 慌てて口から出任せ。  

 「あらあら、イケメンにそんな風に言われるなんて悪い気はしないわ」

 俺は役者に向いてるかもしれない。



 その後は酒の勢いも有って、意気投合した。否、少なくとも俺の方は意気投合している振りをした。

 「良い所があるんですよ、行ってみませんか?」

 「いいところ?うふふ」

 夜羽に言われた通り、タクシーを三回乗り継ぐ。 三回目のタクシーは邸から離れた所に停めて少し歩く。

 「ねえ?何でこんな面倒な乗り方してるの?」

 当然と言えば当然の疑問。

 「ごめん、俺、来月デビュー予定の俳優なんだ。スキャンダルにでもなったら君に迷惑がかかるからね」

 先程のバーの女達の会話にヒントを得て、そんな事を言ってみる。

 「ああ!やっぱり?普通の人とどこか違うと思ったのよ!」

 “鈴木依子”は上機嫌になった。



 やっと“餌”を温室に連れ込む事が出来た。

 否、思ったより簡単だったが。

 夜羽が俺を選んだのは、この演技力を見込んでの事だったのだろう。

 「うわー!綺麗!何ここ!」

 温室の扉を開けた途端、彼女は、はしゃぎ回る。

 「こらこら、あんまりはしゃぐと危ないよ」

 「だって、凄いんだもの、天国にいるみたい!」

 効果的にライトアップされた温室の植物達。

 俺も夜の温室は初めて見たが、確かにこの世の物とは思えない美しさだ。

 まさに楽園か天国。

 しかしこの後、彼女を本物の天国へ連れて行かなければならない。







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