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第二章 究極の選択ですか?

「さて話してくれますか? 何で男の子なのにスカートを穿いていたのか」


 色々と問い詰めたいこともありましたが、この世界では明かりはぜいたく品。暗くなったら眠るもの。そんな訳で、体を洗い終わったクーに事情を聞くのは今朝まで持ち越したのですが。


「前におばあちゃんがくれた」

「おばあちゃん? クーのおばあちゃんですか?」


 ふるふると首を振るクー。それに合わせて丁寧に梳かれた狐色の髪がさらさらと肩を流れます。体を磨いて髪を整えたクーは、実は結構な美形だったんですね。見とれそうになって、慌てて意識を戻します。


「知らないおばあちゃんが、まごむすめに似てるからってくれた」


 なるほど、おそらく見ず知らずの気の良いおばあさんが孤児であるクーに同情して服をあげたということなんですね。そのおばあさんもクーがまさか男の子だったなんて思わなかったんでしょう。実際、私も気付けなかったほど綺麗な顔立ちをしていますから。


「クー、代わりの服は……」

「替えは下着しか持ってない」

「あぅ……」


 この世界の服って、どれぐらいするものなのでしょうか? 賢者さんからもらった銅貨をあてるにしろ、相当厳しいことになりそうです。古着屋やフリーマーケットなどがあれば良いのですが。

 と、ノックの音がして釜茹で亭のご亭主が顔を覗かせました。


「おいクー、昨日約束してくれた薪割りなんだが……」


 言いかけ、まじまじとクーの顔を見詰めます。


「こいつは驚いた。クー、お前べっぴんさんだったんだな」


 いえ、そう見えますけどこの子は男の子ですよ? そう告げたい所でしたが、不意にご亭主は手のひらを叩いて仰いました。


「そうだクー、お前夕方だけでもいいからウェイトレスをやらんか? 人手が足りなかった所だしお前さんの器量なら十分やれるぜ」

「うえいとれす?」


 首を傾げ、おうむ返しに呟くクー。そんなクーにご亭主は説明して下さいます。


「料理や酒をお客に配る仕事だ。なに、大半はなじみの客だから失敗しても何とかなるからよ」

「くぅ?」


 困ったように私を見詰めるクー。

 これは非常においしい話です。だって住所不定無職から住み込みの定職を得られるようなものじゃないですか。今すぐにでも飛び付きたい好条件です。

 しかしですよ、これってつまりは女装が前提。クーにこれ以上、そんな真似をさせる訳には……


「いいだろ、給料は銅貨四枚に夕食の賄い付きだ」


 ……貧乏がみんないけないんです。




「どうしたのアーヤ」

「いえ、ちょっと自己嫌悪に陥っていただけですから。クーは気にしないでください」

「くぅ?」


 クーは私のことをアーヤと呼びます。どうしてもアヤと発音が出来ない様子でしたので、それで妥協したとも言います。

 薪割りに戻るクー。備え付けの鉈を軽く木に食い込ませてから、鉈の重さを利用して打ち下ろし真っ二つに。私も今時珍しい薪のお風呂に入っていましたから薪割りは経験があるのですが、その私から見てもクーの様子は見事です。慣れているんでしょうね。私なんて子供の頃、誤って薪を押さえていた左手に鉈を落としてしまって痛い目を見た覚えがあります。

 ところで、この世界の人は昼夕の一日二食が基本になっているらしく朝食を取らないのは仕方ないにしても、そろそろお昼時なのでクーにも何か食べさせてあげたいのですが。

 そんなことを考えていると、


「なんでぃ、こんなにやってくれたのかい?」


 釜茹で亭の勝手口からご亭主が顔を覗かせました。


「もういいから上がりな。昼飯食わせてやるからよ」

「くぅ?」


 首を傾げるクーに気の良い笑顔を見せてくれて、


「薪割りの超過分でおごってやるよ」


 と仰ってくれました。


「……ありがと」


 照れながらも礼を言うクー。口べたなクーでしたが、こういう礼儀の部分はきちんとできています。良いことですね。


「いいから、いいから」


 ご亭主の薦めに従って食堂に。今日はシチューに黒パンが付いてきました。シチューの素なんてありませんから、バターと小麦粉と牛乳を加熱しながら練って作るホワイトソースからして手作りなんでしょうね。冷蔵庫ももちろんありませんから素材もその時採れた物、旬の物を使っているのでしょう。とっても美味しそうです。それに煮物は食材の栄養を無駄に逃がしませんから、大変経済的な食事なんですよね。加えてライ麦や雑穀などを混ぜ込んで作ったらしい黒パンは粗食のような感じですが、現代人の感覚からするとこれもまた健康食っぽくて良い感じです。

 クー、ちゃんと食べて大きく健康に育って下さいね。


「アーヤ、これからどうするの?」


 握り箸ならぬ握りスプーンで食べようとするクーを矯正しながら答えます。


「そうですね、河原に行ってみませんか?」

「河原?」

「昨日手に入れたパチンコ、弾がないと使えないでしょう? 石を拾いに行きましょう」

「分かった」


 パンでお碗に残った汁を綺麗に拭い去るようにして食べ終えるクー。なかなか良い心がけです。


「それでは、河原に向かいましょうか」




 クーの案内で近くを流れる小川へ。

 河原の小石から適当な物を拾い集め、的を立てて練習するクー。目が良いのか、なかなか上手です。

 私はと言うと、砥石を切り出した時の残りくずらしき石が河原に散らばっているのを見つけました。どうやらこの近所の山に砥石の採取場があるようですね。

 それを確認してクーの方を振り返ると、あの子は早速、何か中型の鳥を狙っている様子でした。そろそろと逃げられないぎりぎりの距離を計って近づいた上でパチンコを放ちます。

 あ、当たりました。急いで確保した獲物を持ってこちらに駆け寄って来るクー。


「アーヤ!」


 興奮に上気した表情で得意げに獲物を掲げて見せます。


「キジバトとれたー!」


 私は昨日の釜茹で亭で聞きかじった話を、思い出しました。ハトは伝書バトとして使われるため狩猟が禁じられており、そのせいか唯一、狩猟が認められているキジバトも含めて人間からあまり逃げないので仕留めるのは比較的容易なのだそうです。


「これがキジバトですか」


 普通のハトと違って翼には茶色と黒の鱗模様、首元に綺麗な斑点があるのが特徴ですね。元の世界でも町中で何度か見たことがあります。やはりこの世界、私たちの世界とどこかでつながりがあると言うことなんですね。

 そして持っていた小さなナイフで血抜きをすると早速、羽根をむしりにかかるクー。手慣れていますね。

 私はと言うと、クリスマス前に祖父がゴソゴソ動く麻袋をもらってきたな、と思ったらそれがクリスマスのメインディッシュの七面鳥だったり。雪の中に高圧電線で感電したらしいキジが落ちているのを見つけて拾って帰ったら、その日の晩ご飯はキジ鍋だったり。そういう一般的な女子高生とはかけ離れた生活を送っていましたから、食べるために殺すことに抵抗感はありませんね。

 むしろ一度キジの肉を食べたら、あの美味しさはクセになりますよ。鶏なんかとは比較にならなくて、山でキジを見かけてもお肉が歩いているようにしか見えなくなるくらい。

 それはともかく、


「クー、羽根は取っておいて下さい」

「くぅ? 分かった」


 小川に視線を戻しますがどうもこの小川、魚が居るようで。フライフィッシングができそうなのです。

 一見、何やら虫のように見えるフライと呼ばれる毛針ですが、これは釣り針に動物の毛や鳥の羽根を糸で巻きつけた物で、田舎暮らしの無聊の慰めに私もよく自作したものでした。まずは釣り針を手に入れなくてはいけないとはいえ、素材を集めておくに越したことは無いでしょう。


「あと、その辺で砥石の切りくずを見つけました。適当な物を拾って携帯用の砥石にしましょう」

「うん」




 上機嫌で街を歩くクー。仕留めたキジバトを持って行けば、釜茹で亭で結構豪勢な食事ができるでしょうからね。

 ですが、


「おっと、気をつけろ!」


 横合いの小路から飛び出してきた男に突き飛ばされて、よろめくクー。


「クー、その男スリです!」


 クーの腰に下げていた袋を男が掏り取っていたのを私は目にしていました。


「追いかけて!」

「くぅ?」


 私の声に促され男を追いかけるクー。

 そして気付かれたのを知って逃げ出す男。


「逃げられる?」


 男の足は速く、じりじりと引き離されます。でもクーの表情には、あまり焦りの色は無くて。それに戸惑いを感じながらいくつもの角を曲がった所で……


「えっ!?」


 男はフードとマントで全身を覆った小柄な影に取り押さえられていました。そしてその人物は、


「ほう、珍しい。アイオーンか」


 と姿を消しているはずの私に向かって話しかけて来たのです。

 幼い中に、厳とした強さを持った声。背丈からして少年のようですが、ただ者ではない空気を纏っています。


「そのエルライナの子供に憑いているのか…… 黒髪、黒衣に純白の羽、なるほど人とは隔絶した美しさだな」


 それは私のことなのでしょうけど、誉められているのでしょうか?


「名は?」

「彩と言います」


 問われるままに答えますが。


「アヤ? 珍しい名だな。何か意味があるのか?」

「私の故郷の言葉では、彩りという意味ですが」


 名前に使われている漢字を伝える時に使ういつもの言い回しでしたが、相手はなるほどと感心してくれました。


「白と黒の清楚な容貌でありながらにじみ出るようなあでやかさがある。名は体を表すと言うが正しくそれだな」

「あなたは……」

「この男、追いかけていたのだろう?」

「はい」


 ともかくスリを捕まえて下さった恩人ですから、礼は尽くさないといけません。


「ありがとうございました。あいにくこのような身でお礼もろくにできないのですが」

「別に……」


 そう言いかけて、しかし考え直したのか一呼吸置いてから問われます。


「いや、そうだな。礼と言うならこの辺で珍しい酒を扱っている所を知らないか?」

「あ、それなら釜茹で亭と言う所で十年もののマムシ酒があるとか……」


 そう話し合う私たちを置いて、クーはマイペースで小袋を失神した男の手から取り戻しています。


「ではな。機会があればまた会おう」


 そう告げて立ち去る少年。


「何者なんでしょうか」

「くぅ?」


 私と一緒に少年を見送るクー。


「ああクー、お金は大丈夫でしたか?」

「お金?」


 そう言って、クーは服の中から首から紐で吊るした袋を取り出して見せてくれました。


「えっ、じゃあ盗られた袋は……」

「さっき集めたパチンコの弾」


 つまりは河原で拾った小石ですか。道理で、あまり慌てた様子が無かったはずです。


「そういうことは早く言って下さい……」


 本当に頼みますから。

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