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序章 見知らぬ世界で

 それは、冴え冴えとした月の光が差す夜空の下の出会いでした。

 この春から通い出した高校からの帰り道。その途中で突然、まばゆい閃光に飲み込まれたかと思うと、気が付いたらそこは見知らぬ異国としか思えない夜の街角で。

 私の目の前には、素朴なスカート姿の小柄な女の子が腰を抜かしたようにぺたんとへたり込んでいました。

 その頭には犬のような耳が長い髪の間からぴんと立っていて、突然現れた私に驚いているのかおどおどと、せわしなく動いています。作り物ではありえないそれが、この子が普通の人間では無いことを示していました。

 そして、ここが私の知る日常世界とはまったく違った場所であるということも。


 ……この子だ。


 過程や理屈を素通りして確信がありました。私はこの子に引き寄せられたんだと。この子のために、私は今ここに在るんだと。

 刷り込みと言って良いほどの強烈な欲求。それが何を意味するのかは分かりませんでしたが。


 ……タマシイガ、ヨビヨセル。


 心の命じるままに、一歩前へ。建物の影から、彼女の居る月明かりの元へ踏み出します。この身を包む、闇に吸い込まれるような今時珍しい黒染めのセーラー服は私の高校の制服で。身をかがめ、友人からも褒められた真っ直ぐな黒髪をかき上げながら問います。

 相手のことが知りたい、そんな衝動が口にさせたのは、


「お名前は?」


 その一言。


「くぅ……」


 か細い声に、わずかに首を傾げ確かめます。


「……くう? くうでいいんですか?」


 私の問いかけが呼び水になったのか、ふるふると彼女が首を振ると空白だった表情に感情が戻ってきて。


「くー」

「くーちゃん?」

「うん」


 くー、クー、空?

 いえ、狐色の髪からして外国の子みたいな感じですからクーというのが適切でしょうか? この耳ですから外国人以前の問題かも知れませんけど。

 そしてこの子の名を認識することで私の中の歯車が、いえ私という歯車がこの世界に、この目の前の子にかちりと噛み合ったのが分かりました。

 この子は私に属するものだ。ようやく見つけた今まで無意識に求め続けていた私の半身だ。


「めがみさま? ……ホントに?」


 そう呟くように言う女の子の視線は正面から私に、そして気が付いたら私の背に生まれていた純白の翼に向けられていて。

 今までも、整った顔立ちをしているとか美人とか言われたことはありましたが、女神様は無かったですね。でもこの子の、クーの真っ直ぐな視線からはそう本気で思っている様子がはっきりと見て取れて。


「そう、ですね」


 あふれる歓喜を抑えながら、彼女の望む女神様に相応しい笑顔を意識して答えます。この出会いが、いつまでもこの子の心に刻み込まれるように。


「私、藤原彩は貴方の、貴方だけを守る者です」


 名前の交換。これは儀式であり契約でもありました。


「貴方が女神と呼ぶなら、私は貴方の女神になりましょう」


 今は分からないことばかりだけど。この言葉だけは、真実でした。

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