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Psychopath  作者: 東都湖 公太郎
シザーハンズ
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3




 それから莉子は、目つきの悪いカニ男に延々と追いかけ回され、逃げに逃げまくった。

 体力にはそれなりの自信があった莉子だったが、男のほうも負けじと食らい付き、不毛な追いかけっこの末、隣町まで来てしまっていた。

 莉子の暮らす町と違いこの辺りは繁華街も多く、信号機や横断歩道が至るところにある。

 それを巧みに利用し、やっとのことでカニ男を振り切り、現在に至る。


「……っぷは~~~っ! 生き返るーーーっ!」


 とある公園の水飲み場で喉の渇きを潤す莉子。

 十分ほど前にカニ男を引き離して安堵した途端、疲労感が襲い、たまらずここに駆け込んだのだ。


「あ、そうだ。この炎も消さなきゃ……」


 ふと気が付き、青白く燃える右手を水で漱ぐ。


「あれ? え……ちょ、な、なんで? なんで消えないのよ、これ……」


 だが、水は莉子が期待した通りの働きをすることはなく彼女の手を滑り、無常にも上から下へ流れ落ちる。

 右手はいまだ煌々と燃え続けていた。


点火イグニンションの火は水じゃ消せないぜ」


 背後からかけられた聞き覚えのある声。

 振り返ると、先ほどの不良少年が息ひとつ切らさずに佇んでいた。

 もちろん左手にグロテスクな大鋏を携えて。


「ひっ、出たっ! 妖怪カニ男っ!」

「だからそのカニ男っていうのやめろって! ……ったく、こんなド素人相手に殺気立った自分が恥ずかしいぜ」


 少年がそう呟くと、彼の左手にあった大鋏は忽然と姿を消した。


「あれ……? ハサミが無くなった……」

武装ミリタリアを解除してやったんだよ。お前が無害でバカな新参者ルーキーだって分かったからな」

「なっ……! あたしのどこがバカだってのよっ!」

「ひよっこ精神異能者サイコパスのくせに点火イグニッションしたまま夜の街をウロついてる時点でバカ丸出しじゃねーか」


 少年はしたり顔でそう言い放つ。


「あのさ、まずあたし……あんたの使う言葉がよく分かんないんだけど」

「日本語も理解できないのか? ゆとり教育の弊害がこんなところにまで……」

「ちょっ、そ、そういう意味じゃないわよっ! あんたが要所要所で使う変な単語の意味がよく分からないって言ってんのっ!!」


 少年の失礼な誤解に対して地団太を踏んで憤慨する莉子。

 そんな莉子を見て、少年は小ばかにしたように笑う。


「ったく、これだから新参者ルーキーは……。で? いつだ?」

「は? なにが?」

「その右手の炎だ。いつ覚醒したんだ?」

「ええっと……あんたに会う5分前くらいかな?」

「……マジかよ。だったらなにも知らないのも無理ないか」


 頭を抱える少年。その表情から伝わってくる後悔の念。

 彼の心にはまるで幼い子をいじめてしまった男の子のような、苦々しく後味悪い気持ちが広がっていた。


「はぁー……しょうがねーなぁ。散々追いかけ回しちまった詫びに、精神異能者サイコパスのいろはを教えてやるか」


 そう呟いて、少年は近くのベンチに腰かける。


「どうした? お前も座れよ」

「い、いきなりハサミ出したりしないわよね……?」

「なにも知らない新参者ルーキーをいたぶるほど俺はゲスじゃねーよ」

「ホントでしょうね……?」

「ホントだよ」

「……ウソついたらぶっ飛ばすからね」


 莉子も少し警戒しながら、彼と距離を空けてベンチに座る。

 真上にある外灯が、ふたりの顔を煌々と照らした。





「ふーん。つまり、あたし達みたいな超能力を使える人を精神異能者サイコパスっていうのね?」

「あ、ああ……」


 莉子は、少年……西山にしやま 拓也たくやの口から、精神異能者サイコパスについてレクチャーを受けていた。

 ひとつ。精神異能者サイコパスの力は一般人の目には見えない。

 ふたつ。精神エネルギーを武器として扱うことを精神武装ミリタリアという。

 みっつ。精神武装ミリタリアで攻撃を受けると精神的ダメージを受ける。

 よっつ。精神武装ミリタリアを破壊されても精神的ダメージを受ける。

 いつつ。精神武装ミリタリア展開の予備動作を点火イグニッションといい、集中して気持ちを鎮めれば火は消える。

 莉子はこの点火イグニッション状態のまま拓也に遭遇したため、彼に敵とみなされて追いかけられたのだ。

 しかし、それも過ぎたこと。

 拓也は見た目こそ不良っぽい少年だが意外と面倒見が良く、口調は荒っぽいが莉子の質問にも親切に答え、彼女の点火イグニッションの消し方も教えてくれた。

 おかげで莉子の右手はすっかり元通り、今や炎の片鱗などどこにも見当たらない。


「それにしても、なんだか漫画みたいな話ね。西山はこの力に目覚めてから長いの?」

「…………」

「西山?」

「……ひとつ、言い忘れていたことがあった。これはだいぶ前にボコボコにしたゲスな精神異能者サイコパスから聞いた話なんだが……」


 拓也はまるで懐かしいものを見るような目で、莉子の顔を見つめながら、語り出す。

 莉子がベンチに座ってから、拓也はずっとこんな調子だった。


精神武装ミリタリアで相手を限界まで攻撃すると、そいつは耐えられなくなって一種の精神崩壊みたいな状態になるらしいんだ」

「せ……精神崩壊? し、死んじゃうの?」

「死にはしねぇ。ただ、攻撃してきた相手の精神エネルギーを流し込まれて、そいつの言いなりになっちまうらしいんだよ。ま、いうなれば洗脳だな」

「うっ……に、西山は、そんな酷いこと……したことあるわけ……?」


 少し様子がおかしく見えた彼を警戒して身構えながら、莉子はおずおずと訪ねる。


「ない」

「そう、良かっ―――」

「けど……今からやってみようと思う」

「……え?」


 拓也はそう言うと、左手に青い炎を宿して莉子に向き直る。

 そして素早く精神武装ミリタリアを展開。

 左手は不気味なカニバサミへと姿を変える。


「ちょっ! あ、あんた、さっき新参者ルーキーは攻撃しないって言ったじゃん!」

「悪い。撤回する」

「なんで!? カニ男って言ったことまだ怒ってるわけ!?」

「違う。俺はそんなにケツの穴の小さい男じゃねぇ」

「だったらなんで!?」

「……一之瀬、お前には―――」


 拓也は、揺るぎない決意を宿した男の眼で、莉子をまっすぐに見据えて告げる。

 莉子に刃を向ける、その理由を。


「おまえには、ママになってもらう」




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