勇者と魔王はお隣同士~次期魔王、下校中~
『隣の魔王一家』にでてきた次期魔王・勇司視点です。
僕の隣は勇者一家だ。
ここは太陽系第三惑星地球の日本。
なんで勇者が日本に?というと、日本に長期療養中らしい。
詳しく話すと、向こうの世界でおじさんは光の勇者、おばさんは光の巫女という立場だったらしい。
魔王達魔族の卑劣な悪行に耐えかねた国王が勇者に魔王討伐を命じた。
まぁ、何百何千といる魔族にたった一人で行けと命じる国王の方が残酷だが。
ちなみにその『魔族による卑劣な悪行』というのが、人身売買・大量の虐殺行為等々だったらしいが、それは嘘で、実際はその領地の貴族の領主達が行っていたのを誤魔化すために嘘の報告を領主達が行い、
ろくに調べもせず、真に受けた国王がおじさんに討伐を命じたらしい。
おじさんは元々、伯爵家の三男だったけど、政敵に負けて、没落しちゃったんだって。大抵の貴族の跡取り以外の子息は騎士になるんだけど、例に漏れずおじさんも騎士になった。まぁ、没落した家の三男ということで、アレコレ言われたらしいけど、負けずに準騎士→正騎士→一番隊福隊長→隊長→副団長→団長と異例の速さと実力で出世をしたんだ。スゴイよね~、こっちではあんまり腕をふるえないけど、当時でもイロイロ伝説があったらしい。いわく、
『虎熊獅子(虎と熊と獅子のキメラで魔獣の中では最強クラス)に素手で勝った』
『竜に勝った』
『隣の国の国王に気に入られて、婿にと薦められた』
等々…。さすがに竜はムリだろう。あ~、でもおじさんなら勝てそう、鬼みたいに強いから。あながち誇張話ではないも…。
ん、深く考えるのはやめとこう。怖いから。
で、騎士団に入隊してすぐに、おばさんと知り合ったんだって。おばさんは神殿の巫女で公爵家の令嬢だったんだけど、光の魔法が使えるってコトで、神殿に巫女として入ったんだって。王族の従姉妹だったおばさんは、当時の王子の妃候補だったらしいけど、おばさんいわく、
『金と地位と肩書き以外に何の取り柄もない』
つまり、『王族』という立場以外に魅力がないと断言した訳で。
おばさんは明るい栗色の髪で蒼い瞳のふわふわした可愛い感じの女性で、今でもとても三児の母とは思えない若々しい見た目なら女子大生と間違われてもおかしくない外見をしている。いつもニコニコしているのに、この話の時はおばさんの後ろから黒い何かがブワッと湧き出ていて、正直、おじさんより怖かったデス。いったいどんなヤツなんだ王子って。
まぁ、おばさんが神殿に入ったんで結婚話は白紙になったらしい。当時新人だった準騎士のおじさんが神殿で信者に絡まれてたおばさんを助けて知り合い、それから参拝する度に、話をしたり、神殿の大神官におばさんのことを気にかけるように言ったり、神殿騎士と訓練したりして、割と神殿内部からは評判は良かったみたい。いわく
『あの青年はいい騎士になる』
『カッコいいぜ、アニキ』
『一生ついて行きます!』等々…。
うん?話を聞いてたときもおかしいくね?って思ったけど、なんかおかしいよね。
当時のことを話すおばさんは瞳をキラキラさせてて、『恋する少女』なんだけど、内容がね…。
ちなみに上から順に大神官、神殿騎士、神殿騎士見習いの主な発言らしい。
おじさんがわからなくなってきた。やめよう、気にしちゃだめだ。
僕の知ってるおじさんは濃い茶色の髪に瑠璃色の瞳。細マッチョで身長は父さんと同じぐらいで185センチはある。朴訥としたのほほんとした空気を持った人なんだけどなぁ。
ちなみに僕の中で逆らっちゃいけない人一位おばさん、二位おじさんで三位母さん四位が宰相のクルツで四位が父さん。え、おかしい?そうかなぁ、明良に言うと
『あーそんな感じ、解る!』
って言ってくれたけど。
あ、明良はね、僕の幼馴染でおじさんとおばさんの娘なんだ。同じ十七歳。明良の下には妹の誠・十五歳と刹那・十四歳の五人家族なんだ。誠ちゃんは妹と同じ十五歳だから妹同然だし、刹那はチャレンジャーなことに僕の妹の蘭を十歳の頃から口説いてる。子犬の振りして蘭に甘えているのを見てると『うらやましいな』と思ってしまう。明良は何でも自分でやってしまうし、なかなか僕を頼ってくれない。ちぇっ。
あぁ、話を戻すね、で、おじさんが団長になった頃には二人は恋人同士になったらしい。
(ちなみに出会ってから三年だって。三年で団長って鬼ですか、おじさん。)
それを知った王子が(おばさんを諦めてなかったんだね)騎士や傭兵達が参加する武術大会みたいなのがあって、そこで負かせて恥をかかそうとしたらしいんだよ。
おじさん強いよー。ぶっちぎりで。なんて無謀な、と思ったよ。
ほら、王族のしかも王子で王位継承権第一位だったらしいから、まわりからチヤホヤされて
『素晴らしい考えです』
『お強いですなぁ』
なーんてヨイショされて調子に乗ってたらしい。
おじさんも、そういう大会で手加減をするのは失礼だという考え(確かに失礼だ)の人だから、手加減せずに、アッサリ勝っちゃったらしい。で、王族・貴族達から
『王族に対して無礼なことを!』
『身の程知らずな』
って、非難されたらしい。
は?って思うだろ?そっちがおかしいよなぁ。そこは王族らしく
『素晴らしい腕前だった。お前のような者が騎士団にいてくれるのなら安心だ』
ぐらい、余裕を持って言えよ!ちっせぇ器の持ち主だな!と思ったよ。おじさん達が国を捨てたのがわかる。で、非難されまくって、王子可愛さに国王がちょうど、魔族の横行に耐えかねていたこともあって
『魔王を倒して来い』
って言って、おじさんは素直に
『承知いたしました』
って魔王退治に向かったんだって。
どうやら、この国の王族は頭が悪いらしい。貴族の中にはまともなのもいたらしいけど、『この国はダメだ』って他国へ行っちゃったんだって。
おばさんは、一人で向かおうとするおじさんに無理やり付いて行ったんだって。公爵家も王族に見切りを付けてて、魔族なら大丈夫だろうと。公爵家、魔族を調べてたんだね、おじさんのことも知ってたらしいから、まぁあんな王子に嫁がれるよりかは…。鬼みたいに強いからその辺のザコには負けないしねぇ。
公爵家の後押しもあって、魔界への門を開いて、魔界へ入ったらしい。門は世界にいくつもある。その国には、五ヵ所あって、一番近い門まで馬でひと月かかる。門は地面に魔方陣があって東西南北に柱が立ってて、柱にも呪文がびっしり刻まれている。使えるのは大きな魔力が必要で二人とも持ってるんだって。見たことないけど。なんでもこっちにきた時には使えなくなったって。
向こうの世界は二重世界で魔界は人間界の地下にあって(まぁ厳密に言うと地下ではないんだけど)門を使って行き来できる。太陽も月も星もあるし、人間と生活はあまり変わらない。
ただ、魔王は世襲制ではないことだけ。一番力が強い者が魔王になる。魔王は今四人いて大陸に一人づついる。代替わりは魔王に勝った者が次の魔王、又は魔王が死んだり引退すると大陸で一番強い者が魔王になる。
父さんの次は僕なんだよねぇ。魔王って、面倒だなぁ。
あ、紹介忘れてた、僕 中田勇司って言うんだ。よろしくね、次期魔王なんだよ。
世襲制じゃないのに何で僕が次期魔王かというと簡単だよ。南の大陸で二番目に強いから。父さんが引退したら次に強い僕が魔王。
おぉっとゴメン、また話がそれちゃった。で、、魔界に行ってビックリした二人は、とりあえず、魔王のいる魔王城へ行ったんだよ。で、行く先々で魔族に親切に
『魔王城はこの道をまーっすぐ行ったら街が見えてくるから、そこが城下町。その街の奥に魔王城があるよ』
って道を教えてもらい、食べ物ももらい、二人の頭の中は
『????』
だったらしい。想像を裏切ってゴメンね。魔族って争いごとは嫌いなんだ。魔族にも貴族とか身分制度はあるけど、基本的に長閑で牧歌的な風景と気質なんだ。
そりゃぁ。魔力は人間よりも強いし、人間よりも長生きだけど、別に人間を敵対視なんてしてないよ。いくつかの人間の国と交流もあるし、貿易だってしてるしね。僕の父さんは南の魔王だけど、東の魔王は日本から花嫁もらってたし、西の魔王は魔族の妻を娶ったけど、将軍は人間の王女を花嫁にしたらしい。北はね~、宰相が人間の女性だって。
魔王城に着いてあっさり魔王に会い、魔王や側近の魔族から、『人間は襲ってないよ~』的な話を聞いて、騙された事に気づいたおじさんは殺されても仕方がない、って覚悟したけど、
『魔界に住もう』
って、魔王に薦められたんだって。まぁ、父さんもおじさんの実力が分かったんだろうな。魔王だから当然一番強いのは父さんだし、『誰も剣とか体術の鍛錬に付き合ってくれない』って今でも愚痴を言ってるし、自分と同じ力量の人物に会えて嬉しかったんだと思う。 けど、
『急に言われても感情がついていかない』
『しばらく、ひっそりと穏やかに過ごしたい』
って言う二人に父さんは、日本を紹介したらしい。日本は東の魔王の花嫁さんが、南に来た時に教えてくれて、息抜きに行き来しだしたらしい。転移門も王城内に作って、日本に別荘代わりの一軒家を建てて、長期休暇の時は日本のネズミで有名なテーマパークに行ったり、京都を観光したりして気に入って、物価は高いけど治安もいいし、おじさん達を誘ったらしい。
住めば都という言葉どおりに二人とも日本を気に入って、二人で日本語学校に通ったり、おばさんはガーデニングをしたり和食を習ったり、おじさんは剣道、合気道、柔術、柔道と武術を習いまくり、あっという間に師範代に。おじさん、それ以上強くなってどうするの。今じゃぁ、道場を開いて子どもに教えたり、女性には護身術やダイエットにもいいって事で人気らしい。
そういえば、以前に『光の』勇者とか巫女の『光』の魔法ってどんな魔法なのっておばさんに聞いてみたら恥ずかしそうに、
『…笑わないでね。ピカーッって体が光るの。』
『…効果あるの?』
『無いの』
『『…』』
なにかのキャラクターみたいだとは言わないでおいた。
隣には幼馴染の明良がいて現在下校中。
家が隣で同じ高校なので、いつも登下校は一緒だ。
保育園・幼稚園・小学校・中学校・高校と一緒だから、大学で別れてしまうのが、心が引き裂かれそうでつらい。
明良は可愛い。めっちゃ可愛い。喜怒哀楽がはっきりしていて、まるで子リスのよう。背が150センチと小柄なので、いつも明良を見てるとあまりの可愛らしさにニコニコしてしまう。
クラスの女子には僕の気持ちがバレバレで、明良に同情的だ。何で同情するんだ?
僕の外見で判断してる後輩や上級生はファンクラブなんか作って騒いでるけど、同学年にはいないんだよ。まぁ、僕がいつも隣にいるから、もちろん休み時間も一緒、お昼も一緒。さすがに、男子に誘われてサッカーやバスケをしてるけどね。実はコレ、情報収集なんだ。明良にばれるとまずいから、席をはずすのに、恰好の口実なんだ。何の情報かって?決まってるじゃない、明良によからぬ言動をしそうなヤツを抹殺…じゃない、諦めさせるためさ。最近は少なくなったよ。明良の隣でニコニコしてたら、いなくなった。もうこの学校にはいないんじゃないかなぁ。頑張った甲斐があったなぁ。
明良が隣にいてニコニコしているのでよく学校で女子に『王子様』呼ばわりされてるけど、嫌なんだよね。向こうの王子を思い出して。会った事も無いんだけど、生理的に合わないと思う。あーそうそう、あのおじさん達の国、滅んだよー。公爵家と一部の貴族の反乱で王族はあっさり国外追放。取り巻きの貴族も追放。『魔族の横行が~』ってデマを報告した領主も犯罪を犯した人間も処罰された。国王と王子は死んだけどね。父さんが、コッソリやったらしい。なんでも、砂漠に置いてきたってさ。もうミイラになってるよね。
『生きてても何するかわからないし、百害あって一利なし!』
胸張って言ったよ、父さん。
で、今は議会制になったんだって。公爵家が新たな王にっていう動きもあったらしいけど、何代か先にまた同じことが起こるだろうから、それならいっそ、王族・貴族の身分をなくしてしまおうってことになったんだって。
その公爵家はおばさんの実家だよ。今は一議員として政治に参加してるんだって。いつでも向こうに帰れるよ。魔族もおじさんが父さんの『初めての友』って事でとても好意的だ。今度のGWにでも誘ってみようか。と、楽しい想像に思いを馳せていたら、
「ねぇ勇司、そんなにもてるのに彼女作らないの?」
って急に明良が言い出した。
「どうしたの、急に。それは無理だよ。魔界に帰って魔王になるんだから。大学卒業までこっちにいるから、それまでに必要な知識とか技術とか持って帰れるようにしないといけないから、あんまり余裕ないなぁ」
そうそう、やると決めたからには、出来るだけやっとかないと。後で後悔するのは嫌だ。
「そっか、帰っちゃうんだよね。あたし全然進路考えてないから、どうしよう」
「明良は魔界に行かないの?父さん、おじさんたちが来るのを楽しみにしてるよ。」
「魔界か。そういえば考えてなかったなぁ。う~ん、魔界で生活できるかなぁ。あたし魔法使えないし、向こうは電気もガスもないし、こっちの生活に慣れちゃったしなぁ」
「大丈夫だよ、向こうは電気もガスもないけど、冷蔵庫も洗濯機もエアコンも使えるよ」
おじさん達が過ごしやすいようにって父さん達頑張ってたなぁ。
「え、なんで向こうに家電があるの?そんでもって使えるの?」
「それがね、こっちで家電を買ったんだけど、魔界で使えないかと試行錯誤してたら、人間の商人が魔石をくれたんだ。」
魔石の説明をすると納得したみたいだ。
「う~でも、あたしが魔界でできる仕事ってあるのかなぁ」
「もちろんあるよ。明良にしか出来ない仕事が。向こうに行ってもいいように、料理とか裁縫とか勉強してみたら?」
もちろん、あるとも。明良にしか出来ないことが。明良以外はダメだからね。
「そっか、そうだね。魔界も視野に入れて、進路を考えてみる。どっちにしろ芸は身を助けるっていうし、食うに困らないように、頑張るわ」
魔界行きを前向きに考えた明良に
「うん、頑張って。協力するよ」
魔界の皆も待ってるから。
ちゃぁんと根回し済みだよ。
だから早くお嫁さんになってね。
こんにちは、腹黒万歳大使の美作しあです。
読んでくださって、ありがとうございます。
気に入って頂けたら幸いです。