1-1
なんとか遅刻は免れたものの、教室に入ると誰もいなかった。
(今日の一時間目移動教室だったけか…)
考えながら外を見てみると、人の気配はしない。
(しっかし疲れたな)
約400mの学校までの道のりを1分ちょっとでに猛ダッシュしてきたので疲れていた。
ふと、今日の夢が気になる。
(危機って何なんだろうな…)
もしかして、この遅刻の危機だったってことなのか?
(だったらいちいち夢で忠告するなよ)
九条は苦笑し、また外を見渡す。
学校から景色を眺めると、そこらじゅうにビルが立ち並ぶ、近未来都市という感じがした。
再び校舎のほうに目を戻し、人の気配がないか見てみる。
やはり人の気配はない。どうしたものか。ふと、体育館に目をやると…九条の目があるものを捉えた。
ガスマスクに防弾チョッキ、おまけに銃ではなく、赤い炎を纏っている枯れ木を持った男が体育館あたりから2,3人出てきた。
おや?と思い、少年は携帯電話を取り出す。幼馴染の名前のところを選択して、電話をかける。
プルルルという音が1回聞こえた。
「もしもし」
「ゆ…ゆたか……?」
「そうだが、どうしたんだ?遅刻しそうになって、いそいで駆けつけて、5分まえにきたと…」
それをさえぎるように、幼馴染の八島が心無い声で言った。
「に…逃げて………」
その直後、悲鳴とともに電話の主が変わった。
「はぁーい!お前かアメシスト。」
九条はビックリマークが2個ぐらいつくほど驚いた。
眉間にしわを寄せ、声の主の言うことを聞いてみる。
「今からお前を始末してやる。10分後に来なければ逆にこの小娘の命がないと思え」
「んな!」
頭の中が真っ白になる。
(10分以内にこないと八島の命がないだと…?
どういうことだ、それ以前になぜ俺が狙われている。)
「どうしてそうなる!」
「お前は知っているだろう?そのすべてを吐け。」
「だから何をしっているかをだ!」
九条は確かにこの耳でその言葉を捉えた。
「お前についてだ。」
(ますます意味がわからなくなってきている。
何故見ず知らずの人に俺のことを話さなければならない。
何故こうなったのか、だれかこの状況を俺に3行以内で説明しろ!)
「俺について?」
「ああ。」
電話の男は続ける
「アメシスト。お前は、唯一の生き残りだ。知っているのだろう?」
少年は決定的といえる発言を聞いた。
「ドラゴンについて」
九条の心臓が高鳴る。彼が今日見た夢は誰も知らないはずだ。誰にも言ったことがないためだ。
なのに、何故こいつが知っているのだろう。
「お前自信が知っていないのなら、お前の本能を出してやるまでだ。そのまま聞いてやる」
「10分だ。いいな?体育館の裏にこい」
ブツッと電話が切れる。
「どうすればいいんだ」
少年は呆然と立っていた。どうすればいいのかわからず。
今にでも10分のカウントダウンは始まっている。
(考えろ…考えるんだ……)
九条は考える。
男は何か自分にまつわることを言ったはずだ。奴はドラゴンについてと言った。
ドラゴンといえば昨日の夢。アメシストドラゴンについて。
そこだ。
アメシストドラゴンは最後に何かを言ったはずだ。
そう危機がどうとか…。その前。
魔方陣
九条は覚えている。魔方陣がどのような形なのかを、鮮明に。
(それが鍵なのか…?)
わからない。でもやってみなけりゃわからない。
九条は黒板へ向かいチョークを手に取る。そして黒板に書く。
あの石版と同じ大きさの魔方陣を。
書き終わった。
これがどういうものなのかがわからない。
九条はさらに考えようとした。
その時
『やぁ!』
声がした。幼い、純真無垢な、少女のような声。
その声は黒板から聞こえてくる。
「だれ…だ?」
『ボクはラル。アメシストドラゴンさ!』
「アメシスト…ドラゴン…?」
あの昨日の渋い大人の声も、アメシストドラゴンといっていた。
これが鍵だ。
この直面している問題を解決するための。
『早く君に会いたいよ!』
『その魔方陣に両手を着けてみて!』
少年は少々ためらったが、そんな暇はないと思い、手をつく。
すると、白い光が生まれ、少年を包んでいく…
夢と同じ空間が広がっていた。
無限に広がる白色の空間。
そこにはやはり、魔方陣の石版が。
『続けて』
ラルは言う
『我、汝と契約するものなり』
九条も続ける
「我、汝と契約するものなり」
ラルは言う
『魂を共有し、共に戦うものなり』
九条は再び続けて言う
「魂を共有し、共に戦うものなり」
最後はいうことがわかっていた。わかっていた、気がした。
「『アメシストの祝福より目を覚ませ!』」
石版が砕け、あるものが出てきた。
「これは…おじいさんの形見の…」
それはアメシストでできたロザリオ…
と共に、とある生き物がいた。
紫色の体、目を。ツノは黄色に光っている……ドラゴン。
身の丈は俺の少し小さい程度の170cmあたりか。
そいつが翼をばさばさゆらし、浮んでいた。
『ありがとう。そしてはじめまして!マスター!』
『一緒に、倒しに行こうか!』
「…え?」
『マスターの今までは今の一瞬で状況確認することができたよ。幼馴染を助けて、あの電話の男を倒すんでしょ?』
「あ…ああそうだよ。」
「でも」
九条は続ける
「俺には何の力もない、知識もない。どうすればいい」
『マスターには異常といってもいいほどの、魔力が眠っているよ。知識については大丈夫。その十字架に触れてみて。』
俺は十字架に触れる
刹那、とある二つのあるものの名前が浮んできた。発動方法というものも浮んでくる。
『今はまだレベルが足りないけれど、これだけだけど、このスキルが使えるんだよ』
『でももう時間がないね。………いこう。』
九条は元の場所にもどっていた。首に下がっているのは、アメシストのロザリオ。そして、ロザリオにはラルがもどっていた。
『行こう!』
十字架から声が聞こえて、少年は体育館裏に向かって走り出す。
廊下を駆けていく。
九条は、廊下を走り、階段を駆けて、校庭へ出た。体育館履きのまま。
九条はかける。目的地に向かって。
ちょうど8分を過ぎたころだった。
体育館裏に到着した。
「おう、まってたぜ、アメシスト」
男は190センチメートルほどの長身。黒いスーツを身に纏い、オールバックの金髪であった
いかにも悪い奴というイメージの男は幼馴染、八島を突き飛ばしてきた。
「ほらよ。」
九条は叫ぶ
「はちじま!」
「ゆたかぁ…」
今にも泣きそうな幼馴染を抱きしめると、九条は男をにらみつける。
「ちなみに、俺は簡単に殺されはしないぞ!」
「なにも力を持ってないお前に何ができるってんだ」
九条は八島を離れさせると、男は、杖を出してきた。
漆黒の杖。手に取る赤い焔を纏い、九条に向ける。
男は腕を突き出し、こちらを猛獣が敵を威嚇するような目つきで見る。
「炎よ、お前は、焼き尽くす炎だ。」
男は続ける
「すべてを食らい、灰にしてやれ!」
「マキシマムファイア!」
杖からは炎が九条の頬をかすり、周辺にあった木を一部分だけ、焼ききり、炎は消えた。
「お前はコイツをよけられない。」
九条は返す。
「ああ、よけれないさ。いいや、よけない。」
「あ?」
男は不機嫌そうな顔で、こちらを再びにらんでくる。
九条は叫ぶ
「こっちにだって奥の手はあるんだよ!」
最大限の声で叫びきる
「アメシストの祝福より目を覚ませ!」
アメシストのロザリオが光る。白色に…
その光がすべてを飲み込む。
そして、飲み込んだ後、ラル…アメシストドラゴンが出現した!
『マスター!バッチリだよ!』
ラルが言う。
この一部始終を見ていた男は驚愕した様子で、しかし戦意はこれだけでは消失しないようだ。
ふたたびこっちに杖を向けるなり愚痴を言い始める
「なんだってんだ…奴が覚醒するなんて聞いてないぞ!」
男は再び唱える
「すべてを食らい、灰にしてやれ!」
九条は言い捨てる。
「遅い!」
九条はすでにモーションに入っていた。右腕を後ろに引き力を込める。
刹那、俺の体が浮ぶ、この感覚は…最高に気持ちのいい状態になる。
ラルは全身から冷気がでた状態になり、目が青くなる。
そして唱える
「食らいあがれ!アメシストドラゴンの吐息!」
九条は右腕を精一杯の力で突き出す。
そうすると、ラルの口から冷気の塊が男に向かって飛ばされる
「レベル1、第一のスキル、アイスブレス!」
九条は叫ぶ。
冷気の塊は、男を一気に飲み込む、九条はそろそろいいかと思ったころに、腕を引き戻した。
辺りは完全に凍りつき、その部分だけまったく別の場所かと思えるような風景になっていた。
そして、男は凍っていた。
しかし何者かが、頭の中に語りかけてきた。
「これで終わったと思うなよ、アメシスト」
凍っている男だ。良かった。死んでいない。
殺すつもりでやったわけでもないしな。と思っていると。
「そんなに安心するなよ…まだお前を襲う奴は大量にいる。」
男は続ける
「どうするつもりだ」
九条は言い返す
「どうするもなにも、返り討ちにしてやるだけさ。」
「…ケッ」
そうして、会話が途切れた。
「ふぅ…一件落着だな。ラル」
『そうだね、マスター!』
九条は隣にいる幼馴染に目を運んでみると、あまりの光景に気絶してるようだった。
「こっちもどうにかしないといけないな。」
幼馴染を起こそうとした
そのときだった。
凄まじい、風がこっちに向かってきた。得体の知れない何かが向かってきてるようだった。
思わず身構えをする。
だんだんと大きなものがこっちにむかってきて…
その正体が現れた。
それは人間であった。それもドラゴンに乗った。
その人間の性別は男。そして、これもまた長身。2mをゆうに越すような背丈。そしてそれに伴うように見事に筋肉がついた肉体。
「覚醒おめでとう、九条寛君。そして誕生おめでとう、ラル君。」
その体格からは思えない、温厚な声で話しかけてきた。
こうして九条の物語が始まった。