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第5話 #5 や、嫌だ…
「それは…」
『祐樹』って…私には呼べない。
そんな力、私には無い。
「…昔はよく、『祐樹君』って、呼んでくれてたのにな…」
少し、寂しそうな顔。
その顔に、私の胸が、呼吸が止まりそうな程に締め付けられる。
早く、阿久津君から、離れなきゃ…
そう、思う。
一緒にいると、何故か、息が苦しくて、胸が痛くて、死んでしまいそうだ。
「……っ……」
阿久津君の手が、私の頬に触れる。
「如何しても、ダメか?」
悲しそうで、でも優しい声に、身体が融けるんじゃないかと思った。
「や、嫌だ…」
阿久津君の手から逃れようと、後ろに引く。
「ひゃっ!」
足元の鞄に躓く。
「危な…」
そのまま、後ろに倒れる。
「え…」
目の前に、阿久津君の顔があった。
「あ…」
阿久津君が耳まで赤くなる。
「え…と…」
上から覆い被さる様な体制のまま、阿久津君が言う。
「とりあえず、すみません。」
「…なんで謝るの?」
「いや、何か…」
少し神妙な表情で、続ける。
「傷ついた…みたいな顔、してるからさ…」
…そう思ってるなら…
「まず、離れてくれないかな…?」
「うわ、悪い!」
阿久津君が私から離れる。