『博多ブロック参上!—秋風と“おせっかい愛”配達便—』
タイトル:『博多ブロック参上!—秋風と“おせっかい愛”配達便—』
(2047年・初秋/博多)
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玄関チャイムが鳴った。
ピンポーン♪
ドアを開けた瞬間――
古賀真理子「あらぁ〜ん、元気しとるねぇ!だんだん寒ぅなるけん、風邪ひかんごとね〜!」
高山由紀「ほらブランケット持ってきたよ!“ぶはぁ耐寒仕様”!」
森本さやか「みかんネットで三袋分どーん!ビタミンCで“うんばぁ免疫”アップ〜!」
中原志穂(真顔)「今日は“遊び相手・家事・笑い”の三本立て。段取りは任せて」
井上明美「写真も撮るけん!“博多ブロック出動”でトレンド入りやね!あ、顔出しは確認とるけん安心して〜!」
一気に玄関が賑やかになる。
青柳光子と柳川優子は、思わず顔を見合わせた。
光子「……来た」
優子「博多ブロック、出動」
そして二人は、救われたように笑った。
リビングに、わあっと温かい空気が流れ込む。
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遊び係、即席フォーメーション。
真理子「陽翔〜、結音〜、おいで〜。今日は“てけてけ遠足ごっこ”ばするばい!」
陽翔「てけ〜♪」
結音「てけ〜♪」
さやか「じゃあ“段ボール電車”乗車〜!」
ガムテープで連結された段ボール車両が、リビングを横断する。
由紀「駅アナウンス担当いきまーす。次は〜“ぶはぁ前”〜“うんばぁ中央”〜」
志穂「安全第一。角にクッション、床に滑り止め。この列車、保険完備」
明美「ホームで写真!“てけてけ特急、元気を運びます”はいチーズ!」
陽翔と結音は段ボールの窓から身を乗り出し、手を振る。
陽翔「ばいば〜い!」
結音「ぶはぁ〜!」
リビング――いや、もはや“待合室”状態の空間が爆笑に包まれた。
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その裏で、“まんま支援”は同時進行。
志穂「洗濯機まわす→干す→哺乳瓶消毒、タイムライン作成。光子さんは休憩、優子さんは温かいお茶」
由紀「夕飯の下ごしらえしとくけん。鶏団子の生姜スープでポカポカや」
真理子「肩まわして〜深呼吸して〜。妊婦さんの冷えは大敵、首・手首・足首を“ぬくぬく包囲網”!」
光子はソファに体を預ける。
光子「ありがたかぁ……天使降臨……」
優子も湯気の立つお茶を両手で持ちながら笑う。
優子「うち、今日、久々に“座ってお茶”しとる……」
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そこへ突然始まる。
ちびっこラジオ体操(博多版)。
さやか「せ〜の、“いっちに!ぶはぁ!”」
明美「“さんし!うんばぁ!”」
陽翔&結音「ぶぁっくしゅん!」
偶然のシンクロくしゃみ。
一瞬の沈黙。
そして――
全員「出たぁぁぁーー!!ぶぁっくしゅん!!」
由紀「このくしゃみ、暖房より効くね」
志穂「幸福ホルモンの放出、確認」
リビングは再び大笑い。
光子と優子はお腹を押さえながら笑った。
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台所では、秋の“あったか作戦”が密かに共有される。
真理子「夜は湯たんぽ、日中は腹巻き。外出は帽子+首元スヌード。“三首”は死守!」
由紀「加湿器まわして、寝る前の白湯。喉の“うんばぁ”予防やね」
志穂「買い出しは私らがシフト組む。リスト送って」
明美「撮影・配信系は私がフィルター管理。“プライバシー死守&かわいさ最大化”でいくけん!」
光子と優子は同時に頭を下げた。
光子・優子「……本当に助かる……」
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夕方。
さやかが絵本を開いた。
さやか「『てけてけ電車、ぶはぁの森へ』……」
陽翔「てけ〜……」
結音「てけ〜……」
小さなあくび。
まぶたがゆっくり閉じていく。
真理子(小声)「寝たねぇ……」
志穂「作戦成功」
由紀「スープ仕上げて帰るね。明日も寄るばい」
明美「“爆笑発電所女性部 本日の戦果”はクローズド投稿で共有しとく!」
玄関のドアが静かに閉まる。
五人の背中が秋の夕方に溶けていった。
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残った部屋には、
鶏団子スープのやさしい香りと、
子どもたちの穏やかな寝息が広がっていた。
光子はソファにもたれ、お腹に手を当てる。
光子「……ほんと、みんながおるけん、頑張れるね」
優子も同じようにお腹を撫でる。
優子「うん。笑いはやさしさやね。あったかい」
窓の外から入る秋風がカーテンを揺らした。
その風は、まるで
「ありがとう」と言うみたいに、
静かに部屋を通り抜けていった。
タイトル:『博多ブロック集合!〜笑いと子守の秋風便〜』
(2047年・初秋/福岡市博多区・青柳家リビング)
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ピンポーン。
「は〜い、どなた〜?」
青柳家の玄関が開いた瞬間、秋風と一緒に、にぎやかな声が雪崩れ込んできた。
古賀真理子「どーも、爆笑発電所女性部・博多ブロック、秋の陣でぇす!」
高山由紀「風邪ひかんように、しょうが入りスープ作ってきたけんね〜!」
森本さやか「こっちはみかんとお芋の山!“笑いビタミン補給祭”〜!」
中原志穂「今日は“育児支援+笑い警備”の二刀流で来ました」
井上明美「カメラも持参〜。ほら、陽翔くんと結音ちゃん、今日もかわいかぁ〜!」
リビングにどっと入ってくる女性部の五人。そのあとを、ちょこちょこ小さな足音が追いかけてくる。
光子が思わず笑った。
光子「秋の陣、ほんとに来た……」
柳川優子も、肩の力がふっと抜けた顔でうなずく。
優子「来た瞬間、部屋があったかくなるんよね」
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子どもたちも登場。
古賀真理子の娘・まりあ(7歳)「こんにちは〜!陽翔くん、結音ちゃん、いっしょにあそぼ〜!」
陽翔「てけ〜!」
結音「うんばぁ〜!」
高山由紀の息子・けんと(5歳)「見て見て!これ、紙コップけん玉!」
陽翔「けんま〜?」
けんと「そう!こうやって……うわっ、すっぽ抜けたー!」
さやかの娘・みお(6歳)「けんとー、やっぱり今日もスカかぁ〜!」
けんと「うるさいなぁ!」
陽翔と結音が同時に息を吸って、目をまん丸にする。
陽翔&結音「ぶはぁ〜〜!!」
全員「出たー!“ぶはぁタイミング”完璧!」
その一言で、部屋がもう一段笑いで揺れた。
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ママトークと、癒し現場。
リビングの一角で、真理子が光子と優子に顔を寄せる。
真理子「光子ちゃん、優子ちゃん、最近どうね?お腹順調?」
光子はお腹にそっと手を当て、笑いながらうなずいた。
光子「うん、順調よ。陽翔が毎日“ぽんぽん”言いよるけん、胎教バッチリ」
志穂が淡々と付け足す。
志穂「胎教の内容が“ぽんぽん”と“ぶはぁ”中心なのが気になるが、家族の幸福度は高い」
優子が吹き出した。
優子「うちは結音の“ちゅっ”攻撃がね。もうお腹の赤ちゃんまで笑っとると思う」
由紀「想像しただけで可愛いか〜!」
明美「SNSで“ぽんぽん姉弟”タグ作ったら伸びるばい!」
優子「やめり、勝手にトレンド作らんで」
光子が笑いながら、ゆっくり呼吸を整える。お腹の中の命が、今日も静かに一緒に笑っている気がした。
光子「ねぇ……うちの子の名前、決まったんよ」
五人が一斉に顔を向ける。
光子「燈真。灯りみたいに強うて、真っすぐ育ってほしいって」
真理子が手を叩いた。
真理子「よか名前!秋の夜みたいに、あったか灯るやん」
志穂「記録。青柳家、次子の名前“燈真”。」
優子が優しく笑って、光子のお腹に目を落とす。
優子「とうまくん、きっとこの家の笑いに鍛えられるね」
光子「最初の発声が“ぶはぁ”になったらどうしようって、ちょっと思いよる」
由紀「それはそれで、元気でよか!」
明美「“初ぶはぁ記念日”撮影、予約しとく?」
優子「やめりって」
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遊び係、大奮闘。
まりあ「陽翔くん、こっちこっち〜。おままごとしよ!」
陽翔「まんまごと〜!ぼく、ぱっぱ〜!」
結音「まんま〜!」
みお「あら、夫婦役もう決まっとるやん!」
けんと「じゃあオレ、犬役するー!」
陽翔「わんわん〜!」
けんと「……まてって言われる前に寝たらダメやろ〜!」
結音「うんばぁ〜〜〜!」
拍手みたいに小さな手を叩いて、本人だけが満足そうな顔をする。
笑い声が絶えない。
台所から、さやかがそっと覗き込んで、ぽつりと言った。
さやか「あの子ら見よってごらん。あの光景が、一番の“発電”やね」
志穂がうなずく。
志穂「笑いは地域資源。エネルギー循環、良好」
光子と優子は顔を見合わせて、ふっと肩の力を抜いた。家が“守られている”感じがする。言葉にすると大げさなのに、この五人がいるとそれが当たり前になる。
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晩ごはん支援と、温もりの輪。
由紀「今日のメニューは、鶏団子スープと南瓜コロッケ!冷凍して明日も食べれるけん、安心しとって!」
光子「助かる〜……ほんとにみんな、神様や〜!」
優子「明日からまた頑張れる。ありがとう」
さやか「次はおでん持ってくるけん!大根“ぶはぁ味しみ”スペシャル!」
優子「味しみは普通で頼む」
真理子が台所の湯気に向かって笑う。
真理子「やっぱ博多の秋は、スープで決まりやね」
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帰り際の、やさしい約束。
玄関で靴を履きながら、子どもたちが口々に言う。
まりあ「また遊ぼうね〜!とうまくん生まれたら、抱っこさせてね!」
けんと「次はオレが“てけてけ列車”ひっぱるけん!」
みお「ばいば〜い!“ぶはぁ〜”も忘れんでね〜!」
陽翔&結音「ばいば〜い!ぶはぁ〜〜!」
ドアが閉まって、足音が遠ざかる。
残ったリビングには、スープの匂いと、子どもたちの熱の余韻がふわりと漂った。
光子は静かに笑って、優子を見た。
光子「……ほんと、みんなに支えられとるね」
優子「うん。笑いがあると、どんな日も“あったかい”になる」
その言葉に呼応するみたいに、リビングの奥から小さな声が響く。
陽翔「まんま〜、ぶはぁ〜」
結音「うんばぁ〜」
光子と優子は同時に笑って、同時にお腹を撫でた。
秋風がカーテンを揺らす。
その揺れの向こうで、博多の空は高く澄んでいた。
そして今夜も、青柳家のリビングには、笑いと子守と、これから生まれてくる命の気配が、ちゃんと並んで息をしていた。
タイトル:『フランスの空に、光とやさしさの風が吹く』
(2047年・パリ&パリ郊外/ローラン・ギャロス&パレ・デ・スポール)
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第1章:翼、赤土の舞台へ――全仏オープン初戦
パリ、ローラン・ギャロス。
早朝の光が赤土の粒をひとつずつ起こし、コートを薄い朱に染めていた。
観客席はまだ満席ではない。それでも、音はもう立ち上がっている。靴底が土を踏みしめる音。ボールが弾む乾いた響き。遠くのフラッグが風を受けて鳴る布の擦れ。
青柳翼は、ラケットのグリップを握り直した。
深く息を吸う。吐く。
その呼吸の中に、博多の家の匂いが一瞬だけ混ざった気がした。湯気の立つスープの香り。畳の温度。子どもたちの足音。
ベンチに腰を下ろすと、スマホが小さく震えた。
画面に浮かんだのは、青柳光子からのメッセージ。
「陽翔と燈真も応援しとるばい。ぶはぁパワー全開でいけ」
翼は目尻を落として笑った。
燈真――まだこの世に姿を持たない名前。
それなのに、もう家の真ん中に居るみたいに、当たり前に呼ばれている。
「よし、“ぶはぁパワー”ね」
誰にも聞こえない声でそう言って、翼は立った。
ラケットが軽い。体が軽い。
遠く離れても、心の軸は家にある。それが分かっていると、人は強くなる。
試合開始。
相手はスペインの俊英、アレハンドロ・バルベルデ。鋭いトップスピンで先に仕掛け、時間を奪い、相手の足を止めてくるタイプだった。
だが、翼の足は止まらなかった。
赤土の上で、滑って、止まって、また滑る。
相手の回転を受け止め、角度で返し、空いたところへ刺す。
ラリーの途中、観客席がざわめく。無理に見える球が返ってくるからだ。
実況(仏語)「Incroyable!青柳、驚異的なディフェンスから一気にカウンター!」
ブレイクポイント。
翼は一歩、踏み込んだ。
ラケット面がボールを捉えた瞬間、スライスが細く伸び、コート際へ吸い込まれるように落ちた。
観客席が、喉の奥から声を出す。
「アォォォオ!」
翼の表情は変わらない。
ただ、目だけが少し柔らかい。
その目は、フランスの空の下にありながら、博多のリビングの灯りを見ている。
セットカウントは一方的に進んだ。
6-2、6-1、6-0。
わずか1時間28分、完勝。
試合を終えた翼は、コートを見上げた。
まぶしい空に向かって、唇が確かに動く。
「光子、ありがとう」
誰に言うでもない一言。
だがその瞬間、電光掲示板の大型スクリーンに日本からの中継映像が映った。
青柳家のリビング。光子が手を振り、陽翔がぴょんと跳ね、画面の外から誰かが笑っている。
字幕が添えられていた。
「ぶはぁ勝利!」
翼は、ほんの少しだけ肩を揺らして笑った。
赤土の王子――そんな呼び名はどうでもいい。
家族が笑ってくれるなら、それでいい。
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第2章:拓実、団体戦・初陣――日本、完全勝利
同じ頃。
パリ郊外、パレ・デ・スポール。
卓球ワールドカップ団体戦の会場は、熱気が壁に張りついていた。ボールの乾いた音が連打されるたび、客席の空気が揺れる。照明は白く、床は光り、汗は一瞬で乾きそうなほどに明るい。
柳川拓実は、円陣の中心に立っていた。
キャプテンとして、いつもより少しだけ声を落とす。落としたほうが、言葉が届くと知っているからだ。
「俺たちは、強くて優しいチームだ」
顔を見上げる仲間たちの目が、すっと真剣になる。
「遠くに家族がおる。応援してくれよる。
その気持ちを背負うってことは、重たいことやない。
むしろ、軽くなる。進める。
笑っていこう。勝っていこう」
誰かが吹き出しそうになる。
拓実は最後に、いつもの調子で付け足した。
「“ぶはぁ”と“うんばぁ”を信じて、全員で勝ち取るぞ!」
選手たちが、堪えきれず笑った。
笑いは、気の緩みではない。拓実にとってそれは集中のスイッチだった。
肩が落ちる。呼吸が整う。視界が澄む。
そして、勝負の刃が静かに立つ。
初戦の相手はドイツ。
第1試合、エース戦。
拓実はレシーブの角度で流れを掴み、早いタイミングで前へ入る。
小さな白球が跳ねた瞬間を逃さず、スマッシュが突き刺さる。
ポイントが積み上がるほど、会場のざわめきは大きくなる。
日本チームは第2、第3試合もストレートで押し切った。
最終スコア:日本 3 – 0 ドイツ。
会場が揺れた。
勝利は音になる。拍手は波になる。
そして、遠く離れた日本のスマホにも、その波は届く。
博多。
柳川優子のスマホに速報が飛び込む。
「柳川拓実、日本代表 初戦完勝!団体戦ベスト8進出!」
結音はタブレットの画面を見つめていた。
まだ言葉はたどたどしい。けれど、目の奥の喜びだけは大人と同じくらいまっすぐだ。
結音「ぱっぱ、すご〜い……うんばぁ」
その一言が、優子の胸の奥をあたためた。
画面の向こうで、拓実がほんの少し笑う。
その笑いが、家に返ってくる気がした。
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第3章:遠く離れても、心はひとつ
フランスの空の下。
赤土を蹴る翼と、白い球を追う拓実。
そして日本の空の下。
博多のリビングで、光子と優子が画面を見つめる。
応援は祈りに似ている。
声を出しても出さなくても、心の中で同じことを繰り返すからだ――どうか無事に、どうか勝って、どうか笑って帰ってきて。
光子「翼、赤土の王子やね。ほんと頼もしか〜」
優子「拓実も“団体戦の要”や。
もうこれは、ダブルで風が吹いとる」
美鈴が台所から顔を出す。
笑いを堪えるように、でも結局、笑っている。
美鈴「あんたたち……夫が遠征で活躍中でも、笑いが絶えんてどういう家庭よ」
光子と優子が、声を揃える。
光子・優子「笑いが家庭の燃料ですっ!」
美鈴は呆れたふりをして、プリンを冷蔵庫に押し込む。
美鈴「燃料、入れすぎて爆発せんごとね」
陽翔がそれを聞いて、なぜか得意げに言う。
陽翔「ぶはぁ〜!」
優子が指を立てる。
優子「それは合いの手やね」
陽翔は満足そうにうなずく。
そのやりとりの中で、光子はそっとお腹に手を当てた。
燈真――その名の気配が、今日も静かにそこにある。
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エピローグ:翼からのメッセージ、拓実からの言葉
翌朝。
フランス時間の夜、光子と優子のスマホがほぼ同時に震えた。
青柳翼から。
「1勝。これを家族の誇りにする。
陽翔、燈真。パパは“ぶはぁスマッシュ”で勝った」
柳川拓実から。
「初戦、完勝。チーム全員笑顔。
結音、赤ちゃん。こっちも“おとーたんファイト”で行くばい」
光子と優子は、スマホを胸に抱いた。
胸の奥で、笑いと涙が同時にほどける。
遠く離れていても、言葉ひとつで繋がるのが家族だ。
光子・優子「――次も、勝てる。うちらの笑いが届いとるけんね」
博多の夜。
カーテンの向こうで、空は静かに澄んでいた。
陽翔が、画面の向こうに向かって両手を振る。
結音も真似をする。
そして、家の中にいつもの合図が響く。
陽翔・結音「ぱっぱ〜!がんばれぇ〜!」
少し遅れて、陽翔が付け足す。
陽翔「ぶはぁ〜!」
その声は、家の天井で跳ね、窓を抜け、夜の博多をすべっていく。
そしてきっと――フランスの空にも、届いている。
勝負の熱の中に、家族の笑いが混ざる。
それが、青柳家と柳川家の風だった。
タイトル:『ぽよりんむにょたろう、博多デビュー!』
(2046年・初夏/福岡市博多区・青柳家リビング)
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昼下がり。
青柳家の玄関チャイムが、軽い音を鳴らした。
ピンポーン。
畳の上でころころしていた陽翔が、反射みたいに顔を上げる。
結音も、よちよちの体を揺らして「なに?」という顔をした。
青柳光子は、キッチンから顔を出し、笑いながら玄関へ向かう。
「来た来た〜」
扉を開けると、抱っこ紐姿のママふたりが並んで立っていた。
どちらも、眠気と幸福を同時に抱えているような顔をしている。
日向さおりは、髪をひとつにまとめ、抱っこ紐の中の赤ちゃんの頭をそっと支えたまま微笑んだ。
「おじゃましま〜す。今日も“ぽよりん”、絶好調よ〜」
大畑小春は、片手で抱っこ紐を軽く直し、もう片方の手で肩を回す。
「“むにょたろう”も朝から元気すぎて寝不足やけどね〜」
その腕の中には、ふたりの赤ちゃんがすやすやと、あるいはきょろきょろと、世界を見ている。
大畑陽生――通称“ぽよりん”。
頬がぷにっと柔らかく、笑うと「ぽよっ」と音がしそうな癒しの塊。
柳川紬――通称“むにょたろう”。
ほっぺがもちもちで、指をしゃぶりながら「むにょ〜」とご機嫌そうに唸ることがあるらしい。
光子は、玄関先でいきなり声のトーンが上がった。
「うわぁ……ちょ、かわいすぎて事件!入って入って!」
さおりと小春が「おじゃましまーす」と声を揃えた瞬間、リビングのほうから別の声が飛んでくる。
「事件って何が来たん?」
柳川優子が、結音を抱き上げながら顔を出した。
結音は優子の肩に顔をこすりつけ、まだ眠そうに瞬きをしている。
光子が腕を伸ばすより早く、陽翔が「てけてけ」と寄ってきた。
玄関の段差の手前で止まり、赤ちゃんふたりを見上げて固まる。
陽翔「……あかたん?」
優子が吹き出す。
「陽翔、今日は“あかたん”が二倍やね」
光子がリビングへ案内すると、さおりと小春は抱っこ紐のままソファへ腰を下ろした。
赤ちゃんはそっとクッションの上へ。
室内の空気が、ふわっと甘くなる。
光子が、陽生の頬を見つめたまま、声のボリュームを落とした。
「陽生くん……もうこんな大きくなったんね……」
続けて紬のほうを見る。
「紬ちゃんも……ほっぺ、もちもちが過ぎる……」
優子が腕を組むふりをしながら、真顔でうなずいた。
「これはもう、次世代が来とる。
“ふわもちぷにすけ”の後継が、ここに座っとる」
さおりが、さらりと言う。
「実はね、私ら最近コンビ名つけたんよ」
小春が食い気味に続ける。
「そう。“ぽよりんむにょたろう”!」
光子と優子が同時に顔を上げた。
「……ネーミングセンス、完全にうちら譲りやん」
「遺伝子レベルで爆笑しよる」
ふたりの声が重なって、リビングが一瞬で“いつもの空気”になった。
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赤ちゃんを並べてみよう、という流れは自然だった。
気がつけば、畳の上に小さな布団が二枚敷かれ、そこに陽生と紬が並ぶ。
少し離れた場所には陽翔と結音。
まるで小さな舞台の左右に、出演者が配置されたみたいだった。
光子が両手を叩く。
「よーし。夢の共演!
“ふわもちぷにすけ”と“ぽよりんむにょたろう”!」
優子が、司会者みたいに片手を上げる。
「第一部、おむつ替えステージは……今日はやめとこう。
ここでやると、絶対に誰かが拍手し始めるけん」
さおりが笑いながら頷いた。
「この家、拍手のハードル低いよね」
小春も苦笑いする。
「拍手が先か、くしゃみが先か、みたいな世界やもん」
そのときだった。
陽生が、先に口を大きく開けた。
ゆっくり、時間をかけるあくび。
「ふわぁ〜……」
その“ふわぁ”が、空気の合図みたいにリビングを撫でた瞬間、紬が同じ角度で口を開ける。
「ふわぁ〜〜……」
全員が固まって、次にいっせいに声を上げた。
「出たーーー!」
光子がソファから立ち上がりかける。
「シンクロあくび!しかも見本みたいなやつ!」
優子が笑いすぎて肩を揺らす。
「芸術点高すぎて採点不能!」
さおりが胸を張る。
「毎回このシンクロ率よ。たぶん、呼吸合わせに来とる」
小春が頷きながら、紬の手をそっと押さえる。
「うちの子、誰かと一緒にやるのが好きなんやろね。
……って、あくびで分かることある?」
「あるある」と光子と優子が同時に言って、また笑った。
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その笑いが少し落ち着いた頃。
陽翔が赤ちゃんのほうへ、ひとつだけ慎重に歩いた。
手を伸ばしていいのか迷っている指先が、空中で止まる。
陽翔「ぽより……?」
優子が囁く。
「陽翔、触るなら“なでなで”やよ。ぽんぽん禁止」
光子が横から訂正する。
「ぽんぽんはお腹限定ね」
結音は、優子の膝からずり落ちて、赤ちゃんを見つめた。
そして、急に思い出したように言う。
結音「てけてけ」
歩く真似なのか、応援なのか、本人にもよく分からない。
でも場の空気だけは、間違いなく優しくなる。
その直後――。
陽生の鼻が、ほんの少しだけ動いた。
小さな胸が、吸って、止まって、放つ。
「へっ……くちょん!」
間髪入れず、紬も同じリズムで。
「へっ……くちょん!」
完全に同時。
しかも、音の大きさまで似ていた。
一拍の静寂。
それから爆発みたいな笑いが起きた。
光子「ぶはぁぁぁーー!!出たぁぁ!!ダブル“へっくちょん”!!」
優子「これぞ“ぽよりんむにょたろう・同時くしゃみ選手権金メダル”や!」
さおりはティッシュを探しながら、もう諦めた顔で笑っている。
「ティッシュ渡す前に笑いが止まらん」
小春は肩を叩きながら言った。
「この子ら、前世で漫才師やったんちゃう?」
光子が間髪入れずに返す。
「現世でも十分やろ」
優子が頷く。
「デビュー戦、勝利確定」
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陽翔と結音は、赤ちゃんたちに向かって手を振り始めた。
陽翔の手は大きく、結音の手はちょこちょこしている。
陽翔「ぽより〜!」
結音「むにょ〜!」
赤ちゃんふたりは、返事の代わりに手足をばたばたさせた。
偶然の動きなのに、そこに意思があるように見えるのが不思議だった。
光子は、カーテン越しの光を眺めながら、ぽつりと言う。
「……これがまた始まるとよ。笑いの次の世代が」
優子も静かにうなずく。
「ぶはぁDNAは、ちゃんと継がれとる」
初夏の光が畳に落ちて、赤ちゃんのほっぺをふんわり照らした。
“ぷにっ”と“もちっ”が、そのまま光になるみたいにやわらかく輝く。
そして、ママたちの笑い声と、赤ちゃんたちのくしゃみの余韻が、
博多の午後に長くこだました。
「ぽよりんむにょたろう、ただいまシンクロ活動中」




