拓実と翼、フランスへ
タイトル:『陽翔と結音、あーちゃん誕生を待ちながら』
(2047年・春〜初秋/博多)
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リビングの柔らかい灯りが、カーテンのひだをふわりと照らしていた。
夜風が窓のすき間から入り、畳の匂いにまじって、春の気配だけをそっと運んでくる。
青柳光子はソファに腰を落とし、膝の上の陽翔を抱き寄せた。
隣では柳川優子が結音を抱きながら、やさしい手つきで自分のお腹を撫でている。
テーブルの上には、試合日程のメモと、すでに何度も読み返された遠征の持ち物リスト。
全仏と卓球ワールドカップを目前に控えた夜は、落ち着いているようで、どこか胸の奥が忙しい。
光子は、陽翔の髪を指で梳きながら、お腹にもう片方の手を当てた。
そこにあるのは、まだ小さくて、でも確かに息をしている気配。
光子「陽翔、お父さんね、必ず勝ってくるよ。
お腹の中の赤ちゃんにも、最高のプレゼントを持って帰ってくるって約束してくれたんよ」
陽翔は光子の胸元を見上げて、ぽん、と指先でお腹を指した。
陽翔「おちゃーちゃんのポンポンに、あかちゃんおると?」
光子はうなずき、声を落として笑った。
光子「そうよ。陽翔と結音の、妹か弟がね、ここにおるとよ。楽しみやねぇ」
陽翔「うんっ! はるとも、いっしょにあそぶ〜!」
結音は優子の腕の中で身をよじって、光子のお腹のほうへ手を伸ばした。
小さな指が、慎重に、でも誇らしそうにぽんぽんに触れる。
結音「あーちゃん、なでなで〜!」
ふたりの手が、ふたつのお腹に触れる。
その瞬間、光子と優子は顔を見合わせて、笑ってしまった。
優子「生まれてくる前から、もう“なでなで係”決まっとるやん」
光子「しかも、交代制でもなく同時やけんね。大混雑や」
陽翔は嬉しそうに、もう一度お腹をなでた。
陽翔「いっしょに、ぶはぁ〜する〜!」
優子が吹き出して、結音の頬を指先でつつく。
優子「ゆのんは“うんばぁ〜”担当やろ?」
結音「うんばぁ〜!」
言い切ってから、本人だけが何かを成し遂げた顔になる。
光子と優子の笑い声が、部屋の天井にふわっと広がった。
そのとき、玄関のほうから風の音と一緒に声がした。
翼「ただいま〜! 準備完了!」
光子が立ち上がると、翼はスーツケースを片手に、いつもの調子でにっこりしている。
その笑顔に、陽翔と結音が同時に駆け寄った。
陽翔・結音「ぱっぱ〜がんばれ〜!!」
翼はしゃがんでふたりを抱きしめ、次に光子の目を見て言った。
翼「絶対勝って帰ってくる。
そして、あの子に――最高の“笑顔の金メダル”を持って帰るよ」
光子は笑ってうなずこうとして、うまく息が続かず、少しだけ瞳が潤んだ。
光子「うん……待っとるけんね」
その横で、結音がふにゃっと笑って言った。
結音「ぱっぱ、ぶはぁ〜でかてね〜!」
翼「おう! “ぶはぁスマッシュ”炸裂や!」
陽翔が続けざまに、胸を張る。
陽翔「はるとも、ぶはぁ〜おうえん、する〜!」
笑い声が三つ重なり、光子のお腹の奥で、何かがちいさく返事をした気がした。
それは胎動というにはまだ曖昧で、でも確かに――この家に、新しい命が参加した合図だった。
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春が少し深くなると、家の中の時間の流れが変わった。
翼と拓実はフランスへ。
大舞台の空気を吸って、勝つための神経を研ぎ澄ませている。
博多の夜は、静かな灯りに包まれていた。
外ではカエルが鳴き、部屋の中では、ふわもちぷにすけの足音が小さく響く。
光子と優子は並んでソファに座り、同じようにお腹をさすっていた。
遠くにいる夫たちの気配を、呼吸の合間に思い出しながら。
光子「陽翔〜、いろはちゃん……じゃなくて、あーちゃんね。元気におるとよ。
いま、まんまのお腹の中で、“ぶはぁ”の練習しよるかもね〜」
陽翔は小さな手で、光子のお腹をそっと撫でる。
陽翔「ぽんぽん……ぽんぽん……あかたん、おるの〜?」
光子「そうそう。やさしくね〜」
優子も結音を抱いて、自分のお腹を見せた。
優子「ゆのん〜、パパはフランスで頑張っとるけぇ。
うちは赤ちゃんといっしょに応援しとるんよ」
結音は首をかしげて、お腹を見つめた。
結音「あかた〜ん……どっち〜?」
優子「ふふっ。まだ分からんとよ。
でもね、来年には生まれてくるけんね。楽しみやねぇ」
結音は、ぺたん、と小さな手をお腹に当てて、真剣な顔になる。
結音「あかた〜ん……こんにちは〜。ゆのん、おねえたんよ〜。
いっしょ〜に、うんばぁ〜するぅ〜」
光子が隣で笑いながら、陽翔の頬を撫でた。
光子「陽翔も、おにいちゃんやけんね。守ってあげてね」
陽翔はうなずき、それから急に、お腹に顔を近づけて小さく言った。
陽翔「おにたんよ〜。いっしょ〜に……ぶはぁ〜する〜」
言葉はまだたどたどしい。
でもそのたどたどしさが、かえって胸に刺さる。
光子と優子は、言葉にできないまま笑って、目尻だけが少し濡れた。
そのとき、玄関のほうから賑やかな声がする。
小倉家の両親が、差し入れを持って帰ってきたのだ。
美鈴「ただいま〜。あら、まぁ……ほら見て。なんか神聖な光景やん」
優馬「おぉ……! これは“ちいさな祈り”ばい。
陽翔とゆのん、もう兄姉の顔やねぇ〜!」
光子と優子は顔を見合わせて笑った。
光子「ねぇ、優子。翼たちも、きっと空の向こうで感じとるんやろね」
優子「うん。勝って帰ってきたら、“ぶはぁ金メダル”で祝わんとね」
美鈴がクスクス笑う。
美鈴「もうこの家、笑いと愛の連鎖しかないねぇ〜。
お腹の赤ちゃんたちも、きっと“うんばぁ〜”って言うとるよ」
陽翔と結音は、もう一度そっとお腹をなでて、声を合わせた。
陽翔&結音「あかた〜ん、だいちゅき〜」
博多の夜風がカーテンを揺らし、家の中のあたたかさだけが、静かに残った。
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初夏。
朝の光がまぶしくなってくる頃、青柳光子と柳川優子は妊婦健診の日を迎えた。
地元では“ファイブピーチ★御用達”と半ば冗談めいて呼ばれ、今や笑いと感動の噂が勝手に育っている産婦人科。
玄関の自動ドアは、普通の病院と同じように静かに開く――はずだった。
待合室の角で、受付スタッフが小声でささやく。
受付スタッフ「……あの子たち、あの“ぶはぁ〜”の双子ちゃんよね?」
看護師「うん、今日も何か起きる予感しかしないわね」
青柳光子と柳川優子が入ってくる。
そしてもちろん、ふわもちぷにすけコンビ――陽翔と結音も一緒だった。
陽翔はきょろきょろ。
結音はぴょんぴょん。
壁のマタニティポスターを見つめては、ふたりで何か相談し始める。
陽翔(うちなる声)
「ゆのん、見てみぃ。赤ちゃん、ポンポンの中でぷかぷかしとるで」
結音(うちなる声)
「ほんとやねぇ。うちらのときも、あんな感じやったっちゃろか?」
陽翔(うちなる声)
「うん。おかーしゃん、たぶんその頃から“ぶはぁ〜”って言う練習しとったで」
結音(うちなる声)
「うちのまんまも“うんばぁ〜胎教”しとったと思う〜!」
周囲の妊婦さんが、思わずクスクス笑う。
看護師さんたちが肩を震わせながらカルテに何かを書き込んでいる。
やがて呼ばれた。
看護師「青柳さんと柳川さん、どうぞ〜」
光子と優子が立ち上がると、陽翔と結音も一緒に“ピシッ”と敬礼ポーズを決める。
陽翔「まんま、しゅっしん! がんばれ〜!」
結音「まんま、ちょっと痛いけど“ぶはぁ〜”でがんばるんよ〜!」
看護師さんが吹き出す。
後ろの妊婦さんが、思わずスマホを落としそうになって慌てて受け止める。
光子(苦笑)「こらこら、まだ生まれんけんね〜。今日は検診ばい」
優子「そうそう、出陣やなくて“心音チェック”やけん」
診察室から戻ってきたふたりを、待合室の全員が拍手で迎えた。
何も知らない人が見たら、まるで舞台のカーテンコールだ。
看護師「お腹の赤ちゃん、元気ですよ〜」
光子「ありがとうございます〜。陽翔とゆのんも、よう聞きんしゃい」
その瞬間、陽翔と結音はまん丸な目を見合わせ――息を合わせて言う。
陽翔&結音(ハモって)
「ぶはぁ〜! おめでと〜ございますぅ〜!!」
待合室が爆笑に包まれた。
妊婦さんたちは涙目で笑い、看護師さんは立って拍手してしまう。
診察室の医師が、カーテンの向こうから様子を見にくる気配までした。
その日の午後、病院の公式SNSにこんな投稿が上がった――もちろん、院内向けの控えめな文章で。
【本日の出来事】
青柳家・柳川家のふわもちぷにすけコンビ来院。
院内、笑いと幸せホルモンで満たされました。
#ぶはぁ胎教 #笑いの聖地 #ふわもちぷにすけ伝説再来
帰り道。
光子と優子が笑いながら歩く。
光子「ほんと、どこ行っても爆笑通信になるね」
優子「うちらの子やけん、しゃあないやろ」
陽翔(うちなる声)
「あーちゃん生まれたら、次は“ふわもち三重奏”やな」
結音(うちなる声)
「ぶはぁ〜ハーモニー楽しみっちゃ!」
午後の陽射しの下、ふわもちぷにすけは今日も全開。
笑いと幸せを運ぶ“小さな発電所”は、満タン稼働中だった。
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季節は巡って、初秋。
朝夕の空気に、秋風の芯が混ざってきた頃だった。
玄関のチャイムが鳴る。
「ピンポーン♪」
ドアを開けた瞬間――
博多ブロックが、文字どおり“参上”した。
古賀真理子「あらぁ〜ん、元気しとるねぇ! だんだん寒ぅなるけん、風邪ひかんごとね〜!」
高山由紀「ほらブランケット持ってきたよ! “ぶはぁ耐寒仕様”!」
森本さやか「みかんネットで三袋分どーん! ビタミンCで“うんばぁ免疫”アップ〜!」
中原志穂(真顔で)「今日は“遊び相手・家事・笑い”の三本立て。段取りは任せて」
井上明美「写真も撮るけん! “博多ブロック出動”でトレンド入りやね! あ、顔出しは確認とるけん安心して〜!」
光子と優子は、救われたように笑った。
その笑顔を見ただけで、五人は「よし」とうなずいた顔になる。
リビングに、わあっと温かい空気が流れ込む。
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まずは遊び係。
即席フォーメーションが、秒で組まれる。
真理子「陽翔〜、ゆのん〜、おいで〜。今日は“てけてけ遠足ごっこ”ばするばい!」
陽翔「てけ〜♪」
結音「てけ〜♪」
さやか「じゃあ“段ボール電車”乗車〜!」
ガムテープで連結された車両が、ずずず、とリビングを走りだす。
由紀「駅アナウンス担当いきまーす。次は〜“ぶはぁ前”〜“うんばぁ中央”〜」
志穂「安全第一。角にクッション、床に滑り止め。この列車、保険完備」
明美「ホームで写真! “てけてけ特急、元気を運びます” はいチーズ!」
陽翔と結音は段ボール車両の“窓”から手をふり、得意げに叫ぶ。
陽翔「ばいば〜い!」
結音「ぶはぁ〜!」
待合室――じゃなくて、リビングは大爆笑だ。
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同時進行で、“まんま支援”が動く。
ここが博多ブロックの本領だった。
志穂「洗濯機まわす→干す→哺乳瓶消毒、タイムライン作成。光子さんは休憩、優子さんは温かいお茶」
由紀「夕飯の下ごしらえしとくけん。鶏団子の生姜スープでポカポカや」
真理子「肩まわして〜深呼吸して〜。妊婦さんの冷えは大敵、首・手首・足首を“ぬくぬく包囲網”!」
光子はソファに沈み込み、息だけで言う。
光子「ありがたかぁ……天使降臨……」
優子はお茶の湯気を見つめて、笑いながら目を細めた。
優子「うち、今日、久々に“座ってお茶”しとる……」
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そして突然始まる、ちびっこラジオ体操(博多版)。
さやか「せ〜の、“いっちに!ぶはぁ!”」
明美「“さんし!うんばぁ!”」
陽翔と結音は元気よく腕を振り上げ――
陽翔&結音「ぶぁっくしゅん!」
偶然のシンクロくしゃみが、まさかの炸裂。
空気が一瞬止まって、次の瞬間、全員が叫んだ。
全員「出たぁぁぁーー!! ぶぁっくしゅん!!」
由紀「このくしゃみ、暖房より効くね」
志穂「幸福ホルモンの放出、確認」
光子と優子は腹を抱えて笑った。
笑うとお腹が張るから、と言いながら、結局いちばん笑っているのは本人たちだった。
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台所で、こっそり秋の“あったか作戦”が伝授される。
真理子「夜は湯たんぽ、日中は腹巻き。外出は帽子+首元スヌード。“三首”は死守!」
由紀「加湿器まわして、寝る前の白湯。喉の“うんばぁ”予防やね」
志穂「買い出しは私らがシフト組む。リスト送って」
明美「撮影・配信系は私がフィルター管理。“プライバシー死守&かわいさ最大化”でいくけん!」
光子と優子は、同時に小さく頭を下げた。
光子・優子「……本当に助かる……」
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夕方、絵本タイム。
さやかがページを開く。
さやか「『てけてけ電車、ぶはぁの森へ』……」
陽翔「てけ〜……」
結音「てけ〜……」
あくびがこぼれて、まぶたが落ちる。
眠気は、波のように一気に来る。
真理子(小声で)「寝たねぇ……」
志穂「作戦成功」
由紀「スープ仕上げて帰るね。明日も寄るばい」
明美「“爆笑発電所女性部 本日の戦果”はクローズド投稿で共有しとく!」
ドアの向こうに消えていく五人の背中。
残った部屋は、スープの香りと、子どもたちの穏やかな寝息で満ちた。
光子はソファにもたれて、ぽんぽんに手を当てる。
光子「……ほんと、みんながおるけん、頑張れるね」
優子は静かにうなずいて、同じようにお腹を撫でた。
優子「うん。笑いはやさしさやね。あったかい」
秋風がカーテンを揺らす。
その揺れの向こうで、博多の空は高く、澄んでいた。
遠くで戦う夫たちの場所へも、きっと届く。
この家の笑い声と、まだ見ぬ命の鼓動と、博多ブロックの“おせっかい愛”の熱量は。
そして――
眠った陽翔と結音の小さな手が、夢の中でも、まんまのお腹を守るみたいに丸く握られていた。




