ドラマ公開トークイベント
① ドラマ公開トークイベント編
会場:福岡市内のホール/ドラマ最終回放送から一週間後
満席のホール。
ステージには椅子が4つ並べられ、背後にはドラマのキービジュアル「ボールが空中に浮かんでいる写真」が大きく映し出されている。
MC
「それではご登壇いただきましょう!
原作者であり、ドラマにもご本人役で出演された――吉田由香さん!」
拍手とともに、由香が少し緊張気味に登場。
それでも、以前より姿勢はまっすぐになっている。
MC
「続いて、“若い頃の由香”を演じてくれました、若手女優の――高瀬 莉央さん!」
客席から「お〜!」という歓声。
莉央はペコっとおじぎして、由香の隣に座る。
MC
「そして……この方無しでは語れません。
由香さんの息子さんであり、ドラマのラストでも大きな話題になりました――吉田瑛一くん!」
瑛一
(袖から出る前に小声で)「……ほんとに出るんやな、これ」
翔一(袖から)
「いいって言ったの自分やろ〜」
そんなやりとりをしてから、瑛一が照れくさそうに登場。
思春期だけど、今日はちゃんと前を向いて歩いている。
⸻
トーク前半:由香の気持ち
MC
「まずは由香さん。ドラマ、全10話。改めて終わってみて、今、どんなお気持ちですか?」
由香
「……正直に言うと、“ほっとした”と、“まだドキドキしとる”が半分ずつ、ですね。
あのドラマのおかげで、過去の自分と真正面から向き合うことになったけん。
テレビ消したあと、ひとりで泣いた夜も何回もありました」
客席は静かに聞き入っている。
由香
「でも、放送のたびに、手紙やメールが届いて。
“自分も怒りを誰かにぶつけそうになったことがある”とか
“被害者だけど、あなたの今の姿に少し救われた”とか。
それを読んで、
ああ、うちの人生も、ちょっとは誰かの役に立てとるんかもしれん……って、少しだけ思えるようになりました」
⸻
トーク中盤:若手女優・莉央の視点
MC
「高瀬さんは、由香さんの“十代の頃”を演じました。
やってみて、一番難しかったところは?」
莉央
「……わたし、最初は“怖い人”として演じようとしてたんです。
でも本を読んで、由香さんと何度も話して、
“怖さの奥にある空っぽさ”をどう出すかが一番の課題でした」
由香
「その“空っぽさ”が一番、嫌やったんよね、昔の自分で」
莉央
「脚本の中で、瑛一くん役の子に怒鳴ったあと、
台所の隅でしくしく泣くシーンがあるんですけど……
あそこを撮った日、モニターで由香さんが泣いてて」
由香
「やめんさい、それ言わんでよ〜!」
会場からクスッと笑いが起こる。
莉央
「“こんなに傷つくぐらいなら、やらなきゃよかったのに”って、
視聴者としても、演じてる自分としても思うんです。
だからこそ、最終回で“ボールはまだ落とさんけんね”って言う由香さんを見て、
あ、この人ほんとに、今も続けてるんだ……って思いました」
⸻
トーク後半:瑛一の言葉
MC
「瑛一くん。ドラマが始まる前と、全部見終わったあとで、“ママの見え方”って変わりましたか?」
瑛一
「うーん……“昔のママへの怒り”は、たぶん完全には消えてないです。
あの時のことは、忘れるっていうより、たぶん一生、背中にくっついてると思うんで」
会場が息を飲む。
瑛一
「でも、ドラマ見て、
“あの頃のママ”と“今のママ”は、同じ人やけど、
ちゃんと違う人にもなろうとしているんやな、って思いました。
なんか、過去が“終わったこと”じゃなくて、
“今につながってる途中経過”なんやなって」
由香は、横でそっと目頭を押さえる。
MC
「今のママに、ひと言あるとしたら?」
瑛一
「えー……(ちょっと迷ってから)
とりあえず、その……
“毎日ちゃんと晩ごはん作ってくれてありがとう”ってのと、
“サーブのフォームがだいぶキレイになってきたね”ですかね。
バレーの話ですけど」
会場に笑いと拍手。
由香
「そこ!? もっとこう、“産んでくれてありがとう”とかないと!?」
瑛一
「それはまた、オリンピック出た時に言うわ」
「おお〜!」とどよめきと拍手。
どこかで光子が「フラグ立ったね〜」と笑っている。
⸻
サプライズ:M&Y乱入
MC
「ここでサプライズゲストです!
このドラマの主題歌を担当された――M&Yのお二人、青柳光子さんと柳川優子さんです!」
観客「うわーー!!」
光子&優子がいつものノリで登場。
軽く主題歌のサビをアカペラで歌ってから、マイクを握る。
光子
「由香さん、莉央ちゃん、瑛一くん。
うちら、このドラマでいちばん好きなシーン、知っとる?」
由香
「どこね?」
優子
「更生プログラムの途中で、由香さんが“爆笑発電所”のギャグで
ついに吹き出して、“魂抜けかけた人・初代認定”されたシーン!」
会場大爆笑。
由香
「あそこ、台本よりだいぶアドリブ増やしたでしょ!?
本気で笑ってもーたやん!」
光子
「でもあの“素で笑った瞬間”が、
うちらには一番“希望の瞬間”に見えたっちゃね。
笑いは、全部をなかったことにはできんけど、
“これから生きてくための酸素”ぐらいにはなれるけん」
優子
「今日ここに来てくれたみんなも、
誰かの“酸素”になれるかもしれんってこと、
ちょっとだけ覚えとってくれたら嬉しか〜」
大きな拍手が、ホールを包んだ。
⸻
② 学校上映+トーク編
場所:博多南中学校・体育館
対象:全校生徒+一部保護者
冬の午前中。
体育館に簡易スクリーンとスピーカーが設置され、
生徒たちが体育座りでざわざわしている。
「今日、芸能人来るっちゃろ?」
「ドラマの人が来るってプリントに書いとった」
「なんかいじめと虐待の話らしいよ」
そんな小声が飛び交うなか、
先生がマイクを取る。
先生
「今日は、“考えるための時間”にしたいと思います。
ドラマ『ボールはまだ空中にある』のダイジェスト版を30分ほど観て、
そのあと、原作者であり、本人としてドラマにも出演された吉田由香さん、
息子さんの瑛一さん、そしてゲストとして――」
体育館の後ろから登場する4人。
* 由香
* 瑛一
* 光子
* 優子
生徒たちは「え、テレビの人やん!」「マジでM&Y!?」と一気にざわつく。
先生
「静かに〜。
では、まずはドラマをご覧ください」
⸻
ダイジェスト上映
映し出されるのは、
* 幼い瑛一に怒鳴り散らす、若い頃の由香
* 机をひっくり返し、周りに当たり散らす姿
* 拘置所で、壁を見つめたまま動かないシーン
* 更生プログラムで、涙をこらえながら“加害者”として語るシーン
* 現在パートで、「ボールは、まだ落とさんけんね」と夜空に向かってつぶやくシーン
体育館は、しんと静まり返っていた。
最後に、主題歌とともにエンドロールが流れる。
先生
「……はい。
それでは、ここからトークに入ります」
⸻
トーク前半:由香の話
由香
「みんな、観てくれてありがとう。
多分、途中で“目を背けたい”って思った子もおると思う。
正直、うちも、何回観ても背けたくなる」
由香は、マイクを握りしめながら続ける。
由香
「うちは、ここにおる瑛一を、
“息子”やなくて、“自分のストレスをぶつける相手”にしてしまった時期がありました。
それはもう、どう言い訳しても虐待です。
ドラマは少し脚色もあるけど、だいたいあんな感じでした」
前の列で、数人の生徒がうつむく。
由香
「たぶん、この体育館にも、“言えんけどしんどい”思いをしとる子が、おると思う。
家のこと、学校のこと、SNSのこと、人間関係のこと。
今日、全部解決させることはできんけど……
“逃げてもいい”ってことだけは、覚えとってほしい」
由香は一度言葉を区切る。
由香
「逃げるって、“負け”ってイメージが強いかもしれんけど、
死んでしまったら、本当にそこで終わりやけんね。
生きてる限り、ボールはまだ空中にある。
キャッチし直すチャンスは、何回でもあるけん」
⸻
トーク中盤:瑛一の視点
先生
「瑛一くんからも、ひと言お願いできますか?」
瑛一
「……なんか、こういう場でしゃべるのも、だいぶ慣れてきてしまったんですけど」
生徒から少し笑いが漏れ、空気がやわらぐ。
瑛一
「正直言うと、俺はずっと、
“なんでオレの母ちゃんなんや”って思ってました。
友達ん家のお母さんが羨ましかったし、
ドラマ化の話が来たときも、“また前のこと引っ張り出すんか”って嫌でした」
少し間をおいて。
瑛一
「でも、ドラマ観てくれた友達から、
“親と喧嘩したとき、ちょっと踏みとどまれた”とか、
“いじめる側に回りそうな自分に、ブレーキかけられた”ってメッセージもらって。
ああ、“オレと母ちゃんの過去”が、
誰かの未来を守る材料になるんやったら、
それは……まぁ……悪くないんかな、って思えるようになりました」
後ろの方から、すすり泣く音が少し聞こえてくる。
⸻
トーク後半:光子&優子の「笑いの役割」
先生
「ここで、ゲストのお二人からも一言ずつ」
光子
「みんな、こんにちは〜。
……って、こんな空気の中で“こんにちは〜”もアレやね」
クスッと笑いが起きる。
光子
「うちらは、“笑い”の専門家みたいな顔してテレビ出とるけど、
実はそれぞれ、過去にえげつないしんどさ抱えとったりします。
うちも交通事故で、“笑えん時期”がありました」
優子
「うちは、いじめられて、人の目見るのが怖くなった時期もあったしね。
だから、“笑えん時がある自分”を責めんでほしいっちゃ。
笑えんときは、笑わんでいい。
その代わり、“ちょっと笑える気分になったとき”に、
思いっきり笑える場所があればいいなって思って、うちらは爆笑発電所やM&Yやっとる感じです」
光子
「笑いは、問題を消してくれる魔法じゃないけど、
“これ以上沈まんで済む浮き輪”にはなる。
それくらいのもんやけど、浮き輪があるのとないのとでは、
泳ぎ続けるしんどさが全然違うやろ?」
優子
「今日の話、全部覚えんでいいけん、
“笑う場所がどっかにあるかもしれん”ってことだけ、
頭のどっかに置いとってもらえたら嬉しか〜」
⸻
質疑応答:生徒たちの質問
先生
「それでは、質問がある人?」
しばらく沈黙があってから、
前列の女子が手を上げる。
女子生徒A
「……加害者って、一生許されないんですか?」
体育館の空気が再び重くなる。
由香は、その質問を真正面から受け取って、ゆっくり口を開く。
由香
「“完全に許される”ことは、多分ないと思っとる。
被害を受けた人の痛みは、それぞれやけん。
“許してあげるよ”って言う人もおれば、
“一生許さん”って思う人もおる。
どれも、その人の自由やけんね」
由香は続ける。
由香
「でも、“許されないから何もしなくていい”わけじゃないと思うと。
うちは、たぶん死ぬまで“かつて加害者やった人間”として生きる。
そのうえで、少しでも“同じことをする人を減らす側”に回れるように、
今日みたいな場に立っとる。
それが、“うちのやるべきこと”やと思っとる」
女子生徒は小さく頷いた。
次に、男子生徒が手をあげる。
男子生徒B
「……もし、自分が誰かをいじめてしまったり、殴ってしまったりしたら、
どうしたらいいですか?」
今度は優子がマイクを受け取る。
優子
「ほんとはね、“やらんようにしよう”が一番やけど……
人間、完璧やないけんね。
感情爆発させて、後悔することもあると思う。
そのとき大事なのは、“早めに止まること”と“ちゃんと謝ること”やと思うっちゃん」
光子
「あと、“自分だけで処理しようとせんこと”かな。
先生でも、親でも、学校のカウンセラーでもいいし、
“やっちゃいけんことをやってしまった”って話を、ちゃんと誰かにする。
そこで逃げずに正面から話すっていうのが、
たぶん、ギリギリセーフへの第一歩やと思う」
瑛一
「……それと、“被害を受けた相手がすぐ許してくれなくても、焦らないこと”。
“ごめんって言ったんだから許してよ”って態度されると、
逆にめっちゃむかつくんで」
生徒たちから小さな笑いが起きる。
空気がまた少し和らぐ。
⸻
ラスト:みんなで「笑顔体操」
先生
「では最後に……光子さん、優子さんから“笑顔タイム”があるそうです」
光子
「はい、堅い話ばっかりで肩こっとると思うけん、
最後に“笑顔体操”やります!」
優子
「立てる人は立って〜。
無理な人は座ったままでOK!」
生徒たちが一斉に立ち上がる。
光子
「じゃあ、まずは深呼吸。
すって〜、はいて〜。
次、“頑張りすぎた自分ナデナデポーズ”!」
胸の前で自分の肩をトントンするようなポーズ。
体育館中の中学生が、それを真似している光景は、なかなかシュールだ。
優子
「次、“もうちょっとだけ生きてみよっかポーズ”!」
両手で大きく◯を作って、
にっと笑う。
光子
「最後、“ボールはまだ空中にあるポーズ”!」
みんなで両手を伸ばして、
空中の見えないボールをキャッチするポーズを取る。
光子
「せーの!」
全員
「ボールは、まだ落とさんけんねーー!!」
体育館に、笑いと拍手が広がった。
⸻
上映トークのあと、
生徒たちの中には、保健室やスクールカウンセラーを自分から訪ねる子が、少しずつ現れる。
すぐに何かが劇的に変わるわけじゃないけど、
* 「逃げてもいい」
* 「誰かに話してもいい」
* 「笑える場所がどこかにあるかもしれない」




