『キミのとなりに、爆笑注意報』オンエア翌日
爆笑発電所・本部スタジオ
『キミのとなりに、爆笑注意報』オンエア翌日。
⸻
「……でさぁ!ここ!こはねちゃんが“これってデートって言って、いいんだよね?”って言うとこ!!」
優子が例のシーンをモニターに一時停止した瞬間、
スタジオのあちこちから──
「ギャーーーッ!!」「うわあああ!!」
と、悲鳴とも笑い声ともつかない声が飛び交った。
光子
「ちょっ、そこで止めるなって言いよるやん!?」
春介
「いや、ここ止めんでどこ止めるんよ、おかあたん」
春海
「“実録・青柳家過去デート事件”の現場検証やろ?」
光子
「黙って座りなさい、次期・双春!!」
スタジオの隅で、その光景を見ていた一組の親子がいた。
吉田翔一と、その隣にちょこんと座る吉田瑛一。
そして、その後ろでクッションを抱きしめながら座っているのが──
吉田由香。
かつてDVで逮捕され、
いまは更生プログラムと爆笑発電所への“強制加入”を経て、
立派な「爆笑正会員」 になっていた女だ。
⸻
◆ 由香&瑛一、笑い転げる
由香
「……ちょっとエイちゃん、見た今!?
こはねちゃん、顔まっかやん!!」
瑛一
「見た見た!すずちゃんもさぁ、
“これは恋愛現場における自白行為として記録する”って、
めちゃめちゃ言い方固いのに、顔にやにやしとるし!」
翔一
「……お前ら、分析が妙に細かいな」
由香
「いやいや翔一。
“元加害者・更生中シングルマザー”の観察眼なめんじゃないよ?」
瑛一
「ママ、職業ちがうけどね」
由香
「細けぇことはいいっちゃ!」
そのやりとりに近くのメンバーが反応する。
美鈴
「ふふっ……由香さん、ほんと変わったねぇ」
由香
「え、園長先生、昔のうち知っとる人にそれ言われると、
なんかむずがゆいっちゃけど……」
光子
「由香さん、今は“爆笑発電所・更生枠センター”ですけん」
優子
「略して“爆心地”」
由香
「うち爆心地なん!?」
瑛一
「爆笑の、ね!」
スタジオ、ドッと笑いが広がる。
⸻
◆ 再生シーンで2人とも崩壊
モニターでは、例の 恋愛捜査官すずの取り調べシーン に入った。
すず(優子の声)
『春野こはねさん。
本日は“恋愛現場における心拍数急上昇事件”について──』
こはね(光子の声)
『事件て言わんで!?』
この瞬間──
由香
「ぶはぁっ!!!」
瑛一
「ぐはっ!!」
親子そろってソファから転げ落ちた。
翔一
「だ、大丈夫か、お前ら……」
由香
「待って、これ……無理……!
“恋愛現場における心拍数急上昇事件”って何よ!!
そんなもん、若い頃のうちなんか、心拍数どころか
血圧もプッツンしとったわ!!」
瑛一
「ママ、そこ胸張るとこじゃないからね?」
由香
「今は反省しとーもん!だから笑い飛ばすったい!」
光子
「由香さん、そのセリフ、今度ラジオで使わせてもらってよかですか?」
由香
「ロイヤリティ発生する?」
優子
「じゃあ“ふわもちぷにすけ生配信”無料招待でどうでしょう」
由香
「即OK。それでいい、それがいい」
⸻
◆ “笑いながら見られる”という奇跡
ふと気が付くと、
モニターを見ている由香の目は、
泣き笑いのように潤んでいた。
美香
「由香さん?」
由香
「……前、ここ(爆笑発電所)に連れて来られた時さ。
“なんで、うちがこんなとこで笑わないかんと?”って
本気で思っとったっちゃね」
優馬
「覚えとるよ。
“あたしは被告人やけん、笑う資格なんかない”って顔しとったもん」
由香
「でもさ……」
由香は横でケラケラ笑っている瑛一の頭を、
ぽん、と優しく叩いた。
由香
「今はもう、エイちゃんが笑いよるの見とるだけで、
それだけで、なんか胸いっぱいになるっちゃ」
瑛一
「ママも笑いよるやん」
由香
「そうねぇ……
“罪悪感で笑いを失ったまま大人になる”って、
いちばん最悪やけんね」
光子
「……由香さん」
由香
「だから今日みたいにさ、
“アニメ見ながら息子と一緒に笑い転げる”なんて、
前のうちからしたら、夢のさらに向こう側やったよ」
優子
「それ、今度の講演でそのまま言ってほしいやつやん……」
⸻
◆ 爆笑発電所・全支部同時中継
その日の夜は、
爆笑発電所・全支部をつないだオンライン配信 が行われた。
画面には、
福岡本部・名古屋支部・山口支部・札幌支部・江津支部・LA支部・ウクライナ支部……
世界各地の“爆笑仲間”がずらり。
光子
「というわけで!
今日はアニメ『キミのとなりに、爆笑注意報』放送記念&
“由香さん、笑い転げまくり記念”特別配信でーす!」
コメント欄
《タイトル草》
《記念日になっとるw》
《由香さんネーミングされてて笑う》
由香(画面越しに手を振って)
「どーもー、“元・暴走族総長&DV被告人”からの〜
“爆笑発電所更生ルーキー”になりました、吉田でーす」
コメント欄
《自己紹介の情報量えぐい》
《ギャップすごすぎて整骨院送り》
《更生ルーキーって肩書き新しい》
瑛一
「……なんかママ、
“ギャグに昇華された過去”って感じになっとるね」
由香
「もうね、笑いに換えられんなら、
ほんとに“ただの地獄”で終わるけんさ」
⸻
◆ 由香、世界に宣言する
光子
「由香さん、じゃあ最後に、
世界中の爆笑発電所メンバーに一言、お願いします」
由香は、画面の向こうにいる
たくさんの顔、たくさんの名前、
チャットのコメントの嵐を見つめながら、
深く息を吸い込んだ。
由香
「……うちはさ。
自分のやったことは、一生チャラにはならんって、
ちゃんと分かっとるつもりやけど」
少し間を置いて、
それでも、笑った。
由香
「その“チャラにならん罪”を抱えたままでも、
笑いながら生き直していいって教えてくれたのが、
ここにおるあんたらやけんね」
瑛一
「ママ……」
由香
「だからさ、これからは、
“昔のうちみたいに、笑い方忘れた人”に向けて、
バカみたいに笑っとってやるけん。
“こげなアホなオバちゃんでもやり直せるなら、
自分も、まだ大丈夫かも”って思ってもらえるようにね」
画面の向こうで、
拍手の絵文字と「888888」が弾ける。
コメント欄
《由香さんの言葉、ズンときた…》
《笑いながら生き直していいってフレーズ、
今日いちばんの名言》
《更生ルーキーなのに、もうレジェンド感》
優馬
「……由香さん。
今の、次の“名言ランキング”に絶対入るね」
美鈴
「“笑いながら生き直していい”か……
うん、それ、うちらの物語そのものやね」
⸻
◆ 終わりに
配信が終わったあと、
由香と瑛一は、並んでモニターを見つめながら、
アニメ第1話をもう一度再生した。
由香
「エイちゃん、うちらもさ──
いつかこういう“笑える恋愛”してくれたらいいねぇ」
瑛一
「うん。
でもまずは、ママとパパみたいに、
ケンカしてもちゃんと仲直りできる大人になる」
由香
「……それ、今さら刺さるけんやめて」
ふたりは顔を見合わせ、
同時に吹き出した。
瑛一
「ママ、今は──」
由香
「分かっとーよ。
今はちゃんと、“笑いながら”やり直し中やけん」
爆笑発電所のど真ん中で、
元・加害者の女性と、その息子の笑い声が、
今日もまた、新しい一日へと続いていくのだった。
市民センター多目的ホール
特別講演「笑いながら生き直していい」当日。
⸻
◆ 講演編:元・暴走族総長&DV被告人、マイクを握る
ステージ袖。
由香
「……ねぇ、美鈴園長先生」
美鈴
「ん?」
由香
「うち、いま逃げたら間に合うかな」
優馬
「間に合わん。出口んとこに優馬セキュリティがおる」
由香
「邪魔ばっかしよって、この爆笑ファミリーが!」
光子
「大丈夫ですって、“更生枠センター・吉田由香”!」
優子
「今日は“爆心地”の本気、見せちゃってください」
由香
「うち、いつから爆心地になったと?」
瑛一
「ママ、ほら。これ持っていきんしゃい」
差し出されたのは、
「ママ さいきょう えがおで がんばれ」
とガタガタの字で書かれたお守りカード。
由香
「……あんた、反則やろ、それは」
瑛一
「うちの園長先生と、光子お姉ちゃんと優子お姉ちゃんが、
“こういう時は、笑いの前に泣いていい”って言いよった」
由香
「ずるい三人組やねぇ、ほんと」
目頭をゴシゴシぬぐって、由香は深呼吸した。
舞台監督
「じゃ、お願いします。吉田由香さんです!」
⸻
◆ 前半:真っすぐな告白
まぶしい照明の中に、一人で立つ。
由香
「えー……はじめまして。
“元・暴走族総長”で、“元・DV被告人”で、
いまは“爆笑発電所・更生ルーキー”やってます、吉田由香です」
客席、いきなりざわっ。
由香
「まず最初に、笑う前にちゃんと言わせてください。
うちは、絶対に言い訳してはいかん犯罪をしました。
叩かれて当然のことをした女です」
場内の空気が一気に静まる。
由香
「夫の翔一、息子の瑛一。その心と体に、
一生残る傷をつけました。
逮捕されて、裁かれて、拘置所でひとりになって、
初めて“うちは人としてのラインを超えた”って
認めざるを得んかった」
スクリーンに、
・幼稚園の連絡帳の記録
・録音データの文字起こし
・裁判の資料
が、要点だけ静かに映し出されていく。
由香
「ここにおる保護者の皆さん、先生方。
もしかしたら、うちと同じ“ギリギリのライン”歩きよる人も
おるかもしれません。
イラッとして、子どもにキツく当たってしまう自分に
嫌気がさしとる人も、おるかもしれん」
一呼吸おいて、由香は続ける。
由香
「今日うちが話したいのは、
“だから暴力も仕方ないよね”って言う話じゃない。
逆。
“どんな理由があっても、暴力は絶対ダメ”って話。
……と同時にね」
ぐっと顔を上げる。
由香
「一回大きく間違えた人間でも、
笑いながら生き直していいって話です」
客席のあちこちで、
ハンカチを目に当てる人の姿が見えた。
⸻
◆ 中盤:“暴走族”から“暴笑族”へ
由香
「で、ここからは……
“元・暴走族総長”らしく、ちょっとぶっちゃけモードで
行かせてもらってよかですか?」
客席から、思わずクスッと笑いが漏れる。
由香
「うちね、昔は“DV=だいたい 沸騰したら 暴走”やったと。
でも今は、意味変えました」
マイクを持ち変えて、ドヤ顔。
由香
「“DV=だいじに、 笑いで、 バランス取る”」
客席
「「「ぷっ……!」」」
由香
「沸騰しそうになったら、
“ちょっと待て、これは一回ネタにできんか?”って
考えるようになったんよ」
スクリーンに、
・皿を床に叩きつけそうになったとき →
→ 「その手で皿洗え」のポストイットを自分に貼るイラスト
・怒鳴りそうになったとき →
→ 「深呼吸3回+好きな芸人のギャグを心の中で再生」
など、由香式「バカ真面目なアンガーマネジメント」が
次々と映し出される。
由香
「手ぇ上げるくらいなら、その手で皿洗えって話よね。
……これ、爆笑発電所名古屋支部の多治見ママが一番刺さっとった」
会場、どっと笑い。
由香
「昔のうちは、“怒り”ってアクセルしかなかった。
ブレーキも、ハンドルもなかった。
でも今は、
“笑い”っていうハンドルと、
“深呼吸”っていうブレーキを、
みんなに教えてもらった感じかな」
⸻
◆ 即興コント「昔の由香 vs 今の由香」
ここで、客席の後ろから
ツカツカと誰かが歩いてくる。
光子(ジャージ姿)
「おーい、“昔の由香役”呼ばれましたー」
優子(スーツ姿)
「“今の由香の良心役”でーす」
由香
「ちょ、あんたらサプライズで出てこんね!」
光子
「【昔の由香】
『なんやその言い方はぁ!?』
→ テーブルバーン!」
ズドン!と、舞台袖から出してきた
安物のテーブルを全力で叩く真似。
優子
「【今の由香】
『なんやその言い方はぁ……
……って思うけど、
ちょっと待て、これネタ帳行きやな』
→ 一回深呼吸してメモする」
由香
「いや、だいたい合っとーのがムカつく!」
客席、大爆笑。
光子
「【昔の由香】
『うちの言うことがそんなに気に入らんとね!?』
→ ドアバーン!外へガチャーン!」
優子
「【今の由香】
『うちの言うことがそんなに気に入らんとね?
……って言いそうやけん、
その前に“いまの言い方キツかった、ごめん”って言うてみよ』」
由香
「なんで“今の由香”の方がちゃんとしとーと?
本人が一番ツッコミたか!」
翔一(客席から小声で)
「いや、ほんとその通りになったから怖いんよな……」
⸻
◆ Q&A:10代からの質問
高校生くらいの女の子が、
おそるおそるマイクを握った。
女子
「あの……私、
親がケンカしてるところを何回も見てきてて。
自分が結婚したら、
“絶対こうなりたくない”って思ってるんですけど……
でも、また同じことしちゃうんじゃないかって怖くて」
由香は、その子を真っ直ぐ見つめた。
由香
「正直な気持ちを言ってくれて、ありがとう。
あのね」
一拍置いて、言葉を選ぶ。
由香
「“怖い”って思えてる時点で、
昔のうちより100倍エラいけん、心配しすぎんでよか」
女子
「……え?」
由香
「うちは、“怖い”って感覚すら麻痺しとった。
自分の怒鳴り声も、暴れ方も、
“うちのキャラやけん”で済ませとった。
やけん、止まれんやった」
女子
「……」
由香
「さっきも言ったけどね。
間違ったことは、一生チャラにならん。
でもね、
間違えんように踏ん張ろうとする人が笑うことまで、
誰にも止めさせたらいかんって、
今のうちは思いよる」
女子の目から、ぽろりと涙がこぼれた。
由香
「“暴力は絶対ダメ。でも笑いながら生き直していい”
──これ、今日一番伝えたかったことやけん、
あんたが聞いてくれてよかった」
客席は、静かな拍手に包まれた。
⸻
◆ 後日編:爆笑迷言ランキングSP
数日後。
爆笑発電所・全支部同時配信番組
「爆笑迷言ランキングSP ~更生ルーキー編~」
MC:光子&優子。
光子
「さぁやってまいりました!
今日は“元・暴走族総長&DV被告人”からの~
“爆笑発電所更生ルーキー”に転身した、
吉田由香 特集でございます!」
優子
「名言ランキングは前にやったけど、
今日はあえて 爆笑“迷言”ランキング でお届けします!」
画面にはどーんとテロップ。
《第3位 DVの意味、勝手に変えちゃいました発言》
由香の講演映像が流れる。
由香(VTR)
「昔のうちは“DV=だいたい 沸騰したら 暴走”やったと。
でも今は、“DV=だいじに、 笑いで、 バランス取る”に変えました」
スタジオ
「「「出たー!!!」」」
コメント欄
《発想の転換ww》
《この変換テストに出して》
《真面目に良い話なのに語呂が強すぎる》
優子
「DVの意味をポジティブ側にねじ曲げた女」
光子
「教科書には絶対載らんけど、爆笑発電所の教科書には太字で載ります」
⸻
《第2位 “その手で皿洗えって話”発言》
由香(VTR)
「手ぇ上げるくらいなら、その手で皿洗えって話よね」
コメント欄
《刺さる》《夫婦ともに刺さる》《食器用洗剤のCMに使える》
名古屋支部・多治見ママ(中継)
「これ、うちの家訓になっとるでね。
“手をあげるなら、まず皿あげろ”って冷蔵庫に貼ってある」
光子
「標語のセンスが名古屋方面に受け継がれとる!」
⸻
《第1位 自己紹介カオス発言》
VTR:市民センター講演の冒頭。
由香(VTR)
「“元・暴走族総長”で、“元・DV被告人”で、
今は“爆笑発電所・更生ルーキー”やってます、吉田由香です」
コメント欄、大荒れ。
《情報量多すぎて脳バグる》
《履歴がジェットコースター》
《前科から更生までワンセットで笑いに変えてくるの強すぎる》
スタジオには、本人も座っている。
由香
「ちょ、なんでそれが1位なんよ!?
もっとこう、“良い話っぽいやつ”なかったと!?」
優子
「由香さん、良い話は名言ランキングの方に回しましたので」
光子
「今日は“爆笑迷言”ですけん。
黒歴史を笑いでぶった斬ったセリフほど強いんですよ」
由香
「黒歴史の再利用やん……エコか!」
瑛一
「でもママ、
この自己紹介で“この人、本気で変わろうとしてる”って
伝わったって、コメントたくさんあったよ?」
画面に視聴者コメントが流れる。
《過去を隠さず正面から話す姿、むしろ信頼できた》
《笑いに変えるまでの道のりを想像して泣いた》
《“更生ルーキー”って肩書き、めちゃくちゃ希望ある》
由香
「……こげなコメントもらったら、
“迷言”言うても、まぁ許したるかって気になるやんね」
光子
「というわけで──」
優子
「爆笑迷言ランキング・更生ルーキー部門、
殿堂入りは吉田由香さんに決定ー!」
スタジオ
「「「おめでとーー!!」」」
由香
「いや殿堂入りとかいらんけん!!
“普通の主婦ランキング”に入りたいって言いよるやん、前から!」
翔一(中継先から)
「由香。普通の主婦は“元・暴走族総長&DV被告人”って
自己紹介せんのよ」
由香
「翔一、そういう正論いらんっちゃ!」
⸻
◆ エピローグ:爆笑と更生と、これからと
配信が終わったあと。
スタジオの片隅で、由香はポツリと言った。
由香
「……まさかさ。
自分のやった最低な過去が、“笑っていい未来”に
ちょっとでもつながるとはね」
隣で聞いていた美鈴がうなずく。
美鈴
「“笑い”って、本当はすごく厳しいものでね。
軽い気持ちじゃ笑えんことを、
それでも笑える形に変えていく作業やけん」
由香
「うん……」
美鈴
「だからこそ、“暴力を絶対肯定しない笑い方”を
私たちは守っていかないかん。
由香さんが今日まで一生懸命やってきたことは、
ちゃんと伝わっとるよ」
由香
「……園長先生、
そんな真面目なこと言ったあとにアレなんやけど」
美鈴
「なに?」
由香
「“爆心地”って肩書きだけは、
いつか“爆笑発電所 名誉会長”くらいに
昇格させてくれん?」
優子
「いやそこは“名誉・爆心地”でしょ」
光子
「“人類初・笑いのキロトン指定”とか」
由香
「単位つけんでよか!!」
スタジオに、また大きな笑い声が響く。
その笑い声は、
かつて怒号と暴言で満たされていた彼女の人生に、
新しく刻まれていく “やり直しのSE(効果音)” でもあった。
そして、爆笑発電所の
「名言ランキング」「爆笑迷言ランキング」には今後も──
「暴力は絶対にダメ。
でも、笑いながら生き直していい」
「手ぇ上げるくらいなら、その手で皿洗え」
の二つが、
何度も何度も再生されることになるのだった。
⸻
ステージ裏、配信が全部終わって、機材の片づけも一段落したころ。
紙コップに入ったお茶をすすりながら、由香はぐったりソファに沈んでいた。
由香
「……はぁぁぁぁぁ。
人生でいっちゃん“胃に悪い1日”やったかもしれん……」
そこへ、スッと誰かの影が差し込む。
光子
「ねぇ、由香さん」
由香
「ん?どしたん、爆心ツインズ」
優子
「爆心ツインズて。
爆心は主に由香さんやけんね?」
光子と優子、その後ろには美香、奏太、小春。
ファイブピーチ★全員が、なぜか整列して立っていた。
由香
「ちょ、なにこの並び。
なん、うち、またなんかやらかした?
あれやろ、“DVの意味勝手に変えた罪”で再逮捕とか?」
美香
「いやいや、今日は逮捕じゃなくて──」
光子が、ニヤッと笑って一歩前に出る。
光子
「“スカウト”です」
由香
「……は?」
⸻
◆ 「サポートメンバーにならん?」宣言
優子
「由香さん」
由香
「……はい」
優子
「うちら、ずっと話しとってね」
光子
「ファイブピーチ★って、“音楽と笑い”のグループやけどさ」
美香
「これからは“生き直す人の味方”っていう
色も、もっとちゃんと出していきたいなって」
奏太
「だから──」
小春
「吉田由香さん」
五人、声をそろえて。
五人
「うちらの“サポートメンバー”やってみん?」
由香
「………………はぁーーーっ!?!?」
控室の空気がビリビリするくらいの大絶叫。
瑛一
「ママ、マイク入っとるマイク入っとる」
⸻
◆ 由香、完全にパニックモード
由香
「ちょ、ちょっと待って!
ファイブピーチ★ってさ、
世界ツアーしよる、あのファイブピーチ★よね!?
ドーム埋めたり、紅白出たり、
国民栄誉賞断ったりしよる、あのファイブピーチ★よね!?」
光子
「そう、それ」
優子
「そこ強調せんでいいから」
由香
「そんな超一流芸人かつミュージシャンのサポートを、
よりによって前科持ちの元暴走族がやると!?」
美香
「“元暴走族&元被告人だからこそ”やと思うよ」
由香
「意味わからん!?」
⸻
◆ なんで由香なのか
光子は、ソファの前のローテーブルに腰を下ろし、
由香と目線を合わせる。
光子
「今日さ──」
由香
「うん」
光子
「DVのことも、暴走族のことも、拘置所のことも、
“全部ネタにしていいよ”って言えるまで
自分で背負い直してきたやん?」
由香
「……まぁ、ね。
ネタにせんかったら、多分潰れとったけん」
優子
「それってさ、“絶望を笑いに変える力”やん」
美香
「うちら、
“誰かの絶望に真っ直ぐ寄り添える大人”が
一緒にステージにおってくれたら心強いって、
ずっと思いよった」
奏太
「うちらだけじゃ届かん場所に、
由香さんの言葉なら届く子が、絶対おる」
小春
「だから、正式にお願いしたいんです。
ライブツアーとか学校訪問のときの、
“更生ルーキー枠サポートメンバー”として──」
光子
「一緒にステージ立ってくれん?」
由香
「…………」
由香は、ぎゅっと膝の上で手を握った。
⸻
◆ 「うちなんかが、汚さん?」という怖さ
由香
「……正直に言っていい?」
美香
「もちろん」
由香
「怖い」
優子
「うん」
由香
「うち……
ファイブピーチ★っていう、
せっかくたくさんの子どもらに夢見せよるチームに、
自分の“汚れた過去”持ち込んでしまう気がして」
光子
「うん」
由香
「“あの人、DVしてた人なんよね”って、
影で言われるやろ。
それがあんたたちに飛び火したらって考えたら、
手ぇ挙げるどころか、手ぇ上げられんくなる」
しん……と静まり返る控室。
そこで、美香が、ふっと笑った。
美香
「じゃあ、答えは一個だね」
由香
「え?」
美香
「“飛び火させんくらい、もっと笑いの火力上げる”」
由香
「いや、発想!」
光子
「うちらね、
“綺麗なものだけ運ぶグループ”になりたくないっちゃん」
優子
「傷も、しんどさも、黒歴史も、
ぜーんぶ抱えたまま笑ってる姿を見せるからこそ、
“あ、うちもここいていいんや”って思える子が増えると思う」
美香
「だって私も元・虐待サバイバーで、
いまはお母さんで、ミュージシャンで」
光子
「うちらも、
事故で体に傷抱えとるし、
いじめられたこともあるし」
優子
「由香さんが来てくれたら、
“それでも笑っていい大人のチーム”って
もっとはっきり見えると思う」
⸻
◆ 条件はただ一つ
奏太
「とはいえ、こっちからも条件あります」
由香
「出た、ギタリストの真面目顔」
小春
「由香さん」
由香
「うん」
小春
「“暴力は二度と絶対に使わない”
この一線を、自分の中で何度でも確認し続けること」
由香
「……」
小春
「ステージでどんだけ笑い取っても、
そこを曖昧にしたら全部終わりやから。
うちは、そこだけは、笑いにせん」
由香は、まっすぐ小春を見る。
由香
「……あんた、ド正論言うねぇ。
うち、こう見えて“元総長”なんやけど?」
小春
「知っとる上で言ってます。
“総長”でも“お母さん”でも、
大切なとこは変わらんけん」
一瞬の沈黙。
それから由香は、ふっと口角を上げた。
由香
「……よかよ」
光子
「え?」
由香
「条件、飲む。
ていうか、それはもう、自分の中でも決めとることやけん」
優子
「ってことは?」
由香
「ファイブピーチ★・サポートメンバー──」
ゆっくりと立ち上がり、ニヤリと笑う。
由香
「この、元・暴走族総長&元・DV被告人&現・更生ルーキーが、
全力でやらせてもらいます!」
⸻
◆ 正式加入(?)セレモニー
瑛一
「はい、じゃあ認定式しまーす」
どこからともなく、
段ボールで作った“爆笑発電所公式認定証”が出てくる。
《認定証
吉田由香殿
あなたを
ファイブピーチ★サポートメンバー
兼・爆笑発電所 更生ルーキー一号
としてここに認定します。
条件:暴力ゼロ、皿洗い100%》
由香
「ちょっと最後の行!」
光子
「ここ大事な契約事項です」
優子
「暴力に行きそうになったら、皿洗いに切り替えること」
美香
「“DV=だいじに、笑いで、バランス取る”を実践すること」
奏太
「ライブツアー時、
MCタイムで最低1回は自虐ネタを挟むこと」
小春
「子どもたちに向けて、
“間違えた大人もやり直せる”メッセージを伝えること」
由香
「契約内容、ギャラどこいったギャラ!」
瑛一
「ママ、ギャラは“笑顔”と“唐揚げ”って書いてあるよ」
由香
「ギャラ、唐揚げなん!?
爆笑発電所、想像以上に体育会系やね!」
光子
「はい、ではサインを」
由香
「……しゃーない。こうなったらとことん付き合ったるわ」
ぎこちない字で、自分の名前を書く。
吉田由香
優子
「よし!」
光子
「これにて、
“ファイブピーチ★・更生サポートメンバー”正式誕生ー!」
全員で拍手。
由香は、照れくさそうに頭をかいた。
⸻
◆ その夜、SNSはまたざわつく
その日の夜。
ファイブピーチ★公式SNSに、一本の動画がアップされた。
タイトル:
「新・サポートメンバー爆誕!? 更生ルーキー加入のお知らせ」
サムネイルには、
・ファイブピーチ★の5人
・中央でポカーン顔の由香
・端っこでドヤ顔している瑛一
というカオスな写真。
動画の最後には、
由香のひとことがそのままテロップになっていた。
「暴力は絶対ダメ。
でも、笑いながら生き直していい。
その生き直しに、うちも音楽と笑いで
付き合わせてもらいます」
コメント欄は、また一気に流れ出す。
《由香さん、ついに公式に仲間入り……!》
《更生ルーキーがサポメンとか、
このグループ、どこまで懐深いん》
《“過去”ごと抱きしめてくれる感じ、泣きながら笑った》
《ライブで由香さんのトーク聞きたい》
《皿洗い契約に爆笑したけど、
本気でDVゼロの世界目指してるの伝わってくる》
⸻
こうして、
* ファイブピーチ★の「音楽と笑い」
* 爆笑発電所の「世界中を笑わせるネットワーク」
* そして由香の「生き直しの物語」
この三つが、正式に一つのチームとして動き出した。
これから彼女は、
全国の体育館やホール、学校やスタジアムで──
* 自分の黒歴史を
* ネタと涙と笑いに変えながら
「暴力はダメ。でも、生き直していい」
というメッセージを、
ファイブピーチ★の音に乗せて届けていくことになる。
その第一歩が、
この「ねぇ、うちらのサポートメンバーやってみん?」
という、
あまりにも軽い一言から始まったのだった。




