カナエちゃん vs サバ子ちゃん
「コウタ君とサバ子ちゃんが喋っているところを見るとね、なんか、こう、もやもや~ってしたものが湧き上がってくるようになったの。それであれ? どうしたんだろう? って不思議になって。そのうちにこれは嫉妬? って気づいて、もしかして私、コウタ君のことが好きなのかもって思い始めて、思い始めたら急にコウタ君のことを意識するようになって、意識したらあっという間に好きって気持ちが膨らんでいったのよね」
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思えばそれまで、カナエがコウタ君に対して恋愛感情を抱かなかったのは、コウタ君がアイドルみたいな存在だったからだった。
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「カッコよすぎて私とは絶対につりあわないと最初からあきらめていたのよ。でもサバ子ちゃんの乱入で、サバ子ちゃんには取られたくないって気持ちが芽生えてね。そしたら身の程をわきまえていたはずの欲望が顔を出しちゃったのね」
「それで……どうしたんですか?」
ごくりと生唾を飲む私を桜井さんはじぃっと見つめた。
「それでね、気づいてしまった恋心は止められないじゃない?」
※※
それならフェアに行こうと思った。
カナエはサバ子ちゃんに「実はあたしもコウタ君のことが好きなの。だからもう協力できない、ごめんね」と頭を下げた。
「……カナエちゃん、度胸すっごいっすね。サバ子ちゃんはなんて?」
「へえーそうなんだーって冷めた目で笑って『じゃあね』って、いつもの友達のところに戻っていったわ」
「こっわ! てかそのあと学校大丈夫でした?」
思春期の恋愛のいざこざは、ねちっこい嫌がらせに発展しやすい。
それが女子という生き物で、女子のサガ、だと私は考えている。
「そこは、私もずるくてね」と、桜井さんはいたずらっぽく笑う。
なんか桜井さんが女子中学生に見える。
「サバ子ちゃんに打ち明けるタイミングは、あと一週間で卒業式って日にしたの。思った通り、サバ子ちゃんのグループからあからさまな無視と陰口があったけど、期間限定だから受け流せたわ。彼女たちとは高校も別だったしね」
なるほど。意外と策士なカナエちゃん。カナエちゃんもやりおる。
一安心すると無性に気になってくるのは。
「それで肝心のコウタ君に気持ちは伝えたんですか?」
『高校生の皆さん、まもなく介助実習終了の時間です。速やかに業務を終えて食堂ホールに集まってください』
「うわっ、ま~た、いいところで」
「じゃあ、続きはまた明日ね」
楽し気に手を振る桜井さんは、もはや帰り道でバイバイする女子友だった。
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