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モテ男子と非モテ人気もんポメ

 翌日は、今年最初の猛暑日で、放課後は地獄の業火並みの超酷暑だった。

 体感温度は40℃を軽く超えている。校舎の灼熱アスファルトは、でろんと溶けて湯気が立ち上って見える。

 焼ける暑さに、セミも沈黙中。

 橘いわく、サウナのロウリュウみたいな焼け蒸し暑い校舎を抜けて、私は汗だくでいそいそと自転車置き場に向かっていた。


「ポメ、何急いでんの?」

 背後から声。むろん橘だ。

「あっちぃ」と首元をパタパタ。

 首筋にかいてる汗までフローラルに香ってきそうな爽やかさ。

 ムカつくなー。憎たらしいなー。


「なんだ、イケメン橘か」

「なんだとはなんだ。ポメ」

「ポメ言うな。いろいろあって私は忙しいのだよ」

 わざと含みのある言い方をしてやる。

「いろいろ? 何それ、何かあんの?」

 思った通り食いついてきた。


「実はですなー」

「おおーい、たっちばなー。今日、文化祭の実行委員だよぉー」

 校舎二階の窓がガラリと開いて、リア充系ステキ男女たちがひょっこり顔をのぞかせた。

 私の髪の毛センサーが、女子たちの髪の毛を瞬時にサーチ。


 1匹目は、見るからにふわふわな髪で子犬ちゃんみたいな小動物系女子。

 うちのクラスではないので、他クラスのカースト上位女子だろう。


 2匹目はサラサラストレートの同クラカースト1位の河合ちゃん。

「やっべ、今日も可愛い河合ちゃん」と、アホ男子たちがいつも韻を踏んでいる。可愛いより綺麗が当てはまる美女だ。

 周りを固めるイケメンぽ男子3名。

 ううむ。レベルが高い。と感心していたら。


「隣にいるの、いずねェさんだよねー! いずねェさーん」

 今日も美人で可愛い河合ちゃんが私に気づいた。髪をサラリとなびかせ、可憐に手を振っている。

「お、マジだ。おーい、あのやってみた系のいずねェさんっすよねー」

 それに乗っかる男子たち。しゃーない。

「やっほほーい! みんな大好きいずねェさんだよぉ。さーて今日のやってみた動画はこちら♪」

 ちゃきっと、右目の上でピースを作ってポーズ!


「あはは~、いずねェさんかわい~」と可愛い河合ちゃん&ふわふわ子犬ちゃんが可愛く笑う。

「似てねーぞ~」と男子たち。

「おい、コラそこ、リクエストしといて突き放すな!!」

 ケラケラと笑っている。

 よし、つかみはOK、って、私はお笑い芸人か。


 最近の私は、やってみた系ユーチューバーの『いずねェさん』としていじられていた。ちなみに似ているのは、名前だけである。


「相変わらずポメは人気もんだなー」と橘が横で感心している。

「まあね~」

 ただしモテないけどな、と心の中で付け加える。


「てか、イケメン橘友達またせてんぞ」

「あ、そうだった。じゃ、ポメ、またなー」

「ポメいうなー」

 軽く手を振ったイケメンが、颯爽とリア充系ステキ男女たちに向かって走り出す。

 いいなぁ、あっちは華があって。

 

 ふと気が付けば、知らず知らず自分の髪を触っていた。


「うえ」

 ぬるりとした湿気に激しく膨張し、もっこもっこの入道雲並みにもこり中。


「ポメかぁ~」

 いずねェさんと同じくらい、私とは似ていない。

 ポメはもっとこう……かわいいよな。


※※


 桜井さんの部屋に入った途端、「あら、何かあった?」と顔を覗き込まれた。

(な、なんてスルドイ)

 そういえば、恋する乙女は恋とか愛とかの問題に敏感傾向があるのを忘れていた。

 桜井さんはもしや私の……いやいや、さすがにそこまではないか。

 ともかく、こういう時は変顔に限る。


「今日、猛烈酷暑なんですよー。さすがにバテますよー。それで顔もふやけちゃってるんですよー。いやぁ、ここはいつ来ても適温で快適ですねー」

 パタパタと手うちわしたら、「あらあら」と桜井さんまで両手うちわで私を仰いでくれる。

 手うちわは、二人がかりでもまったく涼しくないけど、なんか気持ちが涼しい。


「外はそんなに暑いのね。ここにいるといつでも適温だから、四季がわからなくなるわ。それはそれで寂しいものよ」

 寂し気に微笑む桜井さんに、うおっ、となった。

 この人は寂しくさせちゃいけない人なのだ。


「でもさすがに今日は命にかかわる超危険な暑さなので、貴族の桜井さんは快適な場所にいてもらわないと! てことで、メイドは掃除機ちゃちゃっと済ませるんでそのあと、恋バナくださいっ」

「貴族だなんて。泉ちゃんはお世辞が上手ね。ふふ。お掃除はてきとうに、ゆるゆるやってね」

「へいっ」

 

 桜井さんの部屋はほぼ私物がない。

 モノを動かす必要がないからてきとうにやらなくても、あっという間に掃除機がけが終わった。

 あとは除菌スプレーをかけて、棚や窓などを拭きあげるだけ。


 本来、掃除は上から下へするものらしいけれど、その方式で部屋の掃除を高校生に任せると、窓を拭いただけで終わっちゃう生徒もいるらしい。

 それでケアマネの佐藤さんは苦肉の策として掃除機がけが最初という順番にしたそうだ。

 と、掃除のやり方を教えてくれた50代くらいのスタッフさんが言っていた。

「確かに介護現場はネコの手も借りたいくらい人手不足だけど、貸し出された高校生はネコ並みに気まぐれでしょ。それはそれで困るのよー。あら、やだ、あなたのことじゃないわよぉ」と言っていた。

 イラっとしながら、うまいこと言うと感心した。


 除菌スプレーを手にすると「ええと、どこまで話したかしら」と、桜井さんが話し始めた。


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