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名無しの野球部君と。

 カナエが当時好きだった男子は野球部のピッチャーで、顔はコウタ君に及ばないものの、スポーツ少年的カッコよさが魅力のモテ男子だった。

 カナエとは中学三年間同じクラス。


「一年以上も片思いしていたのに、名前すら思い出せないなんて不思議ね」と桜井さんが笑う。


 美術部をよくさぼっていたカナエに、『サボりの女王』とあだ名をつけた野球部君。

 春の修学旅行の時は、使い捨てカメラでこっそり隠し撮りした。

 夏の野球大会は、文化部みんなで試合の応援に行った。

 すると試合前のグラウンドから応援席のカナエを見つけ「よお」と野球部君が手を振ってくれて、自分が特別な気がして舞い上がった。

 でも試合は一回戦敗退。


※※


「弱小野球部だったのよね」

 と、桜井さんが苦笑する。


「まあ普通、そんなもんですよね」

 ちなみに私の母校の春園中学校も弱小野球部だった。橘は弱小野球部のエースで4番だった。

 運動神経はいいけど、野球選手として強いのか弱いのかは不明だ。


 ちなみに現在の日本において、部活ができる高校生は中学生の頃に部活で才能を認められた一握りの選手たちのみ。

 彼らは特別部活優待生として介助実習時間に部活専門施設で部活動をすることが許されている。

 でもそういう子たちは、将来のオリンピック選手やプロ選手を目指して幼い頃から英才教育を受けてきた子たちがほとんどで、コネとかもあったりして、私たちのような一般ピープルとはいろいろ違うらしい。


「今ってそんな風になってるのね。昔は高校生は誰でも部活ができたのに。なんだか申し訳ないわね」

 と、桜井さんはため息を吐いた。 


「全然まったく、これっぽっちも桜井さんのせいじゃないんで申し訳なく思う必要ないですって! それでその野球部君との続きは?」

 私が目をキラッキラさせて(そういう気持ちを込めて)桜井さんを見ると、桜井さんは「ありがとう」と微笑んで、「ええと」と続きを話し始めた。


※※


 初戦敗退の野球部3年生は、そこで引退。季節はあっという間に秋へと移り変わり、カナエはある日偶然にも野球部君と二人で下校する機会に恵まれた。

 アカトンボが空を舞い、稲穂の匂いの秋風が心地良く吹いていた。


※※


「野球部君が同じクラスのアイちゃんを好きなことは知っていたの。二人、とても仲が良かったし、はたから見ててもすごくお似合いだったわ。アイちゃん、とってもかわいい子でね。いつも羨ましいなぁ、あんな風に可愛く生まれたかったなぁって思いながら、二人がじゃれあうところを見つめていたの」

 懐かしそうに、桜井さんが目を細める。


※※


 アイちゃんは明るく元気で可愛くてクラスの人気者だった。

 カナエも大好きな女子だった。

 もしかしたら既に二人は付き合っているかもしれないと思ったけれど。


※※


「それでも気持ちを伝えるには今しかないって思って、すごく勇気を出して告白したの」

「え? 対面でコクったんですか? SNSとかじゃなくて?」


「私が中学生の頃は、スマホはおろか携帯電話もまだ世の中に普及していなかったのよ」


「なるほどー」

 時代とは言え、やっぱスゴイ。

 今告白って言ったらほぼ100%SNSだし。

 しかも大抵匂わせ告白だから、断られる心配もない。


 匂わせ告白とは、告白する側はSNSのチャット会話にそれとなーく告白しそうな文面を匂わせて、今から告白するけどどう? 的なお伺いを最初にたてておく告白である。

 告白される側はOKならOKっぽさを匂わせ、NOなら「彼女がいる」とか、「最近気になる子がいる」とか、「今は友達と遊ぶのが楽しい」とか、それとなーく断りそうな文面で匂わせる。

 そうすることでもし告白が失敗したとしても、お互いダメージがないようにする配慮告白である。

 

「今ってそんな風になってるのね」

「ですね。どっちがコクったとか、誰がフッたとかは、変に噂が立ってSNSで広がったりするとめちゃ厄介ですから」

「なるほどねぇ。でもそれだと」

「?」

「いいえ。何でもない。それでね」と、桜井さんが続ける。


※※


 カナエは死ぬほど緊張しながら、野球部君に「好きだよ」と告白した。


 結果は……。



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